Houzzツアー:海と緑を眺めて暮らす、高台に置かれた木箱のような2世帯住宅
南北の大きな窓から眺められるのは、青い海と豊かな庭の緑。オープンな間取りと可動壁で個々のライフスタイルにフレキシブルに対応する、海辺に暮らす家族の家。
takako kawaguchi
2016年4月25日
はるかな潮騒と心地いい風が通り抜けていく、神奈川県横須賀市にある海沿いの丘陵地。緑にも恵まれた抜群のこの環境に佇む、箱のような形の1軒の家がある。Kさんと、お母様と妹さんのための住まいとして、仲摩邦彦建築設計事務所がつくった2世帯住宅だ。
インターネット上で行われた設計コンペで20~30ものプランの中からKさんが選んだのが、仲摩氏の「3枚の板を重ねたようなシンプルな家」の構想だった。柱でしっかりと支えた3枚の板(床)面をベースに、中はあまりつくり込まない。最低限ともいえるゆるやかな仕切りは、開け放つとオープンなスペースに、ときには閉じて個々の空間に、と生活に合わせて自由にアレンジできるのが最大の狙いだ。シンプルな構造はボックス型にすっきりとまとまった外観にも表れている。「箱(=家)が高台からはみ出して置いてあるような、浮いて見えるようなイメージです」と仲摩さん。フラットでありながらもバランスよく木材を張り込んだヴィジュアルは迫力があり、Kさんが希望した「センスよく、シンプルでいてひとひねりある外観」にぴたりと合致する。
どんなHouzz?
家族構成:30代のKさんと妹さん、60代のお母様、愛犬2匹
所在地:神奈川県横須賀市
敷地面積:358.60平方メートル
延床面積:178.10平方メートル
構造:木造2階建て
設計:仲摩邦彦建築設計事務所
どんなHouzz?
家族構成:30代のKさんと妹さん、60代のお母様、愛犬2匹
所在地:神奈川県横須賀市
敷地面積:358.60平方メートル
延床面積:178.10平方メートル
構造:木造2階建て
設計:仲摩邦彦建築設計事務所
1階と2階は完全分離の二世帯となっており、2階はすべてKさんのスペース。北側には海を望む大パノラマが広がり、家にいながらこの絶景を楽しめるのは、何にも勝る贅沢だ。仲摩氏は初めて現場を訪れた際、「こんなにも海や緑の眺望がよいとは!」と感嘆し、その景観を最大限に楽しめるように、もっと窓を増やそうと考えたという。
写真のダイニングは北側には青く輝く海を、南側を振り返ればテラスのグリーンを眺められる最高のスペース。インテリアセンスが抜群のKさんが古道具屋で見つけてきたテーブルや椅子、愛読の書などが壁にディスプレイされ、洋画の1コマのような、完成されたおしゃれ空間となっている。
壁面棚の裏側には書斎があり、読書家のKさんらしく、たくさんの本を収納。仕事上の来客などは玄関からは入らず、写真の窓外に見える細いテラスを通って直接、書斎へ向かうことができるよう工夫されている。
写真のダイニングは北側には青く輝く海を、南側を振り返ればテラスのグリーンを眺められる最高のスペース。インテリアセンスが抜群のKさんが古道具屋で見つけてきたテーブルや椅子、愛読の書などが壁にディスプレイされ、洋画の1コマのような、完成されたおしゃれ空間となっている。
壁面棚の裏側には書斎があり、読書家のKさんらしく、たくさんの本を収納。仕事上の来客などは玄関からは入らず、写真の窓外に見える細いテラスを通って直接、書斎へ向かうことができるよう工夫されている。
LDと寝室は、ガラス窓で仕切られたテラスを囲むように、コの字型にレイアウト。壁をつくらず柱とフィックス窓で強度を補うことで、視界が開けたワンルーム風の大空間を実現した。南北の窓からは明るい陽光が隅々まで行き渡り、開放的なリゾート気分を感じさせてくれる。
床材は、木目が特徴的なオーストラリアンハードサイプレス材(オーストラリアヒノキ)。黒染色を施して大人っぽく落ち着いた雰囲気に仕上げている。
写真右手のドアの先はキッチン。水まわりの生活感がにじむスペースは徹底してクローズにし、他のオープンエリアと区別するのがKさんのスタイルだ。
床材は、木目が特徴的なオーストラリアンハードサイプレス材(オーストラリアヒノキ)。黒染色を施して大人っぽく落ち着いた雰囲気に仕上げている。
写真右手のドアの先はキッチン。水まわりの生活感がにじむスペースは徹底してクローズにし、他のオープンエリアと区別するのがKさんのスタイルだ。
当初は屋根なしの予定だったが、Kさんの希望でポリカーボネイトの波型屋根をつけ、半屋外にした南側テラス。ここで読書をしたり、ゴロリと寝ころんで過ごすのがKさんお気に入りのリラックスタイムだそう。たくさんのグリーンや鉢植えは、ガラス越しのインテリアにも生き生きとした彩りをプラスしている。
こちらの床はレッドシダー材。室内フローリングと幅や向きをぴったり揃え、室内との自然な連続性を出しているところに、仲摩氏のこだわりが光る。
こちらの床はレッドシダー材。室内フローリングと幅や向きをぴったり揃え、室内との自然な連続性を出しているところに、仲摩氏のこだわりが光る。
好きな読書や音楽鑑賞を楽しみながら、愛犬と共に海辺でゆったりと暮らしたい――。そんな暮らしの象徴として「ヘミングウェイの世界」を思い描きながら、ご自身のライフスタイルを確立しているKさん。各スペースのスタイリングを見てお分かりの通り、空間演出も素晴らしく、どのシーンも高感度なインテリアで統一感がある。
リビングに設置したCD棚は、KさんによるDIY。500枚ものコレクションをインテリアとして効果的に見せた、圧巻のコーナーだ。このように必要に応じて自由に棚や壁をつくり、空間構成を変化させるのは、まさに仲摩氏が意図したこの家の楽しみ方。当初、細かく間仕切りをつくり込まなかった理由がここにある。
リビングに設置したCD棚は、KさんによるDIY。500枚ものコレクションをインテリアとして効果的に見せた、圧巻のコーナーだ。このように必要に応じて自由に棚や壁をつくり、空間構成を変化させるのは、まさに仲摩氏が意図したこの家の楽しみ方。当初、細かく間仕切りをつくり込まなかった理由がここにある。
「緑と光があふれる、風通しのいい家」はKさんが家づくりの鍵として挙げていたことのひとつ。この寝室も、窓を全開すると屋外と錯覚しそうなほどのオープン感だ。傍らには南向きの庭を見下ろす12.5メートルのテラスがあり、朝日を浴びながら季節の移ろいを眺めたり、ときには美しい星空を見上げたり、自然を肌で感じられる場所となっている。
こちらは1階、お母様と妹さんの空間。ここでまず目を奪われるのが、幅約8メートルもの圧倒的なスケールを持つ窓である。「ビル用の窓を住宅用として特注した4枚引き違いで、236センチの窓の高さに合わせて天井高も決定しました」と仲摩氏。この大窓のおかげで、約85平方メートルある1階のほとんどの場所から、丹精込めて育てた庭のグリーンをいつでも目にすることができる。お母様も「室内が明るくてとてもいい」と喜んでくださったそう。
さてここではもう1か所、天井のレールにも注目したい。ダイニングとリビング、妹さんの個室やお母様の和室の境に、必要に応じて引き出して設置できる可動壁のレールだ。「引き違いタイプの形ではレールが何本も必要で、そのための幅も太くなり、天井や床がスペースごとに完全に分断された印象になってしまいます。ですからご家族とも相談して、細い1本の天井レールで済む吊り下げタイプにすることで、せっかくの大きな空間のイメージを損なわないように配慮しました」(仲摩氏)。お母様の来客の際は、さっとダイニング部分だけ仕切ってお茶でおもてなしをするなど、可動壁は日々とても重宝しているとか。将来的にしっかりとした壁が必要になった場合は、柱があるのでいつでも設置可能。2階と同様に1階も、ライフステージや好みに合わせて応用が利くよう設計されている。
さてここではもう1か所、天井のレールにも注目したい。ダイニングとリビング、妹さんの個室やお母様の和室の境に、必要に応じて引き出して設置できる可動壁のレールだ。「引き違いタイプの形ではレールが何本も必要で、そのための幅も太くなり、天井や床がスペースごとに完全に分断された印象になってしまいます。ですからご家族とも相談して、細い1本の天井レールで済む吊り下げタイプにすることで、せっかくの大きな空間のイメージを損なわないように配慮しました」(仲摩氏)。お母様の来客の際は、さっとダイニング部分だけ仕切ってお茶でおもてなしをするなど、可動壁は日々とても重宝しているとか。将来的にしっかりとした壁が必要になった場合は、柱があるのでいつでも設置可能。2階と同様に1階も、ライフステージや好みに合わせて応用が利くよう設計されている。
正面にあるのは収納が充実したキッチン。愛犬との生活を考え、入口は扉つきにした。
1階の床も、2階と同じオーストラリアンハードサイプレス材だが、こちらは白染色をしてよりやわらかく明るい雰囲気に。リラックス感のある家具や外のグリーンともなじんでいる。
左に見える扉は書類などを保管する納戸。バスルームや洗面所とともに北側の一角にまとめ、オープンなLD空間とは一線を画したレイアウトに徹している。
1階の床も、2階と同じオーストラリアンハードサイプレス材だが、こちらは白染色をしてよりやわらかく明るい雰囲気に。リラックス感のある家具や外のグリーンともなじんでいる。
左に見える扉は書類などを保管する納戸。バスルームや洗面所とともに北側の一角にまとめ、オープンなLD空間とは一線を画したレイアウトに徹している。
大窓の外には11.5メートルの縁側が。ガーデニングが趣味というお母様と妹さんが育てるグリーンを眺めつつ、ひなたぼっこしたりお茶を飲んだりできる、癒しの空間だ。庭の先は誰も立ち入らない斜面になっているので、視線を気にすることなく庭仕事を楽しんだり、窓をオープンにできるという点も、K邸の隠れた魅力のひとつと言えるかもしれない。
縁側は室内床と高さを合わせてあり、2階テラスと同じく内と外とのつながりを感じるデザイン。
縁側は室内床と高さを合わせてあり、2階テラスと同じく内と外とのつながりを感じるデザイン。
外壁やテラス、縁側に使ったのはレッドシダー材。潮風を受けても風合いのある経年変化を楽しめる、と海沿いのエリアでは好まれる木材だ。白壁部分は漆喰をイメージしてチョイスした「マヂックコート」。凹凸感の少ない仕上げで、レッドシダーの質感を引き立てている。
この角度から見ると「箱が高台からはみ出して置いてあるような、浮いて見えるような」という仲摩氏の外観イメージがよく伝わってくる。
箱のようにシャープでクールな外見でありながら、一歩中に入ると住まい手に合わせた可変性のある柔軟な家。二世帯それぞれのライフスタイルに寄り添いながら、この先もずっと海や緑の恵まれた眺望で家族を楽しませてくれることだろう。
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POWDERYELLOW様、コメントをお寄せいただきありがとうございます。
仰る通りスペースに限りのある日本住宅こそ、ガラスを活用して空間に広がりを持たせたり、光を取り入れる方法は効果的ですね。K様邸は中庭も含めてワンルームのように広々と見せつつも、さりげなく絶妙なゾーニングがされており、まさに理想的なスタイルと思います。仲摩邦彦建築設計事務所さんご提案の先進的な“箱”を、お施主様が自由にセンスよく住みこなしていらっしゃる、そんな素晴らしい印象を受けました。
takeko kawaguchi様
ご丁寧なコメントを頂きありがとうございます。お仕事がら何時も色んなお宅を拝見されているんでしょうね!?素敵なお仕事を今後も頑張って下さい。
こちらこそ、励ましのお言葉をいただき、ありがとうございます。これからも素晴らしいお宅を皆様にきちんとご紹介できるよう、精進して参りますので今後共、よろしくお願いいたします。