軽井沢の究極の隠れ家。地元の土と木でつくった心地のよい別荘
長野と近隣の木や素材をふんだんに使った、地産地消の住まい。まるで森のような空気感を醸し出しています。
Miki Anzai
2023年9月20日
軽井沢の静かな森林の中に佇む、約20坪の別荘です。ジブリの映画にでも出てきそうな建物は、お施主様ご一家の希望で、非日常的で美しく、飽きがこず、心地よく、経年変化も楽しめる家につくられました。
素材は、合板・集成材や石膏ボードなどを一切使わず、長野県の無垢の木と土を用いています。日本の伝統的な木組みと左官技術を現代的に取り入れた、環境にやさしい、自然のエネルギーを活かした住まいです。
素材は、合板・集成材や石膏ボードなどを一切使わず、長野県の無垢の木と土を用いています。日本の伝統的な木組みと左官技術を現代的に取り入れた、環境にやさしい、自然のエネルギーを活かした住まいです。
先代が保有していた100坪未満の土地には、老朽化した別荘が建っていました。その建物を解体し、ご神木のようにそびえ立つクリ(建物向かって左)やコナラ(右)の木を含め、敷地の樹木を最大限に残して、新築しました。
軽井沢の第一種住居専用地域における景観条例(道路後退5m以上、隣地後退3m上以上)と、建ぺい率・容積率20%という厳しい条件下、遠野さんは、通り側の北・西側を閉じて、太陽光と熱を取り込む大開口を東・南側に持つ「パッシブデザイン」(エアコンなどに頼りすぎなくても快適さが保たれるよう、風や光などの自然エネルギーを最大限にいかした建築設計)を導きだしました。
軽井沢の第一種住居専用地域における景観条例(道路後退5m以上、隣地後退3m上以上)と、建ぺい率・容積率20%という厳しい条件下、遠野さんは、通り側の北・西側を閉じて、太陽光と熱を取り込む大開口を東・南側に持つ「パッシブデザイン」(エアコンなどに頼りすぎなくても快適さが保たれるよう、風や光などの自然エネルギーを最大限にいかした建築設計)を導きだしました。
玄関までのスロープには、敷地内で採れた石を両端に並べ、浅間山の噴火でできた石を細かく砕いた黒砂利を敷き詰めています。
湾曲した建物を覆う外壁には、「アスファルトシングル」という、ガラス基材にアスファルトを浸透させ、表面に砂粒を吹き付けたシートを重ね張りしています。実際に触るとペラペラとしていて、その薄さと柔らかさに驚かされました。「将来的にこの一部に苔が生えて、一層周囲と同化するのを期待して採用しました」と言う遠野さん。ユニークな形状のお陰で、落葉や雪が溜まりにくく、メインテナンスもしやすいのだそう。
湾曲した建物を覆う外壁には、「アスファルトシングル」という、ガラス基材にアスファルトを浸透させ、表面に砂粒を吹き付けたシートを重ね張りしています。実際に触るとペラペラとしていて、その薄さと柔らかさに驚かされました。「将来的にこの一部に苔が生えて、一層周囲と同化するのを期待して採用しました」と言う遠野さん。ユニークな形状のお陰で、落葉や雪が溜まりにくく、メインテナンスもしやすいのだそう。
ウルシ製の玄関扉の小窓は開閉できます。「メビウスの帯」状の鉄製の取手は、遠野さんのデザインです。
建物に足を踏み入れた途端、ヒノキやアカマツ、スギなどの香りが部屋中に広がり、大開口からは涼風が吹きこみ、近くを流れる御影用水の音がかすかに聞こえてきました。
森林風景をふんだんに取り込めるように、高さ2.4mの木製ガラス戸と網戸(東側)は、戸袋に収納でき、その戸袋も曲線状の壁の中に収められています。その上のガラス窓も「眺望確保のためだけでなく、冬の低い太陽を部屋の奥まで入れることを想定して」(遠野さん)計画されました。
室内から外の緑がより映えて見えるように、軒天と袖壁は砂漆喰で真っ白に仕上げています。
室内から外の緑がより映えて見えるように、軒天と袖壁は砂漆喰で真っ白に仕上げています。
この家で感じた心地よさの源(みなもと)は、「土壁」と断言できます。オーナーも、温かみのある質感に安らぎを覚え、調湿性の高さに感動しています。旧別荘では夏に訪れるとカビ臭くなった布団を干す必要があったのに、今ではその心配も無く、とても快適だそうです。
遠野さんも、土の素材としての利点は「調湿性に加え、蓄熱性が高いため冷暖房の使用を減らせること。耐力壁としても有効かつ新築・改築にも再利用できること」だと語ります。また、美しい経年変化も楽しめるため、「土は現代建築の表現としての可能性も秘めている」とも。
遠野さんも、土の素材としての利点は「調湿性に加え、蓄熱性が高いため冷暖房の使用を減らせること。耐力壁としても有効かつ新築・改築にも再利用できること」だと語ります。また、美しい経年変化も楽しめるため、「土は現代建築の表現としての可能性も秘めている」とも。
実際、土壁によってさまざまな表情が展開されていました。たとえば、壁の中に飾り棚や間接照明を埋め込む懐(ふところ)を設けたり、壁の厚みや形状を変化させたり、窓の両脇を内部に向けて広げる(こうすることで外からの光が内部に広がります)などです。
暖炉も土壁と一体化させるため、曲線のついた型枠に、壁と同じ土を(塗るのではなく)突き固める「版築」という手法でつくっています。こうすることで、輻射暖房効果とバイオマス(薪の熱)を活用でき、環境負荷を低減できます。
右側の凹みは、薪置きスペース。オーナーのご主人は、冬、暖炉に火をくべながら、薪のはぜる音、香りや炎に癒やされているそうです。
土壁と版築についての記事を読む
右側の凹みは、薪置きスペース。オーナーのご主人は、冬、暖炉に火をくべながら、薪のはぜる音、香りや炎に癒やされているそうです。
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美しいフォルムのアイランドキッチンは、ご一家が打合せ当初から設置を希望していた暖炉、そして庭の木々が見渡せる位置に配されています。
驚くなかれ、スギの小幅板で丹念につくられた側面の内部には、小型TV・炊飯器・食器・ゴミ箱・電源スイッチが収納されているのです!天板はウルシ。ステンレスシンクの縁は漆塗り仕上げです。
驚くなかれ、スギの小幅板で丹念につくられた側面の内部には、小型TV・炊飯器・食器・ゴミ箱・電源スイッチが収納されているのです!天板はウルシ。ステンレスシンクの縁は漆塗り仕上げです。
ウッドデッキは1階の延長線上にアカマツで製作。さらに地上レベルにもクリでデッキを増設しています。2層のデッキ間は、造作した三角型の踏み台(可動式でベンチにもなる)で行き来できます。
オーナー夫妻は、ここにアウトドア用の椅子を置いてお茶をしたり、グランピング(優雅にキャンプする)感覚で使っているそうです。
オーナー夫妻は、ここにアウトドア用の椅子を置いてお茶をしたり、グランピング(優雅にキャンプする)感覚で使っているそうです。
中央の小上がり部分(床から32cm高)は、腰掛け兼、床下収納(引き出し式)です。居心地がよく、オーナーが一番過ごす時間が多い場所だそう。
注目すべきは、奥のスギ壁です。実はこの壁、多角形の7枚の扉の連なりで、その奥に浴室・トイレなどが続いているのです!
床暖房入りの浴室。天井、床、壁からシャンプー棚に至るまで、継ぎ目ひとつなく、左官の技が光ります。オーナーは、温かみのある照明デザインも気に入っていて、つい長風呂をしてしまうそう。
排水口には、建築中に敷地で採れた浅間石を置いています。
排水口には、建築中に敷地で採れた浅間石を置いています。
階段下トイレ。洗面カウンターは、もともと敷地にあって「泣く泣く伐採した」(遠野さん)サクラを再生利用しています。脱衣所カウンターにも、伐採したアカマツを利用するなど、環境負荷軽減を考慮した素材の活用がなされています。
ロフトへと続く、幅75cmの階段と、スティール製の手すりも美しい曲線を描いています。
北側にある天窓からは、柔らかな光と風と景色が採り込まれています。この平らな窓を湾曲する壁面に取り付けるのは、どれだけ大変だったことでしょう!よくみると、垂木(たるき)の外側に窓が設置されているのがわかります。
少し離れた所から見ると、まるで森の中に建物が浮かんでいるかのようです。
遠野さんいわく、床を地面から1.2mほど上げたのは「湿気対策もさることながら、景観条例で軒の出が50cm以上必要なため、基礎を引っ込ませることで外壁を軒として認めてもらう」狙いもあったそうです。
建物の右側に黒く見えるのは、ボイラー室。室外機を独立させることで、家の外周を綺麗に見せています。
遠野さんいわく、床を地面から1.2mほど上げたのは「湿気対策もさることながら、景観条例で軒の出が50cm以上必要なため、基礎を引っ込ませることで外壁を軒として認めてもらう」狙いもあったそうです。
建物の右側に黒く見えるのは、ボイラー室。室外機を独立させることで、家の外周を綺麗に見せています。
オーナーは、ここに東京からご主人と月に1度のペースで訪れるたびに、建物の曲線がもたらす効果で、とても優しい気持ちになるそうです。
先代が遺してくれた土地に、その地域の素材と伝統職人の手仕事によりつくられた、心地よい別荘。まさにこれからの時代に求められる、自然の力を生かし、環境と共生する、生命体のような建物でした。
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先代が遺してくれた土地に、その地域の素材と伝統職人の手仕事によりつくられた、心地よい別荘。まさにこれからの時代に求められる、自然の力を生かし、環境と共生する、生命体のような建物でした。
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