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南仏生まれのキルティングファブリック「ブティ」のある生活
ブティ(Boutis)って知っていますか? キルティング技法で古くから作られている南フランス伝統のファブリックです。洗いざらしOK、エレガントで温かな風合いが特徴のブティの素敵な使い方を、フランス雑貨のプロが解説します。
Mami Natsui
2016年5月15日
東京・目黒のフランス雑貨&アンティークショップ「M'amour(マムール)」オーナー。アパレルメーカー海外事業部に勤務後、フランスのインテリアブランドの日本立ち上げ、カフェオーナー業に従事。ヨーロッパを中心に、複数の取引先へのオーダーや買付け業務の為、年数回の海外出張をしている。衣食住全般の仕事に関わり、「M'amour」オープン後はとくに物への愛情とこだわりを発揮中。出張の際は必ず一日は安ホテルを抜け出し、話題のインテリアのホテルへ宿泊し、老後の楽しみにアルバム作りに精を出す。
東京・目黒のフランス雑貨&アンティークショップ「M'amour(マムール)」オーナー。アパレルメーカー海外事業部に勤務後、フランスのインテリアブランドの日本立ち上げ、カフェオーナー業に従事... もっと見る
私はこれまで、輸入をメインに、時代の求めるものや自分の興味、生活の変化に合わせ、自然と衣食住に関わることに長く携わっていますが、常に「フレンチスタイル」というものに惹かれてきました。フランス風と一口に言っても奥が深く、たとえばスタイリストの方から「NYに暮らしているパリジェンヌがイメージ」のテーブルウェアのご相談を受けたり、フレンチカフェ経営のお客様から「わかりやすいフランス風のイメージづくりに必要なものとは?」と聞かれたり、ホテルのテーブルまわりを「フランスのブルジョアの家庭」というコンセプトでコーディネートしたいというご用命があったりと、実にさまざまです。
フランスのインテリアブランドの日本展開、カフェのプロデュースなどのお仕事では、商品のみならず、ブランドの「スタイル」も輸入し、現地さながらのショップをつくるのが責務でした。「スタイル」をそっくり伝えるのはもちろん簡単なことではありませんが、何度もフランスに渡ってモノを見つめ、彼らの暮らしを観察するうちに、自分なりに「フレンチスタイル」について理解し、要望に合わせたご提案ができるようになってきた気がします。
フランスのインテリアブランドの日本展開、カフェのプロデュースなどのお仕事では、商品のみならず、ブランドの「スタイル」も輸入し、現地さながらのショップをつくるのが責務でした。「スタイル」をそっくり伝えるのはもちろん簡単なことではありませんが、何度もフランスに渡ってモノを見つめ、彼らの暮らしを観察するうちに、自分なりに「フレンチスタイル」について理解し、要望に合わせたご提案ができるようになってきた気がします。
フランスの友人知人宅に行っていつも思うのは、大きさや価格だけではない、モノの価値を高める暮らしが上手だなということ。流行は知っていても、それに流されない自分の好きなスタイルがあること。お金をかけた豪華なインテリアは、彼らにとってはシックではなく、小さなスペースでも魅力的な自分だけのお城をつくり、その工程自体をも楽しんでこそシックであること。他人に頼んでつくるようなものではない、自分らしさを生かしたスタイルが最も評価されるのです。
フランス人が大切にする「世界観づくり」も、まずはひとつひとつの「モノ」を知ることから始まっています。私の見てきた、暮らしを豊かにするモノとそのストーリー、暮らしへの取り入れ方について、これからひとつずつご紹介していけたらと思います。
フランス人が大切にする「世界観づくり」も、まずはひとつひとつの「モノ」を知ることから始まっています。私の見てきた、暮らしを豊かにするモノとそのストーリー、暮らしへの取り入れ方について、これからひとつずつご紹介していけたらと思います。
中世の南フランスで生まれた「ブティ」
「ブティ」とは、15世紀頃から南フランスで作られ始めた、伝統的なキルティング手法のファブリックです。レースや刺繍などもそうですが、ブティもフランスやヨーロッパ各地の貴族たちの装飾品として作られ、使われてきた、大変貴重なものでした。
この挿絵は、フランスで見つけた『Boutis de Provence』(Flammarion社)という本の中にあったものですが、こちらにも見られるように、赤ちゃんのおくるみがこの「ブティ」です。ペチコート、洋服やベッドカバーなど、さまざまなものが作られていました。
「ブティ」とは、15世紀頃から南フランスで作られ始めた、伝統的なキルティング手法のファブリックです。レースや刺繍などもそうですが、ブティもフランスやヨーロッパ各地の貴族たちの装飾品として作られ、使われてきた、大変貴重なものでした。
この挿絵は、フランスで見つけた『Boutis de Provence』(Flammarion社)という本の中にあったものですが、こちらにも見られるように、赤ちゃんのおくるみがこの「ブティ」です。ペチコート、洋服やベッドカバーなど、さまざまなものが作られていました。
貿易港として栄えたマルセイユから広まったと言われるブティは、南フランスの地方では家庭やホテル、レストランなどでも使われているのをよく目にします。フランスの伝統的なファブリックではありますが、パリなどでは専門店に行かないとなかなか見つけることができません。以前、パリ市内のデパートでブティについて尋ねたところ、取り扱いがないだけではなく、ブティを知らない若い店員さんもいて、驚いたことがありました。ブティというのは現在も、大変地方色豊かなファブリックという存在であることがわかります。
丹念な手仕事がつくる、エレガントで温かな風合い
ブティは、布と布の間に綿を詰めてふくらませ、ステッチで模様を施し、立体的なモチーフにする、という方法で作られます。
陰影で柄を表現するというのが特長で、まるで彫刻のような独特の表情を作ることができます。何度も洗われ、太陽の下で乾かされた洗いざらしのブティは、綿を詰めた部分がふっくらするため、ステッチで作られたモチーフがよりいっそう引き立ちます。南フランスの輝く陽の光に育まれたファブリックと言えるでしょう。
ブティは、布と布の間に綿を詰めてふくらませ、ステッチで模様を施し、立体的なモチーフにする、という方法で作られます。
陰影で柄を表現するというのが特長で、まるで彫刻のような独特の表情を作ることができます。何度も洗われ、太陽の下で乾かされた洗いざらしのブティは、綿を詰めた部分がふっくらするため、ステッチで作られたモチーフがよりいっそう引き立ちます。南フランスの輝く陽の光に育まれたファブリックと言えるでしょう。
洗いっぱなしOK、そのたびに風合いの増すファブリック
「お洗濯できますか?」というご質問をよくお客様からいただきますが、ブティは丈夫で、タオルなどと一緒に洗濯機で洗え、しかも繰り返しのお洗濯に耐えます。むしろ洗って使い込んで、クタクタになったぐらいが雰囲気の出るファブリックだと思います。
あるフランスのメーカーの社長は、「端が擦り切れてくるぐらいがシックだ」と言っていました。長く愛用できるブティの魅力、シャビーシックにも通じる精神をも表しています。
「お洗濯できますか?」というご質問をよくお客様からいただきますが、ブティは丈夫で、タオルなどと一緒に洗濯機で洗え、しかも繰り返しのお洗濯に耐えます。むしろ洗って使い込んで、クタクタになったぐらいが雰囲気の出るファブリックだと思います。
あるフランスのメーカーの社長は、「端が擦り切れてくるぐらいがシックだ」と言っていました。長く愛用できるブティの魅力、シャビーシックにも通じる精神をも表しています。
季節を問わず使える素材
この写真のベージュのブティは、白いリネンと合わせてあることで、夏のさわやかな雰囲気になっています。冬には、ベージュのブティはそのままにこの白いコンフォーターカバーをこげ茶などに変えれば、温かみのある冬の雰囲気になるでしょう。ブティは一年中使えることも大きな魅力。それも、歴史ある優れたファブリックであることの理由に他なりません。
この写真のベージュのブティは、白いリネンと合わせてあることで、夏のさわやかな雰囲気になっています。冬には、ベージュのブティはそのままにこの白いコンフォーターカバーをこげ茶などに変えれば、温かみのある冬の雰囲気になるでしょう。ブティは一年中使えることも大きな魅力。それも、歴史ある優れたファブリックであることの理由に他なりません。
最初に選ぶなら白を
ブティにはさまざまな色やプリント柄もありますが、やはり最も人気があり、また長くお使いいただける色は白です。
汚れが目立つから白は……と敬遠されるお客様もいらっしゃいますが、洗濯の際に漂白ができるので、実はそれほど心配することはありません。また白いものを扱うことで汚れに敏感になるため、よい緊張感を持って生活ができ、その結果汚れをためなくなる、といった習慣もつきやすいようです。
ブティにはさまざまな色やプリント柄もありますが、やはり最も人気があり、また長くお使いいただける色は白です。
汚れが目立つから白は……と敬遠されるお客様もいらっしゃいますが、洗濯の際に漂白ができるので、実はそれほど心配することはありません。また白いものを扱うことで汚れに敏感になるため、よい緊張感を持って生活ができ、その結果汚れをためなくなる、といった習慣もつきやすいようです。
白のブティのコーディネート例
さて、ここからはブティをお使いいただく生活のさまざまなシーンをご紹介します。
まずは、一番人気のベッドカバーサイズの大きなもの。この一枚を掛けるだけで、南フランスの素敵なシャンブルドット(ゲストハウス)のようなベッドルームのインテリアになります。
さて、ここからはブティをお使いいただく生活のさまざまなシーンをご紹介します。
まずは、一番人気のベッドカバーサイズの大きなもの。この一枚を掛けるだけで、南フランスの素敵なシャンブルドット(ゲストハウス)のようなベッドルームのインテリアになります。
ブティのピロー&クッションカバー。シンプルなリネンと合わせると、ステッチの美しさが引き立ちます。こんなふうにシンプルな白どうしで、ベッドリネンのコーディネートを楽しむのもおすすめです。
派手なプリント柄のカバーだけではシンプルな床と壁の中で浮いてしまいそうなベッドまわりも、無地のブティを合わせることで、カントリースタイルの雰囲気のなかにほどよく清潔感が出せます。
こちらは以前訪れた、ロンドンのホテルの客室。スタイリッシュなホテルのデザインを数多く手がけているキット・ケンプがインテリアデザインを担当したというこちらの部屋でも、ブティが使われていました。
各部屋ごとにファブリック、インテリアのカラーが違いますが、どの部屋にも同じ白のブティが使われており、ホテルのインテリアコンセプトがちゃんと統一されて見えました。またブティが使われることで、誰かのお家に泊まるようなアットホームな雰囲気があり、旅の疲れを癒してくれる素敵なホテルでした。
各部屋ごとにファブリック、インテリアのカラーが違いますが、どの部屋にも同じ白のブティが使われており、ホテルのインテリアコンセプトがちゃんと統一されて見えました。またブティが使われることで、誰かのお家に泊まるようなアットホームな雰囲気があり、旅の疲れを癒してくれる素敵なホテルでした。
ブティのような伝統的なファブリックは、流行りすたりで変えなくてはならないものとは違い、長きに渡り大切に使っていくことができます。
ホテルのインテリアのメインであるベッドリネンに使われるということは、普遍的な価値があるということも意味しています。
ホテルのインテリアのメインであるベッドリネンに使われるということは、普遍的な価値があるということも意味しています。
取り入れやすい、シンプルなステッチのブティ
こちらはフランスの人気メーカー〈マリネット〉のブティ。写真のモデルは、シンプルなデザインながらハンドステッチの美しさが際立つ逸品(クローズアップを5枚目の写真でご紹介しました)。ニュアンスのあるカラーバリエーションも特長です。こういったシンプルなデザインのブティは組み合わせもしやすいため、初心者の方のブティ・デビューにも、とてもおすすめです。
写真/Marinette St Tropez
こちらはフランスの人気メーカー〈マリネット〉のブティ。写真のモデルは、シンプルなデザインながらハンドステッチの美しさが際立つ逸品(クローズアップを5枚目の写真でご紹介しました)。ニュアンスのあるカラーバリエーションも特長です。こういったシンプルなデザインのブティは組み合わせもしやすいため、初心者の方のブティ・デビューにも、とてもおすすめです。
写真/Marinette St Tropez
カラーや柄物のブティで個性を表現
スイートなピンクのブティがポイントのツインベッドルーム。ブティのキルティング手法ならではのボリューム感は、シングルサイズのベッドに高さを持たせ、リッチな雰囲気にすることができます。
スイートなピンクのブティがポイントのツインベッドルーム。ブティのキルティング手法ならではのボリューム感は、シングルサイズのベッドに高さを持たせ、リッチな雰囲気にすることができます。
単色で自然の風物と人物を描いたフランスの伝統的な柄、トワル・ド・ジュイ風プリントのブティ。控えめなハンドステッチの今風のアイテムですが、裏地にストライプを使っているあたりが、フランスのファブリックならではのセンスです。
ブティの重ね使い
上級者の方なら、ステッチのデザインの違うブティを重ねてコーディネートするのはいかがでしょうか。
普通のファブリックの柄物×柄物は難易度が高く、失敗もしやすいところですが、無地のブティの重ね使いは、そういった心配もありません。お気に入りのブティを集めてコーディネートするのも、ファブリック使いの大きな楽しみです。
上級者の方なら、ステッチのデザインの違うブティを重ねてコーディネートするのはいかがでしょうか。
普通のファブリックの柄物×柄物は難易度が高く、失敗もしやすいところですが、無地のブティの重ね使いは、そういった心配もありません。お気に入りのブティを集めてコーディネートするのも、ファブリック使いの大きな楽しみです。
リビングやテーブルまわりでも活躍
ベッドカバーのような大きなもの以外に、小さな面積に使うブティも素敵です。こちらでは、ソファの座面のマットとして使っています。ソファ地の保護という実用性に加え、ブティのノスタルジックな雰囲気は、リビングのインテリアにくつろぎと癒しの気分を加えてくれます。
ベッドカバーのような大きなもの以外に、小さな面積に使うブティも素敵です。こちらでは、ソファの座面のマットとして使っています。ソファ地の保護という実用性に加え、ブティのノスタルジックな雰囲気は、リビングのインテリアにくつろぎと癒しの気分を加えてくれます。
大人っぽい、淡いダスティピンクのブティのランチョンマットをテーブルに。無地のブティはお皿とのコーディネートもしやすく、また上にのせるものが映えるので、テーブルのセンターに一枚置いてお花を飾るなど、さまざまなシーンで使うことができます。
アンティーク家具との相性は抜群
こちらはテーブルランナーとして作られたものですが、ブティのほどよい厚みはマルチマットとして、このように椅子カバーにするのも人気のアレンジです。洗い込んで少しクタッとなった肌触りは他のファブリックには出せない上質感があり、またアンティーク家具と相性がよいのも特徴です。
こちらはテーブルランナーとして作られたものですが、ブティのほどよい厚みはマルチマットとして、このように椅子カバーにするのも人気のアレンジです。洗い込んで少しクタッとなった肌触りは他のファブリックには出せない上質感があり、またアンティーク家具と相性がよいのも特徴です。
ブティのランチョンマットをチェストの上で使った例。アンティーク家具やアンティーク小物にアンティークリネンが合うのは当然ですが、お家の作りや古さによっては違和感が出てしまう場合もあります。新しいマンションの空間にすべてアンティークを合わせるのは無理矢理というもの。そんなときにもブティは、古い物と新しい空間を上手につないでくれる役目を果たしてくれます。
花の形のブティ。お皿用のマットのサイズですが、ドイリー代わりにテーブルの真ん中に置いて、お花を飾ってみました。たった一輪の花が、ブティとの組み合わせにより、なんともチャーミングになりました。
以前から「どう使えばいいのですか?」とたびたびご質問をいただいていた「ブティ」の魅力と使い方についてご紹介してみましたが、いかがでしたでしょうか。次回は、知っているようで案外知らないことの多い、カトラリーの歴史や豆知識について、ご紹介したいと思います。
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