現代に生きる、ウィリアム・モリスのテキスタイルデザイン
アーツ&クラフツ運動に影響を与えた近代デザインの父、ウィリアム・モリス。多彩なデザイン活動の中で最もよく知られるのはそのテキスタイル。美しい植物文様が現代のインテリアにも盛んに取り入れられています。
中世の西洋の美と日本の美との調和によって生まれたともいえるウィリアム・モリスのテキスタイルデザインは、アーツ&クラフツ、アールヌーヴォーの時代を経て激動の20世紀を生き抜き、誕生から160年近く経過した現代も人々に愛されています。植物や自然界の風物を題材にした、優しく上品でオーガニックな色づかいと、オリジナリティあふれる繊細かつ大胆なパターンは、アイコニックな名作デザインとして知られ、不思議とあらゆるスタイルのインテリアにコーディネートしやすいのも特徴。今でも多くのデザイナーに影響を与え、21世紀に入って新しい解釈を加えたデザインも登場し、進化を続けています。
前回の記事「ウィリアム・モリスのものづくり精神とテキスタイルデザイン」に続き、今回はウィリアム・モリスのデザインを上手に取り入れた現代のインテリアをご紹介しましょう。
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日本の和室を意識した西洋のインテリアに、モリスの壁紙がよくコーディネートされるのはそのためもあります。無駄を省いたシンプルで簡素な内装や家具と、色や柄が緻密に連なるモリスのテキスタイルデザインとの相性はとてもよいのです。写真はアーツ&クラフツ様式の家具と、柳の枝を描いたモリスの定番柄《ウィローボウ》の壁紙を組み合わせたコーディネートですが、簡素で直線的な内装と似合うことがよくわかると思います。
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現代の和室に取り入れるなら
モリスが選ぶ色彩はオーガニックで自然界にある色に近く、モチーフもいわば花鳥風月柄なので、日本の和室に取り入れても自然になじみます。たとえば、モリスの壁紙を現代の和室に使うなら、写真のようにあえて部分的にあしらい、アイコン的なデザインとして強調すると、しゃれたフォーカルポイントになります。柄によっては、襖に使っても素敵ですね。
モリスが選ぶ色彩はオーガニックで自然界にある色に近く、モチーフもいわば花鳥風月柄なので、日本の和室に取り入れても自然になじみます。たとえば、モリスの壁紙を現代の和室に使うなら、写真のようにあえて部分的にあしらい、アイコン的なデザインとして強調すると、しゃれたフォーカルポイントになります。柄によっては、襖に使っても素敵ですね。
シンプルフォルムのオーク家具に
アーツ&クラフツ様式は中世のデザインがベースになっているので、モリスの壁紙やファブリックは当時人気のあったオーク材の家具とも好相性です。トラッドで重厚なイメージの強いオーク家具ですが、さわやかな単色づかいのファブリックと合わせると、写真のようなすっきりとした印象に。ファブリックの柄に中世風のデザインに多用されるアカンサス(葉アザミ)が使われていますが、色づかいと家具のフォルム次第で、ちょっとモダンなイメージにもできます。
アーツ&クラフツ様式は中世のデザインがベースになっているので、モリスの壁紙やファブリックは当時人気のあったオーク材の家具とも好相性です。トラッドで重厚なイメージの強いオーク家具ですが、さわやかな単色づかいのファブリックと合わせると、写真のようなすっきりとした印象に。ファブリックの柄に中世風のデザインに多用されるアカンサス(葉アザミ)が使われていますが、色づかいと家具のフォルム次第で、ちょっとモダンなイメージにもできます。
腰壁を利用して部分的に使う
洗面室やトイレなどのスモールスペースに、大きな柄や多色づかいの壁紙を使うのは少し勇気がいりますが、壁全面ではなく上半分に使ったり、大きな鏡を壁にかけたりして分量を調整してみましょう。写真は、ブリックタイルの腰壁の上に貼られたリッチな色づかいの植物柄《コンプトン》。ミラーフレームと洗面カウンターの素材感とも響き合い、雰囲気のあるスペースに仕上がっています。
洗面室やトイレなどのスモールスペースに、大きな柄や多色づかいの壁紙を使うのは少し勇気がいりますが、壁全面ではなく上半分に使ったり、大きな鏡を壁にかけたりして分量を調整してみましょう。写真は、ブリックタイルの腰壁の上に貼られたリッチな色づかいの植物柄《コンプトン》。ミラーフレームと洗面カウンターの素材感とも響き合い、雰囲気のあるスペースに仕上がっています。
ヴィンテージ、ミッドセンチュリーなどのインテリアにも
ヴィンテージ家具の影響もあり、ミッドセンチュリースタイルやレトロスタイルのインテリアも根強い人気。たとえば写真のようなマスタードイエローと組み合わせてみると、モリスの壁紙がちょっとレトロっぽく見えてきませんか? こんな色合いを選べば、ヴィンテージのチーク材の家具にもマッチします。モリスの壁紙やファブリックはニュートラルで自然な色味のカラーパレットなので、どの時代のスタイルにも合わせやすい利点があります。
ヴィンテージ家具の影響もあり、ミッドセンチュリースタイルやレトロスタイルのインテリアも根強い人気。たとえば写真のようなマスタードイエローと組み合わせてみると、モリスの壁紙がちょっとレトロっぽく見えてきませんか? こんな色合いを選べば、ヴィンテージのチーク材の家具にもマッチします。モリスの壁紙やファブリックはニュートラルで自然な色味のカラーパレットなので、どの時代のスタイルにも合わせやすい利点があります。
デスクライトやフォトフレームなどのインテリアアクセサリーの色を、壁紙の中の1色と合わせてコーディネートすれば、ヴィンテージスタイルにも素敵にマッチします。デザインされた時代が異なっても、モリスの色づかいが普遍的であることがよくわかります。
インダストリアルテイストとのミスマッチ
インダストリアルスタイルはどうでしょう? どちらかというと男性的なスタイルですが、繊細な植物柄を少し加えても全体のバランスを崩すことはありません。写真は機能的なインダストリアルスタイルのキッチンで、開閉できる家電収納コーナーの奥の壁に多色づかいのユリ柄《ゴールデン・リリー》をポイントづかい。この意外性もモリスの名作デザインならではのマジックかもしれません。
インダストリアルスタイルはどうでしょう? どちらかというと男性的なスタイルですが、繊細な植物柄を少し加えても全体のバランスを崩すことはありません。写真は機能的なインダストリアルスタイルのキッチンで、開閉できる家電収納コーナーの奥の壁に多色づかいのユリ柄《ゴールデン・リリー》をポイントづかい。この意外性もモリスの名作デザインならではのマジックかもしれません。
名作デザインをアートのように
ウィリアム・モリスのファンは俗に「モリソニアン」と呼ばれていますが、モリソニアンならお気に入りの柄をパネルにしてアートのように飾るのもいいかもしれません。彼のデザイン会社〈モリス商会〉から発表された壁紙やファブリックのデザインは140以上あり、その中から定番となって今も販売されている人気デザインも数多いので、部屋に飾る「モリソニアン・アート」の柄ひとつ選ぶのも目移りしそうですね。
ウィリアム・モリスのファンは俗に「モリソニアン」と呼ばれていますが、モリソニアンならお気に入りの柄をパネルにしてアートのように飾るのもいいかもしれません。彼のデザイン会社〈モリス商会〉から発表された壁紙やファブリックのデザインは140以上あり、その中から定番となって今も販売されている人気デザインも数多いので、部屋に飾る「モリソニアン・アート」の柄ひとつ選ぶのも目移りしそうですね。
アールヌーヴォーの影響
1896年、モリスが亡くなった後も彼のスタイルは継承され、優秀な後継者によってさまざまなデザインが制作されました。写真は1901年に発表された壁紙デザイン《シーウィード》で、日本語に訳すと「ワカメ」。ゆらゆらとなびくワカメを海の中に咲く花のように描き出したデザインです。モリスらしさを継承したアーツ&クラフツのデザインの中に、曲線を強調するアールヌーヴォー様式のエッセンスもうかがえます。
1896年、モリスが亡くなった後も彼のスタイルは継承され、優秀な後継者によってさまざまなデザインが制作されました。写真は1901年に発表された壁紙デザイン《シーウィード》で、日本語に訳すと「ワカメ」。ゆらゆらとなびくワカメを海の中に咲く花のように描き出したデザインです。モリスらしさを継承したアーツ&クラフツのデザインの中に、曲線を強調するアールヌーヴォー様式のエッセンスもうかがえます。
現代の解釈を加えた新しいデザイン
名作デザインとなったモリスの定番柄の中には、さらに現代のインテリアに合わせやすいよう進化したものもあります。写真はモリスの壁紙デザインの中で最も人気のある《いちご泥棒》ですが、オリジナルの多色プリントとはまったく印象の異なる、スタイリッシュなグレー1色のモダンアレンジ。現代のインテリアトレンドに合わせてアップデートできるのも、モリスのデザイン自体に普遍的なパワーがあるからでしょう。
名作デザインとなったモリスの定番柄の中には、さらに現代のインテリアに合わせやすいよう進化したものもあります。写真はモリスの壁紙デザインの中で最も人気のある《いちご泥棒》ですが、オリジナルの多色プリントとはまったく印象の異なる、スタイリッシュなグレー1色のモダンアレンジ。現代のインテリアトレンドに合わせてアップデートできるのも、モリスのデザイン自体に普遍的なパワーがあるからでしょう。
中世のデザインをお手本として19世紀に誕生したデザインでありながら、その後の歴史を生き残り進化を続け、21世紀のインテリアにも合わせられるウィリアム・モリスのデザイン。定番であると同時に斬新でもあり続けるその魅力は不変で、いつの時代のインテリアにも身近な存在であり続けるでしょう。
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モリスが仲間たちと室内装飾のデザイン会社を興し、活動していたのは1860年代。当時のイギリスは第2回ロンドン万国博覧会後で、静かな日本ブームが始まりかけていた頃でした。このトレンドがヨーロッパのジャポニズムブームの契機となり、日本風の繊細な花鳥風月のモチーフが、当時の最先端のデザインとして人気を博し始めます。