コメント
My Houzz:快適な「住と働」空間に改修、建築家夫妻のウィーンの自邸兼アトリエ
ウィーンを拠点に活躍する日本人女性建築家の自宅兼仕事場は、時間をかけて改修した集合住宅の1ユニット。桜の木が植えられた庭のある、職住ともに快適性を追求した住まいです。
Miki Anzai
2016年9月2日
オーストリアと日本に建築設計事務所を構える一級建築士の筒井ナイルツ美矢子さんが、同じく建築家であるオーストリア人のご主人と大学生の息子さんと3人で暮らすのは、ウィーン12区の集合住宅。賃貸ながら改修可能な建物を、「より心地よく、より快適に、住みながら働ける空間」にリノベーションした「自邸兼アトリエ」だ。機能性と意匠性を兼ね備えた空間づくり、高価な名作家具と手軽にDIYできる製品を融合させるインテリア術、目にも心にも優しい照明の使い方など、建築家夫妻の設計思想や美学がいかんなく発揮された住まいは、家づくりの参考にしたいヒントに満ちている。
筒井さん一家の住まいは、ウィーン中心部から約5kmほど南西にある。かつてケーブル工場だった跡地を、市が「スマートシティ」として開発した地域だ。いくつかの集合住宅棟(総戸数約1000戸)のほか、ショップや飲食店、幼稚園、老人ホーム、劇場、診療所などが完備された敷地内は、自動車進入禁止である。ガレージ専用棟が別に用意されているため、エリア内にはしゃれた小道や広場、公園がたくさん配置されており、住民たちはゆったりとした心地よい生活を満喫している。
また、すべての建物には地域熱供給などの省エネルギー対策が施され、ほぼ全住宅が庭かテラス、またはバルコニー付きである。住居形式も、「分譲住宅」や「家具付き賃貸住宅」以外に、筒井夫妻が暮らす「改修が可能な賃貸住宅」など多種多様。住棟の外観も、人目を惹くパステルカラーから斬新なデザインまで、ウィーンの都市開発プロジェクトの革新性が光るエリアだ。
筒井邸の裏玄関(写真右側中央)にいたるアプローチは、戸建住宅の生垣かと見まごうほどだ。
また、すべての建物には地域熱供給などの省エネルギー対策が施され、ほぼ全住宅が庭かテラス、またはバルコニー付きである。住居形式も、「分譲住宅」や「家具付き賃貸住宅」以外に、筒井夫妻が暮らす「改修が可能な賃貸住宅」など多種多様。住棟の外観も、人目を惹くパステルカラーから斬新なデザインまで、ウィーンの都市開発プロジェクトの革新性が光るエリアだ。
筒井邸の裏玄関(写真右側中央)にいたるアプローチは、戸建住宅の生垣かと見まごうほどだ。
どんなHouzz?
家族構成:筒井美矢子さん、ご主人のマンフレッド・グレーバーさん、大学生の息子さん
所在地:ウィーン第12区(地下鉄U6線チェルテガッセ駅近く)
規模、専有面積:外庭と中庭つき2LDKの賃貸集合住宅、110平方メートル
リフォーム竣工:
キッチン 2006年
アトリエ 2008年
バスルーム・トイレ 2012年
設計:美矢子ナイルツ一級建築士事務所
この住宅に引っ越した2年後に、子供の1人が独立したため、空いた部屋の間仕切り壁を撤去し、リビングと一体化したアトリエをつくりだした。開放感を持たせながら、棚や観葉植物を使って、住と働の空間をうまく仕切っている。また、部屋の奥に背の高い本棚を設置することで、「その裏に、洗濯物干しやアイロン台など、見せたくないものを隠せるように工夫してあります」と語る筒井さん。さらに壁の奥には、オリジナルデザインの引き戸を設置して、仕事の書類などを収納している。写真左のガラス扉が、外庭と裏玄関に通じており、右側の開口はパティオ(中庭)に通じている。
右の壁に置かれた木製椅子は、オーストリアの代表的建築家、ローランド・ライナーが、彼の代表建築であるイベントホール《ウィーン・シュタットハレ》を設計した際に、あわせて制作したもの。
家族構成:筒井美矢子さん、ご主人のマンフレッド・グレーバーさん、大学生の息子さん
所在地:ウィーン第12区(地下鉄U6線チェルテガッセ駅近く)
規模、専有面積:外庭と中庭つき2LDKの賃貸集合住宅、110平方メートル
リフォーム竣工:
キッチン 2006年
アトリエ 2008年
バスルーム・トイレ 2012年
設計:美矢子ナイルツ一級建築士事務所
この住宅に引っ越した2年後に、子供の1人が独立したため、空いた部屋の間仕切り壁を撤去し、リビングと一体化したアトリエをつくりだした。開放感を持たせながら、棚や観葉植物を使って、住と働の空間をうまく仕切っている。また、部屋の奥に背の高い本棚を設置することで、「その裏に、洗濯物干しやアイロン台など、見せたくないものを隠せるように工夫してあります」と語る筒井さん。さらに壁の奥には、オリジナルデザインの引き戸を設置して、仕事の書類などを収納している。写真左のガラス扉が、外庭と裏玄関に通じており、右側の開口はパティオ(中庭)に通じている。
右の壁に置かれた木製椅子は、オーストリアの代表的建築家、ローランド・ライナーが、彼の代表建築であるイベントホール《ウィーン・シュタットハレ》を設計した際に、あわせて制作したもの。
家全体の色彩は、白と木目をベースにしながら、「季節によって差し色を変化させる」ことで、違う印象を楽しんでいるという。たとえば、クッションをグレーのグラデーションで揃え、その間のソファの背に、さりげなく若草色のクロスを掛けたり、植木鉢をレモン色にしたりすることで、季節感を意識した、しゃれたアクセントを効かせる、といった具合だ。
リビングに置かれた黒色の椅子は、喜多俊之の代表作で、ニューヨーク近代美術館の常設コレクションにもなっている《WINKチェア》。背の角度や、ヘッドレストの耳部分を動かすことができる。オフホワイトのソファは、〈B&B Italia〉の《チャールズ・ラージ》。名作家具を生活空間に、いとも自然に溶け込ませている。
リビングに置かれた黒色の椅子は、喜多俊之の代表作で、ニューヨーク近代美術館の常設コレクションにもなっている《WINKチェア》。背の角度や、ヘッドレストの耳部分を動かすことができる。オフホワイトのソファは、〈B&B Italia〉の《チャールズ・ラージ》。名作家具を生活空間に、いとも自然に溶け込ませている。
最近、日本でも注目されている「コの字型」の中庭。筒井邸のように、中庭に面したすべての居室に大きな開口を設ければ、採光性、通気性に優れた空間で家族の気配も感じられ、くつろぎのプライベートタイムを過ごせる。
入居後、すぐにリフォームしたのが、このキッチンとダイニングだ。オープンキッチンは、料理の腕前がプロ級のご主人、マンフレッドさんが、いちばん動きやすい動線を考えて細かく設計。それに呼応するように、すっきりとしたダイニングの収納や照明を、筒井さんがデザインした。統一感のある美しいフォルムはもちろんのこと、軽く触れるだけで開閉ができる機能的な収納扉は、筒井さんがインテリアを手がける、ウィーンの有名ブティック〈フライ・ヴィレ〉の本店や、各国の支店のディスプレイ棚とも共通している。
棚に立て掛けてあるワイヤーアートは、筒井さんが内装を担当した市内レストラン〈ヴァインツィール〉でも多数採用しているオーストリア人アーティスト、ライナー・フューレダー作。
こちらもあわせて
デザイン好きのためのトラベルガイド:ウィーン建築めぐり
棚に立て掛けてあるワイヤーアートは、筒井さんが内装を担当した市内レストラン〈ヴァインツィール〉でも多数採用しているオーストリア人アーティスト、ライナー・フューレダー作。
こちらもあわせて
デザイン好きのためのトラベルガイド:ウィーン建築めぐり
右に見えるのが、表玄関の扉。その直ぐ横の壁には、外出前の身だしなみチェックに欠かせない鏡を設置。その下には、鍵などの小物が置ける棚をつけた。コート掛けや、ちょっとした腰掛けにもなる収納ベンチを含め、玄関スペースの家具はすべて〈IKEA〉で調達している。
表玄関からリビングをつなぐ廊下の照明は、風水アドバイザーの資格も持つ筒井さんが、「陽のエネルギー」を取り込むため、「明るさ」にこだわってデザインしたもの。バスルームの扉(写真左手前)は、開き扉から、マットガラスの引き戸にリフォームして、開閉面積を縮小した。また、壁の上部に収納をつくり(写真左上)、その位置に合わせて、絵画を掛けることで、ホテルのようなおしゃれ感を演出している。
こちらもあわせて
Houzzツアー:築24年のウィーン郊外の家を日本人女性建築家がモダンにリフォーム
こちらもあわせて
Houzzツアー:築24年のウィーン郊外の家を日本人女性建築家がモダンにリフォーム
バスルームと洗濯機のフレーム、鏡、ガラスのパーティションは、夫妻で図面を作成し、特注したもの。いっぽう、シンクや引き出し、タオル掛けやベンチは〈IKEA〉で揃えている。「きちんとサイズを合わせる必要があるものは、自分たちで設計していますが、全部をオーダーメイドにするのではなく、既製品とミックスしているところがポイントです」と筒井さん。
また、洗剤などを外に出しっ放しにすることなく、「見た目を常に意識して暮らすことも、収納上手になる秘訣」だそう。
また、洗剤などを外に出しっ放しにすることなく、「見た目を常に意識して暮らすことも、収納上手になる秘訣」だそう。
洗面器の前の壁には、大きめの薄手の鏡を設置し、奥の壁面の収納シェルフも、あえて半透明の両開き扉にすることで、閉塞感のない空間をつくりだした。
白いタイル張りの空間は、とかく無機質になりがちだが、「瑠璃紺色のラグや、籐製の椅子、その上に雑誌を置いたり、壁に絵を掛けたりすることで、心地よい空間を演出しています」と筒井さん。
白いタイル張りの空間は、とかく無機質になりがちだが、「瑠璃紺色のラグや、籐製の椅子、その上に雑誌を置いたり、壁に絵を掛けたりすることで、心地よい空間を演出しています」と筒井さん。
寝室も中庭に面しており、太陽の光、そよ吹く風といった、豊かな自然の恩恵を、室内にいながら受けられる。夫妻が大切に育てている植物も、朝と夜とで違う光に照らされ、安らぎを与えてくれる。
夫妻の共通の趣味のひとつがガーデニング。裏玄関前の庭は、ウッドデッキから植栽まで、2人でデザインしてつくっている。
外庭にそびえ立つのは、桜の木。ご主人のマンフレッドさんが、ウィーンにいても筒井さんが祖国の春を感じられるように、「ここに引っ越してきた時に、苗木を買ってきて植えた」のだそう。「約10年間で、こんなに大きくなるとは驚きです」と語るマンフレッドさん。今春も、桜の花が咲き乱れ、明るく、華やいだ景色を提供してくれたことは言うまでもない。
リフォームによって誕生したLDKの大空間。ここは、夫妻が家族や友人と団欒する場だが、施主との打ち合わせの場所にもなる。「私たちの提案する住まい方や空間を、実際にご覧いただくことで、どうすれば機能的で、使いやすい空間を実現できるか、私たちなりのノウハウを見ていただくことができます」と語る筒井さん。
建築家夫妻が、人生の節目節目に、リフォームを重ねて誕生させた「自邸兼アトリエ」は、まさに2人の個性と価値観が反映された、アイデア満載の空間だ。
この家の写真をもっと見る
Houzzからのお知らせ
9月13日(火)18時より、東京・渋谷のHouzz Japanオフィスにて、筒井さんによるセミナー「ウィーンに見る、住宅との付き合い方」を開催します。ご参加希望の方は、こちらからお申し込みください。
建築家夫妻が、人生の節目節目に、リフォームを重ねて誕生させた「自邸兼アトリエ」は、まさに2人の個性と価値観が反映された、アイデア満載の空間だ。
この家の写真をもっと見る
Houzzからのお知らせ
9月13日(火)18時より、東京・渋谷のHouzz Japanオフィスにて、筒井さんによるセミナー「ウィーンに見る、住宅との付き合い方」を開催します。ご参加希望の方は、こちらからお申し込みください。
おすすめの記事
Houzzツアー (お宅紹介)
クラシックなパリジャン風デザインを現代風にアレンジ
古典的な優美さと巧妙な仕組みの壁収納ベッドによって、ある女性とその甥のための美しいセカンドハウスが生まれました。
続きを読む
Houzzツアー (お宅紹介)
明るい色使いがポイント。ホームオフィスがあるスペインのリノベーション
ハッピーな雰囲気が魅力的な光あふれる住まい。デザイナーが考えた、予算を抑えるための秘策もご紹介します。
続きを読む
Houzzがきっかけの家(国内)
家族で自然を満喫。極上の浴室と広々としたデッキを備えた軽井沢の別荘
3人の子供たちの成長期に家族で軽井沢ライフを楽しむため、オーナーは時間のかかる土地探し&新築計画を見直し、中古物件を購入。Houzzで見つけた長野県の建築家に改修を依頼して、飛躍的に自然とのつながりが感じられる住まいに変身させました。
続きを読む
Houzzツアー (お宅紹介)
建築家がゲストハウスに再考したガレージ
多目的スペースへと作り替えられた空間とカーポートの追加によって、スタイリッシュにアップデートされた、歴史あるニューイングランド様式の住宅をご紹介します。
続きを読む
Houzzツアー (お宅紹介)
ビルバオのグランビア通りに佇む、1950年代のクラシカルなフラットハウス
既存のモールディングが美しい85平方メートルのリビング、ダイニング、ホームオフィスをもつ、エレガントなフラットをご紹介します。
続きを読む
Houzzツアー (お宅紹介)
開放的な空間に生まれ変わった、クラシックなテラスハウス
ロンドンの歴史ある建物の全面リフォーム。そして大胆に変身した廊下を、ビフォー・アフターの写真とともにご紹介します。
続きを読む
Houzzツアー (お宅紹介)
スペインの街を一望できるペントハウス
息をのむようなバルセロナの眺めを楽しむことができる、素晴らしいテラスをもつペントハウス。しかし改装前、出入り口には狭い引き戸しかありませんでした。
続きを読む
Houzzがきっかけの家(海外)
光に満ちた回廊を再利用して、都市型アパートを開放的に
美しい天井と大きな窓がある、太陽の差し込む明るいロッジアをリビング空間の一部とすることで、住まいを一変させました
続きを読む