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建築途中でホテルから居住用に。曲線と土間のあるスタイリッシュな賃貸住宅
コロナ禍で竣工間近のホテル計画が白紙に。それでも、柔軟性のあるデザインによって魅力ある賃貸住宅に変身した、9階建てビルのプロジェクトです。

Mamiko Nakano
2021年2月3日
Houzz Japan Editor
東京・新宿区、早稲田通り沿いに、弧を描く“裾“のデザインが印象的なビルが建っています。「LIGHTHOUSE」と名付けられたこの建物は元々、東京五輪を見据えた長期滞在型ホテルとして2020年春に開業予定でしたが、コロナ禍を機に賃貸住宅としての道を歩み出すことになりました。
どんなHouzz?
所在地:東京都新宿区
設計:YSLA Architects|Natalia Sanz + 山村健
構造設計:yAt構造設計事務所
施工:株式会社FUJIKEN
敷地面積:108㎡
建築面積:70㎡
延床面積:554㎡
各部屋の面積:4〜9階は53.5㎡、2・3階は35.0㎡と14.5㎡。
戸数:10戸
構造: RC造
竣工:2020年7月
写真:小野寺宗貴
所在地:東京都新宿区
設計:YSLA Architects|Natalia Sanz + 山村健
構造設計:yAt構造設計事務所
施工:株式会社FUJIKEN
敷地面積:108㎡
建築面積:70㎡
延床面積:554㎡
各部屋の面積:4〜9階は53.5㎡、2・3階は35.0㎡と14.5㎡。
戸数:10戸
構造: RC造
竣工:2020年7月
写真:小野寺宗貴
このビルのオーナーは、近隣に複数の賃貸住宅物件を持っている、不動産経営者。東京五輪に向けて、海外からの旅行客向けホテルをつくろうと考えました。
YSLAを主宰する二人の建築家、ナタリア・サンツさんと山村健さんがオーナーと出会ったのは2018年。そのときには、“ワンフロア1室、スイートルーム的なつくりの長期滞在型ホテル“にしたい、というコンセプトは固まっていました。
YSLAを主宰する二人の建築家、ナタリア・サンツさんと山村健さんがオーナーと出会ったのは2018年。そのときには、“ワンフロア1室、スイートルーム的なつくりの長期滞在型ホテル“にしたい、というコンセプトは固まっていました。
プロジェクトの依頼を受けたYSLAは、オーナー側の「コンクリート造」「タイル張り」「メンテナンスしやすい」といった要望を盛り込んだプランづくりに取り掛かります。
シンプルなタイルを使いつつも、波を思わせる曲線と、地面から少し浮かすディテールを取り入れることで軽さを表現。夜、窓から漏れる灯りと“灯台“のイメージを重ねて、LIGHTHOUSEという名前をつけました。
「2019年の1〜2月くらいに設計案をプレゼンし、2019年夏から施工が始まりました」と山村さんは当時を振り返ります。「東京五輪を考えると、2020年5月までの竣工が必要だったので、急ピッチで色々なことを進めていきました」
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シンプルなタイルを使いつつも、波を思わせる曲線と、地面から少し浮かすディテールを取り入れることで軽さを表現。夜、窓から漏れる灯りと“灯台“のイメージを重ねて、LIGHTHOUSEという名前をつけました。
「2019年の1〜2月くらいに設計案をプレゼンし、2019年夏から施工が始まりました」と山村さんは当時を振り返ります。「東京五輪を考えると、2020年5月までの竣工が必要だったので、急ピッチで色々なことを進めていきました」
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そんなプロジェクト真っ只中の2020年、コロナ禍が起こります。五輪延期で計画どおりの利用者が見込めなくなったことから、ホテルを運営するはずだった業者が撤退。ホテルとしてのLIGHTHOUSEの出発は、一旦白紙となってしまいました。
すでに工事は進み、LIGHTHOUSEは躯体も出来上がった状態にまで至っていました。オーナーとYSLAのお二人には、方向性を改めて話し合い、4月、ホテルから賃貸住宅に方向転換して、プロジェクトを進めることに。賃貸住宅にすることが決まると、夏の竣工に向け、様々な調整が始まりました。
レセプションエリアだった1階は、コワーキングスペースに変身。電源を差し込めるタイプのデスクを設置しました。住居としての動線を考慮して、もともと夜間宿泊客用の出入り口だった東側をメインエントランスに変更しました。ほかにも、各部屋に置く家具の高さ調整など、数多くの変更点がありました。
レセプションエリアだった1階は、コワーキングスペースに変身。電源を差し込めるタイプのデスクを設置しました。住居としての動線を考慮して、もともと夜間宿泊客用の出入り口だった東側をメインエントランスに変更しました。ほかにも、各部屋に置く家具の高さ調整など、数多くの変更点がありました。
それでも、LIGHTHOUSEの場合「通常のホテルに比べて、住宅に変更しやすかった」というのは、YSLAのお二人もオーナーも同意見です。もともと長期滞在がコンセプトだったこともあり、それぞれの部屋が「住んでも快適」という、柔軟性の高いデザインになっていたからです。
居室の開口部は北と東に向いているので、風がよく通ります。これは、コロナ以降に特に注目されるようになった換気の面でプラスでした。
また、ステイホームでニーズが高まったバルコニーが、2つあるのもポイントです。「例えば、片方のバルコニーに洗濯物などを集めておけば、もう片方のバルコニーには家具を置いて寛いだり、ということをしてもらえるようになっています」(山村さん)
また、ステイホームでニーズが高まったバルコニーが、2つあるのもポイントです。「例えば、片方のバルコニーに洗濯物などを集めておけば、もう片方のバルコニーには家具を置いて寛いだり、ということをしてもらえるようになっています」(山村さん)
4〜9階は各階に53.5㎡が1戸ずつ、2と3階は35.0㎡と14.5㎡の2戸、という構成です。
3階の平面図
どの部屋もカーペット敷の“土間“スペースが中心にあり、それを5センチほど高くなったナラ材のフローリングが、ぐるっと囲んでいます。
どの部屋もカーペット敷の“土間“スペースが中心にあり、それを5センチほど高くなったナラ材のフローリングが、ぐるっと囲んでいます。
9階の平面図
「寝る場所が、部屋の壁に近い方に設定できるようになっているので、集まる場所として『土間』をつくることにしました」と山村さん。エレベータを降りると、それぞれの部屋の専用スペースがあり、そこで靴を脱いで部屋に入っていくようになっています。
「寝る場所が、部屋の壁に近い方に設定できるようになっているので、集まる場所として『土間』をつくることにしました」と山村さん。エレベータを降りると、それぞれの部屋の専用スペースがあり、そこで靴を脱いで部屋に入っていくようになっています。
この土間とフローリングという組み合わせは、ホテル計画のころから変わっていません。YSLAは当初から、ベッドではなく、布団を敷いて寝る形での部屋づくりを進めていました。その際、「外国人の中には、床に布団を敷くことに抵抗がある方もいる、そういう人が落ち着けるように、床を5センチ上げよう」と考えたことが、このデザインを採用した理由でした。
室内に置かれている家具は、どれもLIGHTHOUSEのためにつくられたもの。デザインは、ナタリアさんが中心となって手がけました。
外観と同じ曲線デザインが取り入れられたこの家具は、日本の絵画などにみられる"美しい波"のイメージにちなみ、「みわ」と名付けられています。42センチ角、机や椅子など、様々な用途に使える多目的な家具は、土間を囲む床材と同じナラ材。形も色も柔らかな雰囲気です。
外観と同じ曲線デザインが取り入れられたこの家具は、日本の絵画などにみられる"美しい波"のイメージにちなみ、「みわ」と名付けられています。42センチ角、机や椅子など、様々な用途に使える多目的な家具は、土間を囲む床材と同じナラ材。形も色も柔らかな雰囲気です。
窓まわりのインテリアは部屋ごとに違っています。偶数階がカーテン、奇数階がウッドブラインドになっています。ウッドブラインドは、クルクルと巻いていく形が日本古来の御簾のようでもありますが、スペインのPersiana Barcelonaのものです。
LIGHTHOUSEは現在、定期借家で貸し出されていて、満室状態。入居者たちからは、「窓際で仕事をしているが明るくていい」「リビングスペースが広く使えるので、ヨガやストレッチをしている」といった声が寄せられているそうです。
オーナーは将来、LIGHTHOUSEをホテルに「戻す」ことも考えているそうです。利用方法が変わっても息長く使える建物として、時代に応じて変化させていきたい、と話してくれました。
リモートワークの浸透でホームオフィス需要が高まるなど、住まいに求められるものは日々変化しています。これからは「時代の変化に合わせられる柔軟さ」が、住まいづくりのポイントとして、いっそう注目されることになりそうです。
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