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Houzzツアー:電気も水道もない大自然の中でも快適に過ごせる「オフグリッド住宅」
建築家が自分の家族のために建てた週末用の家は、完全自家発電&用水のオフグリッド住宅。広大な山なみをのぞむ家には、さまざまな挑戦とエコな工夫があふれています。
Mitchell Parker
2015年5月26日
都会に暮らす人の多くは、あわただしい日常をしばし離れて自然の中で過ごすための家を持ちたい、と願うもの。バンクーバーの都心に暮らす建築家のジェス・ガーリック (JesseGarlick) さんと妻のスーザン・エリオット (Susan Elliott) さん夫妻もそうだった。夫妻が夢の実現に向けて敷地を探し始めたのは、4年前のこと。バンクーバーから東へ車で5時間、ブリティッシュコロンビア州にあるワインの産地として知られるエリアへキャンプに出かけたとき、ついに運命の場所に巡りあう。国境を越え、アメリカ・ワシントン州へ入ったところで、目の前に広がる風景に心を奪われたのだった。
土地の値段も魅力的だった。8万平方メートル余りの敷地をわずか3万ドル(約360万円 )で購入。いちばん近い町オロヴィル(人口1676人)からも40キロ離れた、岩の多い、手付かずの自然が残る場所である。もちろん、これだけの僻地だから、家を建てるのも簡単ではないが、ガーリックさんは「オフグリッド」、つまり、公共の電力や水道に頼らない、自家発電や自家用水のシステムを取り入れた家を立てることにした。つまり、建築家としての挑戦の場にしようと考えたのだ。
土地の値段も魅力的だった。8万平方メートル余りの敷地をわずか3万ドル(約360万円 )で購入。いちばん近い町オロヴィル(人口1676人)からも40キロ離れた、岩の多い、手付かずの自然が残る場所である。もちろん、これだけの僻地だから、家を建てるのも簡単ではないが、ガーリックさんは「オフグリッド」、つまり、公共の電力や水道に頼らない、自家発電や自家用水のシステムを取り入れた家を立てることにした。つまり、建築家としての挑戦の場にしようと考えたのだ。
Photos by The Morrisons
どんなHouzz?
所在地:ワシントン州北東部
居住者:ジェシー・ガーリックさん(Platform Architecture + Design)と妻のスーザン・エリオットさん、2歳の息子のセオドアくん
規模:78.9平方メートル; ベッドルームx1、バスルーム(トイレ含む)x1
夫妻が手に入れた8万平方メートルの土地は、ワシントン州北東部、カスケード山脈のふもとの丘陵地帯にある。ヤマヨモギの茂る丘、むき出しの岩肌、深い谷のところどころに群生する松の木々。サボテンもポツポツと生えている。ステップ(草原)地帯に分類される土地だ。
牧畜業が盛んな土地でもある。果樹園、秣(マグサ)畑のほか、小規模な農場が点在している。近くにはキャンプを楽しめる湖もいくつかあり、夫妻も夏の間、多くの時間を湖畔で過ごす。
家は購入した敷地の端に立っている。ガーリックさんは何度も敷地を歩きまわり、家を建てる場所を検討し、最終的に、小さな丘の上に決めた。いちばん高い場所でも、低い場所でもない。「あまり低いところだと景色が見えませんし、あまり高いところだと、フランク・ロイド・ライトが言ったように、『丘の頂上に家を建てれば、丘の眺めは楽しめない』ですからね」
山の起伏や湖の場所、日当たりを考慮に入れ、家を建てるのに最も適した位置を探るため、3Dソフトを使ってシミュレーションを重ねた。眼下に広がるマグサ畑がわずかに人の暮らしの気配を感じさせる以外は、ほぼ完全な僻地だ。雨が多いバンクーバーの海岸性気候や都心のあわただしさとはかけ離れた世界。「とにかくまったく違う世界ですね」ガーリックさんは言う。
どんなHouzz?
所在地:ワシントン州北東部
居住者:ジェシー・ガーリックさん(Platform Architecture + Design)と妻のスーザン・エリオットさん、2歳の息子のセオドアくん
規模:78.9平方メートル; ベッドルームx1、バスルーム(トイレ含む)x1
夫妻が手に入れた8万平方メートルの土地は、ワシントン州北東部、カスケード山脈のふもとの丘陵地帯にある。ヤマヨモギの茂る丘、むき出しの岩肌、深い谷のところどころに群生する松の木々。サボテンもポツポツと生えている。ステップ(草原)地帯に分類される土地だ。
牧畜業が盛んな土地でもある。果樹園、秣(マグサ)畑のほか、小規模な農場が点在している。近くにはキャンプを楽しめる湖もいくつかあり、夫妻も夏の間、多くの時間を湖畔で過ごす。
家は購入した敷地の端に立っている。ガーリックさんは何度も敷地を歩きまわり、家を建てる場所を検討し、最終的に、小さな丘の上に決めた。いちばん高い場所でも、低い場所でもない。「あまり低いところだと景色が見えませんし、あまり高いところだと、フランク・ロイド・ライトが言ったように、『丘の頂上に家を建てれば、丘の眺めは楽しめない』ですからね」
山の起伏や湖の場所、日当たりを考慮に入れ、家を建てるのに最も適した位置を探るため、3Dソフトを使ってシミュレーションを重ねた。眼下に広がるマグサ畑がわずかに人の暮らしの気配を感じさせる以外は、ほぼ完全な僻地だ。雨が多いバンクーバーの海岸性気候や都心のあわただしさとはかけ離れた世界。「とにかくまったく違う世界ですね」ガーリックさんは言う。
家の床面積はわずか78.9平方メートル。夫妻がバンクーバーで暮らすアパートメントとちょうど同じ広さだ。家の広さと形を決めたのにはいくつかの理由があった。まず、これまでのアパートメントの広さが快適だったこと。小さめの家にすれば建築コストが抑えられること。また、コンパクトな2階建てなら、冬の間も広い家より効率よく暖めることができる。
錆びたスチールの外装は、コンテンポラリーでラスティックな外観をつくりだし、周囲に点在する廃屋となった小屋とも調和している。外装にこの素材を選んだのは、美的観点に加え、この辺りは山火事が起きる地域であるという実際的な理由もあった。
錆びたスチールの外装は、コンテンポラリーでラスティックな外観をつくりだし、周囲に点在する廃屋となった小屋とも調和している。外装にこの素材を選んだのは、美的観点に加え、この辺りは山火事が起きる地域であるという実際的な理由もあった。
一方、内装はすべて木材でまとめた。壁はクロス・ラミネーテッド・ティンバー(CLT)パネル製で、あらかじめ工場で加工したものを現場へ運び、クレーンを使って3日間で組み立てた。「イケアの家具の巨大バージョンを組み立てるみたいなものです」と、ガーリックさん。この写真でリビングにいるのが妻のスーザン・エリオットさん、息子セオドアくん、飼い猫のマックスだ。壁とパイン材の床は、半透明の水性塗料、ホワイトウォッシュを使って仕上げた。
暖房器具は薪ストーブのみ。真冬の場合、ストーブをつけてから1時間半ほどで快適な温度になり、6時間経てば家全体が21度になるという。
屋外のポールにソーラーパネルを設置。8つの太陽電池に太陽光のエネルギーを蓄える。冷蔵庫をはじめ、照明、水道ポンプシステム、その他電子機器類の電力を供給している(外の気温が氷点下になる冬期は、冷蔵庫の電源は入れない)。
携帯電話用のブースターアンテナも設置しているため、電話も使える。また3G回線を備えており、インターネットへの接続も可能。ただし動画を長時間見たり終日ネットサーフィンを楽しむことはできない。「でもそれがいいんです」とガーリックさん。汚水浄化システム、ガスコンロ用のプロパンガス、さらには給湯器とバックアップ用の発電機も備えている。冬の間、長期間にわたって家にいたときは、何度かバックアップ用発電機の出番があった。発電機で6時間ほど電池を充電すると、太陽が顔を出さないときでも2、3日分の電気がまかなえるという。
暖房器具は薪ストーブのみ。真冬の場合、ストーブをつけてから1時間半ほどで快適な温度になり、6時間経てば家全体が21度になるという。
屋外のポールにソーラーパネルを設置。8つの太陽電池に太陽光のエネルギーを蓄える。冷蔵庫をはじめ、照明、水道ポンプシステム、その他電子機器類の電力を供給している(外の気温が氷点下になる冬期は、冷蔵庫の電源は入れない)。
携帯電話用のブースターアンテナも設置しているため、電話も使える。また3G回線を備えており、インターネットへの接続も可能。ただし動画を長時間見たり終日ネットサーフィンを楽しむことはできない。「でもそれがいいんです」とガーリックさん。汚水浄化システム、ガスコンロ用のプロパンガス、さらには給湯器とバックアップ用の発電機も備えている。冬の間、長期間にわたって家にいたときは、何度かバックアップ用発電機の出番があった。発電機で6時間ほど電池を充電すると、太陽が顔を出さないときでも2、3日分の電気がまかなえるという。
キッチンとリビングはワンルームのLDKに。アイランドキッチンは家の外装と同じスチールを使用し、再生紙を利用したPaperStoneという合成素材で表面を仕上げ、スチールのような外観にした。「ちょっと『2001年宇宙の旅』みたいな感じでしょう」とガーリックさん。スチール素材が表面に露出していないので、外装と違い錆がつくことはない。このキッチンカウンターは、家の外装の経年変化を比較する目安にするつもりだそう。
コンテンポラリー・ダンスのアーティストで料理好きの妻のエリオットさんによれば、キッチンの主役はWolf製の業務用コンロだそう。
リビングの窓から、カスケード山脈の尾根を端から端まで見渡すことができる。太陽の光が景色を変えていく様子を眺めるのがガーリックさんのお気に入りだ。
コンクリートを打設したパティオは、家づくりの中でもっとも苦労した部分だ。いちばん近いコンクリート工場は1時間半離れたところにある。工事の日は、35℃を超える暑さだったため、運搬している間にコンクリートが熱くなってしまった。暑い季節に熱いセメントを扱う作業は過酷な上、コンクリートが固まる速度もはやくなるため、作業が大変だった。
コンクリートを打設したパティオは、家づくりの中でもっとも苦労した部分だ。いちばん近いコンクリート工場は1時間半離れたところにある。工事の日は、35℃を超える暑さだったため、運搬している間にコンクリートが熱くなってしまった。暑い季節に熱いセメントを扱う作業は過酷な上、コンクリートが固まる速度もはやくなるため、作業が大変だった。
吹き抜けの天井のおかげで、リビングは広々としている。「バンクーバーのアパートメントと同じ床面積とはとても思えないほど広く感じます」
ベッドルームのロフトからはダイニングを見下ろせる。ロフトの小窓も山の風景を望める。
ベッドルームのロフトからはダイニングを見下ろせる。ロフトの小窓も山の風景を望める。
バスルームは1ヵ所のみで、2階に配置し、1階の広さを確保した。1階のリビングの脇、通常ならバスルームを造る場所には、本を読める小さなスペースとクイーンサイズのベッドを置いた。
といっても、ただのベッドではない。
といっても、ただのベッドではない。
ベッドのフレームにボート用の巻き揚げ機がついていて、上へ巻き揚げるとバスタブが現れるのだ。
夫妻は屋外にバスタブを置きたいと考えていたが、冬の寒さを考えて断念。その代わり、室内にバスタブを設置することにした。
カーテンを閉めればプライベートな空間になるし、頭の高さにある窓を開ければアウトドア気分にも。
ガーリックさんによれば、乾燥した気候のため湿気の心配をする必要がないとのこと。ベッドの下とバスタブの間に15センチほどの隙間があるため、湿気がこもることもない。
ボートの巻き揚げ機を使ったしくみは、ガーリックさんが子どものころからボートに親しんでいたからこそ思いついたもの。「ごくシンプルなしくみです。ベッドそのものが上下に移動するので、折り畳みベッドと違っていちいち布団や枕を片付ける必要もありません」
ボートの巻き揚げ機を使ったしくみは、ガーリックさんが子どものころからボートに親しんでいたからこそ思いついたもの。「ごくシンプルなしくみです。ベッドそのものが上下に移動するので、折り畳みベッドと違っていちいち布団や枕を片付ける必要もありません」
塗装したメタル製のドアを開けると、小さなマッドルーム(靴やコートを脱ぐ場所)がある。
2階のシャワーにはバルコニーがついている。バルコニーの柵は全面ガラスで、外の空気を感じられる。もちろん、隣家の目を心配する必要もない。
2階のベッドルームはシンプルだけれど心地よい空間。張り出した部分に設置したデスクコーナーからは、階下のダイニングと小窓が見える。
木材を使った壁は中空ではないため、配管や電線を通すことができない。そこで、細い木材で組み立てたコアをつくり、配線等の設備を収めた。コアは階段の脇に設置し、CLTパネルと同じ塗装をした合板でカバー。電気のスイッチ、配管、暖房装置をはじめ、設備関係のシステムはすべてこの中に収められている。
左側に見える細長い建物にはさまざまな道具類とバックアップ用発電機が収められている。駐車スペースを隠すための設計だ。外装に使ったスチール板は仕上げ加工をせず、工場から直接現場へ運んだ。ガーリックさんが3Dプリンタを使ってレーザーカットしたもので、家造りを手伝ってくれた弟とガーリックさんだけで運搬・取り付けができるサイズだ。「1枚36キロほどです。二人の手で扱えるのはこれが限度ですね」
兄弟は3週間かけてスチール板を取りつけていった。躯体づくりとと合板の貼り付けも二人で作業した。その後、電気関係や配管、キャビネットの取り付けをそれぞれ業者に依頼した。
兄弟は3週間かけてスチール板を取りつけていった。躯体づくりとと合板の貼り付けも二人で作業した。その後、電気関係や配管、キャビネットの取り付けをそれぞれ業者に依頼した。
もちろん、自然の中でアウトドアを楽しむのがここに家を建てた最大の目的。この家に滞在している間、一家は外に出て周辺を散策し、湖へ出かけ、フライフィッシングやバードハンティングを楽しむ。
白い組み立て式の小屋は夏の間の来客用。家の建築中は夫妻もここで寝泊まりした。6月に入ると1時間半ほどかけて組み立て、10月に入ると解体する。
小屋の左の建屋には井戸がある。
白い組み立て式の小屋は夏の間の来客用。家の建築中は夫妻もここで寝泊まりした。6月に入ると1時間半ほどかけて組み立て、10月に入ると解体する。
小屋の左の建屋には井戸がある。
間取り図はこちら。費用は全部で25万ドル(約3000万円)。内訳は次のとおり。土地:3万ドル(約360万円)、ソーラーシステム、水道・汚水処理システム:4万ドル(約480万円)、道の整備等を含む土地の開発整備:4万ドル(約480万円)、材料費、人件費、クレーンレンタル費など:約18万ドル(約2160万円)。ガーリックさん自身の手で設計し、作業の一部をセルフビルト(自分で建てる)にし、費用を抑えた。
構造設計: Eric Karsh and Bernhard Gafner, Equilibrium Consulting
木材: John Boys, Nicola Logworks
構造設計: Eric Karsh and Bernhard Gafner, Equilibrium Consulting
木材: John Boys, Nicola Logworks
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