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建築学校「タリアセン」の学生がつくった、砂漠の最小限住居
砂漠に立つ、小さな小屋。アメリカ、アリゾナ州にあるフランク・ロイド・ライト建築学校「タリアセン」の学生がつくりだした小屋は、生きるための「最小限住居」です。
John Hill
2017年1月16日
建築家フランク・ロイド・ライトゆかりの場所といえば、まず思い浮かぶのが、最初の自宅兼スタジオを作ったイリノイ州オークパーク、そして、タリアセンのあるウィスコンシン州スプリンググリーンだろう。しかしもう1つ、同じくらい重要な場所がある。アリゾナ州フェニックス郊外のスコッツデールだ。ライトはこの砂漠地帯に第2のタリアセンとなる、タリアセン・ウエストを設立し、没するまでの20年間、ここで冬を過ごしていた。タリアセン・フェローシップのための恒久的な建物を造るまでは、テントのような住まいでキャンプ生活を送っていた。
自然のなかで簡素な住まいに暮らすというコンセプトは、フランク・ロイド・ライト建築学校「タリアセン」の学生たちが現在も制作している簡易住居(シェルター)に受け継がれている。そのうちの1つ、2010年にデイヴ・フレイジーさん(現在はブロークン・アロー・ワークショップの一員)が設計・建設した住まいは、本人いわく「砂漠の生きものが入ってこないように」と高床構造にした、密閉可能なシェルターだ。狭くても快適なスペースで砂漠の暮らしを楽しむことが、設計のテーマだ。
どんなHouzz?
住まい手:フランク・ロイド・ライト建築学校〈タリアセン〉の学生
所在地:アメリカ、アリゾナ州スコッツデール
規模:ベッド1つぶんほどの大きさ
注目ポイント:タリアセンの学生たちがシェルターとして作るのは、ほとんどは一時的な構造物だが、こちらのシェルターは継続的に学生たちに使われている。
自然のなかで簡素な住まいに暮らすというコンセプトは、フランク・ロイド・ライト建築学校「タリアセン」の学生たちが現在も制作している簡易住居(シェルター)に受け継がれている。そのうちの1つ、2010年にデイヴ・フレイジーさん(現在はブロークン・アロー・ワークショップの一員)が設計・建設した住まいは、本人いわく「砂漠の生きものが入ってこないように」と高床構造にした、密閉可能なシェルターだ。狭くても快適なスペースで砂漠の暮らしを楽しむことが、設計のテーマだ。
どんなHouzz?
住まい手:フランク・ロイド・ライト建築学校〈タリアセン〉の学生
所在地:アメリカ、アリゾナ州スコッツデール
規模:ベッド1つぶんほどの大きさ
注目ポイント:タリアセンの学生たちがシェルターとして作るのは、ほとんどは一時的な構造物だが、こちらのシェルターは継続的に学生たちに使われている。
コンクリートの基礎と暖炉は、以前ここにあった建物の残骸として残っていたもの。その建物にちなみ、この住まいは「鉱夫のシェルター」と名付けられた。残っていたいくつかのコンクリート壁の上に、フレイジーさん設計の箱状の構造を載せ、2本のスチール柱で補強している。箱部分と煙突とはわずかに接する配置になっている。
シェルターの入り口に座るフレイジーさん。写真を見れば、全体のデザインがほぼ把握できる。前面には入り口となるガラス扉、側面には窓があり、裏側は壁で開口部はなし。入り口の手前には、コンクリートの地面、暖炉、新たに作った低いL字型の壁が構成するスペースがある。
シェルターの入り口に座るフレイジーさん。写真を見れば、全体のデザインがほぼ把握できる。前面には入り口となるガラス扉、側面には窓があり、裏側は壁で開口部はなし。入り口の手前には、コンクリートの地面、暖炉、新たに作った低いL字型の壁が構成するスペースがある。
シェルターの裏側は、錆びの出たスチールパネルで覆われている。年月とともに、風景になじんでいく仕上げだ。
側面には突き出し窓があり、通風も良好。
側面には突き出し窓があり、通風も良好。
砂漠の建物にはあからさまなシンメトリーを作るべきではない、というライトの信念にもとづき、タリアセン・ウエストの建物は、非対称的なかたちの屋根が特徴となっている。この点で、フレイジーさんの設計は、一見ライトの考えと反するように思えるかもしれない。とくにこの写真の地点から眺めると、裏側の錆びたスチール板とコンクリートの暖炉とが、対称的な構成になっているように見える。しかし、最初の写真でもわかるように、実際には小さいながらも配向を明確に考慮した構造となっている。
こちらの写真も対称的な印象を与えるが、左半分のスチールに覆われた部分(窓の左側)を見ると、地面から浮いたカンチレバーになっている。既存の構造を再利用すること、地上の小動物から内部を隔離すること、という2つの意味で、この土地に適応したデザインであることが表れている。
こうして見ると、モダン住宅のミニチュア版のように見える。たしかにこの建物は住まいなのだ。側壁は庭の境界線で、景色が一望できる大きなガラス窓があり、片側のコンクリート部分にはサービスコアが収容されているのがわかる。こうとらえると、タリアセンが旨とする実践的学習というアプローチの意義が強く感じられる。学生は建設作業を身に着けながら、建物の規模を問わず大切な設計のスキルも学ぶことになる。
こちらはフレイジーさんが描いたスケッチ。インテリアの主なポイントは2つで、小さなL字型の棚と、窓からの眺めだ。基本的には寝るためだけの極小空間なので、それ以上のものは必要ない。
棚には本を置くこともできるが、シェルターはオフグリッド(電気を引いていない)なので、夜間にキャンドルを置けることが重要だ。
木造の壁と天井にはしっくいを塗り、洞窟的な空間に仕上げた。比較的小さな突き上げ窓も、このスペースではかなり大きく見える。窓先に立つ木の一部が見える。
木造の壁と天井にはしっくいを塗り、洞窟的な空間に仕上げた。比較的小さな突き上げ窓も、このスペースではかなり大きく見える。窓先に立つ木の一部が見える。
もう1つの小窓からは、フェニックス渓谷の眺めが見える。窓がある壁はバーチ材仕上げ。ヘッドボードの役割も兼ねている。
大きなガラスの引き戸から見える景色は、まるで絵葉書のよう。丘がなだらかに傾斜し、前景のサボテンへとつながっている。自然のままの荒野のなかで、コンクリートの地面と低い壁だけが人間の存在を感じさせる要素だ。夜は入り口の近くに配置した暖炉の火が室内を暖めてくれる。
大きなガラスの引き戸から見える景色は、まるで絵葉書のよう。丘がなだらかに傾斜し、前景のサボテンへとつながっている。自然のままの荒野のなかで、コンクリートの地面と低い壁だけが人間の存在を感じさせる要素だ。夜は入り口の近くに配置した暖炉の火が室内を暖めてくれる。
タリアセン・ウエストの北側には、過去の学生たちが作ったシェルターが点在している。今も使われているものもあれば、フレイジーさんが見つけて活用したような廃墟もある。
敷地図を見ると、シェルターの配置も計画の一部であることがわかるだろう。樹木が、シェルターをつなぐ役割を果たしている。もちろん、水はけや通風を考える必要もあるが、広大な大地のなかで地面を区切り、周囲の景観などとの関係から空間を定義するという行為は、シェルターをデザインするうえで重要な部分だ。
敷地図を見ると、シェルターの配置も計画の一部であることがわかるだろう。樹木が、シェルターをつなぐ役割を果たしている。もちろん、水はけや通風を考える必要もあるが、広大な大地のなかで地面を区切り、周囲の景観などとの関係から空間を定義するという行為は、シェルターをデザインするうえで重要な部分だ。
こちらは、暖炉や外のコンクリート地面と部屋自体との位置関係がよくわかる平面図。スチールのパネルと壁構造との間には隙間があり、空気が通るスペースが作られているのが見える。「煙突効果により、この隙間から熱い空気が排出されるという温熱環境のデザインです」とフレイジーさんは説明する。
断面図を見ると、大地に「ぽんと載せられた」構造、という印象がさらに強まる。左下に見えるのが、補強の支柱。また、ほとんど目につかないが重要なのが屋根の微妙な傾斜だ。「密閉できるシェルターは少ないのですが、それだと寝るときに困ることがあります。とくに、12月から4月は雨が多いので、密閉できる空間のほうがいいですね」とフレイジーさんは言う。
立地に細やかに適応し、荒野のなかでも快適な居場所を作り出すことに成功した、よく考えられたデザインだ。
フランク・ロイド・ライトの自邸兼スタジオ
フランク・ロイド・ライトの田園の事務所兼自邸「タリアセン」
立地に細やかに適応し、荒野のなかでも快適な居場所を作り出すことに成功した、よく考えられたデザインだ。
フランク・ロイド・ライトの自邸兼スタジオ
フランク・ロイド・ライトの田園の事務所兼自邸「タリアセン」
プロジェクトマネジャー、設計者:デイヴ・フレイジー
アシスタントプロジェクトマネジャー:ロバート・ジャコヴィッチ、クリストファー・マッデン・カー
プロジェクトチーム:ダコタ・アポストロウ、チャールズ・アランデル、グレン・ビール、サイ・ブラックバム、ロン・ボズウェル、チェルシー・クラーク、エミル・クリスタル、ダニエル・ディロウ、エイリス・ジョージズ、ジェフ・グレアム、ダニ・ロリン、クリス・ヒル、ラス・カールスタッド、ピーター・マエストリ、ニック・マンクージ、ブライアン・マクスウェル、チャールズ・マカリ、マイケル・P・ジョンソン、ギルバート・レイ、ボブ・サンダース、ヴィクター・サイディ、ピエール・ヴェルブリュッゲン、サミュエル・ウォートン、フイー・ウォン
写真:ネイサン・リスト、デイヴ・フレイジー
アシスタントプロジェクトマネジャー:ロバート・ジャコヴィッチ、クリストファー・マッデン・カー
プロジェクトチーム:ダコタ・アポストロウ、チャールズ・アランデル、グレン・ビール、サイ・ブラックバム、ロン・ボズウェル、チェルシー・クラーク、エミル・クリスタル、ダニエル・ディロウ、エイリス・ジョージズ、ジェフ・グレアム、ダニ・ロリン、クリス・ヒル、ラス・カールスタッド、ピーター・マエストリ、ニック・マンクージ、ブライアン・マクスウェル、チャールズ・マカリ、マイケル・P・ジョンソン、ギルバート・レイ、ボブ・サンダース、ヴィクター・サイディ、ピエール・ヴェルブリュッゲン、サミュエル・ウォートン、フイー・ウォン
写真:ネイサン・リスト、デイヴ・フレイジー
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