インテリアと建築が響き合う世界観を実現した、家具ブランドオーナーの家
リビングの青いソファに象徴される「時間の経過とともに趣を増すスタンダード、おおらかでくつろいだ空気感」。建築家とオーナーの共通の価値観が、心地よく融合された住まい。
takako kawaguchi
2017年3月9日
今回ご紹介する家は、静岡でソファやベッドを製作している家具ブランド〈MANUALgraph〉のオーナー宅。セカンドリビングを持つ5LDKで、3人の子供たちにはそれぞれ個室がある。ソファや暖炉といったインテリアアイテムの魅力を日々の暮らしの中で楽しめる家を思い描き、家づくりのパートナーに選んだのが〈こぢこぢ一級建築士事務所〉だった。家具と家、作っているものは違っても、互いに目指しているところは「スタンダード」。その価値観の共有から建物とインテリアの心地よい融合が生まれ、オーナーの好む世界観に満ちあふれた家が完成した。
「仲のよい家族が、吹き抜けや階段などを通じて、家のどこにいても自然とつながり、にぎやかな時間を過ごせるように」と話すのは、空間設計をした〈こぢこぢ一級建築士事務所〉の小嶋良一さん。開放感のある吹き抜けは南に面し、窓から明るい陽射しが降り注ぐ。反対の壁面には素材感の豊かなアイアンの階段が縦に伸びる空間を印象づけ、階段を上がった先のゆとりのスペース、セカンドリビングや子供部屋、そしてロフトへとつながっていく。
実はこの家は、単なる自邸ではない。自社のソファや家具で、オーナー家族自らが楽しさあふれるライフスタイルを実践する場、そしてときには、訪れたお客様に実際にソファや家具を使っている様子を見てもらう場、という目的があった。《FUN! HOUSE!》という名前に、その思いが込められている。
実はこの家は、単なる自邸ではない。自社のソファや家具で、オーナー家族自らが楽しさあふれるライフスタイルを実践する場、そしてときには、訪れたお客様に実際にソファや家具を使っている様子を見てもらう場、という目的があった。《FUN! HOUSE!》という名前に、その思いが込められている。
どんなHouzz?
家族構成 : 30代夫婦、子ども3人
所在地 : 静岡県裾野市
構造規模 : 木造2階建て+ロフト
敷地面積 : 176.36平方メートル
延床面積 : 144.04平方メートル
設計監理 : こぢこぢ一級建築士事務所
構造設計 : 平木建築構造研究所 平木裕文
照明設計 : マントルデザイン 久保隆文
建築施工 : 株式会社富創
造園 : 耕水 湊眞人
竣工 : 2016年3月
リビングで最も目を惹くのは、なんといってもブルーのソファではないだろうか。圧倒的な存在感を持ちながらも空間と調和し、ずっと前からそこにあるかのような落ち着きを感じる佇まい。サイズ感もぴったり。それもそのはず、このソファはこの家のためにデザインされたもので、〈MANUALgraph〉と〈こぢこぢ一級建築士事務所〉が試行錯誤の末に作り上げたコラボソファなのだ。
家族構成 : 30代夫婦、子ども3人
所在地 : 静岡県裾野市
構造規模 : 木造2階建て+ロフト
敷地面積 : 176.36平方メートル
延床面積 : 144.04平方メートル
設計監理 : こぢこぢ一級建築士事務所
構造設計 : 平木建築構造研究所 平木裕文
照明設計 : マントルデザイン 久保隆文
建築施工 : 株式会社富創
造園 : 耕水 湊眞人
竣工 : 2016年3月
リビングで最も目を惹くのは、なんといってもブルーのソファではないだろうか。圧倒的な存在感を持ちながらも空間と調和し、ずっと前からそこにあるかのような落ち着きを感じる佇まい。サイズ感もぴったり。それもそのはず、このソファはこの家のためにデザインされたもので、〈MANUALgraph〉と〈こぢこぢ一級建築士事務所〉が試行錯誤の末に作り上げたコラボソファなのだ。
「住宅の建築設計をしていると、ソファを置く場所で悩むことが多いのです。本来は壁際に置くのがいちばんかっこいいのですが、テレビを壁際に設置すると必然的に対面にソファが欲しくなる。そこで壁際ではない空間にソファを配置すると、今度は高さが邪魔になり、デザインされていない背面も気になってくる、という具合で」と小嶋さん。
そこで今回、オーナーから家の建築設計と同時にソファデザインも依頼されたときに考えたのが、「背中も美しいソファ」だった。「ダブルステッチを2本入れて、広い背面にアクセントをつけ、背中まできちんと仕上げられているソファを意識して作りました。高さを抑えてあるので抜け感があります。これなら壁際もいけるし空間のさりげないパーテーションとしても使えるかな、と」。建築士ならではの視点を活かした、360°美しい姿のソファである。
そこで今回、オーナーから家の建築設計と同時にソファデザインも依頼されたときに考えたのが、「背中も美しいソファ」だった。「ダブルステッチを2本入れて、広い背面にアクセントをつけ、背中まできちんと仕上げられているソファを意識して作りました。高さを抑えてあるので抜け感があります。これなら壁際もいけるし空間のさりげないパーテーションとしても使えるかな、と」。建築士ならではの視点を活かした、360°美しい姿のソファである。
アメリカの古いソファをイメージソースとして、クッションはやわらかめに。そのやわらかさにフィットするよう、生地はデニムのようなニュアンスでこなれた風合いがあるものにした。角がすれたり日に焼けたりしながら、時とともにさらに味わいが増していくさまは、想像するだけでも心地よさそうだ。アームの形などのディテールは、モダンすぎず “中ぐらい” のさじ加減を狙ってデザインしたそう。約1年かけてオーナー自らが使いながら改良を重ね、《FUN! HOUSE! SOFA》というネーミングでこの春から販売開始する予定だ(写真は試作品のため、実際のカバーは若干変更あり)。
今度はLDK全体を眺めてみたい。広々としたLDKのセンターに設置されているのは、オーナーたっての希望で取り入れた薪ストーブ。ストーブの前は家族を暖かく包む特別なスペースであり、子供たちが寝転がって本を読むなどしてくつろげる場所でもあり、そしてダイニングとリビングの間にワンクッションをおく役割も担う空間である。「家の中でいちばん気に入っているポイントは?」との問いに、オーナーはこの薪ストーブを挙げている。
ストーブの燃料には、家具工場で使うソファの芯材で、端材として廃棄されていたヒバ材を活用。針葉樹であるヒバは煤が出やすく、ストーブ燃料に適さない木材だが、針葉樹も効率よく燃焼させられる〈ネスタ―マーティン〉の薪ストーブ《S43》を選ぶことで解決した。薪代も廃棄代もかからず、オーナーにとっては一石二鳥となっている。
ストーブをLDKの中央にレイアウトしたため暖房効率がよく、吹き抜けを通じて暖気は2階まで巡り、冬もほとんどエアコンを使うことなく、とても快適に過ごせている。
ストーブをLDKの中央にレイアウトしたため暖房効率がよく、吹き抜けを通じて暖気は2階まで巡り、冬もほとんどエアコンを使うことなく、とても快適に過ごせている。
南西向きで一日中明るいコーナーには、ファミリーが集うダイニングを。窓に合わせてL字型に設置した収納はオープン&クローズとし、単調にならない見せ方に工夫してある。ダイニングテーブルは〈MANUALgraph〉で取り扱いのもの。
ここでは天井にも注目したい。あえてフラットにはせず、構造のリブを見せているところに小嶋さんのこだわりが垣間見える。一見してすっきりとシンプルな空間よりは、少し乱雑に物を置いても目立たず、リラックスした気分で過ごせる雰囲気がいい、との考えによるものだ。このようにおおらかでくつろいだ空気を生み出すデザインの中で、オーナーセレクトのセンスあふれる家具類が、よりいっそうそれぞれの魅力を増していく。
ここでは天井にも注目したい。あえてフラットにはせず、構造のリブを見せているところに小嶋さんのこだわりが垣間見える。一見してすっきりとシンプルな空間よりは、少し乱雑に物を置いても目立たず、リラックスした気分で過ごせる雰囲気がいい、との考えによるものだ。このようにおおらかでくつろいだ空気を生み出すデザインの中で、オーナーセレクトのセンスあふれる家具類が、よりいっそうそれぞれの魅力を増していく。
節のあるオーク材のカウンターをアクセントにしたキッチン。造作棚やタイル、キッチン家電は白で統一し、やわらかく清潔感のある空間にまとめている。
ダイニングと一体感があり、コーナー窓からの光がキッチンの奥までたっぷりと届く、オープンなレイアウト。窓外には蔓性の植物などがつたう木製フェンスが設けてあり、ダイニングからもキッチンからもグリーンを楽しむことができる仕掛けだ。
LDKの入口に取り付けたのは、オーナーが選んだイギリスのアンティーク扉。壁はほとんどの部分が白の塗装だが、リビングの大きな壁一面だけは珪藻土を塗っている。自然光が当たり、視界に入りやすいその壁面を珪藻土仕上げにすることで、家全体の印象が一段アップすることも計算のうちである。
床に使っているのは無垢のオーク材。自然の木目や節の風合いがよく、キズやシミ、ホコリなども目立ちにくいのがメリットだ。
床に使っているのは無垢のオーク材。自然の木目や節の風合いがよく、キズやシミ、ホコリなども目立ちにくいのがメリットだ。
インテリアのパーツひとつひとつにオーナーの熱いこだわりが込められた空間を、設計時からずっとイメージしていたという小嶋さん。階段も構造物として作るのではなく、ソファなどと同じく、後付けのインテリアエレメントとしてとらえ、あたかもそこにポンと置かれたものという見せ方を試みた、というから驚きだ。
厚手の鉄製ささら桁(階段の踏み板を支える部分)を後から運び込み、床にボルトで固定した、いわば “モノ的” な扱い。このようにオーナーの嗜好を受け止め、構造や空間づくりとシンクロさせていく手法が家のあちこちで繰り返され、そうしたディテールの積み重ねが、家全体の統一感、オーナー家族にとっての心地のよい世界観を生み出す源となっている。
厚手の鉄製ささら桁(階段の踏み板を支える部分)を後から運び込み、床にボルトで固定した、いわば “モノ的” な扱い。このようにオーナーの嗜好を受け止め、構造や空間づくりとシンクロさせていく手法が家のあちこちで繰り返され、そうしたディテールの積み重ねが、家全体の統一感、オーナー家族にとっての心地のよい世界観を生み出す源となっている。
階段を上がった2階には、ゆとりのスペース、セカンドリビングが広がる。ゲストなどを迎える1階のオープンなリビングとはひと味ちがう、プライベート感のあるスペースという位置づけだ。子供たちの個室はこのセカンドリビングに面しており、個室の扉を開けるといつでも家族との共有空間とつながれる点は、この家づくりのベースとして一貫しているもの。
左手の階段はロフトへと続く。突きあたりに見えるのは〈MANUALgraph〉の《COLORFUL DANCE》というソファ。心弾む彩りと動きを空間に与えている。
左手の階段はロフトへと続く。突きあたりに見えるのは〈MANUALgraph〉の《COLORFUL DANCE》というソファ。心弾む彩りと動きを空間に与えている。
セカンドリビングは目下、子供たちの格好の遊び場に。2階とロフトをつなぐ上り下り棒もあり、遊び心に満ちた一角は友だちにも大人気だという。リビングにかかっているシャンデリアは、アメリカの照明ブランド〈スクールハウス〉のもの。
ロフトは多趣味なオーナーのための書斎に。天井の現しも整え、通風窓を2ヵ所とることで夏でも熱気がこもらないよう配慮している。誰にも邪魔されずに趣味を存分に満喫できる、なんともうらやましい自由空間である。
ロフトにはエアコンも設置。書斎以外の部分は収納スペースとして活用しているほか、上り棒を上がってきた子供たちがグルグルと遊び回るにぎやかな場所にも。
2階には家族それぞれの個室がある。夫婦の寝室に置かれているベッドも自社製。
パーソナルカラーで色分けされた子供たちの個室。こちらは息子さんの部屋で、家具やベッドリネンも色を統一している。
こちらはお嬢さんの部屋。壁色の淡いピンクと合わせ、ピンク系グラデーションでまとめている。
1階の洗面室はバスルームから自然光が入るため、とても明るい印象。収納の扉は〈MANUALgraph〉製、照明器具のベースはアンティーク。
玄関脇には土間収納を設け、アウトドアや外遊びグッズなどをさっとしまえるシステムに。パンチングボードを配したのはオーナーのアイデアで、フックなどを使って帽子やバッグをちょっと掛けておくのにとても便利。ものが増えたときには棚を増やすことも簡単だ。
エントランスは道路との間にグリーンを植え、程よく開けた印象。玄関や庭の植栽は奥様から大変喜ばれ、この家に住み始めてからグリーンを育てることがとても楽しくなったという。玄関前をやや広めに確保したのは、地元の人々とも交流の多いオーナーが、知人とちょっとした立ち話などができるようにとの配慮からである。
ソファやベッド、そして家。どれも「一度買ったらなかなか買い替えない」という点で共通している。年月を経る中で風合いが増し、ハードな使用環境にもしっかりと耐え、使うほどに愛着が深まるものがいい。そんなオーナーと建築家の共通した価値観から、家を包む外壁材には経年変化が楽しめる木材が選ばれた。風通しのよい環境も木材をチョイスした理由のひとつ。20年、30年後と徐々に表情が豊かになっていく、レッドシダー材で全面を仕上げている。
ソファやベッド、そして家。どれも「一度買ったらなかなか買い替えない」という点で共通している。年月を経る中で風合いが増し、ハードな使用環境にもしっかりと耐え、使うほどに愛着が深まるものがいい。そんなオーナーと建築家の共通した価値観から、家を包む外壁材には経年変化が楽しめる木材が選ばれた。風通しのよい環境も木材をチョイスした理由のひとつ。20年、30年後と徐々に表情が豊かになっていく、レッドシダー材で全面を仕上げている。
家全体の形を見てもおわかりのように、奇をてらった特別なものにはせず、あくまでスタンダードにというのが〈こぢこぢ一級建築士事務所〉のやり方。デザインを加えるにしても「ほんの少しの塀のスリットだったり、ちょっとした気遣いをプラスするくらいがちょうどいいのではないかと考えています。その地域、その家族に合わせた少しずつの工夫の積み重ねが、安心感や家の心地よさにつながっていくのではないでしょうか」。
小嶋さんの言葉にもある通り、庭の外塀は上部を少し浮かせてスリット状とし、蔓植物を育ててさりげないグリーンの目隠しにしていく予定だ。
小嶋さんの言葉にもある通り、庭の外塀は上部を少し浮かせてスリット状とし、蔓植物を育ててさりげないグリーンの目隠しにしていく予定だ。
このソファはこの家のためにデザインされた、と先にご紹介したが、それだけではなく、実はこの家自体もこのソファのために作られており、いわば相互関係にある。ソファ以外にも数々の家具や素材が全体の雰囲気にうまくブレンドされ、空間構成がその引き立て役となり、インテリア好きなオーナーが心から満足できる空気感に満ちた家が実現した。この家で暮らし始めてから、子供が「将来、建築家になりたい」と夢を語り始めたという。それこそは家族みんながこの家で「FUN!」な暮らしを叶えていることの、何よりの証といえるだろう。
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