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都市はいかに発展すべきか。建築とウェルビーイングをつなぐ5つのアイデア
2021年のワールド・アーキテクチャー・フェスティバルでは、業界の第一人者たちが、都市の課題についての独自の展望を共有しました。
Rafael F. Bermejo
2021年12月15日
2021年12月1日から3日にかけておこなわれたデジタル版のワールド・アーキテクチャー・フェスティバル(World Architecture Festival)。そこで催された講演の多くで、より持続可能で効率的かつ、人々の健康やコミュニティの健全性に資するかたちで建設するには、どうすればよいかが考察されました。この記事では、こうした示唆に富んだ意欲的な講演の中で、ヴィンセント・グアラール氏やベン・ファン・ベルケル氏などの建築家が議論した、5つのアプローチに注目してご紹介します。
マンハッタンブリッジからブルックリンブリッジパークを眺める
1. 公共空間に自然を
私たちは現在暮らしにおいて、より緑豊かで親しみやすい環境を望んでいることは明らかです。コロンビア大学の建物・基盤・公共空間センター(Center for Buildings, Infrastructure & Public Space)で副所長を務めるリック・ベル氏は、「明日をつくる今日(Tomorrow is Today)」と題した講演の中で、環境にやさしい建物、公園、広場、そしてニューヨーク市内のコネクティビティの向上に注力する必要性を強調しました。
また、氏はニューヨーク市の全5区における、自然環境を取り入れる動きについても次のように語りました。「ニューヨークをはじめとする世界中の都市で、自然中心の公共空間へと移行が始まっています。こうした公共空間は環境にやさしいデザイン方針を特徴とするもので、レジリエンスと水文(すいもん)学を考慮し、安全、アクセス、公衆衛生の必要性を前提としています」
また、複数のNGOが展開し、米国内の数百の市長が支持する「徒歩10分圏内」構想についても言及しました。これは、すべての人の家から徒歩10分圏内に緑地があることを目標とする取り組みで、ベル氏は「革新的」であるといいます。「なぜなら、(結果として作りだされる緑地は)比較的小さく、必ずしもすべての人を対象としていないからです。どちらかというと周囲の住宅コミュニティに関連しています」
ニューヨークで緑地を作りだす原動力となってきたのは、交通、流通、輸送に充てられていた都市の周縁部を緑地として再生しようとする取り組みです。他の都市においても、十分に活用されていないエリアについての検討が進められています。モスクワの主任建築家であるセルゲイ・クズネツォフ氏も、「モスクワ:今日そして明日(Moscow: Today & Tomorrow)」と題した講演で、モスクワで進行中の、川岸を再生する事例について話しました。そこではかつての道路が公共のレクリエーション用に再開発されているといいます。
1. 公共空間に自然を
私たちは現在暮らしにおいて、より緑豊かで親しみやすい環境を望んでいることは明らかです。コロンビア大学の建物・基盤・公共空間センター(Center for Buildings, Infrastructure & Public Space)で副所長を務めるリック・ベル氏は、「明日をつくる今日(Tomorrow is Today)」と題した講演の中で、環境にやさしい建物、公園、広場、そしてニューヨーク市内のコネクティビティの向上に注力する必要性を強調しました。
また、氏はニューヨーク市の全5区における、自然環境を取り入れる動きについても次のように語りました。「ニューヨークをはじめとする世界中の都市で、自然中心の公共空間へと移行が始まっています。こうした公共空間は環境にやさしいデザイン方針を特徴とするもので、レジリエンスと水文(すいもん)学を考慮し、安全、アクセス、公衆衛生の必要性を前提としています」
また、複数のNGOが展開し、米国内の数百の市長が支持する「徒歩10分圏内」構想についても言及しました。これは、すべての人の家から徒歩10分圏内に緑地があることを目標とする取り組みで、ベル氏は「革新的」であるといいます。「なぜなら、(結果として作りだされる緑地は)比較的小さく、必ずしもすべての人を対象としていないからです。どちらかというと周囲の住宅コミュニティに関連しています」
ニューヨークで緑地を作りだす原動力となってきたのは、交通、流通、輸送に充てられていた都市の周縁部を緑地として再生しようとする取り組みです。他の都市においても、十分に活用されていないエリアについての検討が進められています。モスクワの主任建築家であるセルゲイ・クズネツォフ氏も、「モスクワ:今日そして明日(Moscow: Today & Tomorrow)」と題した講演で、モスクワで進行中の、川岸を再生する事例について話しました。そこではかつての道路が公共のレクリエーション用に再開発されているといいます。
バルセロナにあるヴァル・デブロン(Vall d’Hebron)市場の都市型庭園のパース
2. 食習慣を見直す
ロンドンで日々消費される食べ物は、ケニヤ産サヤインゲンやカリブ諸島のパイナップルといった遠い地域からやってくるもがほとんどです。これは、私たちの食生活が環境に与え得る影響のほんの一例です。
2011年から2015年までバルセロナ市(スペイン)の主任建築家を務めたヴィンセント・グアラール氏は、「都市で育てる:食料と生態学(Growing in the City: Food & Ecology)」と題した講演の中で、自足自給という考え方にもとづいてデザインをおこなうことについて話しました。「環境にやさしい世界を目指すのであれば、地域レベルで考え、都市の内部で生産をおこなわなければなりません」
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2. 食習慣を見直す
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2011年から2015年までバルセロナ市(スペイン)の主任建築家を務めたヴィンセント・グアラール氏は、「都市で育てる:食料と生態学(Growing in the City: Food & Ecology)」と題した講演の中で、自足自給という考え方にもとづいてデザインをおこなうことについて話しました。「環境にやさしい世界を目指すのであれば、地域レベルで考え、都市の内部で生産をおこなわなければなりません」
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2010年に設立された都市型庭園、ブルックリングランジは、ニューヨーク最大の規模を誇る
グアラール氏は、多くの企業との協働により、自身が進めたバレンシアのソシオポリス(Sociópolis)プロジェクトを取り上げました。この野心的な計画は、都市のはずれの放置された土地に、緑地と都市型農園を備えた公営住宅を作ろうというものでした。残念ながら、2008年の経済危機により財源を失い、プロジェクトは未完となってしまいましたが、現在、バレンシア市は開発を再開・完成させることを目指しているといいます。
畑を管理するという都市型農園の考え方が、このコミュニティにおけるランドスケープに欠くことのできない要素であり、社会的相互作用のかたちとして、また自立した管理と生産の機会として広く理解を得ています。計画的な開発は「ランドスケープのひとつの要素として農業を取り入れる」必要性を実証しているとグアラール氏。共に時間を過ごし、コミュニティを構築する方法として、植物を育てること、つまり小さな土地をみずからの手で管理することの大切さはこれからも変わらないだろうといいます。
グアラール氏は、自身の最新プロジェクトのひとつであるバルセロナのヴァル・デブロン市場の屋上庭園を設計するにあたり、ニューヨーク州ブルックリンにある大規模な都市型庭園が非常に参考になったと述べています。このプロジェクトは、都市での食料生産をさらに促進することでしょう。
グアラール氏は、多くの企業との協働により、自身が進めたバレンシアのソシオポリス(Sociópolis)プロジェクトを取り上げました。この野心的な計画は、都市のはずれの放置された土地に、緑地と都市型農園を備えた公営住宅を作ろうというものでした。残念ながら、2008年の経済危機により財源を失い、プロジェクトは未完となってしまいましたが、現在、バレンシア市は開発を再開・完成させることを目指しているといいます。
畑を管理するという都市型農園の考え方が、このコミュニティにおけるランドスケープに欠くことのできない要素であり、社会的相互作用のかたちとして、また自立した管理と生産の機会として広く理解を得ています。計画的な開発は「ランドスケープのひとつの要素として農業を取り入れる」必要性を実証しているとグアラール氏。共に時間を過ごし、コミュニティを構築する方法として、植物を育てること、つまり小さな土地をみずからの手で管理することの大切さはこれからも変わらないだろうといいます。
グアラール氏は、自身の最新プロジェクトのひとつであるバルセロナのヴァル・デブロン市場の屋上庭園を設計するにあたり、ニューヨーク州ブルックリンにある大規模な都市型庭園が非常に参考になったと述べています。このプロジェクトは、都市での食料生産をさらに促進することでしょう。
NYのタイムズスクエア
3. データとテクノロジーを活用し、よりよいコミュニティに
「近い将来、テクノロジーが社会的で健全なコミュニティのデザインに変革をもたらすでしょう」と話したのは、UN Studioの共同設立者であるオランダ人建築家、ベン・ファン・ベルケル氏です。「私はつながっている(I Am Connected)」と題された講演の中で、ファン・ベルケル氏は、計画における意思決定を最適化するするためにテクノロジーを利用するべきであると述べました。
実際のところ、建築とデーター解析の関係は今に始まったことではありません。90年代の建築家はすでに、旅行者の移動と利用がいかに特定の地域を再活性化し安全な場所へと変えるているか、といったデータをニューヨーク市のプランナーから取得し、利用していたといいます。「データは都市のダイナミクスに関する見識を与えてくれます。人を呼び集めることによりある場所を活性化することの社会的価値は、どんな不動産価値よりも重要だといえます」ファン・ベルケル氏)
同じように、「スターウォーズシティ(Star Wars Cities)」と題された講演で、Applied Information Groupのクリエイティブディレクターであるティム・フェンドレー氏(Tim Fendley)は、根本的には情報の問題であるとして、都市における交通とナビゲーションを取り上げました。また、市民や訪問者が最大限利用できるように都市と情報を組織化することの重要性についても強調し、次のように問いかけます。「エンドユーザーが適切な情報を適切なタイミングで得るために、どのようにすべての情報システムを組織化していますか」
3. データとテクノロジーを活用し、よりよいコミュニティに
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実際のところ、建築とデーター解析の関係は今に始まったことではありません。90年代の建築家はすでに、旅行者の移動と利用がいかに特定の地域を再活性化し安全な場所へと変えるているか、といったデータをニューヨーク市のプランナーから取得し、利用していたといいます。「データは都市のダイナミクスに関する見識を与えてくれます。人を呼び集めることによりある場所を活性化することの社会的価値は、どんな不動産価値よりも重要だといえます」ファン・ベルケル氏)
同じように、「スターウォーズシティ(Star Wars Cities)」と題された講演で、Applied Information Groupのクリエイティブディレクターであるティム・フェンドレー氏(Tim Fendley)は、根本的には情報の問題であるとして、都市における交通とナビゲーションを取り上げました。また、市民や訪問者が最大限利用できるように都市と情報を組織化することの重要性についても強調し、次のように問いかけます。「エンドユーザーが適切な情報を適切なタイミングで得るために、どのようにすべての情報システムを組織化していますか」
シンガポール工科デザイン大学
4. 建築で人々をよりアクティブに
EUの統計によると、56%のオランダの成人男性が肥満であるといいます。「私たちは建築を通して人々をもっとアクティブにしなければなりません」と、サイクリングと「それによって感じることができる自由」をこよなく愛するファン・ベルケル氏は話します。
ファン・ベルケル氏は彼の最新プロジェクトのひとつであるシンガポール工科デザイン大学(SUTD)について紹介しました。このキャンパスは都市計画、ランドスケープ、プロダクトデザインに焦点を当てたもので、「学生はランドスケープによってキャンパス構内を導かれ、散策を促される」といいます。また、異なる学部を結び付けることで、アイデアと学際的な知識のやり取りを促してるとファン・ベルケル氏は説明します。「こうすることで、自身の学部だけでなく、大学、さらにはより広い世界に属していると感じることができるのです。また、人々がもっと階段を使うように敷地を設計しました。1日7分間階段を上り下りすることで、心臓発作のリスクを10年で半分に減らすことができます」
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ファン・ベルケル氏は彼の最新プロジェクトのひとつであるシンガポール工科デザイン大学(SUTD)について紹介しました。このキャンパスは都市計画、ランドスケープ、プロダクトデザインに焦点を当てたもので、「学生はランドスケープによってキャンパス構内を導かれ、散策を促される」といいます。また、異なる学部を結び付けることで、アイデアと学際的な知識のやり取りを促してるとファン・ベルケル氏は説明します。「こうすることで、自身の学部だけでなく、大学、さらにはより広い世界に属していると感じることができるのです。また、人々がもっと階段を使うように敷地を設計しました。1日7分間階段を上り下りすることで、心臓発作のリスクを10年で半分に減らすことができます」
今年のプリツカー賞は、「壊さない」アプローチを実証したフランスの建築家ユニット、アンヌ・ラカトン氏とジャン・フィリップ・ヴァッサル氏が受賞した。写真は、フレデリック・ドゥルオとクリストフ・フーティンとの協働設計による仏ボルドーのグランパルク(2017)
5. 既存建物の保存し、炭素排出量を抑え、社会的価値を守る
「炭素、仕様、改修、再利用(Carbon, Specification, Retrofit and Reuse)」と題された講演で、Targeting Zeroのシモン・スタージス氏とAsh Sakula Architectsの共同創業者であるキャニー・アッシュ氏は、取り壊して建替えるのではなく、既存の住宅を改修することの価値について議論しました。 新築に関連する膨大な量の内包二酸化炭素以外に、「完全に利用可能な建物を取り壊すということは、土中からより多くの資源を掘り起こす必要があるということです。それが問題なのです」とスタージス氏は言います。
人口増加に直面している時など、新しい建物が必要な場合もあるとしたうえで、彼は「耐久性、柔軟性、適応性の観点から設計をおこなう」こと、そして建物の将来の再利用可能性を考慮するよう建築家に訴えます。
アッシュ氏は、改修により、取り壊せば失われてしまうであろう建物の社会的価値や歴史的価値を保持することもできると主張します。彼女は例として、レスター(イギリス)のLCBデポ(LCB Depot)を挙げます。目障りであるとして解体予定だったこの建物は改修され、現在はスタジオスペースおよびワークショップの拠点として賑わっています。何十年もの間、レスターに来た人が初めに目にするものであったこの建物の歴史を、改修の過程で守ったのです。アッシュ氏は問いかけます。「体現されたエネルギーをどうして無視することができるでしょうか?このプロジェクトのように歴史と社会的価値を持ったものであればなおさらです」
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2021年のプリツカー賞を受賞した“決して取り壊さない”建築家ユニットの作品とは?
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アッシュ氏は、改修により、取り壊せば失われてしまうであろう建物の社会的価値や歴史的価値を保持することもできると主張します。彼女は例として、レスター(イギリス)のLCBデポ(LCB Depot)を挙げます。目障りであるとして解体予定だったこの建物は改修され、現在はスタジオスペースおよびワークショップの拠点として賑わっています。何十年もの間、レスターに来た人が初めに目にするものであったこの建物の歴史を、改修の過程で守ったのです。アッシュ氏は問いかけます。「体現されたエネルギーをどうして無視することができるでしょうか?このプロジェクトのように歴史と社会的価値を持ったものであればなおさらです」
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