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日常から非日常へいざなう大人の隠れ家『田浦の週末住宅』
瀬戸内の海を味わいながら好きなものに囲まれた贅沢な週末時間が過ごせる別荘をご紹介します。

渡辺安紀 |Aki Watanabe
2018年11月4日
経営者であるオーナーは問い合わせの連絡が頻繁に来る忙しい毎日。週末に旅行に出かけても移動で疲れてしまったり、食事の時間に縛られたりするので、完全に自分だけの時間を楽しめる空間がほしいと思うようになった。RON DESIGNの尾越竜子さんには10年前に自宅を、その後地元の公民館を設計してもらった。「素晴らしい2つの建物ができあがったことが、別荘を建てようという気持ちを後押ししました。尾越さんは私好みのセンスなのはもちろん、仕事ぶりが丁寧で細かいところまできちんと考え抜いてくれる人ですから」とオーナー。尾越さんに求めたのは、非日常を過ごせる場。潮騒に耳を傾けながら自分の本や好きなものに囲まれた大人のための週末住宅をつくってほしいと依頼した。
撮影(すべて):北村徹
【基本情報】
所在地:愛媛県今治市
住まい手:会社経営の男性(奥様、子ども4人)
敷地面積:898.94㎡
延床面積:122.65㎡
構造:RCと木造の混構造
建物の竣工年:2018
設計:RON DESIGN 尾越 竜子
アートディレクション:GALERIE ARTICIOUS
構造設計:岸建築設計事務所 岸忠徳
施工会社:青鳳工房 白石耕平
間取り:【1階】納戸、倉庫、趣味室【2階】LDK【2.5階】寝室、和室、バスルーム、トイレ
そのほか:THE INTERNATIONAL DESIGN & ARCHITURE AWARDS2018のLUXURY RESIDENCE - Asia pacific 部門において入賞、IAA Awards 2018Honorable Mention、モダンリビング「スタイリング・デザイン賞」ノミネート
【基本情報】
所在地:愛媛県今治市
住まい手:会社経営の男性(奥様、子ども4人)
敷地面積:898.94㎡
延床面積:122.65㎡
構造:RCと木造の混構造
建物の竣工年:2018
設計:RON DESIGN 尾越 竜子
アートディレクション:GALERIE ARTICIOUS
構造設計:岸建築設計事務所 岸忠徳
施工会社:青鳳工房 白石耕平
間取り:【1階】納戸、倉庫、趣味室【2階】LDK【2.5階】寝室、和室、バスルーム、トイレ
そのほか:THE INTERNATIONAL DESIGN & ARCHITURE AWARDS2018のLUXURY RESIDENCE - Asia pacific 部門において入賞、IAA Awards 2018Honorable Mention、モダンリビング「スタイリング・デザイン賞」ノミネート
海側から家をのぞむ。斜めにデザインされたRCの壁が家に風格を与える。
どんな家にするかを話し合いながら尾越さんが当時通っていた大学院での作品をオーナーに見せていたところ、RCと木造の混構造で意見が一致した。そこに男の隠れ家的な要素がほしいとの希望から、尾越さんは屋根の架け方を検討していった。“籠り感” を出すには方形屋根も案にあがったが、道路を背面に海をのぞむ敷地を最大限いかすために切妻屋根を採用した。
どんな家にするかを話し合いながら尾越さんが当時通っていた大学院での作品をオーナーに見せていたところ、RCと木造の混構造で意見が一致した。そこに男の隠れ家的な要素がほしいとの希望から、尾越さんは屋根の架け方を検討していった。“籠り感” を出すには方形屋根も案にあがったが、道路を背面に海をのぞむ敷地を最大限いかすために切妻屋根を採用した。
玄関は外から見えない配置になっている。これも生活感を出さない配慮のひとつ。
玄関の敷石を進むと月の照明が正面の塗り壁をほんのり浮かび上がらせる。
玄関の敷石を進むと月の照明が正面の塗り壁をほんのり浮かび上がらせる。
一階は階高を抑え、“籠り感” を強調した。階段までの通路も間接照明と最低限のダウンライトのみ配灯。心を落ち着かせ、週末へのスイッチをいれてくれる。廊下を進むと、納戸、趣味室がある。
コンクリート打ちっ放しの趣味室は読書をしたり、プラモデルを作ったり、家族の写真を飾ったりと人に見せることのない完全なプライベート空間だ。
コンクリート打ちっ放しの趣味室は読書をしたり、プラモデルを作ったり、家族の写真を飾ったりと人に見せることのない完全なプライベート空間だ。
2階へあがる鉄と木の階段は尾越さんが恐竜の背骨にインスパイアされてデザインした。日常から非日常へ徐々に精神がトリップしていく。
「RCと木、鉄とコンクリート、西洋と東洋、新しいものと古いもの……など対比するものをうまく融合させることを意識してます」と尾越さん。
「RCと木、鉄とコンクリート、西洋と東洋、新しいものと古いもの……など対比するものをうまく融合させることを意識してます」と尾越さん。
1階のRCと2階の木造を繋ぐこの家の象徴となった壁。尾越さんは、国内外で活躍する左官職人の久住有生さんに依頼した。瀬戸内の海・砂・風が表現されている。久住さんの仕事はもちろん、精神論に共感していたオーナーにとって「ピカソが自宅にやってきて壁に絵を描いてくれたようなもの」だった。オーナーは久住さんの作業を見学し、久住さんの職人としての生き様と尾越さんのこのプロジェクトにかける思いを肌で感じ取ることができたという。
2階へ上がると、あらわし天井と瀬戸内の海に向かってひらいた開口部が一気に視界をひろげる。1階の階高との差が空間の変化をドラマチックに演出する。
尾越さんは、「目の前に広がる海、つまり圧倒的な力を持つ自然と対峙する男性的な力強い構造体を見せたかったので天井をあらわしにしました」という。
天井は剛性を保つため、スギの『Jパネル』を採用。一方で出隅(ですみ)部分は雇い実加工、梁の継ぎ手は追掛大栓継ぎなど、宮大工でもある白石耕平さんが仕上げ、現代のテクノロジーと伝統技術を融合させている。
天井は剛性を保つため、スギの『Jパネル』を採用。一方で出隅(ですみ)部分は雇い実加工、梁の継ぎ手は追掛大栓継ぎなど、宮大工でもある白石耕平さんが仕上げ、現代のテクノロジーと伝統技術を融合させている。
海を一望しながら料理ができるキッチンはヤマダキッチンスタジオ。天板はステンレスで、カウンターまわりや壁面収納の面材にはタンザナイトゼブラを採用。冷蔵庫も壁面に収納し、シンプルでマスキュリンなキッチンだ。「外食ではなく、自分で料理して家族や友人に振る舞いたいと思うようになりました」とオーナー。
左から山側の緑を切り取る小窓、右手にアート、右端にさらに大きな窓と、大きさの異なるスクエアでリズムをつくっている。
レンジフード:アリアフィーナ、自動水栓:デルタ、タイル:平田タイル 、そのほかのキッチン設備:ミーレ
ダイニングテーブル:オーナーが選んだクスの天板に脚を取り付けた造作、ダイニングアームチェア:ケタル
左から山側の緑を切り取る小窓、右手にアート、右端にさらに大きな窓と、大きさの異なるスクエアでリズムをつくっている。
レンジフード:アリアフィーナ、自動水栓:デルタ、タイル:平田タイル 、そのほかのキッチン設備:ミーレ
ダイニングテーブル:オーナーが選んだクスの天板に脚を取り付けた造作、ダイニングアームチェア:ケタル
写真の壁に飾られたアートはGALERIE ARTICIOUSのもので、タイトルは『夢の中へ』。「建物ができて、家具を置いて、クライアントがいて、ファブリックや小物・アートがあってはじめて空間が完成すると考えています」と尾越さん。同じく、インテリアを完成させるためにアートは不可欠だと考えるインテリアデザイナーのブライソン美奈子さんとこのプロジェクトを機に世界中からアートをセレクトして提供するギャラリーを設立。提案の段階でクライアントの暮らしをイメージしながら建物とインテリア、両方からアプローチし、模型やCGを作成してあらゆる方向から検討を重ねるという。
ソファ、アームチェア、テラスでも使えるパーソナルチェア(後出の写真)はパトリシア・ウルキオラがデザインしたもの。独創的でかつ座り心地もいい点においてオーナーもすぐに気に入った。「機能を失わず、何かにチャレンジしているデザインの家具が好きです」。リビングの壁も塗り壁。微妙な色の違いと凹凸があり、太陽の当たる角度によって豊かな表情を見せる。「夕陽が差し込む時間帯は、さらに味わい深い壁になります」
ソファ:カッシーナ・イクスシー『550ビーム・ソファ・システム』
アームチェア:B&Bイタリア『ハスク』
ソファ:カッシーナ・イクスシー『550ビーム・ソファ・システム』
アームチェア:B&Bイタリア『ハスク』
この家ではグレー・ブラック・ブルーに太陽をイメージしたマスタードイエローが使われている。「色を最初に決めて、それを要所要所で使って統一感のある空間をつくります」と尾越さん。
瀬戸内海の眺望を邪魔しないよう、窓や網戸はすべて写真右手の壁の戸袋に収まる。
大きく突き出したバルコニーは料理や食事を楽しむため、3.2メートルというゆとりの広さ。何にも邪魔されず波の音に耳を傾けながら太陽が沈んでいく姿を味わうことができる特等席だ。
オーナーは夕暮れから夜にかけての時間が一番気に入っている。照明の多くを調光機能付きの間接照明にしてもらって正解だったと話す。「心地よい薄暗がりをつくってくれ、久住さんが手がけた塗り壁を一層美しく引き立ててくれます」
パーソナルリラックスチェア:ケタル
オーナーは夕暮れから夜にかけての時間が一番気に入っている。照明の多くを調光機能付きの間接照明にしてもらって正解だったと話す。「心地よい薄暗がりをつくってくれ、久住さんが手がけた塗り壁を一層美しく引き立ててくれます」
パーソナルリラックスチェア:ケタル
リビングから2段あがると浴室・洗面室そして寝室へと続く。浴室は浴槽の中に入るとテトラが見えないよう計算されている。
落とし込み式の浴槽:ジャクソン、フロアタイル:名古屋モザイク工業、壁タイル:フォンテトレーディング
落とし込み式の浴槽:ジャクソン、フロアタイル:名古屋モザイク工業、壁タイル:フォンテトレーディング
主寝室の壁は瀬戸内海の海を切り取ったような色にしたかったと話す尾越さん。ヘッドボード側は少し緑がかった青の塗り壁、反対側は砂浜のようなグレーの塗り壁だ。どちらもフジワラ化学がこのプロジェクトのために調整した材。
主寝室横の和室は襖を開け放つとさらに空間が広く見え、二つの空間を一度に楽しむことができる。主寝室側はリビングと同じあらわし天井で三角形の開口部から空がのぞく。和室は天井高を抑え、茶室にも使われる葦ベニヤ材を使用。畳は琉球畳だ。主寝室は海と空を、和室は山を切り取り、和とモダンが対比されながらひとつの空間に融合している。
主寝室横の和室は襖を開け放つとさらに空間が広く見え、二つの空間を一度に楽しむことができる。主寝室側はリビングと同じあらわし天井で三角形の開口部から空がのぞく。和室は天井高を抑え、茶室にも使われる葦ベニヤ材を使用。畳は琉球畳だ。主寝室は海と空を、和室は山を切り取り、和とモダンが対比されながらひとつの空間に融合している。
造作ベッドのヘッドボードの上に掛けたのは、尾越さんがデザインし、『MIYAKO』と名づけたアート照明。愛媛の職人が手がけた組子と面発光するパネルから構成され、調光もできる。「伝統工芸の組子そのものの美しさと、光によってつくられる陰影の美が楽しめる趣のある寝室です。組子は欄間だけでなく幅広い用途に使うことで世界にその価値を発信できるのではないかと考えています」と尾越さん。
建物はもちろん、椅子に座ったり、キッチンに立ったり、くつろいでいだり……あらゆるシーンでオーナーが絵になる空間をつくることを目指した『田浦の週末住宅』。別荘が完成してからオーナーにはいろいろな変化が起きている。平日自宅に帰っても仕事のことが頭から離れなかったが、別荘に来ると仕事のことは考えなくなったという。また、いかにして土曜日・日曜日の連休を取るか、仕事の段取りも変化した。さらにオーナーは「別荘でゲーム以外に子どもと楽しめる方法はないかと考えるようになり、いろいろ計画中です」と続ける。
「夜を過ごしてみてわかったのですが、星空もとてもきれいです」。これから冬にかけて薪ストーブに火を入れるのを楽しみにしてるオーナー。星空を眺めながら、お気に入りのパーソナルチェアに腰かけ、波音と薪がはぜる音に耳を傾けて過ごすのだろう。『田浦の週末住宅』は、忙しい生活を送るオーナーを非日常へいざない、新たな楽しみをつくりだした。
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