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アンティークチェアの背もたれのデザインを知る:前編
伝統的な椅子の背のデザインの名前をどれだけ知っていますか? アンティークチェアを見るのが楽しくなる「チェアバック」のデザインの数々を、前後編にわたってご紹介します。
西谷典子|Noriko Nishiya
2018年10月7日
歴史的な名作椅子は数多いですが、それ以外にも世の中にたくさんある椅子の種類を特定するなら、デザインの特徴を知るのが近道です。特に、椅子の背もたれ(チェアバック)のデザインの名前を知っていると、どんな椅子なのか理解しやすくなります。今回は代表的な椅子の背もたれに注目し、家具デザインの歴史にも触れながら、トラディショナルなデザインを中心にその特徴を解説したいと思います。
ステイタスの象徴としての椅子
1600年頃より前の時代、椅子は家の主人とその夫人だけが座ることのできるものでした。それ以下の地位の人々は、スツールやベンチに座るのが通常。地位の象徴だった中世の椅子の典型は、写真のような無垢材を使ったシンプルな構造で、どっしりと重厚感のあるものです。また、後ろの背もたれの部分に凝った彫刻がどれだけ入っているかで、その家のステイタスを表していました。
1600年頃より前の時代、椅子は家の主人とその夫人だけが座ることのできるものでした。それ以下の地位の人々は、スツールやベンチに座るのが通常。地位の象徴だった中世の椅子の典型は、写真のような無垢材を使ったシンプルな構造で、どっしりと重厚感のあるものです。また、後ろの背もたれの部分に凝った彫刻がどれだけ入っているかで、その家のステイタスを表していました。
中国の影響とフォルムの変化
時代は流れ、オランダ人による中国からの椅子の輸入や、産業革命がもたらした技術の向上もあり、家具のデザインは、それまでの素朴でがっしりとしたものから、ほっそりとした部材を使った繊細なものに変わっていきます。
写真の中国の椅子には、移り変わっていくこの時代の椅子デザインの特徴がよく表れています。「スプラット」と呼ばれる、座面の下から背枠にかけてついた背板の中央部分の形や、「バックレール」と呼ばれる椅子の背板のトップの形などは、この後、ヨーロッパの椅子のデザインにそのまま反映されていきます。
時代は流れ、オランダ人による中国からの椅子の輸入や、産業革命がもたらした技術の向上もあり、家具のデザインは、それまでの素朴でがっしりとしたものから、ほっそりとした部材を使った繊細なものに変わっていきます。
写真の中国の椅子には、移り変わっていくこの時代の椅子デザインの特徴がよく表れています。「スプラット」と呼ばれる、座面の下から背枠にかけてついた背板の中央部分の形や、「バックレール」と呼ばれる椅子の背板のトップの形などは、この後、ヨーロッパの椅子のデザインにそのまま反映されていきます。
ちなみに伝統的な中国の椅子の「バックレール」(背板のトップ)の端は出っ張っているデザインが多く、アンティーク業界ではこれを俗に「耳」と呼びます。この部分もイギリスの家具デザイナー、トーマス・チッペンデールが垂れた「耳」にして自分のスタイルとして取り入れ、よく使ったデザインです。
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背板の中央に特徴のある「スプラットバックチェア」
- クイーンアンチェア
- フィドルバックチェア
このタイプのチェアはバイオリンを意味する口語から「フィドルバックチェア」とも呼ばれています。
細い棒が並んだ「スピンドルバックチェア」
紡績機の糸巻きの棒を「スピンドル」といい、このような細い棒が背に並んだ椅子を「スピンドルバックチェア」と呼びます。17世紀のオランダで一般市民が使っていたものですが、15世紀の書物の挿絵にこの椅子が登場している記録もあり、中世にはすでにこういった装飾を作る技術があったとされています。
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ウィリアム・モリスのものづくり精神とテキスタイルデザイン
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- サセックスチェア
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- リバプールチェア
はしご状の背板「ラダーバックチェア」
はしごのような水平な背板がついている椅子を「ラダーバックチェア」と呼びます。14世紀にはすでにあったとされるこの椅子は「クイーンアンチェア」と同様、ハイバックチェアの一種として18世紀に流行しました。ラダーバックの中でも、写真のようなひげを思わせるデザインや、透かし模様が入ったものなど、地方によってさまざまな種類があり、どこの地域で作られたかわかるようになっています。
はしごのような水平な背板がついている椅子を「ラダーバックチェア」と呼びます。14世紀にはすでにあったとされるこの椅子は「クイーンアンチェア」と同様、ハイバックチェアの一種として18世紀に流行しました。ラダーバックの中でも、写真のようなひげを思わせるデザインや、透かし模様が入ったものなど、地方によってさまざまな種類があり、どこの地域で作られたかわかるようになっています。
- コッツウォルズチェアとシェーカーチェア
その地方らしい特徴のあるデザインをもつチェアを「リージョナルチェア」と呼びますが、コッツウォルズチェアはその典型として知られます。この地方色豊かな椅子は、のちにアメリカでシェーカー家具にも取り入れられて有名になるクラシックデザインでもあります。
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ボウバック(フープバック)チェア
弓(英語ではボウ)のような半円を描く背枠を持つ椅子を「ボウバックチェア」といいます。肘掛けの部分に同じく弓型の枠がついているものは「ダブル・ボウバック」。先程ご紹介したカントリーチェアの代表「ウィンザーチェア」の構造としてよく使われています。ウィンザーチェアのデザインは大変奥が深いので、またの別の機会にご説明したいと思います。
弓(英語ではボウ)のような半円を描く背枠を持つ椅子を「ボウバックチェア」といいます。肘掛けの部分に同じく弓型の枠がついているものは「ダブル・ボウバック」。先程ご紹介したカントリーチェアの代表「ウィンザーチェア」の構造としてよく使われています。ウィンザーチェアのデザインは大変奥が深いので、またの別の機会にご説明したいと思います。
ボウバックは別名フープ(投げ輪)バックとも呼ばれます。形で判断するとこちらの方が弓よりイメージしやすいのか、現代の椅子は「フープバック」と呼ばれることが多いようです。人気の〈アーコール社〉の定番にもこのデザインのチェアがあるので、ご存じの方も多いでしょう。
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「スティックバック」と「スラットバック」の違い
ボウバックやフープバックなどの背板には、棒(スティック)が使われていますが、背板のトップであるバックレールにその棒が差し込まれているものは「スティックバックチェア」と呼ばれます。
ボウバックやフープバックなどの背板には、棒(スティック)が使われていますが、背板のトップであるバックレールにその棒が差し込まれているものは「スティックバックチェア」と呼ばれます。
スティックバックチェアの背の棒はあくまでも丸い棒に限りますが、これが平たい板状になると「スラットバックチェア」という名前になります。先程解説した「ラダーバック」もスラットバックと呼ばれることがあります。スティックバックチェア、スラットバックチェアの両者とも庶民的なスタイルの椅子とされ、特にカントリースタイルのキッチンによく使われる定番デザインです。
次の記事でも引き続き、チェアバックのデザインとストーリーをご紹介します。
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