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アンティーク家具の「脚のデザイン」を知る 2: バロックとロココの時代
古い家具の「脚のデザイン」に注目してみると、その名前の由来、時代背景など、さまざまなストーリーが浮かび上がってきます。今回は17~18世紀に人気を博した「カブリオレ・レッグ」を中心に。
西谷典子|Noriko Nishiya
2016年1月22日
アンティークの家具のつくられた年代は、脚のデザインを見るとある程度のことがわかります。長い年月の間に生まれては消え、新しい解釈とともにリバイバルし、という具合に繰り返された流行があるので、脚のスタイルの種類をいくつか覚えておくと、アンティーク家具を見たときに「この時代のものでは?」という判断がつくのです。この3回シリーズでは、数多くの中で知っておくとよい代表的なデザインをいくつかピックアップして、年代の古い順からご説明していきます。
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15世紀半ばから始まった大航海時代を経て、アジアとヨーロッパの文化が初めてミックスされたことで、17世紀はあらゆる方面でデザインの幅が大きくふくらんだ、デザインの歴史の中でも特に興味深い時代となりました。今回は、エジプト、ヨーロッパ、中国のデザインの要素がすべて合わさってできた「カブリオレ・レッグ」のバリエーションを、この時代のデザインの背景、すなわち16世紀末から18世紀半ばにかけて流行したバロックとロココ様式にも少し触れながらご紹介しましょう。
バロックとロココの時代を象徴するS字の脚「カブリオレ・レッグ」
17世紀半ばから18世紀初めのフランス、太陽王ルイ14世統治時代のデザインは、ギリシャ・ローマ時代からの影響を大きく受け、それを図案化した植物のテーマとミックスしたスタイルが特徴です。この時代から、彫刻の部分に金箔を施した家具の製作が始まります。特にギリシャ神話の登場人物や動物などが、そのモチーフに多く使われました。
17世紀半ばから18世紀初めのフランス、太陽王ルイ14世統治時代のデザインは、ギリシャ・ローマ時代からの影響を大きく受け、それを図案化した植物のテーマとミックスしたスタイルが特徴です。この時代から、彫刻の部分に金箔を施した家具の製作が始まります。特にギリシャ神話の登場人物や動物などが、そのモチーフに多く使われました。
古代エジプトや中国ではすでに、動物の前脚や後脚を椅子の脚のデザインとして用いていましたが、17世紀に至りフランスでも、動物の脚をモチーフにしたデザインが多くつくられるようになります。17世紀から18世紀にかけては、豪壮なバロック様式と優美なロココ様式が花開く時代ですが、この頃から椅子の脚がまっすぐではなく、ロココ時代特有の曲線美を強調するS字の脚「カブリオレ・レッグ」が流行するようになります。
現在よく見られるアンティーク家具のカブリオレ・レッグの上部の多くに、貝やアカンサスの葉のモチーフが使われています。これはギリシャ・ローマ時代からの影響で、現在でも受け継がれているクラシックなデザインです。カブリオレ・レッグはその豪華なデザインから、時代を追うごとににS字がさらにゆるやかなカーブになり、18世紀後半になるとまっすぐな脚に変化していきます。
中国の竜のデザインから始まった「クロウ・アンド・ボール」
「クロウ・アンド・ボール」とは、古代中国の竜が水晶または真珠を爪(claw・クロウ)で握っているモチーフのことです。クロウ・アンド・ボールは最近のリプロダクション家具ではどんなスタイルのものにも使われていますが、伝統的にはカブリオレ・レッグの足先に使われるデザインと言えます。竜は東洋では尊ばれる縁起のよい動物で、日本でも神社のお守りとして、鈴と一緒に水晶がついているものがあり、日本人にもなじみがあるデザインだと思います。
「クロウ・アンド・ボール」とは、古代中国の竜が水晶または真珠を爪(claw・クロウ)で握っているモチーフのことです。クロウ・アンド・ボールは最近のリプロダクション家具ではどんなスタイルのものにも使われていますが、伝統的にはカブリオレ・レッグの足先に使われるデザインと言えます。竜は東洋では尊ばれる縁起のよい動物で、日本でも神社のお守りとして、鈴と一緒に水晶がついているものがあり、日本人にもなじみがあるデザインだと思います。
17世紀に東インド会社が中国と貿易するようになってから、さまざまなアジアの調度品がヨーロッパに輸入されます。最初、クロウ・アンド・ボールのデザインは、ブロンズや銀、陶器のトレーや台の脚などに使われていたものでした。それが次第に、家具のデザインにも発展していったようです。
竜からライオンへ、そして鷲へ
オランダやフランスで流行したクロウ・アンド・ボールのデザインは、イギリスに伝わってからライオンの脚に変わります。イギリスの王の象徴はライオンなので、その頃のイギリス製の椅子はライオンの脚のデザインが多いようです。それがアメリカに渡ると、アメリカのシンボルの鷲の脚に変わります。
オランダやフランスで流行したクロウ・アンド・ボールのデザインは、イギリスに伝わってからライオンの脚に変わります。イギリスの王の象徴はライオンなので、その頃のイギリス製の椅子はライオンの脚のデザインが多いようです。それがアメリカに渡ると、アメリカのシンボルの鷲の脚に変わります。
この脚の爪やボールのデザインをきれいに彫刻するには、相当に熟練した技術が必要となりますが、18世紀初めにつくられた高級家具の脚は、ボールをぎゅっと握りしめるフォルムが見事にリアルに彫られているものが多く見られます。アメリカなどでは、エキスパートが見るとこの脚とボールの形だけで、どこの都市でつくられたかもわかるそうです。
小さな台に乗った脚の「フレンチ・カブリオレ」
このように、17世紀は動物の脚をデザインモチーフにした、比較的がっしりとした椅子が流行しました。しかしそのカブリオレの脚も、18世紀半ば、ルイ15世の時代になると、カーブがゆるやかになり、エレガントな女性らしい形になっていきます。
このように、17世紀は動物の脚をデザインモチーフにした、比較的がっしりとした椅子が流行しました。しかしそのカブリオレの脚も、18世紀半ば、ルイ15世の時代になると、カーブがゆるやかになり、エレガントな女性らしい形になっていきます。
エジプトのツタンカーメン王の墓から発掘されたアームチェアには、ライオンまたはチーターの脚と思われる、力強い爪をもつ脚の彫刻が施されていますが、この脚は直接地面についているのではなく、小さな台に乗った状態になっています。ここまででご紹介してきた、台の乗っていないただのS字の脚を「カブリオレ」と呼びますが、このような小さな台に乗ったタイプは「フレンチ・カブリオレ」と呼び分けています。そのデザインはネコ科の動物の脚ではなくもっと華奢で、飛び跳ねる山羊のがモチーフになっています。
このフレンチ・カブリオレも、クロウ・アンド・ボールと同じく、18世紀以降、いつの時代でもつくられてきた定番デザインで、どの時代のものか脚だけで判断するのは困難です。ひとつ言えるのは、椅子の背の部分にシートの部分と同じ生地が張られるパッド入りのものや、籐でつくられた背もたれのある椅子の多くは、フランス、またはベルギー製です。また、イギリスでは写真のようなふくらんだ風船のような背の「バルーン・バック」が流行した1850~1890年頃、ウォールナット材やローズウッド材の椅子に、先が丸まった「スクロール・フレンチ・カブリオレ・レッグ」がよく使われていた時代もあります。
18世紀初めのイギリスで流行、「クイーンアン・カブリオレ」
フレンチ・カブリオレが流行したのとちょうど同じ18世紀前半、イギリスでは「クイーン・アン・カブリオレ」が登場します。これは脚がまっすぐで、比較的シンプルな独自のスタイルでした。この写真の椅子もその一種で、このような中国の椅子の背もたれを長くした形の椅子は、その当時の女王の名前にちなみ、クイーンアン・チェアと呼ばれています。
フレンチ・カブリオレが流行したのとちょうど同じ18世紀前半、イギリスでは「クイーン・アン・カブリオレ」が登場します。これは脚がまっすぐで、比較的シンプルな独自のスタイルでした。この写真の椅子もその一種で、このような中国の椅子の背もたれを長くした形の椅子は、その当時の女王の名前にちなみ、クイーンアン・チェアと呼ばれています。
先の形がゴルフクラブに似ている「パッド・フット」
クイーンアン・レッグによく似ている脚に「パッド・フット」があります。クイーンアン・カブリオレの脚の下にパッドが敷かれているデザインですが、これは現代では「クラブ・フット」(ゴルフのクラブの形)とも呼ばれています。どちらもその次の時代の様式である、ジョージアン・スタイルの椅子やテーブルによく使われているシンプルなデザインです。
クイーンアン・レッグによく似ている脚に「パッド・フット」があります。クイーンアン・カブリオレの脚の下にパッドが敷かれているデザインですが、これは現代では「クラブ・フット」(ゴルフのクラブの形)とも呼ばれています。どちらもその次の時代の様式である、ジョージアン・スタイルの椅子やテーブルによく使われているシンプルなデザインです。
このようにたくさんのバリエーションがつくられたカブリオレ・レッグは、1750年頃から徐々に脚の曲線がまっすぐになり始め、ロココ時代の流麗なデザインからシンプルな方向に向かいつつ、18世紀後半、次のルイ16世の時代には、ネオクラシック様式の時代に移り、直線的なデザインが流行し始めます。
3回シリーズ最後の次回は、このネオクラシック時代に流行した脚から、19世紀後半までの家具の脚のデザインについてご紹介します。
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