アンティーク家具の「脚のデザイン」を知る1 : ゴシックとルネサンスの時代
古い家具の「脚のデザイン」に注目してみたことはありますか? その名前の由来、つくられた時代背景など、さまざまなストーリーがそこに隠れているのです。
西谷典子|Noriko Nishiya
2016年2月7日
アンティークの家具のつくられた年代を知るために、その脚のデザインに注目するという方法があります。家具の脚のスタイルだけとってみても、長い年月の間に生まれ、一度はすたれ、しばらくしてリバイバルし……と繰り返された流行があり、そのデザインでだいたいの年代を判断することができるのです。脚のスタイルの種類をいくつか覚えておくことは、アンティーク家具の目利きをするには大変重要なポイントで、また見ているととても楽しいものです。
アンティーク家具の脚のスタイルの歴史は、すべて説明するにはあまりに深い内容なのですが、この3回シリーズでは、その中でも知っておくとよい代表的なデザインをいくつかピックアップして、年代の古い順からご説明していきたいと思います。
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バーリー・ツイスト
この螺旋のデザインはバーリー・ツイスト(またはバーリー・シュガー・ツイスト)と呼ばれ、砂糖を溶かしてねじったお菓子がその名前の由来です。ヨーロッパでは17世紀に流行したものですが、実はこのスタイルはローマのサン・ピエトロ大聖堂に持ち込まれた、ある古い柱から始まります。
この螺旋のデザインはバーリー・ツイスト(またはバーリー・シュガー・ツイスト)と呼ばれ、砂糖を溶かしてねじったお菓子がその名前の由来です。ヨーロッパでは17世紀に流行したものですが、実はこのスタイルはローマのサン・ピエトロ大聖堂に持ち込まれた、ある古い柱から始まります。
それは4世紀、ローマ皇帝コンスタンティヌス1世が古代エルサレムのソロモン王の神殿から持ち帰ったものではないかと信じられている、エキゾチックな螺旋デザインの柱でした。17世紀になり、サン・ピエトロ大聖堂の大改築の際、イタリアの彫刻家で建築家のベルニーニがそのソロモンの柱からヒントを得て、世界で一番大きい30mのブロンズ製の柱をサン・ピエトロ大聖堂の祭壇前の天蓋の柱として設計・制作しました。それが、ヨーロッパでこのバーリー・ツイストのデザインが流行したきっかけだったそうです。
この時代のデザインは、エリザベス1世の統治の後半と、ジェームズ1世の治世期間(ジャコビアン時代)を通して、イギリスではゴシックスタイルと呼ばれています。フランス・イタリアではルネサンス様式と呼ばれますが、特に家具では、彫り込み装飾が入った豪華でどっしりしたデザインが特徴です。
ゴシックスタイルは1840~1920年代頃、再び人気復活しリバイバルしたので、現在私達が見る彫りの入ったアンティークのオーク家具は、このゴシックリバイバルの頃の可能性が非常に高いということになります。特にイギリスではダークな塗装色の家具は1890年より前のものですが、それ以降、特に1940年以降の家具は、いわゆるゴールデンと呼ばれる明るい塗装色になるので、これが年代を判別する基準になります。
カップ・アンド・カバー
足の中央にこのような彫刻が入った丸い部分がある足を「カップ・アンド・カバー・レッグ」と言います。アンティーク家具の業界では「パイナップルレッグ」とか「メロンバルブ」とも呼ばれるのですが、正式名はカップ・アンド・カバー。上の部分はメロンでカバーされ、下の部分は「アカンサス(葉あざみ)」という植物の葉で覆われた、ゴブレットのような形のデザインを意味します。
足の中央にこのような彫刻が入った丸い部分がある足を「カップ・アンド・カバー・レッグ」と言います。アンティーク家具の業界では「パイナップルレッグ」とか「メロンバルブ」とも呼ばれるのですが、正式名はカップ・アンド・カバー。上の部分はメロンでカバーされ、下の部分は「アカンサス(葉あざみ)」という植物の葉で覆われた、ゴブレットのような形のデザインを意味します。
日本のマスクメロンには縦の線は入っていませんが、ヨーロッパのメロンには太い縦線が入っている種類があります。アカンサスは長寿の象徴でもありますが、そもそも古代ギリシャの神殿のコリント様式の柱の上についている植物がアカンサスなので、カップ・アンド・カバーは古代ローマやギリシャのデザインから影響された、典型的な16~17世紀前半のルネサンス様式、またはゴシック様式のデザインと言えます。
この脚のデザインもまた、19世紀のリバイバルで蘇ります。この頃のイギリスは、特に産業革命で財をなしたお金持ちが大きな屋敷を持つようになったので、派手な彫刻が入った家具が好まれるようになりました。が、その後20世紀になると、ずっとシンプルで大量生産も可能な彫刻に変わっていきます。1940年頃の第二次世界大戦中にはデザインが規制され、彫刻が入っていないものや省略されているものもあるので、この点でも年代を判別することができると思います。
バン・フット
コッペパンのことを英語でバン(bun)と呼びますが、このちょっとつぶれたパンの形の脚を「バン・フット」と呼んでいます。この脚は椅子に施されている他、キャビネットやビューロー(引き出しつきの収納家具)、ソファなどの重厚な家具の脚として、17世紀半ばくらいから登場したデザインです。
コッペパンのことを英語でバン(bun)と呼びますが、このちょっとつぶれたパンの形の脚を「バン・フット」と呼んでいます。この脚は椅子に施されている他、キャビネットやビューロー(引き出しつきの収納家具)、ソファなどの重厚な家具の脚として、17世紀半ばくらいから登場したデザインです。
きれいに丸くふっくらとした形で、丁寧な彫刻が施されているものは、その当時のイギリスの王様とお妃の名にちなんで「ウィリアム・アンド・メアリー・バン・フット」と呼ばれました。17世紀後半から18世紀に流行した、ウォールナット(クルミ)材のアンティークのチェストやキャビネットによく使われた、典型的な脚のスタイルです。
このバン・フット、実はもうひとつ、紛らわしいデザインがあるのです。形はバン・フットを筒状にした、ちょうど火鉢のような形なのですが、これには「ボール・フット」という違う名前がつけられています。この2つのデザインの中には大変似ているもが数多くあるのですが、バンフットとの違いは、ボール・フットはコッペパンの部分が筒状になっている点です。ちなみにこの写真の脚は、ボール・フットに近いバン・フットです(紛らわしいですね)。
バン・フットのデザインは17世紀後半以降も変化していき、19世紀にはコッペパンの下にも細長い台がついた、チューリップ型のバン・フットが登場します。ある意味、バン・フットは17世紀から現在にかけてずっと使われ続けている、家具の脚の定番デザインのひとつなので、年代を脚だけで判断するのは少々難しいかもしれません。バン・フットについては、家具の他の部分のデザインも合わせて判断した方がいいかもしれませんね。
今回解説した時代の家具の脚は、がっしりしたデザインが主要ですが、この後、それも少しずつ変化し始めます。次のバロック時代には、それまでの直線的なデザインから曲線的なデザインに変わっていくのです。次回はフランスの家具の脚の定番スタイルとして現代でも愛されている、フェミニンで美しい「カブリオレ・レッグ」の説明からすることにしましょう。
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ありがとうございます。
今該当テーブルの写真を確認しました。(グラバー住宅 ダイニングで検索しました。)
丸テーブルのような楕円にも見えるテーブルです。
その真ん中から4本うねって出ています。
(先ほど4本以上と書きましたが、記憶違いだったようです。)
丸のテーブルを私も拝見させて頂きました。これはイギリス製ではなく、ぱっと見、北ヨーロッパ(ベルギーやドイツ)のデザインに見えます。ただ天板の木材を見ないと判断できませんが、アメリカ製とも考えられます。多分19世紀後半頃のもので、ロココ調を自我流にアレンジしたデザイン、としか言いようのない独自のスタイルだと思います・・・。
多分、ロココ調と北ヨーロッパのフォークロア(民俗調)のスタイルをミックスしたデザインという感じでしょうか。