アンティーク家具の「脚のデザイン」を知る 3: ネオクラシックの時代
古い家具の「脚のデザイン」に注目してみると、その名前の由来、時代背景など、さまざまなストーリーが浮かび上がってきます。3回シリーズのラストは、脚のデザインがまっすぐにシンプルな方向に進化した、19世紀半ばまでの解説です。
西谷典子|Noriko Nishiya
2016年2月7日
アンティークの家具のつくられた年代は、脚のデザインを見るとある程度のことがわかります。長い年月の間に生まれては消え、新しい解釈とともにリバイバルし、という具合に繰り返された流行があるので、脚のスタイルの種類をいくつか覚えておくと、アンティーク家具を見たときに「この時代のものでは?」という判断がつくのです。このシリーズでは、数多くある中で知っておくとよい代表的なデザインをいくつかピックアップしてご説明してきました。ゴシックとルネサンスの時代、バロックとロココの時代に続き、今回は18世紀から19世紀のイギリス、デザインの黄金時代とも呼ばれるネオクラシック(新古典主義)の時代を中心に解説します。
アンティーク家具の「脚のデザイン」を知る 1: ゴシックとルネサンスの時代
アンティーク家具の「脚のデザイン」を知る 2: バロックとロココの時代
アンティーク家具の「脚のデザイン」を知る 1: ゴシックとルネサンスの時代
アンティーク家具の「脚のデザイン」を知る 2: バロックとロココの時代
デザインの黄金時代
18世紀から19世紀のイギリスは産業革命を迎える活気のある時期であり、デザインの黄金時代とも呼ばれるネオクラシック(新古典主義)の時代に入ります。それはちょうどジョージ1世から4世の統治時代(1714~1830年)と重なっており、この時代のデザインはジョージアン様式とも呼ばれます。このデザインが最も活気づいた時代を経て、ヴィクトリア女王時代にはすべてのスタイルがほぼ揃う、今でいうエクレクティックな時代を迎え、脚のスタイルの発展は完結します。デザインの頂点を迎えるこの時代、次々と生み出された素晴らしい家具の脚のデザインをご紹介しましょう。
18世紀から19世紀のイギリスは産業革命を迎える活気のある時期であり、デザインの黄金時代とも呼ばれるネオクラシック(新古典主義)の時代に入ります。それはちょうどジョージ1世から4世の統治時代(1714~1830年)と重なっており、この時代のデザインはジョージアン様式とも呼ばれます。このデザインが最も活気づいた時代を経て、ヴィクトリア女王時代にはすべてのスタイルがほぼ揃う、今でいうエクレクティックな時代を迎え、脚のスタイルの発展は完結します。デザインの頂点を迎えるこの時代、次々と生み出された素晴らしい家具の脚のデザインをご紹介しましょう。
18世紀後半、フランスのルイ16世時代になると、ロココ調の曲線的なデザインに代わって、まっすぐな脚のデザインに変わっていきます。これは1748年に、イタリアでポンペイの遺跡が発掘され、ギリシャ・ローマ時代のデザインが「ネオクラシック(新古典主義)デザイン」として見直され、当時の流行になったからでした。ちなみにフランスにおけるデザインの歴史は、ルイ16世時代で頂点を迎えるところでフランス革命が始まり、ナポレオン戦争と続くなか、パトロンである王様がいない混乱の時代に入るので、この後突如として氷河期を迎えます。もしフランス革命がなかったら、まだまだフランスではインテリアのデザインが発展していたはずだとも言われています。
花と神殿の柱のクラシックなデザイン、「アダム・フルーテッド」
脚の上の部分の四角い枠の中に花の彫刻をあしらい、下の部分は神殿の柱をイメージした脚。このクラシカルなデザインをを「アダム・フルーテッド」と言います。スコットランド出身の建築家、ロバート・アダムがデザインしたためこの名がつけられていますが、「フルーテッド」とは柱の溝彫りという意味で、建築、家具だけでなく、グラスの脚の部分などにも使われる用語です。
脚の上の部分の四角い枠の中に花の彫刻をあしらい、下の部分は神殿の柱をイメージした脚。このクラシカルなデザインをを「アダム・フルーテッド」と言います。スコットランド出身の建築家、ロバート・アダムがデザインしたためこの名がつけられていますが、「フルーテッド」とは柱の溝彫りという意味で、建築、家具だけでなく、グラスの脚の部分などにも使われる用語です。
1754年から4年間、ローマで見聞を広めたアダムは、シンプルでエレガントなイタリアとギリシャのスタイルを自分流にアレンジし、ネオクラシックデザインをつくり出します。アダムのデザインは、上部の縦のラインと彫刻された花の模様、そして神殿の柱のような脚に特徴がありました。また彼がよく用いた足先は「アロー・フット」と呼ばれ、ボールから台が長く伸びたような形をしています。
トップクオリティのマホガニー家具に使われた「ギロー・フルーテッド」
18世紀中頃、イギリスでマホガニー材の家具を流行させた一人に、ロバート・ギローという人物がいます。彼はその後、イギリスの北部ランカシャー地方で素晴らしい家具を生産し、産業革命で財をなしたお金持ちや貴族を相手にした商売に成功しました。ギローの業績はデザイナーとして流行を発信したというより、美術品に近いトップクオリティの家具を作り続けたメーカーとして、世に語り継がれています。現在でも彼の家具は、コレクターの間で非常に高価な値段で売買されています。
18世紀中頃、イギリスでマホガニー材の家具を流行させた一人に、ロバート・ギローという人物がいます。彼はその後、イギリスの北部ランカシャー地方で素晴らしい家具を生産し、産業革命で財をなしたお金持ちや貴族を相手にした商売に成功しました。ギローの業績はデザイナーとして流行を発信したというより、美術品に近いトップクオリティの家具を作り続けたメーカーとして、世に語り継がれています。現在でも彼の家具は、コレクターの間で非常に高価な値段で売買されています。
このギローがよく用いた脚がフルーテッドの椅子で、そのデザインは上部が「バン・フット」(「1:ゴシックとルネサンスの時代」で解説)とリング状の装飾がドッキングしたものと、縦のふっくらした柱のような溝があり、そして足元はバン・フットの下に台があるというものです。これは「ギロー・スタイル」とも呼ばれ、ジョージ時代後期からヴィクトリア時代まで長く親しまれたデザインです。
典型的なネオクラシックデザイン「スペード・フット」
イギリスでは18世紀中頃、ロバート・アダムのほかに、トーマス・チッペンデール、ヘッペル・ホワイト、シェラトンという4大ビッグ家具デザイナーが登場します。
特にチッペンデールが流行させたと言われる「スペード・フット」は、トランプのスペードを反対にした形をした、ネオクラシックデザインを代表する脚のデザインです。これは、ほかの3人も用いた典型的なジョージアンの脚のスタイルと言えます。
イギリスでは18世紀中頃、ロバート・アダムのほかに、トーマス・チッペンデール、ヘッペル・ホワイト、シェラトンという4大ビッグ家具デザイナーが登場します。
特にチッペンデールが流行させたと言われる「スペード・フット」は、トランプのスペードを反対にした形をした、ネオクラシックデザインを代表する脚のデザインです。これは、ほかの3人も用いた典型的なジョージアンの脚のスタイルと言えます。
よりシンプルに向かう、「テイパード・フット」
ヘッペル・ホワイトとシェラトンは、脚のデザインをもっとシンプルにして、だんだん先が細くなる「テイパード・フット」のデザインをよく用いました。彼らのスタイルは、ゴシック時代の素朴でがっしりしたまっすぐな脚ではなく、もっと洗練されたシンプルな脚でした。現在私達が日常で使っているシンプルモダンな家具の脚のスタイルは、実はこの頃にできたものなのです。
ヘッペル・ホワイトとシェラトンは、脚のデザインをもっとシンプルにして、だんだん先が細くなる「テイパード・フット」のデザインをよく用いました。彼らのスタイルは、ゴシック時代の素朴でがっしりしたまっすぐな脚ではなく、もっと洗練されたシンプルな脚でした。現在私達が日常で使っているシンプルモダンな家具の脚のスタイルは、実はこの頃にできたものなのです。
さらに進化した「セイバー・フット」
1800~1830年代には、まっすぐでシンプルな「テイパード・フット」がちょっと変化した「セイバー・フット」が登場します。セイバーとは「ゆるやかなカーブを描く剣」という意味があります。もともと東ヨーロッパには何百年も昔からある剣の形ですが、イギリスやフランスでは19世紀初頭に流行した剣のスタイルで、ナポレオンもこの形の剣を愛用していたそうです。
1800~1830年代には、まっすぐでシンプルな「テイパード・フット」がちょっと変化した「セイバー・フット」が登場します。セイバーとは「ゆるやかなカーブを描く剣」という意味があります。もともと東ヨーロッパには何百年も昔からある剣の形ですが、イギリスやフランスでは19世紀初頭に流行した剣のスタイルで、ナポレオンもこの形の剣を愛用していたそうです。
リージェンシー・スタイル
このセイバー・フットが流行した時代のデザインを、イギリスではジョージ4世が摂政(リージェント)を務めていたことにちなみ「リージェンシー・スタイル」と呼びます(ジョージ4世による摂政時代は1811~1820年)。当時は新しい木材だったローズウッドやエボニー(黒檀)がよく使われました。モチーフはライオンの頭やスフィンクスなどが典型的でした。
この写真の椅子はトラファルガーチェアと呼ばれ、トラファルガー対戦に勝った後の1808年頃から登場したものです。特徴は背もたれの上の部分につくロープのような持ち手と、セイバー・フットを用いたデザインで、海戦で勝ったイギリスではこういった船に関するモチーフが流行したそうです。
このセイバー・フットが流行した時代のデザインを、イギリスではジョージ4世が摂政(リージェント)を務めていたことにちなみ「リージェンシー・スタイル」と呼びます(ジョージ4世による摂政時代は1811~1820年)。当時は新しい木材だったローズウッドやエボニー(黒檀)がよく使われました。モチーフはライオンの頭やスフィンクスなどが典型的でした。
この写真の椅子はトラファルガーチェアと呼ばれ、トラファルガー対戦に勝った後の1808年頃から登場したものです。特徴は背もたれの上の部分につくロープのような持ち手と、セイバー・フットを用いたデザインで、海戦で勝ったイギリスではこういった船に関するモチーフが流行したそうです。
ヴィクトリア期以降はリバイバルとエクレクティックの時代へ
ヴィクトリア女王時代以前の脚のデザインで、まだまだ今回のシリーズでご紹介していないものがたくさんありますが、だいたいこのあたりで家具の脚のデザインはある程度出尽くし、ヴィクトリア女王時代はまったくの新しいデザインではなく、新しい解釈を加えたり、構造をモダン化したりしながらリバイバルを繰り返す時代に入ります。以降、ゴシック・リバイバル、アール・ヌーボー、アーツ・アンド・クラフツ、そしてネオクラシックスタイルもまた返り咲き始め、過去のさまざまな時代のデザインが復活しました。それらは現在でも、リプロダクションとして生産が続けられています。
ヴィクトリア女王時代以前の脚のデザインで、まだまだ今回のシリーズでご紹介していないものがたくさんありますが、だいたいこのあたりで家具の脚のデザインはある程度出尽くし、ヴィクトリア女王時代はまったくの新しいデザインではなく、新しい解釈を加えたり、構造をモダン化したりしながらリバイバルを繰り返す時代に入ります。以降、ゴシック・リバイバル、アール・ヌーボー、アーツ・アンド・クラフツ、そしてネオクラシックスタイルもまた返り咲き始め、過去のさまざまな時代のデザインが復活しました。それらは現在でも、リプロダクションとして生産が続けられています。
歴史的な建築家や家具デザイナーによる新しいデザイン、新しいマテリアル、世界での大きな事件や出来事、そんないろいろな要素がミックスされて、家具の脚はゆっくり変化していったようです。時代の流行は繰り返されるので、過去のデザインを振り返ることで、未来の新しい家具をつくり出していくうえでも何らかのヒントになるでしょう。アンティーク家具をよりよく知るための一助となれば、と思います。
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素晴らしい3回の連載、ありがとうございます。
室内装飾にかかわるプロにとってギリシャ、ローマ時代から連綿と続く歴史(日本も含む)を学ぶことはもっとも重要なことと思います。私たちプロはその歴史の上に立ち、未来へと発展させてつなぐ役割があると思うからです。
歴史への理解という根っこがあれば、なんちゃってやパクリに頼らなくてもいいデザインが生まれます。
椅子の脚には まさにその歴史が現れますね。とても勉強になりました。
コメントありがとうございます。皆さんに古い物の価値を理解して頂き、今後のインテリアシーンを変える何かのヒントになってもらえれば、と思っております。