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エネルギーについて考える未来の家。「発電」と「蓄熱」の工夫が家のいたるところにあるオフグリットハウス
3.11の東日本大震災をきっかけに、家庭内のエネルギーのあり方に関心を持った夫婦。「オフグリッドハウス」を建てるに至った想いと、「つくるエネルギー量>つかうエネルギー量」を実現可能にした、設計のさまざまな工夫をご紹介します。
Erica Yamamoto
2017年6月12日
東京都町田市に住むご夫婦。3.11の原発事故やその後の計画停電を機に、エネルギーに関心を持ち始めた。エネルギーについて理解を深めていくうちに、電気を家庭へ届けるためにたくさんのエネルギーが使われているという事実に気づく。つまり、電気を自給自足すれば、送電にかかるエネルギーが節約できる! ということを知ったのだ。
それは環境活動家の田中優さんとの出会いから始まった。田中さんが岡山で“オフグリットな”生活をしていると知った夫婦は、田中さんのオフグリットハウスを見学する機会を得た。「田中さんがオフグリットハウスでエネルギーを自給する様子を目の当たりにし、それにかける思いを知ることで、いつか機会があったら自分たちもオフグリットハウスをつくろう! という思いが強くなりました」とご主人は話す。
それは環境活動家の田中優さんとの出会いから始まった。田中さんが岡山で“オフグリットな”生活をしていると知った夫婦は、田中さんのオフグリットハウスを見学する機会を得た。「田中さんがオフグリットハウスでエネルギーを自給する様子を目の当たりにし、それにかける思いを知ることで、いつか機会があったら自分たちもオフグリットハウスをつくろう! という思いが強くなりました」とご主人は話す。
「オフグリッドハウス」とは、グリッド(送電線)からオフした(離れた)生活が送れる家。つまり、自家発電を行い、電力会社からの送電を受けずに、電気を自給自足できる家のこと。夫婦が求めたのは、母屋とデッキでつながったセカンドハウス兼セーフティハウス。井戸を付けたことで、震災時でも電気と水は確保できるようにした。
どんなHouzz?
所在地:東京都町田市
家族構成:夫婦
敷地面積: 70㎡
述床面積:55㎡(1階・27㎡、2階・28㎡)
構造:RC造
竣工:2016年
建築設計: abanba
どんなHouzz?
所在地:東京都町田市
家族構成:夫婦
敷地面積: 70㎡
述床面積:55㎡(1階・27㎡、2階・28㎡)
構造:RC造
竣工:2016年
建築設計: abanba
夫婦はさっそく7組の建築家によるコンペを実施し、その中から〈abanba(エイバンバ)〉の案を選出した。施主のご夫婦が岡山の「オフグリッドハウス」を見学した際に、abanbaの建築家・番場俊宏さんも同行していたのも縁だった。本物のオフグリットハウスを目の前に、さまざまな話をしたこともあり、オフグリッドを含む家全体のエネルギーの捉え方に最も納得と共感ができたことが、決め手となったのだという。
設計が始まるも、日本における都市型・高性能設備住宅の前例が、ほとんどなかったため初めてずくしの連続で様々な壁に突き当る。しかし、建築家と施主の想いは強く、壁に突き当る度に、両者で粘り強く話し合い、共に創り上げ、3年というの期間を経て2016年10月に引き渡しが行われた。
設計が始まるも、日本における都市型・高性能設備住宅の前例が、ほとんどなかったため初めてずくしの連続で様々な壁に突き当る。しかし、建築家と施主の想いは強く、壁に突き当る度に、両者で粘り強く話し合い、共に創り上げ、3年というの期間を経て2016年10月に引き渡しが行われた。
ソーラーパネルによる発電
都市型狭小住宅であるため、ソーラーパネルは屋根の上に設置。夏の暑い時期の冷却や汚れを取るために、井戸水を散水できるようになっている。汚れを取らないと年間30%くらい効率が変わってしまうのだという。
都市型狭小住宅であるため、ソーラーパネルは屋根の上に設置。夏の暑い時期の冷却や汚れを取るために、井戸水を散水できるようになっている。汚れを取らないと年間30%くらい効率が変わってしまうのだという。
ペレットストーブの快適さ!
1階の土間スペースに配置したペレットストーブ。10分ほどで火力が安定し、熱を床下から家全体に循環させる。自動でペレットが補充されるため、手間いらず。じんわりとした暖かさがとても快適で、煙も少なく、施主夫妻のお気に入りだという。
1階の土間スペースに配置したペレットストーブ。10分ほどで火力が安定し、熱を床下から家全体に循環させる。自動でペレットが補充されるため、手間いらず。じんわりとした暖かさがとても快適で、煙も少なく、施主夫妻のお気に入りだという。
外断熱RCを生かした空間デザインの妙
外断熱RCのため、室内にコンクリート面が顔を出す。味気のないコンクリートではなく、杉板を化粧板にし木目をあえて出すような壁に。温かみのあるデザインが実現した。「ここまでくっきりと木目を出すのは非常に高度な技術です」と番場さん。
外断熱RCのため、室内にコンクリート面が顔を出す。味気のないコンクリートではなく、杉板を化粧板にし木目をあえて出すような壁に。温かみのあるデザインが実現した。「ここまでくっきりと木目を出すのは非常に高度な技術です」と番場さん。
視線を遮る目的の障子を太鼓張りにすることで断熱性がグッと高まる。
欧州では標準装備されている、2アクション・トリプルサッシを仕様。こちらの写真は、〈YKK〉の 2アクション・トリプルサッシ窓。縦開きで換気、大きく開く横開きで掃除などに使うことができる。また気密性も高く、断熱効率が高い。
設備×意匠のこだわり
キッチンでは、薩摩中霧島壁を採用。火山灰を使用した壁で、匂いや湿気をよく吸収するため、キッチンやペットを飼う住宅に最適だ。この住宅では、冬は暖気・夏は冷気を循環させるのに視線を遮る以外のしきりがない。そのために、匂いや湿気を、発生元で処理できることは大きなメリットになる。設備面だけでなく、意匠面でも、活躍している。薩摩中霧島壁の自然素材ゆえの温かみと白さが、空間に柔らかで心地よい光をもたらしている。
キッチンでは、薩摩中霧島壁を採用。火山灰を使用した壁で、匂いや湿気をよく吸収するため、キッチンやペットを飼う住宅に最適だ。この住宅では、冬は暖気・夏は冷気を循環させるのに視線を遮る以外のしきりがない。そのために、匂いや湿気を、発生元で処理できることは大きなメリットになる。設備面だけでなく、意匠面でも、活躍している。薩摩中霧島壁の自然素材ゆえの温かみと白さが、空間に柔らかで心地よい光をもたらしている。
空気の流れをつくるすのこ
土間の天井面の一部がすのこ状になっていて、2階と空気がダイレクトにつながる。冬は暖気が1階から2階へ、夏は冷気が2階から1階へ流れる。
土間の天井面の一部がすのこ状になっていて、2階と空気がダイレクトにつながる。冬は暖気が1階から2階へ、夏は冷気が2階から1階へ流れる。
2階写真左側の床面のすのこが1階と2階の熱を行き来させる。
また、このハウスには熱源を利用した空調機が使われている。ソーラーパネルによって取り入れた電気と熱、井戸水を利用して、冷暖房・除加湿・送風を行う。この家のために作られた実験機で、これから迎える夏に実用化の実験が行われる。冬は無事に成功を収めたので、この夏うまくいけば、1年通して、自給自足のエネルギーだけで快適な暮らしを送ることが実証される。
また、このハウスには熱源を利用した空調機が使われている。ソーラーパネルによって取り入れた電気と熱、井戸水を利用して、冷暖房・除加湿・送風を行う。この家のために作られた実験機で、これから迎える夏に実用化の実験が行われる。冬は無事に成功を収めたので、この夏うまくいけば、1年通して、自給自足のエネルギーだけで快適な暮らしを送ることが実証される。
気になるランニングコストについて
各住宅の環境や設備によっても変わるってくるが、この住宅の場合、灯油のストーブと比べると同程度か少し割高な印象とのこと。だが、将来的には化石燃料も電気料金も値上がり続ける可能性が高いと考えている。これだけの設備を備えたことにより、国の基準ZEH(※)も満たしている。
土地の環境、四季の移り変わりと呼応する住宅。少なくとも1年は経過を見守る必要がある。こちらの住宅では、家のエネルギーのコントロールパネルを一カ所に集めていて、日々のエネルギー使用を目で確認しながら生活をしている。可視化するだけでも、エネルギーを考えるきっかけになるのだそう。また、天気のいい日はこの住宅自体が発電所でもあるので、ご飯を炊いたり、充電したり、洗濯したりと、電源を大いに利用することができる。節電ばかりの暮らしではないのだ。
ご主人は、「国全体で環境への考えを変えることは途方もない作業に思えますが、その一方で、オフグリッドハウスでのくらしを選択する人が増えれば、結果的に、エネルギーの無駄を減らせて、原子力発電所など大型発電所を減らしていけるかもしれませんね」と話す。
地球とともにくらす要素が強くなる分、建築家の知識や経験だけでなく、施主の理解も必要となる。二人三脚で経過を見守り、環境とくらしを考えていくことは、未来のくらしと言えるのではないだろうか。
※ZEH(ゼッチ:ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)とは、住宅の高断熱化と高効率設備により、快適な室内環境と大幅な省エネルギーを同時に実現した上で、太陽光発電等によってエネルギーを創り、年間に消費する正味(ネット)のエネルギー量が概ねゼロ以下となる住宅を指す。(引用元:経済産業省 資源エネルギー庁)
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ご主人は、「国全体で環境への考えを変えることは途方もない作業に思えますが、その一方で、オフグリッドハウスでのくらしを選択する人が増えれば、結果的に、エネルギーの無駄を減らせて、原子力発電所など大型発電所を減らしていけるかもしれませんね」と話す。
地球とともにくらす要素が強くなる分、建築家の知識や経験だけでなく、施主の理解も必要となる。二人三脚で経過を見守り、環境とくらしを考えていくことは、未来のくらしと言えるのではないだろうか。
※ZEH(ゼッチ:ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)とは、住宅の高断熱化と高効率設備により、快適な室内環境と大幅な省エネルギーを同時に実現した上で、太陽光発電等によってエネルギーを創り、年間に消費する正味(ネット)のエネルギー量が概ねゼロ以下となる住宅を指す。(引用元:経済産業省 資源エネルギー庁)
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