Houzzツアー:パッシブデザインで実現した、自然と寄り添う快適な暮らし
自然エネルギーの恵みを住宅に上手に取り入れた結果、部屋の温度差が少なく、身体にも環境にも優しい、心地よい家ができました。
Nayo Suzuki
2016年8月22日
ライター&エディター。建築・インテリアを学んだ後、インテリアデコレーターとして働きながら、インテリアのライター業をスタート。現在はライター&エディター業に専念し、雑誌のインテリアページ、カタログ、書籍などを手がける。趣味はインテリアとアート鑑賞。
ライター&エディター。建築・インテリアを学んだ後、インテリアデコレーターとして働きながら、インテリアのライター業をスタート。現在はライター&エディター業に専念し、雑誌のインテリアページ、カタログ、書籍などを手がける... もっと見る
「好きなものに囲まれて暮らしたい」。子育てが一段落し、心にも時間的にも少し余裕が出てきた頃、ふとこみ上げてきたそんな思い。この家のオーナーが当時住んでいた集合住宅は、収納が少なくてモノがいつも片付かず、結露もひどく、年数が経つにつれ劣化がひどくなるばかり。「仕事を終えて家に帰ってもリラックスできず、休日には必ず出掛けていました。家に対する不満がどんどん大きくなってきて、どうにか現状を改善しなければ……と思ったときに、ふと頭に浮かんだのが空設計工房さんの家でした」。空設計工房の江藤さんとは、お子さん同士が小さい頃からの知り合いだったというオーナー。自然素材にこだわり、パッシブデザインを提唱する家づくりも知識としては知っており、「家は第三の皮膚」という考え方にも共感していたのだとか。実際に空設計工房が手掛けた家を見学し、「家を建てたい」いうと思いがますます強くなった。
パッシブデザインとは、太陽光や熱、風などの自然エネルギー、恵みを上手に住宅に取り入れることで、エアコンなどの機器類をなるべく使わず、快適に暮らすことを目指す設計のあり方。土地ごとの自然環境に適応しながら、そこにある潜在的な自然エネルギーを使い、その営みに寄り添い、生活できる住環境をデザインすることである。たとえば、夏の暑さをしのぐためには、まず太陽熱を室内に入れない、室内の熱を逃がし風の通り道をつくる……。などの設計上の配慮とともに、朝の冷たい空気を室内に取り入れたり、窓を開けるときは風上を大きく、風下を小さく開けたりなど、住まい手が賢く暮らすという点も大切になってくる。
実際に暮らしてみて「家の中での温度差が少なく、温かさ、寒さの頃合いが身体に優しく心地よいですね」とオーナー。パッシブデザインにより自然エネルギーを活用することで、光熱費は集合住宅に暮らしていたときよりも安くなったとか。環境にも優しい家として評価され、福岡市の低炭素認定住宅の第一号にもなっている。
実際に暮らしてみて「家の中での温度差が少なく、温かさ、寒さの頃合いが身体に優しく心地よいですね」とオーナー。パッシブデザインにより自然エネルギーを活用することで、光熱費は集合住宅に暮らしていたときよりも安くなったとか。環境にも優しい家として評価され、福岡市の低炭素認定住宅の第一号にもなっている。
外壁はレッドシダー材の板壁とガルバリウム鋼板を組み合わせたもの。板壁は経年変化でシルバーグレーになっていく。庭には井戸と雨水タンクがあり、どちらも庭で育てている植物や野菜の水やり用として活用している。庇の長さと角度によって、夏の強い太陽光を遮り、冬は室内まで陽射しが入る設計。ガラリ付きの雨戸も設置し、暑さの厳しい日は雨戸を閉め、ガラリの角度を調節して風だけを通して過ごせる。
どんなHouzz?
所在地:福岡県福岡市
家族構成:3人
延床面積:93.77平方メートル
構造:木造在来工法
竣工:2013年
建築設計:空設計工房
どんなHouzz?
所在地:福岡県福岡市
家族構成:3人
延床面積:93.77平方メートル
構造:木造在来工法
竣工:2013年
建築設計:空設計工房
リビングダイニングは、2層分が吹き抜けとなった開放的な空間。上部の窓辺には猫のためのキャットウォークを兼ね、窓の開閉や布団を干すための通路をつくった。夏の太陽熱や冬の冷気を遮り、また結露を防ぐためにリビングの窓は木製のトリプルガラスにし、保温性の高いハニカムブラインドも設置。エアコンも設置しているが、一年を通して使用するのは盛夏の午後くらいだとか。
1階にはLDK、小上がりになったスペース、バスルームが配置されている。リビングの薪ストーブはオーナーがリクエストした。ダイニングテーブルは円形のものをと探し、大川の〈関家具〉で購入。Yチェアと以前から持っていた〈アーコール〉の椅子を合わせた。
1階にはLDK、小上がりになったスペース、バスルームが配置されている。リビングの薪ストーブはオーナーがリクエストした。ダイニングテーブルは円形のものをと探し、大川の〈関家具〉で購入。Yチェアと以前から持っていた〈アーコール〉の椅子を合わせた。
薪ストーブはベルギーの〈ドブレ社〉製で、ピザなども焼くことができる。主暖房として、冬場は日没後、毎日使っているとか。対流熱のお陰で夜寝る頃には寝室のある2階が温まり、夜中~翌朝まで23~24℃を保てる。薪ストーブの上には、冬は保湿を兼ねて鉄瓶とやかんを置き、それ以外の季節は花を飾っている。「火を囲む暮らしは楽しいですね。冬の週末は薪仕事をするのですが、ずっと続けられるよう健康でいよう!と思えます」。
窓側の床にはタイルを貼り、冬場は太陽熱を蓄熱できるというしくみ。逆に直射光の当たらない夏場はひんやりと冷たい。フローリングは無垢の杉材。オレンジを原料としたオイルを3回塗って仕上げている。
玄関にはオーナーのお母さまが使っていたミシンを飾り台として置いている。正面の板壁は杉材で、他は珪藻土。向かって左の壁には、アンティークのステンドガラスをはめ込んだ。床はリビングと同じ高いタイル。
この家を建ててから、庭いじりと野菜づくりが週末ごとの楽しみとなったオーナー。玄関の想い出のミシンの上は、季節の花を飾る場所に。
「家を建てた理由のひとつが、猫を飼いたかったから」。愛猫は日当たり抜群のキャットウォークをはじめ、誰よりもこの家を満喫している様子だ。
キッチンは機能性を重視し、〈日立ハウステック〉のシステムキッチンを選んだ。扉だけ木製に替え、インテリアになじむようにしている。オーナーの希望でダイニング側からはキッチン内部が見えないように、オープンでありながら手元が隠れるスタイルにした。
リビングダイニングに続く小上がりのスペースは、天然素材である麻のカーテンでゆるやかに仕切っている。当初はここを寝室として使用していたが、今は家族全員が2階で寝ているそう。
2階には家族の個室、納戸、そして写真のロフトが配置されている。ダイナミックな梁と木製の天井が美しいロフトは、PCで調べものをする時や、洗濯物を干す場所として多目的に活用している。
シーリングファンは、吹き抜け上部に溜まりがちな暖気を循環させてくれる。「さすがに木の匂いはしなくなってきましたが、自然素材に囲まれているせいか、いつもよい匂いがしています。お客さまも『いい空気が流れている』と言ってくれます」。以前の家で感じたようなカビ臭などは一切なく、空気が澄んでいるのが実感できるそう。
家が完成してから丸3年が経ち「住環境によってこんなにも気持ちが変わる、ということを日々実感しています。散らかってもすぐに片付くし、結露もありません。ストレスがなくなって、イライラしなくなりました。今は家に帰るのがうれしくて、すっかり外出も外食も減り、週末もずっと家にいます。心に余裕ができたせいか、新しいことにも挑戦したくなり、習い事を始めてみたり。江藤さんに『心身ともに健康になりますよ』と言われたのですが、その意味がよくわかりました」とオーナー。念願の好きなものだけに囲まれる暮らしを実現し、今は家での時間がいちばん楽しいのだとか。無理なく自然に寄り添える暮らしから得られたものは、想像していた以上に大きいようである。
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