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北欧テイストあふれる、18坪の菜園付きセカンドハウス
スウェーデンの湖畔の別荘をイメージした、オールドブルーの外壁の愛らしい小さな家。広い菜園のある思い出深い土地で豊かなライフスタイルをかなえた、週末ハウスのストーリー。

Miki Anzai
2021年6月20日
Editor |Houzz Japan
都心にも成田空港にも1時間以内でアクセスできる茨城県牛久市は、東京のベッドタウンながら、豊かな自然が多く残されている。ここに菜園付き別荘を建てたのが、市内で保育園の園長をする黒木喜久子さんと、東京の大学で教鞭をとる娘の澤野由紀子さんだ。土地は15年前に、喜久子さんのご主人の柾吉さんが、野菜の抗酸化作用の研究をする目的で購入し、菜園として活用していた。残念ながら柾吉さんが他界されたため、残された母娘でセカンドハウスを建てることにしたという。
園長のかたわら、地域おこしにも尽力する喜久子さんは「近隣の人々が気軽に集える、こぢんまりとした家」を希望した。普段は都心住まいで、毎年仕事でスウェーデンを訪れる由紀子さんは「スウェーデンの湖畔に建っているような菜園付きの小さな別荘」を思い描いたそう。由紀子さんのご主人の誠さんも、幼少期をスウェーデンで過ごしたので、澤野夫妻にとって「平日は都会で、ウィークエンドは郊外で暮らす」という北欧流ライフスタイルは、まさに理想だったという。
静かな自然の中、ひときわしゃれたグレーがかったブルーの外壁と真っ白のテラスが印象的なお宅を訪れ、オーナーご家族、そして設計を担当した株式会社タジェールの中村雅子さんと、施工者の株式会社郡司建築工業所の郡司政美さんにお話を伺った。
園長のかたわら、地域おこしにも尽力する喜久子さんは「近隣の人々が気軽に集える、こぢんまりとした家」を希望した。普段は都心住まいで、毎年仕事でスウェーデンを訪れる由紀子さんは「スウェーデンの湖畔に建っているような菜園付きの小さな別荘」を思い描いたそう。由紀子さんのご主人の誠さんも、幼少期をスウェーデンで過ごしたので、澤野夫妻にとって「平日は都会で、ウィークエンドは郊外で暮らす」という北欧流ライフスタイルは、まさに理想だったという。
静かな自然の中、ひときわしゃれたグレーがかったブルーの外壁と真っ白のテラスが印象的なお宅を訪れ、オーナーご家族、そして設計を担当した株式会社タジェールの中村雅子さんと、施工者の株式会社郡司建築工業所の郡司政美さんにお話を伺った。
どんなHouzz?
家族構成:母(86歳)と娘夫婦(ともに57歳)
所在地:茨城県牛久市
構造:木造2階建て+塔屋
敷地面積:727.31平方メートル(220坪)
延床面積:60.70平方メートル(18.36坪)
設計:中村雅子/株式会社タジェール
施工:株式会社郡司建築工業所
竣工時期:2017年8月
撮影:ナカサアンドパートナーズ(スナップショットを除く)
大学の専攻がロシア語だった由紀子さんが、別荘につけた名前は「ダーチャ・エム・ウシク」。「ダーチャ」は、ロシア語で「郊外型菜園ハウス」のこと。ウシクは地名。その間のエム(M)は、「メモリー」「メロディー」「ミーティングプレイス」「メリー」に加え、お父様の頭文字もかけている。柾吉さんとの想い出が感じられる、北欧らしいテイストの別荘である。
家族構成:母(86歳)と娘夫婦(ともに57歳)
所在地:茨城県牛久市
構造:木造2階建て+塔屋
敷地面積:727.31平方メートル(220坪)
延床面積:60.70平方メートル(18.36坪)
設計:中村雅子/株式会社タジェール
施工:株式会社郡司建築工業所
竣工時期:2017年8月
撮影:ナカサアンドパートナーズ(スナップショットを除く)
大学の専攻がロシア語だった由紀子さんが、別荘につけた名前は「ダーチャ・エム・ウシク」。「ダーチャ」は、ロシア語で「郊外型菜園ハウス」のこと。ウシクは地名。その間のエム(M)は、「メモリー」「メロディー」「ミーティングプレイス」「メリー」に加え、お父様の頭文字もかけている。柾吉さんとの想い出が感じられる、北欧らしいテイストの別荘である。
建物の外壁の色は、クリーム色を検討していたが、オールドブルー(色あせたシックな青色)に変更した。由紀子さんと建築家の中村さんで、アントニン・レーモンドが設計した青山にある旧エロイーズ・カニングハム邸の外壁を見て決めたそう。「この色のほうが大人っぽくて、木々の中で映えます。ロシアのダーチャにもよく使われている色です」と語る由紀子さん。
ベンチにもなる南側の出窓に腰をかける喜久子さん(左)と由紀子さん(右)。
由紀子さんが手にしているのは、家づくりの参考にしたジュウ・ドゥ・ポゥム著『北欧ストックホルムのガーデニング』(主婦の友社)。その他にも、アイデア収集のため、ロシアや米国の雑誌にもたくさん目を通したそう。
由紀子さんが手にしているのは、家づくりの参考にしたジュウ・ドゥ・ポゥム著『北欧ストックホルムのガーデニング』(主婦の友社)。その他にも、アイデア収集のため、ロシアや米国の雑誌にもたくさん目を通したそう。
スカンジナビア風の明るいブルーが、アクセントカラーとして効果的に使われているLDK。「似たような色を見つけると、ついつい買ってしまいます」という由紀子さん。いまやフライパンやカトラリーなども同系色で揃えている。
天井と壁の色味を微妙に変えることで、片流れの屋根のきれいな斜めのラインを強調している。また電源スイッチを、通常より低い位置(床から70cmの高さ)に設置することで、余白の多い壁面をつくり、壁に飾った額が映えるように工夫されている。電子レンジと炊飯器を置いた棚は、中身が取り出しやすいように手前にも引き出せる。
食卓ペンダントランプ:ルイスポールセン/The Workshop Lamp
ダイニングチェア:ソストレーネグレーネ
ダイニングテーブルと窓辺のテーブル:黒木邸で以前から使っていたもの
額装した書:結婚祝いに由紀子さんの華道の先生から贈られた品
天井と壁の色味を微妙に変えることで、片流れの屋根のきれいな斜めのラインを強調している。また電源スイッチを、通常より低い位置(床から70cmの高さ)に設置することで、余白の多い壁面をつくり、壁に飾った額が映えるように工夫されている。電子レンジと炊飯器を置いた棚は、中身が取り出しやすいように手前にも引き出せる。
食卓ペンダントランプ:ルイスポールセン/The Workshop Lamp
ダイニングチェア:ソストレーネグレーネ
ダイニングテーブルと窓辺のテーブル:黒木邸で以前から使っていたもの
額装した書:結婚祝いに由紀子さんの華道の先生から贈られた品
北欧風の建物に、違和感なく溶け込んでいる和の空間。外国人の友人たちが、特に喜ぶスペースだそう。吊り押入れは、郡司建築工業所の腕の見せどころで「荷重に耐えうるように底面を補強しているので、人が乗っても大丈夫です」と郡司政美さんは太鼓判を押す。パイン材の床までは50cm空けたので、視線が抜け「広々と感じます」と由紀子さん。扉は越前和紙張り。短冊型の引手は、わざわざ京都から取り寄せたもの。長押(なげし)の上部には溝を設けているので、ハンガーなどを掛けられる。照明用コンセントやガス栓も、床に埋め込み、すっきりとした印象に。
ケヤキの文机は、喜久子さんの長年の愛用品。本棚には、夏目漱石の『道草』(美装の初版本の復刻版)など、柾吉さんの愛書が並んでいる。「旧字体なので読みにくいですが、いつか読もうと実家から持ってきました」と由紀子さん。
ケヤキの文机は、喜久子さんの長年の愛用品。本棚には、夏目漱石の『道草』(美装の初版本の復刻版)など、柾吉さんの愛書が並んでいる。「旧字体なので読みにくいですが、いつか読もうと実家から持ってきました」と由紀子さん。
和室はリビングから小上がりにしたので、腰掛けにもなる。障子は太鼓張り(組子の両面に障子紙を張る)にすることで、桟の陰がうっすらと浮かび上がり、落ち着いた雰囲気を醸し出している。春から夏にかけては、この窓から喜久子さんが大切にしているラン科のエビネの花々を愛でることもできるという。鴨居の上部には間接照明が設えてある。
畳縁(たたみべり)は、色の選択肢の多い化繊で、淡い緑色を選び、縁(へり)の幅も細めにしたので、狭い空間でも圧迫感を感じない。
畳縁(たたみべり)は、色の選択肢の多い化繊で、淡い緑色を選び、縁(へり)の幅も細めにしたので、狭い空間でも圧迫感を感じない。
和室側からの眺めも格別だ。目を惹くのが、ブルーの壁に開けられた丸窓。開口の先には、ロフト部分にかかる白いスケルトン階段も見通せる。そのため奥行き感のある空間が生まれている。
実はこの部分のデザインを何度も検討し直したという中村さん。単にアクセントとして丸窓をつけたのではないという。「法規上、1階のキッチン袖壁から天井までを不燃仕上げにする必要があったのですが、その壁だけをつくろうとするとプロポーションが悪くなってしまいます。そこでブルーの壁をリビングの中央付近まで延ばし、圧迫感をなくすために、丸穴を開けることにしました」
実はこの部分のデザインを何度も検討し直したという中村さん。単にアクセントとして丸窓をつけたのではないという。「法規上、1階のキッチン袖壁から天井までを不燃仕上げにする必要があったのですが、その壁だけをつくろうとするとプロポーションが悪くなってしまいます。そこでブルーの壁をリビングの中央付近まで延ばし、圧迫感をなくすために、丸穴を開けることにしました」
洗面脱衣所とトイレの境も、開閉でスペースを取られないよう引き戸に。
床は一見するとタイルのようだが、転んでも危なくないクッションフロア。奥には点検口が設置されているが、職人の腕がよいため目立たない。
床は一見するとタイルのようだが、転んでも危なくないクッションフロア。奥には点検口が設置されているが、職人の腕がよいため目立たない。
実は中学校の同級生で大親友という中村さん(左)と由紀子さん。
「あまりにも昔からよく知っているので、家族の一員のように、家づくりをともに楽しみました」という中村さん。栃木県益子町まで一緒に出かけて、益子焼の洗面ボウルを選んだのもよい思い出という。
「あまりにも昔からよく知っているので、家族の一員のように、家づくりをともに楽しみました」という中村さん。栃木県益子町まで一緒に出かけて、益子焼の洗面ボウルを選んだのもよい思い出という。
ダーチャ・エム・ウシクは、約220坪の敷地に対して、広さわずか18坪ほどの住宅である。小さな家なのに豊かな空間をつくった晩年の巨匠ル・コルビュジエらに思いを馳せながら、中村さんが行き着いたのが、昭和初期の詩人にして建築家の立原道造が設計した5坪の週末住宅「ヒアシンスハウス」だったという。「ヒアシンスハウスのように凝縮された美しさを追求し、簡素ながら素材や空間、そのほかのディテールにも気を配りました。むこうは5坪でこちらは18坪ですが、建物の形はヒアシンスハウスに似る結果となりました」と中村さん。
小さな家は、施工者泣かせでもあったという。「大きい家より、小さい家のほうが難しいのです。部材のカットから何から大変でした」と郡司さんは振り返る。
小さな家は、施工者泣かせでもあったという。「大きい家より、小さい家のほうが難しいのです。部材のカットから何から大変でした」と郡司さんは振り返る。
中村さんがこの家を設計するうえで考慮したのが「ソファのいらない家」にすること。ロフトのフロア、階段、小上がりの和室、出窓など「いろいろな場所で座って会話ができるようにしました」
ちなみに、この別荘には由紀子さんのゼミを履修する女子大生たちもやって来る。「この床に座り込んで、階段を机代わりにして、パソコン作業をしている生徒もいました」と由紀子さん。
ちなみに、この別荘には由紀子さんのゼミを履修する女子大生たちもやって来る。「この床に座り込んで、階段を机代わりにして、パソコン作業をしている生徒もいました」と由紀子さん。
ロフトの階段を上った先には、見晴らし台が! 澤野夫妻の共通の趣味は天体観測・天体写真撮影。寒い日には、ここに望遠鏡を置いて、遠隔操作でリビングから星座を観察しているそう。撮影した星の画像は、プロジェクターを使って、和室やリビングの壁をビッグスクリーンに見立てて、映し出して楽しんでいるという。
現在、完成した別荘を、生協のイベント向けなどに平日貸し出すこともあるという。園長職に加え、複数の社会福祉関連の協議会でも重責を担う喜久子さんは、イベントに参加できないことのほうが多い。それでも、時間を見つけては菜園の手入れをして、ゆくゆくは自宅で収穫した野菜を食しながら、ここで仲間と社会福祉の勉強会を開いたり、自分の好きな時間を過ごせる日が来るのを心待ちにしているという。
前列左から誠さん、由紀子さん、喜久子さん。後列左から郡司さん、中村さん。
ダーチャ・エム・ウシクは、柾吉さんがこよなく愛した畑や樹木園に「たくさんの人が集まって来て欲しい」という喜久子さんと澤野夫妻の願いを、中村さんがデザイン化、図面化し、郡司さんチームが匠の技で実現させた家である。コンパクトな空間に自由な広がりをもたせる工夫が随所に施されており、住まい手と建物の関係が、限りなく快適な方向へと導かれていた。
笑顔あふれるダーチャに、これからも大勢の仲間がやって来て、楽しい想い出が刻まれていくことだろう。
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