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イタリアン・デザインの巨匠、エンツォ・マーリの歩みをたどって
「遊びは時間つぶしではなく、世界を理解するために必要なのです」

Laura Tedeschi
2020年12月28日
エンツォ・マーリ 写真:Ramak Fazel
「Made in Italy(メイド・イン・イタリー)」のデザインを世界に広めたデザイナー世代における最後の巨匠、エンツォ・マーリ。2020年10月、この世を去ったイタリアン・デザイン界におけるこの偉大な人物を偲んで、その歩みを振り返ってみましょう。
デザインや創造の過程における理想を徹底して追求し、ある意味妥協を許さない。そんなマーリの人物像は同世代の全てのデザイナーにとっての拠り所でした。建築家・デザイナーのアレッサンドロ・メンディーニはかつて彼についてこう語りました。「マーリは我々皆の理性であり、デザイナーの理性です。それが重要なのです」
「Made in Italy(メイド・イン・イタリー)」のデザインを世界に広めたデザイナー世代における最後の巨匠、エンツォ・マーリ。2020年10月、この世を去ったイタリアン・デザイン界におけるこの偉大な人物を偲んで、その歩みを振り返ってみましょう。
デザインや創造の過程における理想を徹底して追求し、ある意味妥協を許さない。そんなマーリの人物像は同世代の全てのデザイナーにとっての拠り所でした。建築家・デザイナーのアレッサンドロ・メンディーニはかつて彼についてこう語りました。「マーリは我々皆の理性であり、デザイナーの理性です。それが重要なのです」
Serie della natura Uno, La Mela シルクスクリーン ダネーゼ社(1963年)
エンツォ・マーリってどんな人?
1932年4月27日イタリア、ピエモンテ州のノヴァーラに生まれ、2020年10月19日ミラノで亡くなったエンツォ・マーリは、デザイナー、アーティスト、グラフィックデザイナー、評論家、そして理論家でした。
その生涯のほとんどをミラノで過ごし、活動を続けました。若き頃、ブレラ美術アカデミーでアートを学んだマーリ。その後、ブルーノ・ムナーリや友人達の前衛美術グループに賛同し、共に数々のキネティック・アート作品を発表しました。60年代からはアーティストとして自らのデザインの探究に専念し、著名なイタリアの家具メーカーと協働、商業的に大きな成功を収めると共に高い評価を得ました。
デザインを提供した主な企業は、ドリアデ、ザノッタ、レキサイト、アレッシィ、マジスで、その中でも特に長きにわたり、そして意義深いコラボレーションとなったのは、ダネーゼです。
エンツォ・マーリってどんな人?
1932年4月27日イタリア、ピエモンテ州のノヴァーラに生まれ、2020年10月19日ミラノで亡くなったエンツォ・マーリは、デザイナー、アーティスト、グラフィックデザイナー、評論家、そして理論家でした。
その生涯のほとんどをミラノで過ごし、活動を続けました。若き頃、ブレラ美術アカデミーでアートを学んだマーリ。その後、ブルーノ・ムナーリや友人達の前衛美術グループに賛同し、共に数々のキネティック・アート作品を発表しました。60年代からはアーティストとして自らのデザインの探究に専念し、著名なイタリアの家具メーカーと協働、商業的に大きな成功を収めると共に高い評価を得ました。
デザインを提供した主な企業は、ドリアデ、ザノッタ、レキサイト、アレッシィ、マジスで、その中でも特に長きにわたり、そして意義深いコラボレーションとなったのは、ダネーゼです。
デザイナーとしてのマーリ
生涯で1500以上に及ぶデザインを手掛けたマーリ。製品の品質やその仕上がりに常に細心の注意を払い、流行や使い捨てのものではなく、長く使うことのできる、美しく使い勝手のいい製品を考案しました。革新的なデザイナーである彼の作品の特徴は、その純粋な幾何学性、ミニマルな上品さ、そして洗練されたフォルムにあるといえるでしょう。
生涯で1500以上に及ぶデザインを手掛けたマーリ。製品の品質やその仕上がりに常に細心の注意を払い、流行や使い捨てのものではなく、長く使うことのできる、美しく使い勝手のいい製品を考案しました。革新的なデザイナーである彼の作品の特徴は、その純粋な幾何学性、ミニマルな上品さ、そして洗練されたフォルムにあるといえるでしょう。
マーリの作品は、エレガントな居住空間だけでなく、スーパーマーケットのチラシにまで登場するような、誰もが手の届く作品です。なかには、家庭にひとつはあるべき、といわれるほどカルト的な人気を誇る著名な作品もあります。
特に有名なエンツォ・マーリの作品を一緒にみていきましょう。
特に有名なエンツォ・マーリの作品を一緒にみていきましょう。
Timor ダネーゼ社(1967年)
自由自在に日付を変更することができるのが特徴のTimor(ティモール)。ピンで固定された点を中心に扇のように開くPVCプレートで、日付と曜日を表示する万年カレンダーです。
自由自在に日付を変更することができるのが特徴のTimor(ティモール)。ピンで固定された点を中心に扇のように開くPVCプレートで、日付と曜日を表示する万年カレンダーです。
Formosa ダネーゼ社(1963年)
もうひとつの壁掛けの万年カレンダーは、日付を表示するPVCプレートと、それを支えるアルミの本体からなります。黒と赤のバージョンがあり、文字に使用されているフォントはヘルベチカです。
もうひとつの壁掛けの万年カレンダーは、日付を表示するPVCプレートと、それを支えるアルミの本体からなります。黒と赤のバージョンがあり、文字に使用されているフォントはヘルベチカです。
Putrella ダネーゼ社(1958年)
センターピースであり、トレーとしても使用できるこの作品は、外側に向かって軽く曲線を描くH鋼に塗装を施したものです。力強い表現力があり、エンツォ・マーリの作品の中でもシンボル的オブジェであり、ありふれた建築資材から洗練されたプロダクトを作り上げる事に成功した好例であるといえるでしょう。
センターピースであり、トレーとしても使用できるこの作品は、外側に向かって軽く曲線を描くH鋼に塗装を施したものです。力強い表現力があり、エンツォ・マーリの作品の中でもシンボル的オブジェであり、ありふれた建築資材から洗練されたプロダクトを作り上げる事に成功した好例であるといえるでしょう。
Gianoローテーブル フィアム社(製造終了)
10mmないしは12mmの厚さのガラスを曲げて作られたローテーブル。天板の裏に吊り下げられた棚は6mmの厚さのガラスでできています。3つのサイズで展開されていました。
10mmないしは12mmの厚さのガラスを曲げて作られたローテーブル。天板の裏に吊り下げられた棚は6mmの厚さのガラスでできています。3つのサイズで展開されていました。
Frateテーブル ドリアデ社(1974年)
強化ガラスの天板と墨黒に塗装したスチールの脚を無垢のブナ材の貫(ぬき)で繋げたテーブル。極限までフォルムの本質に迫ったのが特徴で、現在に至るまで製造されている名作のひとつです。
強化ガラスの天板と墨黒に塗装したスチールの脚を無垢のブナ材の貫(ぬき)で繋げたテーブル。極限までフォルムの本質に迫ったのが特徴で、現在に至るまで製造されている名作のひとつです。
木製椅子 モデル1123xP 写真:Gianluca Di Ioia
理論家としてのマーリ
エンツォ・マーリはプロジェッティスタ(デザイナー)であっただけでなく、教師、政治活動家、そして理論家でもありました。彼の経歴には数多くの著作があります。
最も重要な著作として挙げられるものの中に『25 modi per piantare un chiodo(釘1本を打つ25の方法)』(モンダドーリ社、2011年)、そしてコッライーニ社から発表された1974年初版の『Autoprogettazione?(アウトプロジェッタツィオーネ?)』があります。
板と釘を簡単に組み合わせてできる家具作りのマニュアルであるこの書籍は、そのために必要な基礎的な技術、自分で(アウト)設計(プロジェッタツィオーネ)するための練習、人々を巻き込み、職人的ロジックに基づいて製作のコンセプトに取り組む方法を紹介しています。「フォルム、外観、機能、そして作業工程のダイナミズムを内側から研究する目的で」とエンツォ・マーリは記しています。
理論家としてのマーリ
エンツォ・マーリはプロジェッティスタ(デザイナー)であっただけでなく、教師、政治活動家、そして理論家でもありました。彼の経歴には数多くの著作があります。
最も重要な著作として挙げられるものの中に『25 modi per piantare un chiodo(釘1本を打つ25の方法)』(モンダドーリ社、2011年)、そしてコッライーニ社から発表された1974年初版の『Autoprogettazione?(アウトプロジェッタツィオーネ?)』があります。
板と釘を簡単に組み合わせてできる家具作りのマニュアルであるこの書籍は、そのために必要な基礎的な技術、自分で(アウト)設計(プロジェッタツィオーネ)するための練習、人々を巻き込み、職人的ロジックに基づいて製作のコンセプトに取り組む方法を紹介しています。「フォルム、外観、機能、そして作業工程のダイナミズムを内側から研究する目的で」とエンツォ・マーリは記しています。
長方形のテーブル モデル1123xF
『Autoprogettazione?』(コッライーニ社、1974年)のプロジェクトから
『Autoprogettazione?』(コッライーニ社、1974年)のプロジェクトから
さまざまなシルクスクリーン ダネーゼ社 1972年
1957年、マーリは公私ともに生涯で最も長い関係を築く事になるブルーノ・ダネーゼとジャックリーン・ヴォドツが設立したダネーゼ社とのコラボレーションを開始しました。
彼らと共に、グラフィック、そしてデザインの世界に革命と革新をもたらしたのです。初期の作品には、家庭のインテリア用に考案された量産可能なイラストレーション、そして一連の子供用玩具があります。
1957年、マーリは公私ともに生涯で最も長い関係を築く事になるブルーノ・ダネーゼとジャックリーン・ヴォドツが設立したダネーゼ社とのコラボレーションを開始しました。
彼らと共に、グラフィック、そしてデザインの世界に革命と革新をもたらしたのです。初期の作品には、家庭のインテリア用に考案された量産可能なイラストレーション、そして一連の子供用玩具があります。
16 animali エンツォ・マーリ ダネーゼ社(ミラノ) 1957年
16アニマーリ(16 animali)はパズルで、ひとつの板から彫り出された様々な動物が嵌め込まれています。これは当時一般的だったものとは全く異なるおもちゃでした。実際、この玩具の主役は子どもであり、無限とは言えなくても複数の解釈が可能です。芸術的繊細さとフォルムの設計が初めて一体となっています。
16アニマーリ(16 animali)はパズルで、ひとつの板から彫り出された様々な動物が嵌め込まれています。これは当時一般的だったものとは全く異なるおもちゃでした。実際、この玩具の主役は子どもであり、無限とは言えなくても複数の解釈が可能です。芸術的繊細さとフォルムの設計が初めて一体となっています。
グラフィックデザイナーとしてのマーリ
エンツォ・マーリはグラフィックデザインにも携わり、最初の妻、イエラ・マーリと共に子ども向けの絵本を多く手掛けました。その中に、『りんごとちょう(La mela e la farfalla)』(1960年、ボンピアーニ社)、そして『にわとりとたまご(L’uovo e la gallina)』(1969年、エンメ社)があります。とても革新的なスタイルの絵本で、ダネーゼ社に提供したイラストレーションに用いられたスタイルが見られます。
『おはなしづくりゲーム(Il gioco delle favole)』(1957-65年、コッライーニ社)も、子供たちの本棚に欠かせません。色々な場面をつくる数々の動物や要素が両面に印刷されたカードのセットで、切り込みがあることでカードを組み合わせることができます。子どもたちが無限におはなしを作ることができる、本であると同時に玩具です。
エンツォ・マーリはグラフィックデザインにも携わり、最初の妻、イエラ・マーリと共に子ども向けの絵本を多く手掛けました。その中に、『りんごとちょう(La mela e la farfalla)』(1960年、ボンピアーニ社)、そして『にわとりとたまご(L’uovo e la gallina)』(1969年、エンメ社)があります。とても革新的なスタイルの絵本で、ダネーゼ社に提供したイラストレーションに用いられたスタイルが見られます。
『おはなしづくりゲーム(Il gioco delle favole)』(1957-65年、コッライーニ社)も、子供たちの本棚に欠かせません。色々な場面をつくる数々の動物や要素が両面に印刷されたカードのセットで、切り込みがあることでカードを組み合わせることができます。子どもたちが無限におはなしを作ることができる、本であると同時に玩具です。
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