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庭を介して地域に開く。自由な居場所がある家
自然のなかで生きている感覚を大切にし、素材の手触りや手仕事で豊かな暮らしをつくる建築家の自邸をご紹介します。
永井理恵子
2019年7月3日
静岡県西部に位置する掛川市の中でも遠州灘に面した沖之須地区。建築家の横山浩之さんは、両親から土地を引き継ぎ、自宅と事務所として使うアトリエを建てた。この地区は槇(まき)囲いや塀に囲まれた昔ながらの住宅が多く、道路が細く入り組んでいて「閉じた印象がありました」と横山さん。確かに、初めて訪れる者にとっては、まるで迷路のようだった。
子どもが小学校に上がるタイミングで、自身が生まれ育ち、慣れ親しんだ土地に家を建てることになった横山さんは、なるべくオープンで、地域に受け入れられる家を建てようと考えた。
子どもが小学校に上がるタイミングで、自身が生まれ育ち、慣れ親しんだ土地に家を建てることになった横山さんは、なるべくオープンで、地域に受け入れられる家を建てようと考えた。
どんなHouzz?
住まい手:横山浩之さん、奥様、子ども1人
所在地:静岡県掛川市
敷地面積:431.70㎡
延床面積:122.28㎡(住まい92.47㎡、アトリエ29.81㎡)
規模:LDK、主寝室、子ども室、寝室、洗面室、バスルーム
竣工:2019年3月
構造:木造軸組
設計:横山浩之建築設計事務所の横山浩之さん
施工:八伊勢
敷地内に小さな四角錐の方形屋根の建屋が2つ。正面が自宅、左手がアトリエだ。屋根は、ガルバリウム鋼板の平葺き。横山さんは塗り壁のフラットな質感が好きなため、壁は左官職人がモルタルで下地をしっかり作ってからジョリパットで仕上げた。
住まい手:横山浩之さん、奥様、子ども1人
所在地:静岡県掛川市
敷地面積:431.70㎡
延床面積:122.28㎡(住まい92.47㎡、アトリエ29.81㎡)
規模:LDK、主寝室、子ども室、寝室、洗面室、バスルーム
竣工:2019年3月
構造:木造軸組
設計:横山浩之建築設計事務所の横山浩之さん
施工:八伊勢
敷地内に小さな四角錐の方形屋根の建屋が2つ。正面が自宅、左手がアトリエだ。屋根は、ガルバリウム鋼板の平葺き。横山さんは塗り壁のフラットな質感が好きなため、壁は左官職人がモルタルで下地をしっかり作ってからジョリパットで仕上げた。
かつて暮らした借家は、2階をリビング、1階部分をアトリエとしていた。数秒あれば、家庭人から仕事人への切替が容易にできると実感。当初から、アトリエと自宅は別棟と決め、庭やウッドデッキを介してゆるやかに繋がる程よい距離感を意識した。
写真正面はアトリエ。右手は、自転車やアウトドアグッズを収納するスペースになっている。土留めに割栗石を並べた。
庭の設計は植真 太田造園に依頼。なだらかな段差がある庭にはサルスベリやアオダモなどが植えてあり、四季折々に咲く花が目を楽しませる。庭が前面にあることで、実際よりも敷地に深い奥行きが感じられる。
写真正面はアトリエ。右手は、自転車やアウトドアグッズを収納するスペースになっている。土留めに割栗石を並べた。
庭の設計は植真 太田造園に依頼。なだらかな段差がある庭にはサルスベリやアオダモなどが植えてあり、四季折々に咲く花が目を楽しませる。庭が前面にあることで、実際よりも敷地に深い奥行きが感じられる。
アトリエと対角の位置に自宅の棟がある。2つの棟の間は家族用の駐車場と洗濯物干し場。自宅へのアプローチや庭から見えないようにした。
写真正面は南に向いたLDKの窓。木製サッシを採用しており、窓に雨がかからないようにするためにも、軒を100cmと長く取った。長い軒は、夏は室内へ日差しが入るのを防ぎ、冬はLDKに陽だまりを作る。
「自然の中で生きていることを実感できるよう雨樋はあえて取り付けなかった」という横山さん。窓越しや屋根につたう雫で雨量を実感する。
写真正面は南に向いたLDKの窓。木製サッシを採用しており、窓に雨がかからないようにするためにも、軒を100cmと長く取った。長い軒は、夏は室内へ日差しが入るのを防ぎ、冬はLDKに陽だまりを作る。
「自然の中で生きていることを実感できるよう雨樋はあえて取り付けなかった」という横山さん。窓越しや屋根につたう雫で雨量を実感する。
玄関を入るとLDKがある。玄関の面積は1/4坪ほど。通常なら一坪程度確保するところを、あえて小さくした。長くマンションやアパートで暮らしてきた横山さんにとって、慣れた広さだ。実際、靴を履かずとも玄関のドアに手がとどき、宅配便のような短時間の対応が楽にできる。
天井は、屋根の形をそのまま活かした勾配天井で、リビングダイニングの床は30cmレベルを下げて空間に高さをだした。通常なら束の上に構造材を乗せるところ、通気を確保し、基礎のコンクリートの上に置いたパッキンの上に構造材を乗せるという手法を取った。
敷地自体が約130坪と広いので、最初から二階建ては考えなかったという横山さん。自身が手がけてきた住宅も平屋が多いという。「素材の質感を日々感じると豊かな気持ちで過ごせると思います。暮らしていくうちに建物が “住まい” に近づいていくよう常に考え設計しています」という言葉は、自邸にも通じる。およそ27坪の平家はコンパクトながら、素材は手ざわり感があるものを選んでいる。壁は漆喰。 床材は無垢の杉板にオイルステインで色をつけた。
敷地自体が約130坪と広いので、最初から二階建ては考えなかったという横山さん。自身が手がけてきた住宅も平屋が多いという。「素材の質感を日々感じると豊かな気持ちで過ごせると思います。暮らしていくうちに建物が “住まい” に近づいていくよう常に考え設計しています」という言葉は、自邸にも通じる。およそ27坪の平家はコンパクトながら、素材は手ざわり感があるものを選んでいる。壁は漆喰。 床材は無垢の杉板にオイルステインで色をつけた。
南側にある窓は1つだけ。窓の高さは150cmだが、リビングダイニングの床が一段下がっているので実際よりも大きく感じる。掃き出し窓のようで、出窓のようにも見せるという曖昧さのある窓だ。
窓の右側ははめ殺し。いつもクリアな視界で景色を楽しめるよう、網戸は窓の室内側に設置。窓の左側にある米ヒバで設えた戸袋に、網戸も窓も収まる。
窓から入ってきた光が漆喰の塗り壁に反射し、家の中に濃淡を生み出す。横山さんは「家のなかで移ろう時間や季節を感じ、自然と自分の生活リズムが一体化する感覚がとても気持ちいい」という。
窓の右側ははめ殺し。いつもクリアな視界で景色を楽しめるよう、網戸は窓の室内側に設置。窓の左側にある米ヒバで設えた戸袋に、網戸も窓も収まる。
窓から入ってきた光が漆喰の塗り壁に反射し、家の中に濃淡を生み出す。横山さんは「家のなかで移ろう時間や季節を感じ、自然と自分の生活リズムが一体化する感覚がとても気持ちいい」という。
オーク材とステンレスを組み合わせたII型の造作キッチンは、Dear Native Co. が造作。ビルトインコンロとカップボードを背面に設置。壁のタイルは名古屋モザイク工業のもの。基本設計を元に打ち合わせを重ねてこの形になった。
「キッチンも庭も、相手の良さを引き出しながら作っていけたらいいと考えていました。取っ手ひとつとっても、いろんな提案をしてもらい、自分色に染めないで作り上げていくのが楽しかったです」と横山さん。
「キッチンも庭も、相手の良さを引き出しながら作っていけたらいいと考えていました。取っ手ひとつとっても、いろんな提案をしてもらい、自分色に染めないで作り上げていくのが楽しかったです」と横山さん。
シンクと調理台は、リビング側に配置。暮らしの道具は、横山さんと奥様が買い揃えてきたもの。民芸品や手作りの品に惹かれるという横山さん。お気に入りを集めていくのも、どこへ置こうか考えるのも暮らしの楽しみ、と目を細める。
LDKから主寝室を眺める。手前の柱には、藤を巻いた。
主寝室にはベッドを置かず、毎晩、布団を敷いて眠っている。主寝室の左右にオープンクローゼットを設け、リネンの白いカーテンを扉がわりに設えた。
主寝室にはベッドを置かず、毎晩、布団を敷いて眠っている。主寝室の左右にオープンクローゼットを設け、リネンの白いカーテンを扉がわりに設えた。
リビングの一角にデスクを置き、ワークスペースに。お子さんは、誰に言われたわけではなく、ここで宿題を終えるとダイニングテーブルに移動し、絵を描いて過ごす。自分のテリトリーを自分で作っていくことが自然とできる間取りになっている。
友人たちが大勢集まると、リビングダイニングの段差がベンチ代わりになる。この空間の人口密度が高まればオープンな主寝室に人が移動し、個々がごく自然に自分の居場所を作っていく。庭も同じで、ウッドデッキに座る人がいれば、芝生の上に寝転ぶ人もいる。人、調度品、いろんなモノの居場所を許容できる空間にしたかったという横山さんの言葉通り、訪れる人に居心地のいい場を提供する。
友人たちが大勢集まると、リビングダイニングの段差がベンチ代わりになる。この空間の人口密度が高まればオープンな主寝室に人が移動し、個々がごく自然に自分の居場所を作っていく。庭も同じで、ウッドデッキに座る人がいれば、芝生の上に寝転ぶ人もいる。人、調度品、いろんなモノの居場所を許容できる空間にしたかったという横山さんの言葉通り、訪れる人に居心地のいい場を提供する。
主寝室とデスクスペースの間を進むと、子ども部屋と寝室がある。いずれも5畳の広さだ。1室は子ども部屋、もう1室は将来に備えて。子ども部屋の床とリビングの床との高低差は36cmだが、空いている1室の窓からLDKを眺めると、もっと高いところに移動してきたように錯覚する。
キッチンと寝室の間にある廊下の奥に、洗面室とバスルームがある。床はPタイル、洗面台はDear Native Co. による造作。置き家具をイメージして、脚をつけた。洗面ボウルの位置を左側に寄せ、右側に奥様のメイクスペースを作った。
トイレには、トイレットペーパーをストックしておくニッチを設けた。
照明のスイッチは新金プレートを使用。飽きのこないスタンダードなデザインだ。照明は、ダイニングのペンダントライト以外はウォールライトを中心に配置し、寝室は1つにするなど数を絞った。
「天井の高さ、窓の数、照明の数。どれも最小限にしたのは、数が少なくても用が足り、日々暮らせるということを伝えたかったから」と横山さん。自邸のオープンハウスに訪れた多くの人から「こんなに少なくてもいいんですね」と言われるそう。
「天井の高さ、窓の数、照明の数。どれも最小限にしたのは、数が少なくても用が足り、日々暮らせるということを伝えたかったから」と横山さん。自邸のオープンハウスに訪れた多くの人から「こんなに少なくてもいいんですね」と言われるそう。
昔ながらの街並みが続く地域の中に、ぽっかりとできた公園のような雰囲気の横山邸。子ども達がふらりとやってきてちょっと遊んだりする、オープンな場になっている。訪れる友人たちも、庭で、家の中で、銘々の居場所を見つけ、自由にくつろぐ。
庭の緑、雨の流れ、季節ごとの陽の光。地域に開かれ、自然と一緒に心地よく生きていける家には、暮らす人も、訪れる人も、肩の力を抜いてゆったりと過ごす居場所がある。
ほかのHouzzツアー(お宅訪問)の記事を読む
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