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不思議な名前のアンティーク家具、その呼び名の由来と意味
サイドボードはもともと毒見をする場所だったってご存じでしたか? 歌のリフレインや貴族の名前、「背高のっぽの召使い」「あれこれ飾れます」……すべて家具名の由来です。アンティーク家具の名前のユニークな物語をお楽しみください。
西谷典子|Noriko Nishiya
2016年6月2日
普段、私達アンティークディーラーが何気なく呼んでいる家具の名前も、実はよく考えると、その由来をよく知らないものが数々あります。今回は、「なぜこの名前が?」と不思議に思い、その意味を知ると「なるほど!」となる、ユニークでおもしろいアンティーク家具の名前の由来をピックアップしてご説明しましょう。
カードゲームの呪文から?《ルー・テーブル》
そもそもルー(Loo)とは、イギリス英語でトイレという意味がありますが、このルー・テーブルのルーとは、綴りは同じですが意味が違います。17世紀から19世紀にかけて貴族の間で流行った「ルー」という賭け事のカードゲーム名だそうですが、もともとはフランス語の「ランタルー」という呼称がイギリスに来てから省略され、「ルー」という名前が定着したようです。ちなみに「ランタルー」とは、歌の最後のリフレインで「ラン・タ・ルー、ラン・タ・ルー」のように歌った意味のない言葉のようです。日本語だと「タン・タラ・タン」といったような感じでしょうか……。
そもそもルー(Loo)とは、イギリス英語でトイレという意味がありますが、このルー・テーブルのルーとは、綴りは同じですが意味が違います。17世紀から19世紀にかけて貴族の間で流行った「ルー」という賭け事のカードゲーム名だそうですが、もともとはフランス語の「ランタルー」という呼称がイギリスに来てから省略され、「ルー」という名前が定着したようです。ちなみに「ランタルー」とは、歌の最後のリフレインで「ラン・タ・ルー、ラン・タ・ルー」のように歌った意味のない言葉のようです。日本語だと「タン・タラ・タン」といったような感じでしょうか……。
話を戻しますが、このルー・ゲームを楽しむためのテーブルとしてつくられたのがこのルー・テーブル。カードゲームをしないときは天板を上げ、場所をとらずに収納することができます。カードゲームをする際に皆の目につく天板のデザインを、インレイやマーケットリーなどの技法で装飾が施された贅沢なつくりにすることで、所有者の貴族の富を誇示していたようです。
「インレイ」「マーケットリー」についてはこちらも参考に:
アンティーク家具の木材について知る 2:ウォールナット材
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アンティーク家具の木材について知る 2:ウォールナット材
船上の書き物机《ダヴェンポート・デスク》
このデスクは最初に〈ランカスター・オブ・ギロー〉社が18世紀後半にデザインしたものとして知られています。1790年に海軍のキャプテン・ダヴェンポート氏から「船に乗せるための小さいライティングデスクが欲しい」という注文を受け、つくられたものだそうです。このデスクの大きな特徴は、ライティングデスク用として天板が斜めになっていること。中に書類を保管できるようになっています。
このデスクは最初に〈ランカスター・オブ・ギロー〉社が18世紀後半にデザインしたものとして知られています。1790年に海軍のキャプテン・ダヴェンポート氏から「船に乗せるための小さいライティングデスクが欲しい」という注文を受け、つくられたものだそうです。このデスクの大きな特徴は、ライティングデスク用として天板が斜めになっていること。中に書類を保管できるようになっています。
サイドには必ず、チェストのような引き出しがありますが、トップに筆箱のような箱がついているものも一部見かけます。ギロー社のダヴェンポート・デスクの多くは、中に小さな扉や引き出しがあり、簡単には開けられない構造の複雑なからくりになっており、現在でもコレクターの間で、高く売買されているアイテムです。
公爵夫人の朝食用《ペンブローク・テーブル》
このテーブルは、トーマス・チッペンデールが1750年にペンブローク公爵夫人のために製作したテーブルとされています。ベッドルームに置く朝食用の小さなテーブルという依頼だったようですが、夫人の背の高さに合わせ、座ったときに膝のちょっと上くらいに天板の高さがある、低めのテーブルであることが特徴です。
トーマス・チッペンデールについてはこちらも参考に:
もっと知りたい、タイムレスデザインの椅子1:チッペンデールチェア
このテーブルは、トーマス・チッペンデールが1750年にペンブローク公爵夫人のために製作したテーブルとされています。ベッドルームに置く朝食用の小さなテーブルという依頼だったようですが、夫人の背の高さに合わせ、座ったときに膝のちょっと上くらいに天板の高さがある、低めのテーブルであることが特徴です。
トーマス・チッペンデールについてはこちらも参考に:
もっと知りたい、タイムレスデザインの椅子1:チッペンデールチェア
その後、このテーブルはチッペンデールの大ヒットしたデザイン本にも「ブレックファストテーブル」として紹介されていますが、その後、ネオクラシック時代の1780年頃にも改めて流行しました。なお、現在出回っているペンブローク・テーブルの多くは、このネオクラシックのスタイルが再びリバイバルした、1910年代につくられたものが多いようです。
「ネオクラシック」についてはこちらも参考に:
アンティーク家具の「脚のデザイン」を知る 3: ネオクラシックの時代
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ヴィクトリア女王の参謀ご用達、実用的な《サザーランド・テーブル》
現代のドロップリーフ・テーブル(天板が両サイドでたためるようになっているテーブル)の原点ともいえる、このサザーランド・テーブルは、ヴィクトリア女王の「ミストレス・オブ・ザ・ローブ」という役職に就いていた、サザーランド公爵夫人、ハリエットのためにつくられたものとされています。このミストレス・オブ・ザ・ローブという地位は、女王の服や宝石の単なるコーディネート役のみならず、いわゆる秘書的な役割をしていたため、陰の参謀として、女王に多大な影響を与えることができる役割でした。
現代のドロップリーフ・テーブル(天板が両サイドでたためるようになっているテーブル)の原点ともいえる、このサザーランド・テーブルは、ヴィクトリア女王の「ミストレス・オブ・ザ・ローブ」という役職に就いていた、サザーランド公爵夫人、ハリエットのためにつくられたものとされています。このミストレス・オブ・ザ・ローブという地位は、女王の服や宝石の単なるコーディネート役のみならず、いわゆる秘書的な役割をしていたため、陰の参謀として、女王に多大な影響を与えることができる役割でした。
このテーブルの特徴は、天板下の脚にキャスターがついていて、簡単にテーブルを広げられるようになっていること。しかも天板の中心が狭く袖の天板が長いため、折りたたむとコンパクト、広げるとかなり大きくなるという機能的なテーブルなのです。女王の秘書として働きつつ、11人の子供の母でもあった良妻賢母のハリエットには、実にぴったりのテーブルだったようです。
背の高さで呼び名が変わった召使い? 《トールボーイ》《ハイボーイ》《ローボーイ》
トールボーイは「チェスト・オン・チェスト」とも呼ばれているのですが、通常、ベースの部分が大きい3段チェストの上に、小さめの4段チェストがのっているものを「トールボーイ」と呼び、トップの部分に飾りがついている、さらに高いサイズのものは「ハイボーイ」と呼ばれています。
トールボーイは普通のチェストよりやや細長い形のものを指しますが、近代ではベース部分が大きく、上にのった部分がそれより小さいカップボードも「トールボーイ」と呼ばれています。
トールボーイは、実用には背が高過ぎる、ということで、過去に上と下を分けて使用されていたものもあり、なかにはマリッジと呼ぶ、大変似たチェストを合わせて売られているものもあるので、見分けには注意が必要です。
トールボーイは「チェスト・オン・チェスト」とも呼ばれているのですが、通常、ベースの部分が大きい3段チェストの上に、小さめの4段チェストがのっているものを「トールボーイ」と呼び、トップの部分に飾りがついている、さらに高いサイズのものは「ハイボーイ」と呼ばれています。
トールボーイは普通のチェストよりやや細長い形のものを指しますが、近代ではベース部分が大きく、上にのった部分がそれより小さいカップボードも「トールボーイ」と呼ばれています。
トールボーイは、実用には背が高過ぎる、ということで、過去に上と下を分けて使用されていたものもあり、なかにはマリッジと呼ぶ、大変似たチェストを合わせて売られているものもあるので、見分けには注意が必要です。
また、ベースの部分だけのサイドテーブルを「ローボーイ」と呼び、脚にはクイーンアン時代のカブリオレレッグのデザインが施されているのが大きな特色です。
18世紀初頭から流行り出したこのトールボーイやローボーイ、名前の由来はあまりはっきりしていません。ただおそらく、ボーイと呼ばれることもある召使いたちが、いつもお屋敷に家具のようにずっと立っているので、その立ち姿からこの呼び名がついたのではないかと推測されます。
カブリオレレッグについてはこちらも参考に:
アンティーク家具の「脚のデザイン」を知る 2: バロックとロココの時代
18世紀初頭から流行り出したこのトールボーイやローボーイ、名前の由来はあまりはっきりしていません。ただおそらく、ボーイと呼ばれることもある召使いたちが、いつもお屋敷に家具のようにずっと立っているので、その立ち姿からこの呼び名がついたのではないかと推測されます。
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あれもこれも飾りたい《ワットノット》
ワットノット(What-Not)は、ご自慢の小物やティーカップなどを置く棚として、19世紀初頭から流行り出した家具でした。ヴィクトリア女王時代中期頃になると、階段形でコーナーに置けるワットノットも流行しました。このワットノットという意味は、日本語にすると「あれもこれも」という意味があり、たとえば「この棚には花瓶とか写真フレームとか、あれやら、これやら飾れる」という感じで、なんでも好きなものをのせられる棚、という意味でつけられた名前のようです。
ワットノット(What-Not)は、ご自慢の小物やティーカップなどを置く棚として、19世紀初頭から流行り出した家具でした。ヴィクトリア女王時代中期頃になると、階段形でコーナーに置けるワットノットも流行しました。このワットノットという意味は、日本語にすると「あれもこれも」という意味があり、たとえば「この棚には花瓶とか写真フレームとか、あれやら、これやら飾れる」という感じで、なんでも好きなものをのせられる棚、という意味でつけられた名前のようです。
楽譜立てに似せた収納つきテーブル《カンタベリー》
ジョージアン時代の人気デザイナー、トーマス・シェラトンの1803年の記録によれば、カンタベリーは「ピアノの下に置く仕切りがついた楽譜立て」と「インフォーマルな夕食用のナイフやフォークなどのカトラリーや、調味料(ソルト&ペッパー)を収納するトロリーワゴン」という2つの違った役割がある家具だったようです。また、彼がこれをカンタベリー大司教のためにデザインしたことから、人々の間ではその呼び名で流行したものだといわれています。
大勢での形式的な夕食ではなく、ひとりで気楽にソファーで取る夕食の際に使う「手を伸ばせばすぐ届くような秘密の引き出しがある小家具」というような依頼があったのでしょうか。楽譜立ての形にカモフラージュしてつくられています。こういったクライアントのこまかい要望と、外観の美しさの両立について妥協しなかった点が、シェラトンの成功につながったのかもしれませんね。
ジョージアン時代の人気デザイナー、トーマス・シェラトンの1803年の記録によれば、カンタベリーは「ピアノの下に置く仕切りがついた楽譜立て」と「インフォーマルな夕食用のナイフやフォークなどのカトラリーや、調味料(ソルト&ペッパー)を収納するトロリーワゴン」という2つの違った役割がある家具だったようです。また、彼がこれをカンタベリー大司教のためにデザインしたことから、人々の間ではその呼び名で流行したものだといわれています。
大勢での形式的な夕食ではなく、ひとりで気楽にソファーで取る夕食の際に使う「手を伸ばせばすぐ届くような秘密の引き出しがある小家具」というような依頼があったのでしょうか。楽譜立ての形にカモフラージュしてつくられています。こういったクライアントのこまかい要望と、外観の美しさの両立について妥協しなかった点が、シェラトンの成功につながったのかもしれませんね。
毒見に使われたテーブル、サイドボードの起源《クレデンザ》
イギリスでは産業革命で財をなしたお金持ちや貴族の間で、1850〜1880年代に贅沢なつくりの「クレデンザ」をリビングルームに置くことが流行しましたが、イタリアではすでに、それよりずっと前の1300年代から使われていたようです。もともと「クレデンザ」はイタリア語で「サイドボード」の意味があり、英語のCredence(信用)の語源でもあります。王族や貴族の食べ物の毒見がこのクレデンザの上でされたことから、信用=クレデンザと名づけられたとされています。また、イギリスではボード(長い天板のテーブル)のサイド(隣り、横)で毒見をするということで「サイドボード」という名前がつけられたようです。
現代のイギリスやイタリアでは食べ物をサイドボードで取り分けることもしなくなり、クレデンザは食器やグラス類を入れるだけのカップボードという意味をもつようになりました。
イギリスでは産業革命で財をなしたお金持ちや貴族の間で、1850〜1880年代に贅沢なつくりの「クレデンザ」をリビングルームに置くことが流行しましたが、イタリアではすでに、それよりずっと前の1300年代から使われていたようです。もともと「クレデンザ」はイタリア語で「サイドボード」の意味があり、英語のCredence(信用)の語源でもあります。王族や貴族の食べ物の毒見がこのクレデンザの上でされたことから、信用=クレデンザと名づけられたとされています。また、イギリスではボード(長い天板のテーブル)のサイド(隣り、横)で毒見をするということで「サイドボード」という名前がつけられたようです。
現代のイギリスやイタリアでは食べ物をサイドボードで取り分けることもしなくなり、クレデンザは食器やグラス類を入れるだけのカップボードという意味をもつようになりました。
おもしろい由来のストーリーをもつ家具を、いくつかご紹介してみました。家具の名前には、歴史上の登場人物が使われることも多いのですが、その当時のゴシップ誌に登場するような貴族の名前もしばしば使われており、どうやら当時の家具デザイナーたちも、人々の話題にしてもらうため、販売戦略のマーケティングは心得ていたようですね。
それぞれの時代で製造され、時代の出来事を名前に織り込みながら流行した家具の多くは、現在でも生き残り、当時の物語の名残を私たちに伝えてくれます。名前の由来を知ることで、皆さんにももっと、アンティーク家具のストーリーに興味と愛着を持っていただけたら、うれしく思います。
こちらの記事もおすすめ:
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コレクションを自分でキュレーションして飾る、アートギャラリーのようなインテリア
それぞれの時代で製造され、時代の出来事を名前に織り込みながら流行した家具の多くは、現在でも生き残り、当時の物語の名残を私たちに伝えてくれます。名前の由来を知ることで、皆さんにももっと、アンティーク家具のストーリーに興味と愛着を持っていただけたら、うれしく思います。
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