アンティーク家具の木材について知る 2:ウォールナット材
家具に使われるポピュラーな木材の種類それぞれについて解説するシリーズ、今回は美しい杢目と細工が特徴のウォールナット材。加工技術の進歩とともに華麗かつ繊細なデザインで人気を集めた高級素材について学びましょう。
西谷典子|Noriko Nishiya
2016年3月11日
このシリーズでは、アンティーク家具についてのベーシックな知識を深めていただくために、主要な木材の特徴についてご説明します。家具に使われている木材の材質、デザインの発展や歴史背景との関連、価値の見分け方やメンテナンス方法など、ぜひ参考にされてください。
古くから人類に親しまれる木
学名“Juglans regia” 種と呼ばれるクルミの木は、アジアから北ヨーロッパ、そしてアメリカの広範囲で生育します。食用のクルミという意味では、バビロニア時代の紀元前2000年前から収穫されていたのではという記録がありますが、最近ではフランス南西地方でローストしたクルミも発掘され、人類は8000年前からクルミを食べていたというのが定説のようです。
木材としては、16世紀から17世紀にフランス、イタリアで多く使われ、マホガニー材がポピュラーになるまでの間は、このウォールナットとオークが家具材では主流でした。ウォールナットはゆっくり成長するので、木目は締まったものとなり、オークよりゆがみや収縮も少ないので、正確な作業に適しています。これが、ウォールナット材が高級家具によく使われる理由です。
学名“Juglans regia” 種と呼ばれるクルミの木は、アジアから北ヨーロッパ、そしてアメリカの広範囲で生育します。食用のクルミという意味では、バビロニア時代の紀元前2000年前から収穫されていたのではという記録がありますが、最近ではフランス南西地方でローストしたクルミも発掘され、人類は8000年前からクルミを食べていたというのが定説のようです。
木材としては、16世紀から17世紀にフランス、イタリアで多く使われ、マホガニー材がポピュラーになるまでの間は、このウォールナットとオークが家具材では主流でした。ウォールナットはゆっくり成長するので、木目は締まったものとなり、オークよりゆがみや収縮も少ないので、正確な作業に適しています。これが、ウォールナット材が高級家具によく使われる理由です。
堅牢で扱いやすい素材
ウォールナットの材質はは大変堅く、ねじを締めても釘を打っても、しっかりと中に固定されます。そのため、頑丈な家具をつくることが可能で、日常よく使う椅子などには実によく適した木材なのです。しかも接着剤はもとより、ペイントも塗りやすいうえしっかり定着する、表面接着性の高い木でもあります。金箔を施しても剥がれづらく、この当時流行りだったロココスタイルの金箔塗りの家具にも、ウォールナット材は多く使われていました。
ウォールナットの材質はは大変堅く、ねじを締めても釘を打っても、しっかりと中に固定されます。そのため、頑丈な家具をつくることが可能で、日常よく使う椅子などには実によく適した木材なのです。しかも接着剤はもとより、ペイントも塗りやすいうえしっかり定着する、表面接着性の高い木でもあります。金箔を施しても剥がれづらく、この当時流行りだったロココスタイルの金箔塗りの家具にも、ウォールナット材は多く使われていました。
書棚や書き物机の発展とともに
このロココ時代には、ケースファニチャーと呼ばれる、いわゆる「箱物」、つまり書棚やキャビネットなどの素晴らしい作品も多く製造されます。活版印刷が発明されて100年も経つと、一般の人も本を読むことができ、そうなると、その本を収納する家具が家庭に必要になります。そして読み書きがさらに生活の中に浸透していくと、視線が向くようになる机やテーブルなどの天板のデザインにも何か工夫が欲しいと考えられ始めます。まさにその頃、このロココ時代から、それまで不可能だったある技術が可能になるのです。
このロココ時代には、ケースファニチャーと呼ばれる、いわゆる「箱物」、つまり書棚やキャビネットなどの素晴らしい作品も多く製造されます。活版印刷が発明されて100年も経つと、一般の人も本を読むことができ、そうなると、その本を収納する家具が家庭に必要になります。そして読み書きがさらに生活の中に浸透していくと、視線が向くようになる机やテーブルなどの天板のデザインにも何か工夫が欲しいと考えられ始めます。まさにその頃、このロココ時代から、それまで不可能だったある技術が可能になるのです。
ベニヤの製造技術の誕生
それは、17世紀中頃にウォールナットのような堅い木材を薄く切ることができる鋸(のこぎり)の発明が発端でした。当時の腕のよい職人はこの鋸を使って、厚さ2.5cmの板をハンドカットで7~8枚にスライスすることができたそうです。こうして、「ベニヤ」と呼ばれる、厚さ数ミリの板の製造が可能になりました。
ちなみにこの薄い板を英語では「ベニヤ(Veneer)」と言い、日本語では「突板」と呼ばれます。英語の「ベニヤ」は日本の合板を指す「ベニヤ板」とは意味が異なり、日本の薄い板を交互に重ねて厚くした合板は、英語では「プライウッド(Plywood)」と呼ばれています。少しややこしいですが、つまり英語の「ベニヤ」には決してクオリティの落ちるイメージはなく、むしろその逆で、「家具の表面になりうる杢目のきれいな薄い木材」という解釈がされています。
それは、17世紀中頃にウォールナットのような堅い木材を薄く切ることができる鋸(のこぎり)の発明が発端でした。当時の腕のよい職人はこの鋸を使って、厚さ2.5cmの板をハンドカットで7~8枚にスライスすることができたそうです。こうして、「ベニヤ」と呼ばれる、厚さ数ミリの板の製造が可能になりました。
ちなみにこの薄い板を英語では「ベニヤ(Veneer)」と言い、日本語では「突板」と呼ばれます。英語の「ベニヤ」は日本の合板を指す「ベニヤ板」とは意味が異なり、日本の薄い板を交互に重ねて厚くした合板は、英語では「プライウッド(Plywood)」と呼ばれています。少しややこしいですが、つまり英語の「ベニヤ」には決してクオリティの落ちるイメージはなく、むしろその逆で、「家具の表面になりうる杢目のきれいな薄い木材」という解釈がされています。
流麗なロココスタイルとの密接な関係
木目の美しい薄手の板を製造できる技術の進歩で、家具の形も大きく変わり、ちょうど時はロココの時代、デザインはよりいっそう華々しくなっていきます。そもそもウォールナット材は、彫刻をしなくても杢目そのものが美しく、ベニヤ(突板)にして杢目を強調した家具をつくるにはぴったりでした。この時期にはまた、薄い板を曲げてカーブを持たせたデザインもつくれるようになり、それまでがっしりとした重厚な彫刻が入ったゴシックスタイルより、もっと洗練された曲線を描く家具が人気を呼ぶ時代になったわけです。
木目の美しい薄手の板を製造できる技術の進歩で、家具の形も大きく変わり、ちょうど時はロココの時代、デザインはよりいっそう華々しくなっていきます。そもそもウォールナット材は、彫刻をしなくても杢目そのものが美しく、ベニヤ(突板)にして杢目を強調した家具をつくるにはぴったりでした。この時期にはまた、薄い板を曲げてカーブを持たせたデザインもつくれるようになり、それまでがっしりとした重厚な彫刻が入ったゴシックスタイルより、もっと洗練された曲線を描く家具が人気を呼ぶ時代になったわけです。
17世紀からは、家具の仕上げをさらにきれいにする技術が発達します。たとえばベニヤ(突板)のウォールナットを使う際、表面のつぎはぎが見えないよう、まるで一枚板のように木目を合わせて貼りつける技術、また、家具の見えない部分の枠にあまり高価ではない頑丈な木材であるいちい材やオーク材などを使い、表面の部分だけきれいな杢目のベニヤを使う技術などです。そういった工夫がなされた家具もどんどん登場してきます。
ウォールナットのレアな杢目
前回の記事「アンティーク家具の木材について知る 1:オーク材」で、オーク材の「バール」(デザイン的価値のあるコブ)についてご説明しましたが、ウォールナットにもやはり、このコブや根の部分をスライスして突板にした「バール・ウォールナット」があり、その杢目で木材の価値が決まります。
たとえば稀な杢目としては、「オイスター・ベニヤ・ウォールナット」と呼ばれる貝を開いたような形の杢目、「フィギュアード・ウォールナット」と呼ばれるまっすぐな木目の上に横の線を重ねたような複雑な模様の入った杢目などは、家具というよりも美術品、工芸品に近い、最高級の家具の木材に使用されます。
前回の記事「アンティーク家具の木材について知る 1:オーク材」で、オーク材の「バール」(デザイン的価値のあるコブ)についてご説明しましたが、ウォールナットにもやはり、このコブや根の部分をスライスして突板にした「バール・ウォールナット」があり、その杢目で木材の価値が決まります。
たとえば稀な杢目としては、「オイスター・ベニヤ・ウォールナット」と呼ばれる貝を開いたような形の杢目、「フィギュアード・ウォールナット」と呼ばれるまっすぐな木目の上に横の線を重ねたような複雑な模様の入った杢目などは、家具というよりも美術品、工芸品に近い、最高級の家具の木材に使用されます。
寄木あるいは象嵌細工「マーケットリー」
ベニヤ(突板)が登場して以来、ヨーロッパでは、寄木細工の入った芸術品のような家具が大流行します。寄木または象嵌細工のことを英語で「マーケットリー(marketery)」と呼びますが、これは切り絵のように色をつけ、絵にそって切り抜いた木片で家具の表面を飾る技法です。伝統的な素材として、いちい、栗の木、パイン、マザーオブパールや象牙、また鼈甲などが使われましたが、その他フランスでは、黒檀にはめ込むスタイルも流行しました。フランス王室のお抱え職人アンドレ・シャルル・ブールは、ルイ14世から許可を得て、ルーブル宮に工房を持っていたほどの素晴らしい腕のマーケットリー・アーティストで、彼の作品は博物館級のアンティーク家具として扱われています。
ベニヤ(突板)が登場して以来、ヨーロッパでは、寄木細工の入った芸術品のような家具が大流行します。寄木または象嵌細工のことを英語で「マーケットリー(marketery)」と呼びますが、これは切り絵のように色をつけ、絵にそって切り抜いた木片で家具の表面を飾る技法です。伝統的な素材として、いちい、栗の木、パイン、マザーオブパールや象牙、また鼈甲などが使われましたが、その他フランスでは、黒檀にはめ込むスタイルも流行しました。フランス王室のお抱え職人アンドレ・シャルル・ブールは、ルイ14世から許可を得て、ルーブル宮に工房を持っていたほどの素晴らしい腕のマーケットリー・アーティストで、彼の作品は博物館級のアンティーク家具として扱われています。
寄木細工のなかでもモザイクや幾何学模様、ヘリンボーンなどの模様は「パーケットリー(parketery)」と呼ばれ、、ベニヤの模様だけではなくフローリングやテーブルの天板の模様としても使われている細工です。特にフランスやベルギーのディナーテーブルの天板には、このパーケットリーのデザインがよく使用されています。
異素材をはめこむ「インレイ」
また、家具の表面ををくりぬいて金属やマザーオブパール、象牙などをはめ込む「インレイ(inlay)」という細工もあります。古代エジプトやアジアでも、貝を使った螺鈿(らでん)細工の技法は使われていましたが、ヨーロッパでは15世紀にイタリアで、大理石に色違いの石などを組み合わせた、インレイのフローリングや壁のデザインが流行し、それから家具にも使われるようになったようです。この技法もやはり、木を薄くカットできるようになった17世紀頃から発展し、また当然のことながら収縮しない木でないと対応できないので、ウォールナットをはじめとした上質な素材の家具にのみ用いられています。
また、家具の表面ををくりぬいて金属やマザーオブパール、象牙などをはめ込む「インレイ(inlay)」という細工もあります。古代エジプトやアジアでも、貝を使った螺鈿(らでん)細工の技法は使われていましたが、ヨーロッパでは15世紀にイタリアで、大理石に色違いの石などを組み合わせた、インレイのフローリングや壁のデザインが流行し、それから家具にも使われるようになったようです。この技法もやはり、木を薄くカットできるようになった17世紀頃から発展し、また当然のことながら収縮しない木でないと対応できないので、ウォールナットをはじめとした上質な素材の家具にのみ用いられています。
害虫と紫外線には要注意
ウォールナットは堅くて頑丈な木材ではあるのですが、害虫にはあまり強くはありません。フランスにはウォールナット材が豊富にあり、北ヨーロッパのものよりも早く成長するので、どこの国よりも多く生産されたのですが、年じゅう穏やかで暖かい気候のため、残念なことに虫食いも多いのが事実です。フランス、イタリアなどの気候の暖かい土地でつくられた古いウォールナット家具を購入する際には、虫食いに注意が必要です。
またウォールナット材は紫外線にも要注意で、アンティーク家具のなかには長い間花瓶やレースなどが飾られていた部分だけ色が薄くなっていることがしばしばあります。日が当たると、色がだんだん濃くなっていきますので、この点に関するケアも忘れないようにしてください。
ウォールナットは堅くて頑丈な木材ではあるのですが、害虫にはあまり強くはありません。フランスにはウォールナット材が豊富にあり、北ヨーロッパのものよりも早く成長するので、どこの国よりも多く生産されたのですが、年じゅう穏やかで暖かい気候のため、残念なことに虫食いも多いのが事実です。フランス、イタリアなどの気候の暖かい土地でつくられた古いウォールナット家具を購入する際には、虫食いに注意が必要です。
またウォールナット材は紫外線にも要注意で、アンティーク家具のなかには長い間花瓶やレースなどが飾られていた部分だけ色が薄くなっていることがしばしばあります。日が当たると、色がだんだん濃くなっていきますので、この点に関するケアも忘れないようにしてください。
ヨーロッパの列強国が新大陸を発見し、それとともにもたらした木材や最新の技術が、家具製造の分野でもさまざまな形で発展しました。ウォールナットはそういった新技術に順応できる数少ない木材だったため、この時期その人気は絶大なものでしたが、その人気は1721年から、ぱったりと落ちてしまいます。
何が起こったのでしょうか?
次回はウォールナット材の人気を突然奪った、マホガニー材のご紹介をしましょう。
こちらもあわせて
自分らしさを形にできるオーダー家具という選択
- オーダー家具の専門家を探す
- 家具修繕の専門家を探す
- 家具・インテリア雑貨の専門店を探す
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頑張ります!
初めまして。記事をよく拝見させていただいおります。私はアメリカのビンテージ、アンティーク家具について勉強中なのですが、これらの記事はヨーロッパなどに限った話なのでしょうか?
アメリカは18世紀までイギリスの植民地だった関係上歴史的にはヨーロッパが基本になっています。