三世代同居、それぞれのライフスタイルやメンテナンスに配慮した家《ウィークリンク》
二世帯住宅の各世代がストレスなく暮らせるよう、6つの切妻屋根の家を絶妙な配置でゆるやかにリンクさせた空間。省エネにも配慮した住まいです。

Miki Anzai
2017年11月20日
山梨県の甲府駅から車で約30分。日本家屋が立ち並ぶ閑静な住宅街の中に、異彩を放つモダンな平屋が建っている。住まい手は、30代の夫妻と子供一人である。以前は、ご主人の祖父母が暮らした木造2階建ての家屋があり、何十年も空き家だった。長男である施主は、ここを受け継ぎ、ゆくゆくは両親と同居することを期待されていた。しかし、勤務地に近い市内のマンション暮らしは便利で不自由ない。なかなか決断できなかったが、同じく二の足を踏んでいた奥様の気持ちが動いた。「甲府に大雪が降ったときのことです。ここを訪れると、雪景色が美しく、息をのみました」。
早速、地元で4代続く人気工務店〈丸正渡邊工務所〉に相談し、「自身も二世帯住宅に暮らし、同居の難点を熟知している」〈Smart Running 一級建築士事務所〉の小泉一斉さんに設計を依頼した。完成した家は、夫妻の望んだ「各世代がストレスなく暮らせる家」であり、「なるべく自然素材を使い、省エネに配慮し、メンテナンスの手間もかからない住まい」だ。
「まさに《ウィークリンク》という名がぴったりの、付かず離れずの空間に大満足です」という施主夫妻。建築家の小泉さん、施工業者の〈丸正渡邊工務所〉の渡邊正博社長と、現場監督だった角田達哉さんを自宅に招き、住み心地を語ってくれた。
早速、地元で4代続く人気工務店〈丸正渡邊工務所〉に相談し、「自身も二世帯住宅に暮らし、同居の難点を熟知している」〈Smart Running 一級建築士事務所〉の小泉一斉さんに設計を依頼した。完成した家は、夫妻の望んだ「各世代がストレスなく暮らせる家」であり、「なるべく自然素材を使い、省エネに配慮し、メンテナンスの手間もかからない住まい」だ。
「まさに《ウィークリンク》という名がぴったりの、付かず離れずの空間に大満足です」という施主夫妻。建築家の小泉さん、施工業者の〈丸正渡邊工務所〉の渡邊正博社長と、現場監督だった角田達哉さんを自宅に招き、住み心地を語ってくれた。
どんなHouzz?
所在地:山梨県中央市
概要:(建て替え)新築・木造平屋
住まい手:施主夫妻と子供一人
敷地面積:573.52平方メートル
延床面積:143.66平方メートル
竣工:2017年3月
構造: 桑子建築設計事務所(桑子亮)
プロデュース・施工: 丸正渡邊工務所(渡邊正博、角田達哉)
設計・監理・撮影:Smart Running(小泉一斉)
約200坪ある日本庭園と菜園のある南側はそのまま残し、平屋の同居住宅部分は、機能ごとに6つの小屋を東西にずらしながら連結させた。そうすることで、趣味・趣向と生活リズムが異なる3世代の距離感を大切にした住まいだ。
所在地:山梨県中央市
概要:(建て替え)新築・木造平屋
住まい手:施主夫妻と子供一人
敷地面積:573.52平方メートル
延床面積:143.66平方メートル
竣工:2017年3月
構造: 桑子建築設計事務所(桑子亮)
プロデュース・施工: 丸正渡邊工務所(渡邊正博、角田達哉)
設計・監理・撮影:Smart Running(小泉一斉)
約200坪ある日本庭園と菜園のある南側はそのまま残し、平屋の同居住宅部分は、機能ごとに6つの小屋を東西にずらしながら連結させた。そうすることで、趣味・趣向と生活リズムが異なる3世代の距離感を大切にした住まいだ。
施主夫妻が小泉さんの設計案を採用したのは「いわゆるシステム化された住宅と違って、私たちの意向が巧みに反映されていたから」という。建物は、サイズの異なる切妻屋根の小屋を、既存の樹木を避けながら横につなげて配置。隣り合う小屋がくっつく部分を、その形状のまま開口にすることで、家族間の距離を絶妙にコントロールしている。
明るく開放的な玄関。奥様は「リビングとの境を木製ガラス引き戸にすると、中が丸見えになってしまうかも」と最初は心配したそう。しかし「反射して意外と見えにくい」だけでなく、正面の地窓との効果も相まって「光あふれる閉塞感のない入口」になって、とても喜んでいる。
シューズクローク(写真右側)には、廊下側からも出入りできる。
シューズクローク(写真右側)には、廊下側からも出入りできる。
戸建てに住むのは初めてという奥様。いろいろと調べて参考にしたのが、デンマークの建築家、フィン・ユールの自邸だ。ユール邸の魅力である「切妻屋根(家型)」と「白を基調にしながら差し色を入れる手法」を、この家に取り入れた。
まず全室の床から1.86mの壁を、白い珪藻土で統一。その上の壁と天井を「明度と彩度は揃え、色相のみを変えて、隣り合う部屋の色が同系色にならないように」塗り分けた。他の作品でも色を使うことの多い小泉さんが、工夫を凝らした力作だ。
まず全室の床から1.86mの壁を、白い珪藻土で統一。その上の壁と天井を「明度と彩度は揃え、色相のみを変えて、隣り合う部屋の色が同系色にならないように」塗り分けた。他の作品でも色を使うことの多い小泉さんが、工夫を凝らした力作だ。
夫妻の寝室の天井の色は、ホワイトとグレーが混ざったブルーに。「落ち着いた色なので、安眠できるだけでなく、目覚めもさわやかです」とご主人。
この家でいちばん天井が高いのがこのリビング。和室、ダイニングキッチン(写真奥)と合わせた大空間は、壁ではなく収納家具でゆるやかに仕切られている。
当初、和室は客間として計画したが、「横になってお昼寝をしたり、新聞を読んだりと、意外にも使用頻度が高い場所になりました」と奥様。ご主人の希望で、造作家具の吹き出し部(ガラリ)には以前の家の建具飾りを再利用した。飾りの寸法をガラリに合わせるために、機転を利かせて側面に縦格子を追加したのは、現場監督の角田さん。大工仲間から「建具屋でも始めたのか?」とからかわれたそう。中に床置き型エアコンを収納している。
当初、和室は客間として計画したが、「横になってお昼寝をしたり、新聞を読んだりと、意外にも使用頻度が高い場所になりました」と奥様。ご主人の希望で、造作家具の吹き出し部(ガラリ)には以前の家の建具飾りを再利用した。飾りの寸法をガラリに合わせるために、機転を利かせて側面に縦格子を追加したのは、現場監督の角田さん。大工仲間から「建具屋でも始めたのか?」とからかわれたそう。中に床置き型エアコンを収納している。
施主夫妻がこの家を建てるにあたり、強く希望したのが「メンテナンスのしやすさ」である。そのため雨どいや軒をなくし、屋根と外壁は耐久性に優れたガルバリウム鋼板の平葺きに。また床下換気・防湿・点検もしやすいように、床の高さを地面より最大60cmも上げ、全面コンクリートのベタ基礎にした。
物見台は「せっかく富士山が見える場所に住んでいるのだから」と、ご主人の希望でつくった。「祖父の家の2階からもよく見ていました」というご主人。
外階段:防錆性能の高い溶融亜鉛メッキ
手摺壁:木目が美しく、耐久性も高いイペ材
外階段:防錆性能の高い溶融亜鉛メッキ
手摺壁:木目が美しく、耐久性も高いイペ材
完成した物見台を感慨深げに見あげる施主(写真右)と、施工会社社長の渡邊さん。
「来夏は、あの上にパラソルとデッキチェアを出して、ビールを飲もうと楽しみにしています」と話すご主人。家の外壁に選んだ銀黒色のガルバリウム鋼板も、既製品ではなく、板金屋の手造りのため「なかなか味わい深いです」。
「来夏は、あの上にパラソルとデッキチェアを出して、ビールを飲もうと楽しみにしています」と話すご主人。家の外壁に選んだ銀黒色のガルバリウム鋼板も、既製品ではなく、板金屋の手造りのため「なかなか味わい深いです」。
台所には、使い勝手と予算を考慮して、システムキッチン(I型)を採用した。そのまま工業製品を置くと、ナラ無垢材のフローリングや背面の造作収納とマッチせず、かなり違和感があった。そこで、ラワン合板を「下見板張り」にした腰壁を設えた。外壁の平葺きと連続性を持たせることで「ぐっと高級感が出て、システムキッチンとは思えないです」。
ここでも、キッチン背面に設置したラワン合板製収納家具は、仕切り役になっている。裏に出来たスペースを、夫妻はパントリーとして活用している。
ここでも、キッチン背面に設置したラワン合板製収納家具は、仕切り役になっている。裏に出来たスペースを、夫妻はパントリーとして活用している。
両親の寝室。玄関までのわずか3mの廊下に、2ヶ所の引き戸が用意されている。第1の戸は和室と廊下の境、第2の戸はトイレと玄関の境に設置した。
「両方の戸を閉めてしまえば、お互いの寝室の音は聞こえません」と施主夫妻。音響面だけでなく「来客があったときは、和室の境だけ閉めて自由にトイレを使ってもらい、夜はトイレとの境だけを閉めれば、両親がトイレに直行できます」と、実用面でのメリットもあるという。
南側の広い開口からは、父が手がける家庭菜園付きの立派な日本庭園が見渡せる。
「両方の戸を閉めてしまえば、お互いの寝室の音は聞こえません」と施主夫妻。音響面だけでなく「来客があったときは、和室の境だけ閉めて自由にトイレを使ってもらい、夜はトイレとの境だけを閉めれば、両親がトイレに直行できます」と、実用面でのメリットもあるという。
南側の広い開口からは、父が手がける家庭菜園付きの立派な日本庭園が見渡せる。
家をつくるうえで、施主がもうひとつ重視したテーマが「エコと省エネ」である。特に2011年の東日本大震災の後、被災地を訪れ、法務面からも被災者の支援を続けているご主人だけに、ここは譲れない点だった。無垢材の床、珪藻土の壁、ラワン材の造作家具などに加え、屋根には太陽光パネルを設置した。
東に面した道路側からの眺め。ここからは「複雑に見え隠れする6つの空間が連続している家」とは想像もつかない。北側に完備された、乗用車5台分ある駐車場とは、石畳で続いている。
「家が建つ前、まだ躯体が組まれただけの状態を見に来たときに、大工さんの仕事の素晴らしさに感動しました。今日、改めてこの家が完成するまでの過程を聞いて、構造、工法、意匠に至るまで、みなさんが本当によいものをつくろうと奮闘してくれたことがわかり、より愛着が湧いて、大切に住もうと思いました」と話す施主夫妻。
《ウィークリンク》は、「穏やかなつながり」が周到に計画・建築された家である。だからこそ、家族全員が子供の成長を見守りながら、これからも仲良く暮らしていけることだろう。
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My Houzz/日本/北米/中南米/ヨーロッパ/北欧/中東/アジア/オセアニア/新築/リノベーション/別荘/二世帯住宅/賃貸住宅
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感想を頂戴し、ありがとうございます。
一つ屋根の下は、それだけで家族が強固につながってしまいますから、そこに様々な距離や見え隠れする工夫を盛り込むことが重要だと思っています。
多世代同居のひとつのヒントになれば幸いです。
写真も素晴らしい・・・!
またお会いできるのを楽しみにしております。
m(_ _)m