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Houzzツアー:“間”とその関係性をデザインした別荘「那須の家」
訪れる人が自然体で時を過ごせる、森の中に静かに佇む別荘をご紹介します。
Tetsu Takeba
2015年6月17日
Houzzコントリビューター。
出版社勤務を経て、編集事務所「Nect」設立。
建築・建設分野を中心に、
書籍や雑誌等の編集を手掛けております
関東平野の北端に位置する、那須岳の麓に広がる雑木林に佇む別荘である。
元々、この場所には平屋の別荘が建っていたが、引退の時期を控えた施主ご夫婦が、季節を問わずゆっくりと過ごせるよう、建て替えられたものである。
完成から5年……
「四季折々、那須の移りゆく自然を五感で感じながら、ここでは都会とは違うゆったりとした時間を過ごすことができます」と、施主のご夫婦はこの新しい別荘をとても気に入っていらっしゃる様子だ。
完成から5年……
「四季折々、那須の移りゆく自然を五感で感じながら、ここでは都会とは違うゆったりとした時間を過ごすことができます」と、施主のご夫婦はこの新しい別荘をとても気に入っていらっしゃる様子だ。
設計を手掛けたのは建築家の丸山弾さん(丸山弾建築設計事務所)。2009年の秋に完成したこの作品は、丸山さんが独立後、初めて手掛けた作品でもある。
どんなHouzz?
所在地:栃木県那須塩原市
設計:丸山弾建築設計事務所
規模:地上2階
構造:木造(在来構法)
敷地面積:1,986.00平方メートル
建築面積:73.44平方メートル
延床面積:128.52平方メートル
竣工:2009年
どんなHouzz?
所在地:栃木県那須塩原市
設計:丸山弾建築設計事務所
規模:地上2階
構造:木造(在来構法)
敷地面積:1,986.00平方メートル
建築面積:73.44平方メートル
延床面積:128.52平方メートル
竣工:2009年
建物は雑木が立ち並ぶ敷地に、南北方向に軸を合わせて切妻の小屋が3棟、雁行するかたちで配置されている。
丸山さんは言う。
「お施主さんから相談された規模のものを1棟でつくると、この場所に林立する木立や葉のスケールに合わない大きな建物になってしまいます。そこでなるべく建物を小さく見せたいと思い、切り妻の小さな建物を分棟して配置することにしました」。
丸山さんは言う。
「お施主さんから相談された規模のものを1棟でつくると、この場所に林立する木立や葉のスケールに合わない大きな建物になってしまいます。そこでなるべく建物を小さく見せたいと思い、切り妻の小さな建物を分棟して配置することにしました」。
「以前ここに建っていた平屋の建物は、前面の道路に平行に配置されていて、人通りの多いこの道路や隣地の建物と視線が合い、せっかくの別荘なのに視線が気になるという問題を抱えていました。だから今回の建物は道路に対して振って配置することで、敷地内に十分な懐の深さを確保しました」。(丸山さん)
このような配置は、将来、もし隣地が開発されても、この別荘の環境が極力損なわれないというメリットもある。
このような配置は、将来、もし隣地が開発されても、この別荘の環境が極力損なわれないというメリットもある。
内部は1階に寝室が、2階に居間や食堂が配置されている。
土台を高く上げることで湿気から家屋を守ると共に、1階の寝室が道路から見えにくくなるよう配慮されている。
土台を高く上げることで湿気から家屋を守ると共に、1階の寝室が道路から見えにくくなるよう配慮されている。
「この別荘をつくるうえで、私の中で最も大きなテーマは“1つ1つの間と、それらの関係性をつくる”ということでした。別荘も含め、“住まい”というものを考えたとき、そこで人は外向きの顔ではなく、リラックスした状態で過ごせることが大切だと思います。私は常々そのような、人のフラットな精神状態に寄り添える、“自然体でいられる家”をつくりたいと考えています」。こう話しながら、丸山さんはスケッチブックにいくつかの○を描いていく。
「その場所にいる人が自然な状態でいられる間、それがこの○です。今回、お施主さんからは『親戚や知人が来ることもあるから5、6人は泊まれるようにしたい』という要望がありました。そこで考えたことは、見知った人同士でも行儀良く皆がずっと1つの部屋で椅子に座って……というよりは、ほど良い距離感とか、それぞれの居場所が欲しいだろうな、ということでした」。(丸山さん)
「そう考えると、LDKのようにカッチリと空間をつくるのではなく、1人1人が心地良く過ごせる間を散らして配置するのが良いと考え、この間は1人で静かに過ごす場所、ここはそれらが重なり3人くらいが一緒にいる場というように、お施主さんとここを訪れる人の行動を想像しながら間をデザインしました」。(丸山さん)
「さらに人と人の間だけでなく、外の木々や風景に対する間など、その場所における遠近さまざまな間のバリエーションのデザインを試みました」。(丸山さん)
例えば、建物の東側には1本のカツラの木が植えられている。この木はバルコニーや浴室など、東側の空地に対して開かれたさまざまな開口から目にすることができる。
それぞれの人が過ごす、それぞれの場所は互いを直接見ることはできないものの、この1本の木を通してそれぞれの場所が間接的に繋がり、意識し合えるようなデザインが施されているのだ。
丸山さんはこう続ける。
「内部には、直接見えない窓から差し込む光が見える場所があります。これもそういう光を見せたいというよりも、間を感じていただくための仕掛けです。光をデザインしているのではなく、間の関係性のデザインを心掛けました」。
「内部には、直接見えない窓から差し込む光が見える場所があります。これもそういう光を見せたいというよりも、間を感じていただくための仕掛けです。光をデザインしているのではなく、間の関係性のデザインを心掛けました」。
また屋根の掛け方についても、室内の各空間の有り様を想像しながら検討したと丸山さんは言う。
「例えば2階居間の薪ストーブの前は床座のスペースだから、ここに皆が集まって座ったときにどのくらいの天井高が良いかなど、各空間の重心の高さに合わせて天井高を考え、いろいろな居場所ができるようデザインしました。棟と棟が重なる位置で天井が切り替わり、袖壁や垂れ壁と共に、空間を緩やかに規定しています」。
「例えば2階居間の薪ストーブの前は床座のスペースだから、ここに皆が集まって座ったときにどのくらいの天井高が良いかなど、各空間の重心の高さに合わせて天井高を考え、いろいろな居場所ができるようデザインしました。棟と棟が重なる位置で天井が切り替わり、袖壁や垂れ壁と共に、空間を緩やかに規定しています」。
こうしたデザインが施された空間について、施主ご夫婦は、
「家族や知人とここで長い時間を過ごしていても、各々が適度な距離感を感じることができるので、ゆったりと過ごせます」とお気に入りのようだ。
「家族や知人とここで長い時間を過ごしていても、各々が適度な距離感を感じることができるので、ゆったりと過ごせます」とお気に入りのようだ。
また施主ご夫婦は、
「家の中にいても光や風、そして鳥のさえずりなど、自然を感じ、常に外と繋がっているような感覚がある」と言う。
なるほど、室内を見渡すと、どの空間にもたくさんの開口が設けられている。
丸山さんは言う。
「建物の周囲には似たような木々が広がり、あまり方向性の少ない土地でした。だから絵としてどこかを切り取るというよりは、四方すべての景色を使い切りたいという思いがありました。部屋の中にいても常に外の様子を感じることができ、それぞれの居場所に寄り添うような窓、あるいは引いて見る窓など、遠近あらゆるところから光が入り奥行きや風を感じられる建物にしたいと考えました」。
「家の中にいても光や風、そして鳥のさえずりなど、自然を感じ、常に外と繋がっているような感覚がある」と言う。
なるほど、室内を見渡すと、どの空間にもたくさんの開口が設けられている。
丸山さんは言う。
「建物の周囲には似たような木々が広がり、あまり方向性の少ない土地でした。だから絵としてどこかを切り取るというよりは、四方すべての景色を使い切りたいという思いがありました。部屋の中にいても常に外の様子を感じることができ、それぞれの居場所に寄り添うような窓、あるいは引いて見る窓など、遠近あらゆるところから光が入り奥行きや風を感じられる建物にしたいと考えました」。
その開口部にはこだわりのディテールが施されている。
丸山さんは言う。
「せっかく緑豊かな場所に建てるのだから当初から木製建具(木建)を使いたいと思っていました。でもすべての開口部を木建でやると施工性やコストの面で大変ですので、Fixのガラス部分と、その横に通風のために開閉できる開口をセットにして、一部を除いて開口部のつくりを統一することにしたのです。開口部がすべて同じデザインなので、これ自体は記号化され、外の風景がより強調されるという効果も生まれました。また急に天候が変わったときの開け閉めが同じ操作でできるので別荘として管理しやすいという点も長所です」。
丸山さんは言う。
「せっかく緑豊かな場所に建てるのだから当初から木製建具(木建)を使いたいと思っていました。でもすべての開口部を木建でやると施工性やコストの面で大変ですので、Fixのガラス部分と、その横に通風のために開閉できる開口をセットにして、一部を除いて開口部のつくりを統一することにしたのです。開口部がすべて同じデザインなので、これ自体は記号化され、外の風景がより強調されるという効果も生まれました。また急に天候が変わったときの開け閉めが同じ操作でできるので別荘として管理しやすいという点も長所です」。
開閉窓は、外は板戸、中は網戸という構成。
外の板戸の目地はその周囲の外壁の目地と合わせる細かい仕事がなされている。
外の板戸の目地はその周囲の外壁の目地と合わせる細かい仕事がなされている。
外壁(板戸を含む)の素材はカラマツ。
「外壁に木を用いる場合、本来は着色もしくは防腐・防虫処理を施す必要があります。ただ、そうすると木の風合いが失われてしまう。それでも透明のオイルを塗ることが多いのですが、今回は油分を多く含み耐候性のあるカラマツを用いることで、それらをまったく用いずに外壁として使っています」。(丸山さん)
完成から既に5年が経過しているが、実際、外壁に大きな傷みは出ていないという。
「外壁に木を用いる場合、本来は着色もしくは防腐・防虫処理を施す必要があります。ただ、そうすると木の風合いが失われてしまう。それでも透明のオイルを塗ることが多いのですが、今回は油分を多く含み耐候性のあるカラマツを用いることで、それらをまったく用いずに外壁として使っています」。(丸山さん)
完成から既に5年が経過しているが、実際、外壁に大きな傷みは出ていないという。
内部は木建を含め、主に手触りの柔らかいスギが用いられている。
壁は漆喰塗り。
壁は漆喰塗り。
「ただ、床にはカラマツを使っています。お施主さんのワンちゃんもここに来ることがあるので、スギよりも少し硬いカラマツを使いました。ここでは節のある材を使っていますが、無節の材よりも個性や面白みがあって、それらがこの別荘に合っているように思います」。(丸山さん)
家で過ごす時間の中で、照明の光の下で過ごす時間は長い。特にこの別荘地は日が落ちれば、外は完全に真っ暗闇。
「だから照明計画も綿密に検討を重ね、日中とはまた違った空間となるよう心掛けました。なるべく均一な光は避けて明かりと明かりの間に暗闇を設けることで溜まりと奥行きをつくり、照明の高さや距離感を慎重に設定して重心を整えています」。(丸山さん)
「だから照明計画も綿密に検討を重ね、日中とはまた違った空間となるよう心掛けました。なるべく均一な光は避けて明かりと明かりの間に暗闇を設けることで溜まりと奥行きをつくり、照明の高さや距離感を慎重に設定して重心を整えています」。(丸山さん)
日常的に居住するわけではない別荘は、管理の容易さも重要な要素である。
この建物は玄関を入った左手に給湯器などを設置した物置を、その真上に浴室や洗面などの水回りを配置している。施主ご夫婦曰く
「掃除やメンテナンスのことも考えられた細かい工夫がなされていて、管理の面でも非常に気に入っています」とのこと。
この建物は玄関を入った左手に給湯器などを設置した物置を、その真上に浴室や洗面などの水回りを配置している。施主ご夫婦曰く
「掃除やメンテナンスのことも考えられた細かい工夫がなされていて、管理の面でも非常に気に入っています」とのこと。
日本の風土に調和し、日本人の情緒に訴えかける、深山の美しい別荘である。
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