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デザイン性を高め、特徴を際立たせた、コンパクトなワンルームマンション
もとは社員寮だった建物。どの部屋も20平方メートル未満とコンパクトな居室ながら、シンプルでスタイリッシュなデザイン、ミニマルな暮らしやすさが大人気のヴィンテージマンションのリノベ事例をご紹介します。
takako kawaguchi
2016年11月30日
駅からはやや距離があり、室内の広さも一戸あたり約16~19平方メートルと手狭であるにもかかわらず、リノベーション後ずっと “満室続き” のワンルームマンションがあるという。築24年が経過し、オーナーチェンジをきっかけとしたリノベーションで、いったい何が行われたのか。量産型の無味乾燥なワンルームタイプとは一線を画し、たとえ「駅から遠くても」「手狭でも」「日当たり良好でなくても」住みたいと思わせる、センスと感性を随所にちりばめた〈OSKA&PARTNERS INC.〉の事例をご紹介する。
1階エントランスは、モルタルの床に、壁と天井は左官仕上げをした、静かで落ち着いたラウンジスペースである。デザイン面にこだわりを持つオーナーが、ここで特に要望したのが、壁面の演出。そこで〈OSKA&PARTNERS INC.〉は、太陽やライトの当たる角度によって見え方が変わる、オリジナル工法のグラフィカルなパターンを壁に施すことに。さらに、アーティストの手書きレターをカッティングシートに起こして壁にデザインするなど、遊び心もふんだんに盛り込んだアーティスティックな空間を創出した。
パリのアパルトマンを思わせるような入口。クラシカルなガラス扉は建物のイメージに合わせて製作したものである。右サイドに見える「G」の文字は、ステンレスを切り抜いてあしらったもので、左官の外壁にクールな印象を加味している。一見しただけでも、「他の建物とはひと味ちがう」と期待感を抱かせるデザインワークである。
どんな建物?
所在地:東京都世田谷区
構造:RC造 4階建て
改修面積:600.04平方メートル
一住戸面積:16.24~19.31平方メートル
設計:OSKA&PARTNERS INC.
撮影:kentahasegawa
どんな建物?
所在地:東京都世田谷区
構造:RC造 4階建て
改修面積:600.04平方メートル
一住戸面積:16.24~19.31平方メートル
設計:OSKA&PARTNERS INC.
撮影:kentahasegawa
もともとグレーだった各戸の扉は、白にリペイント。白を基調とすることで廊下全体が明るくなり、さらに黒のアクセント使いが、大人っぽく洗練された印象を与えている。
「ルームプレートは、鉄専門職人にオーダーして作ってもらったオリジナルです。ライトは市販品でイメージに合うものをセレクトしました」と〈OSKA&PARTNERS INC.〉の代表、大平貴臣氏。このようなディテールにデザイン性を持たせるよう工夫することで、大きなコストアップにつながることなく、おしゃれに敏感な若者たちを魅きつける建物に再生できるのでは、と語る。
「ルームプレートは、鉄専門職人にオーダーして作ってもらったオリジナルです。ライトは市販品でイメージに合うものをセレクトしました」と〈OSKA&PARTNERS INC.〉の代表、大平貴臣氏。このようなディテールにデザイン性を持たせるよう工夫することで、大きなコストアップにつながることなく、おしゃれに敏感な若者たちを魅きつける建物に再生できるのでは、と語る。
部屋にはいくつかのタイプがあり、その一例がこちら。3m以上ある壁面すべてを、クローゼット仕様にしてあるのが特徴的だ。長く伸びたポールにはたっぷりと洋服を掛けることができ、収納力満点。カーテンでソフトに仕切って使うもよし、オープンにして広がりを持たせながら、お気に入りの服を眺めて暮らすのもまた楽しい。服だけでなく、趣味の雑貨やグリーンをハンギングするなど、使い方はアイデア次第だ。
もともと社員寮として使われていた建物ということもあり、各部屋は構造壁で小さく区切られ、リノベーション時も部屋の広さを変えることは不可能だった。
「室内にある壁構造も壊せず、基本的な間取り変更もできない物件でした。ただそのままでは量産されているワンルームと違いがなく、魅力が乏しくなってしまいます。そこで大きな収納や長いカウンターなど、インテリアの構成要素の何かひとつを特化し、拡大して個性を持たせたら、と考えたのです。キッチンも、収納も、と均質にするのではなく、コンパクトな中に何かひとつ特徴づけをしよう、と」と大平氏。
住戸内の壁も白い塗装で仕上げてあるところも、巷のワンルームタイプとは異なり、おしゃれに見えるポイント。好みのカーテンやラグなどが映え、自分らしいスタイルを楽しめる、理想的なシンプル空間を実現した。
「室内にある壁構造も壊せず、基本的な間取り変更もできない物件でした。ただそのままでは量産されているワンルームと違いがなく、魅力が乏しくなってしまいます。そこで大きな収納や長いカウンターなど、インテリアの構成要素の何かひとつを特化し、拡大して個性を持たせたら、と考えたのです。キッチンも、収納も、と均質にするのではなく、コンパクトな中に何かひとつ特徴づけをしよう、と」と大平氏。
住戸内の壁も白い塗装で仕上げてあるところも、巷のワンルームタイプとは異なり、おしゃれに見えるポイント。好みのカーテンやラグなどが映え、自分らしいスタイルを楽しめる、理想的なシンプル空間を実現した。
こちらは壁一面にカウンターを設けて特徴づけたタイプ。キッチンから窓際まで3.3m以上ある、奥行き41.5cmのカウンターは、食事はもちろん、勉強や仕事、テレビを観る、雑貨を飾るなど、生活シーンのあらゆる舞台となってくれる。ダイニングテーブルやパソコン机、テレビ台などをいちいち設置しなくて済むので、省スペースにも大いに役立つ。
ワンルームではキッチンも目につきやすいため、インテリアとマッチするデザインのものを厳選したそう。これは白い陶器製で〈イケア〉のもの。ここで注目したいのが、壁面にニュアンスのあるグリーンのタイルを一列アレンジし、アクセントとしているところだ。エントランスや廊下と同様、このような細かなプラスαのデザインの積み重ねが、部屋全体、そして建物全体の印象アップにつながっていることはまちがいない。
カウンタータイプの住戸には、壁掛け型のテレビもあらかじめ設置。スペースを有効活用できるように、とのオーナーの配慮である。また、窓にブラインドをつけたのも、写真では見えないが反対側の壁に飾り棚を設けてあるのも、美的センスのあるオーナーのリクエストによるものだとか。
「カウンターの足元には収納ボックスなどを置くことで、スペースを自分仕様に区切ることもできます。こうしてカスタマイズできる “余白” を残すことが、賃貸物件の住み心地のよさ、楽しさにもつながると考えています」。
「カウンターの足元には収納ボックスなどを置くことで、スペースを自分仕様に区切ることもできます。こうしてカスタマイズできる “余白” を残すことが、賃貸物件の住み心地のよさ、楽しさにもつながると考えています」。
玄関からキッチン部分まではグレーに、居室部分はベージュに、とフロアカラーを変えることで、自然なエリア分けも叶っている。必要に応じて、玄関からの目隠しにカーテンを下げられるよう、キッチン上にはポールを設置した。ちなみに玄関を入ってすぐのシューズクローゼット扉には鏡を取り付けてあり、ここでも鏡を床に置かずに済むという、省スペースかつ空間を広く見せるための配慮がなされている。
この部屋にはステンレスのミニマルなキッチンが。コンパクトな室内に大きな収納やカウンターを特徴づけたので、自ずとキッチンの比率は小さくなった。とはいえ、IHクッキングヒーターもついているので、簡単な温め調理などには十分対応できる。前出の白いキッチンと同様、グリーンのタイルを施して手仕事感を添えたバランスが、今の気分にぴったりである。タイルは大阪の〈平田タイル〉製。
大平氏曰く、「日頃の設計の中でも、建物や空間がどれくらいの時間や期間、存在するのかということを意識しています。たとえば今回の集合住宅の場合なら、この先20年、30年たっても心地よく使い続けられるよう、あまり流行に左右されないシンプルなインテリアを心がけました」。クラシカルな趣を添えてくれる十字の窓枠など、使い続けられるものは従来のものを活かしてリノベーションしたのだとも。
もともと社員寮だった建物が、今の感覚にフィットし、シンプルで長く使え、可変性のあるワンルームマンションへと再生を遂げた。たとえ好条件に恵まれていなくても、センスを活かしたこまかなデザインを集積することで、人々の心を魅きつける建物づくりが可能であることを、この物件の人気ぶりが証明している。
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