5分でわかるデザイン様式:バロック様式の成り立ち
よく知られた歴史上のデザイン様式を、時代背景と今につながる流れ、代表的な建築物や人物、住宅インテリアデザインの特徴とともに、コンパクトに解説。今回はルネサンスに続いてイタリアで発展した、壮麗なバロック様式についてご紹介します。

西谷典子|Noriko Nishiya
2016年9月8日
17世紀から18世紀初めにかけてのヨーロッパで発達したバロック様式は、ラテン語で「いびつな真珠」という意味をもつ「バロッコ」が語源。ルネサンス様式がミケランジェロなどの巨匠たちによって完成されたものなら、バロック様式はそれがさらに壮麗かつ豪華に進化した、ヨーロッパ芸術・建築の最盛期の様式ともいえるかもしれません。このバロック様式はそもそも、16世紀の初めのルネサンス後期に流行した、あるスタイルが発展していってできたものでした。
ルネサンスからバロックへの橋渡し「マニエリスム」
ルネサンス全盛期に頂点を極めた、古代ローマ・ギリシャ時代の規則に基づく、調和のとれた様式や手法を「マニエラ」と呼びます。もともとイタリア語で「手法、様式」を意味する言葉が発展し、「高度な芸術手法」という意味をもつようになったこの「マニエラ」が、さらに進化したものを「マニエリスム」といい、ルネサンス期とバロック期の中間にあたる1520~80年頃の短期間、存在した様式として知られています。
その特徴は、やや極端な強調や歪曲にあります。絵画では、バチカン宮殿のシスティーナ礼拝堂のミケランジェロによる天井のフレスコ画の、胴体を極端にねじらせたポーズや、胴体が不自然に長い人物が有名です。また、スペインの画家エル・グレコの絵の、顔が小さく胴体が長い、一見自然に見えて実は不自然なバランスなどに見られます。こういった表現がこの時代の、ちょっとひねった知的な芸術のムーブメントでした。
ルネサンス全盛期に頂点を極めた、古代ローマ・ギリシャ時代の規則に基づく、調和のとれた様式や手法を「マニエラ」と呼びます。もともとイタリア語で「手法、様式」を意味する言葉が発展し、「高度な芸術手法」という意味をもつようになったこの「マニエラ」が、さらに進化したものを「マニエリスム」といい、ルネサンス期とバロック期の中間にあたる1520~80年頃の短期間、存在した様式として知られています。
その特徴は、やや極端な強調や歪曲にあります。絵画では、バチカン宮殿のシスティーナ礼拝堂のミケランジェロによる天井のフレスコ画の、胴体を極端にねじらせたポーズや、胴体が不自然に長い人物が有名です。また、スペインの画家エル・グレコの絵の、顔が小さく胴体が長い、一見自然に見えて実は不自然なバランスなどに見られます。こういった表現がこの時代の、ちょっとひねった知的な芸術のムーブメントでした。
マニエリスムは建築のデザインにも見られます。装飾用の柱は、必ずしも同じ長さではなく、奥行き感を出すために小さいサイズのものを混在させたり、柱を後ろに若干ずらしたりといった手法が用いられました。建築物の軒にまっすぐ水平に伸びていたコーニスに、ゆるやかにカーブしたものが登場するのはこの時代からです。古典の定義を理解したうえで、ちょっとした遊びを入れるこのマニエリスムは、主に宮廷内で短い間だけ流行した、いわばエリア限定、期間限定のスタイルでした。
バロック様式の3つの時代
ここから発展していくバロック様式は、社会的な背景から大きく3つの時期に分けられます。大聖堂の改築や建築が盛んになり始めたバロック前期(1600~1625年頃)、デザインがどんどん豪華になっていった中期(1625〜1675年頃)、舞台がイタリアからフランスに移る後期(1675~1725年頃)です。前・中期はイタリアを中心としたカトリック教会のプロパガンダのために、後期はフランスなど周辺国の王の権力の誇示のために表現された様式といえるものでした。
バロック様式の3つの時代
ここから発展していくバロック様式は、社会的な背景から大きく3つの時期に分けられます。大聖堂の改築や建築が盛んになり始めたバロック前期(1600~1625年頃)、デザインがどんどん豪華になっていった中期(1625〜1675年頃)、舞台がイタリアからフランスに移る後期(1675~1725年頃)です。前・中期はイタリアを中心としたカトリック教会のプロパガンダのために、後期はフランスなど周辺国の王の権力の誇示のために表現された様式といえるものでした。
バロック様式の始まり、ローマ・カトリック教会のPR大作戦
16世紀のヨーロッパでは、カトリックとプロテスタントの宗教戦争が激化していました。ローマは1527年からフランスの支配下となり、ローマ・カトリック教会はその威厳を回復するべく、サン・ピエトロ寺院など壮大な大聖堂や教会の改築や建築をスタートし、信者の心をとらえようとするPR作戦を徐々に展開します。人々を教会の中に入るなり大きく感動させることができるような、劇的な空間をつくることが建築家に求められたのです。これがバロック様式の発展の始まりでした。
16世紀のヨーロッパでは、カトリックとプロテスタントの宗教戦争が激化していました。ローマは1527年からフランスの支配下となり、ローマ・カトリック教会はその威厳を回復するべく、サン・ピエトロ寺院など壮大な大聖堂や教会の改築や建築をスタートし、信者の心をとらえようとするPR作戦を徐々に展開します。人々を教会の中に入るなり大きく感動させることができるような、劇的な空間をつくることが建築家に求められたのです。これがバロック様式の発展の始まりでした。
壮大なスケールの建築と芸術
そのビジュアル効果の要素のひとつとして、あらゆる意味でのスケールの大きさが挙げられます。まず、建築そのものだけでなく、ドームなどを含めた内部の空間を大きく使っていること。また、教会に入ってまず目に入る宗教画を巨大なサイズにしたことは、カトリック教を正当化するプロパガンダに効果がありました。
大理石の彫像は、大胆な構図や服のドレープが広がる、迫力のあるものが制作されます。このバロック時代、偶像崇拝を禁止していたプロテスタントに対抗し、カトリック教徒の彫像は最も豪華なものが次々に制作され、彫像は建築物の上にも積極的に置かれるようになりました。
そのビジュアル効果の要素のひとつとして、あらゆる意味でのスケールの大きさが挙げられます。まず、建築そのものだけでなく、ドームなどを含めた内部の空間を大きく使っていること。また、教会に入ってまず目に入る宗教画を巨大なサイズにしたことは、カトリック教を正当化するプロパガンダに効果がありました。
大理石の彫像は、大胆な構図や服のドレープが広がる、迫力のあるものが制作されます。このバロック時代、偶像崇拝を禁止していたプロテスタントに対抗し、カトリック教徒の彫像は最も豪華なものが次々に制作され、彫像は建築物の上にも積極的に置かれるようになりました。
天井はさらに高くなり、そこに描かれたフレスコ画は立体的な、いわゆる「だまし絵」によって、さらに奥深い空間を創出しました。描かれている空間が実際に浮かび出てくるような感覚を見る人に与え、天井のフレスコ画はまさに、天国が本当にあると信じさせるような空間を演出していました。
このだまし絵の技巧は、漆喰の壁や柱が大理石に見えるようなペイントにも使われ、建築部材のコストダウンや、ドームの重量を軽減することにも役立ちました。いわゆる建築と絵画のブレンドは、このバロック時代から始まったのです。
このだまし絵の技巧は、漆喰の壁や柱が大理石に見えるようなペイントにも使われ、建築部材のコストダウンや、ドームの重量を軽減することにも役立ちました。いわゆる建築と絵画のブレンドは、このバロック時代から始まったのです。
光と影のドラマチックな表現
バロック時代には、光と影、明暗法が積極的に取り入れられるようになります。初期のバロック建築の外壁や内壁の多くは白ですが、柱やコーニス、装飾などがつくる影により、シンプルなはずの白い空間がメリハリのついたモノクロームの空間になるわけです。また教会の中に窓を多く設置し、差し込む光がまるで天国から続くように見える、心憎い演出もされています。
この時期のバロック絵画も、イタリアのカラバッジオやオランダのレンブラントのように、人物の背後に黒を使う明暗法を取り入れ、教会そのものがまるで劇場のようなドラマチックな空間になっていきます。
バロック時代には、光と影、明暗法が積極的に取り入れられるようになります。初期のバロック建築の外壁や内壁の多くは白ですが、柱やコーニス、装飾などがつくる影により、シンプルなはずの白い空間がメリハリのついたモノクロームの空間になるわけです。また教会の中に窓を多く設置し、差し込む光がまるで天国から続くように見える、心憎い演出もされています。
この時期のバロック絵画も、イタリアのカラバッジオやオランダのレンブラントのように、人物の背後に黒を使う明暗法を取り入れ、教会そのものがまるで劇場のようなドラマチックな空間になっていきます。
パイプオルガンと音響による効果
カトリック教会のPR作戦は音楽分野にも及び、教会は積極的に宗教音楽をつくらせます。パイプオルガンがそのダイナミックな音色と音量で、教会のミサを感動的に演出しました。以前は音も静かでサイズも比較的小さかったパイプオルガンは、バロック時代には大きく響くサウンド効果をもつという重要な役割が増し、装飾も時代を追うごとに豪華になっていきました。当時の教会は、建築やアート、室内装飾、照明などによる視覚効果、音楽による音響効果などあらゆる側面から、人々の思い描く天国と、ほぼ同じ空間を創造したわけです。
カトリック教会のPR作戦は音楽分野にも及び、教会は積極的に宗教音楽をつくらせます。パイプオルガンがそのダイナミックな音色と音量で、教会のミサを感動的に演出しました。以前は音も静かでサイズも比較的小さかったパイプオルガンは、バロック時代には大きく響くサウンド効果をもつという重要な役割が増し、装飾も時代を追うごとに豪華になっていきました。当時の教会は、建築やアート、室内装飾、照明などによる視覚効果、音楽による音響効果などあらゆる側面から、人々の思い描く天国と、ほぼ同じ空間を創造したわけです。
バロック様式のデザインの特徴
バロック様式は、ルネサンス様式からマニエリスムを経て発展した様式です。従って基本的な古代ギリシャ・ローマの柱やペディメント(破風)、ドームなどのデザインが同じように用いられていますが、ルネサンス期に多かったまっすぐなラインに対し、カーブを意識したデザインが多く取り入れられるようになります。
柱を2つ並べるダブルコラムに見られるように、柱を積極的に使ったことも特徴のひとつです。また装飾では天使や、アカンサス(葉あざみ)の葉のモチーフのようなカーブを取り入れた模様をはじめ、豪華でデコラティブな植物のデザインが用いられます。これらのデザインは木に彫刻され、金箔に彩られ、空間を所狭しと埋め尽くすように、バロック建築の装飾に使われました。
5分でわかるデザイン様式:フランス、イギリスのバロック
バロック様式は、ルネサンス様式からマニエリスムを経て発展した様式です。従って基本的な古代ギリシャ・ローマの柱やペディメント(破風)、ドームなどのデザインが同じように用いられていますが、ルネサンス期に多かったまっすぐなラインに対し、カーブを意識したデザインが多く取り入れられるようになります。
柱を2つ並べるダブルコラムに見られるように、柱を積極的に使ったことも特徴のひとつです。また装飾では天使や、アカンサス(葉あざみ)の葉のモチーフのようなカーブを取り入れた模様をはじめ、豪華でデコラティブな植物のデザインが用いられます。これらのデザインは木に彫刻され、金箔に彩られ、空間を所狭しと埋め尽くすように、バロック建築の装飾に使われました。
5分でわかるデザイン様式:フランス、イギリスのバロック
豪華さを競うように
イタリアでは16世紀半ば以降、宗教戦争によってほぼ外国人によって統治されるようになり、財政的にも苦しい時代を迎えていました。いっぽう、新大陸発見により得た植民地メキシコから大量の銀を得るようになったスペインは、当時のネーデルラントやポルトガルも統治しており、豊かな財源がありました。それは自国のバロック建築にも表れており、教会の装飾には金箔がふんだんに使われ、贅沢な純銀製の工芸品も多く生産されました。このようにバロック様式は、植民地から得た富で生み出された側面もあり、豪華さを競うようなスタイルだったのです。
イタリアでは16世紀半ば以降、宗教戦争によってほぼ外国人によって統治されるようになり、財政的にも苦しい時代を迎えていました。いっぽう、新大陸発見により得た植民地メキシコから大量の銀を得るようになったスペインは、当時のネーデルラントやポルトガルも統治しており、豊かな財源がありました。それは自国のバロック建築にも表れており、教会の装飾には金箔がふんだんに使われ、贅沢な純銀製の工芸品も多く生産されました。このようにバロック様式は、植民地から得た富で生み出された側面もあり、豪華さを競うようなスタイルだったのです。
そして全盛の爛熟期へ
さて、このスペインの勢いに待ったをかけたのが、フランスとイギリスでした。特に「太陽王」と呼ばれたルイ14世が自ら政治を行った絶対王政の時代になると、フランス王政は全盛期に入り、ヨーロッパの中心となります。同時に隣国に戦争を仕掛け始めるのですが、この権力を誇示するために、ルイ14世には世界一豪華な宮殿が必要となりました。ファッション、マナー、そして建築物や家具というデザインや文化のトレンドの発信地を、パリから11キロも離れた素朴で質素な田舎に建てる計画を実行します。これがバロック様式の最高傑作のひとつとなるベルサイユ宮殿です。
バロック様式の豪華さはいよいよ最盛を迎え、時代は後期バロック期へと続いていきます。
5分でわかるデザイン様式:中世に誕生したゴシックデザイン
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さて、このスペインの勢いに待ったをかけたのが、フランスとイギリスでした。特に「太陽王」と呼ばれたルイ14世が自ら政治を行った絶対王政の時代になると、フランス王政は全盛期に入り、ヨーロッパの中心となります。同時に隣国に戦争を仕掛け始めるのですが、この権力を誇示するために、ルイ14世には世界一豪華な宮殿が必要となりました。ファッション、マナー、そして建築物や家具というデザインや文化のトレンドの発信地を、パリから11キロも離れた素朴で質素な田舎に建てる計画を実行します。これがバロック様式の最高傑作のひとつとなるベルサイユ宮殿です。
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