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「ゆりかごからゆりかごへ」の提唱者に聞く、サステナブルなものづくりとは?
リサイクル思想にとどまらず、新しいビジネスモデルとして注目されている考え方。家具業界でも取り組みが行われています。
Jadranka Kursar
2020年12月8日
作ったものをゴミにせず、"ゆりかご"である製造現場に戻すことで、持続可能な形で使い続ける「ゆりかごからゆりかごへ」(Cradle to Cradle® 以下、C2C)という考え方。ドイツの化学者マイケル・ブラウンガート教授とアメリカの建築家・デザイナーのウィリアム・マクダナー氏が1990年代初頭に考案したものです。
C2Cのアプローチは、製品の生産チェーン全体を監視することです。環境にやさしい素材でできた製品は、製品寿命を終えると、今度は新しい製品の素材として利用されます。このような循環の目指すゴールは素材を回収し、原料として再利用することであり、それは廃棄物を生みださない自然界の仕組みを模倣することでもあります。
C2Cのアプローチは、製品の生産チェーン全体を監視することです。環境にやさしい素材でできた製品は、製品寿命を終えると、今度は新しい製品の素材として利用されます。このような循環の目指すゴールは素材を回収し、原料として再利用することであり、それは廃棄物を生みださない自然界の仕組みを模倣することでもあります。
元グリーンピース活動家であるは、化学分野の教授であると同時に洞察力を備えた思想家でもあります。化学とプロセス工学の学生だった彼が1980年代に活動家になったきっかけは、人体や環境に含まれる有害成分を発見したことでした。
彼は、環境に関する研究とコンサルティングを行う国際機関「環境保護促進機関(EPEA)」をドイツ・ハンブルグに起ち上げ、企業やメーカーに持続可能性に関するさまざまなアドバイスを提供しています。また、アメリカのマクダナー・ブラウンガート・デザイン・ケミストリー(McDonough Braungart Design Chemistry、以下MBDC)の共同設立者でもあります。
著書には、ウィリアム・マクダナー氏との共著による『サスティナブルなものづくり : ゆりかごからゆりかごへ』があります。
彼は、環境に関する研究とコンサルティングを行う国際機関「環境保護促進機関(EPEA)」をドイツ・ハンブルグに起ち上げ、企業やメーカーに持続可能性に関するさまざまなアドバイスを提供しています。また、アメリカのマクダナー・ブラウンガート・デザイン・ケミストリー(McDonough Braungart Design Chemistry、以下MBDC)の共同設立者でもあります。
著書には、ウィリアム・マクダナー氏との共著による『サスティナブルなものづくり : ゆりかごからゆりかごへ』があります。
C2Cの分かりやすい例:コンポスターで処理された生ごみは、腐植質を豊富に含んだ堆肥に変わり、植物の肥料となって果実や花を育てます。そして、これらの果実や花もいずれコンポスターで処理されます。これは、誰もができる庭の廃棄物のリサイクルです。
つまり、メーカーはサービスを提供するだけです。すると、顧客は10年間品質が保証された良質なデスクチェアを受け取ることができ、床の仕上げを10年間美しいまま保てると認識するのです。
- ブラウンガート教授、C2Cの原則を説明していただけますか?
つまり、メーカーはサービスを提供するだけです。すると、顧客は10年間品質が保証された良質なデスクチェアを受け取ることができ、床の仕上げを10年間美しいまま保てると認識するのです。
ターケット社(Tarkett)のように、C2Cの原則に取り組む床材メーカーが増えています。例えば、デッソ・ホーム・タッチ・コレクション(Desso Home Touch Collection)(写真)のカーペットは、VOC(揮発性有機化合物)を最小限に抑えたものです。さらに、同社が独自に開始した回収・リサイクルプログラムによって、床の仕上げ材は新しいカーペットやビニールの床材に生まれ変わり、特に内装分野において良い影響を与えています。
ここで重要なのは耐久性ではなく、明確に決められた使用期間です。これはイノベーションによって可能です。そして、使用後の製品はメーカーに返却され、メーカーは、素材を回収あるいは純粋な原料として販売することで、財務の面でも長期的な安定を得ることができるのです。
- メーカーにとってメリットはあるのでしょうか?
ここで重要なのは耐久性ではなく、明確に決められた使用期間です。これはイノベーションによって可能です。そして、使用後の製品はメーカーに返却され、メーカーは、素材を回収あるいは純粋な原料として販売することで、財務の面でも長期的な安定を得ることができるのです。
1900年に建てられたニューヨーク・ブルックリンの港に建つ、とある建物でアイスストーン社(IceStone)がキッチン・バスルーム用に製造しているのが、C2C認証を取得したリサイクルガラス製の天板です。同社は製造廃棄物の90%をリサイクルし、生産サイクル全体と社内での持続可能なプロセスに取り組んでいます。
消費者は、新しいキッチンが欲しいからと、古いキッチンが早く壊れないか期待する必要もなく、またキッチンデザイナーも、より美しいデザインかつ低VOCのキッチンを作成できるメリットがあります。このようにしてイノベーション、そして何よりも、高い品質を生み出すことができるのです。
- 具体例を挙げてC2C原則を説明してください。
消費者は、新しいキッチンが欲しいからと、古いキッチンが早く壊れないか期待する必要もなく、またキッチンデザイナーも、より美しいデザインかつ低VOCのキッチンを作成できるメリットがあります。このようにしてイノベーション、そして何よりも、高い品質を生み出すことができるのです。
- それでは、C2Cはどのように製品をより持続可能にするのでしょうか?
アメリカを拠点とする家具メーカー、スチールケース社(Steelcase)は、1994年からブラウンガート教授と協働しており、彼らが共同開発したオフィスチェアThink(シンク)は、 C2Cのブロンズ認証を取得しました。同社は世界中の試験的プロジェクトを 通じて回収オプションを模索しながら、現在も積極的にこの理念に取り組んでいます。
- この一時利用というコンセプトを採用しているメーカーは他にもあるのでしょうか?
USM社が1969年から製造しているクラシックなファニチャーシステムHaller(ハラー)は、持続可能性の面でまさに時代を先取りしていました。同社が特許を取得したコネクターにより、すべてのモジュールを簡単に構成することができ、ユーザーやスペースに合わせて成長していきます。これは、最近になって新色や新しいモジュールが追加された程度で、1969年からほとんど変わらないシステムだからこそ可能なのです。このシステムファニチャーは2018年にC2Cのブロンズ認証を取得しています。
製品用途が明確になっていることは、メーカーにとってもメリットになりますし、原料バンクとしての役割を担うことができます。つまり、椅子を生産し続ける義務がなくなる代わりに、例えば「2027年には、あれこれの素材が24トン利用可能になる」と先物契約を結ぶことができるのです。
これらの原料を求める企業はたくさんあるはずです。これがその会社の価値となり、また資金調達の際はこの価値を担保にすることもできるのです。
- なぜ使用中でも製品を返品する必要があるのでしょうか?
製品用途が明確になっていることは、メーカーにとってもメリットになりますし、原料バンクとしての役割を担うことができます。つまり、椅子を生産し続ける義務がなくなる代わりに、例えば「2027年には、あれこれの素材が24トン利用可能になる」と先物契約を結ぶことができるのです。
これらの原料を求める企業はたくさんあるはずです。これがその会社の価値となり、また資金調達の際はこの価値を担保にすることもできるのです。
- ブラウンガート教授は世界中でプロジェクトを立ち上げられていることが知られていますが、実際にC2Cはどういったところで必要とされているのでしょうか?
ドイツは、新しいビジネスモデルに関してはまだ初期段階にあることが多いです。当たり前ですが、これは一刻を争う状況です。私たちは他のビジネスモデルを取り入れなければならないにも関わらず、家具分野の大部分は行動が遅すぎます。
一方で、このビジネスモデルをとうの昔に会得していたのが機械工学の分野です。例えば洗濯機そのものを販売する代わりに3,000回の洗濯を保証する――つまり、機械はサービスでしかないのです。床材メーカーもこのビジネスモデルを理解し、「床仕上げ保証」の販売を開始しました。さらに繊維業界やファッション業界にも興味深い動きがみられます。
オランダを拠点とするメーカー、モーザ社(Mosa)のタイルは、すべてC2C認証を取得しています。また、VOCを含まないため、室内空気質の向上に貢献します。同社が取り組むC2Cは、純粋でリサイクル可能な原料以外にも、エネルギー使用量の削減、エコな水資源の管理、そして良好な労働環境も含まれています。
とにかく、あれこれ言う前に、食べられる素材を使ってみればよいのです。機内の空気の質が非常に重要な航空分野では、こういった張り地がすでに活躍しています。しかも、安全な天然素材の生地は、そうではないものより20パーセントほど安価だということも特筆すべき点です。
- ブラウンガート教授は1980年代にグリーンピースの活動家として、さまざまな製品に含まれる有害物質に注視されていましたね。現在もイノベーションに関するパートナーとして活動されていますか?
とにかく、あれこれ言う前に、食べられる素材を使ってみればよいのです。機内の空気の質が非常に重要な航空分野では、こういった張り地がすでに活躍しています。しかも、安全な天然素材の生地は、そうではないものより20パーセントほど安価だということも特筆すべき点です。
デコ・デザインフリュス社のオーシャンセーフ(OceanSafe)コレクションは、厳しい審査をクリアしC2Cのゴールド認証を取得しています。シーツ、ハンドタオル、カーテン、およびインテリア用生地はオーガニック品質で、堆肥化が可能です。製品寿命を終えた後は、微生物によりバイオマスに戻ります。原料は食べられるくらい安全です。「良い素材だけを使えば、結果的に良いものしか残りません」と、同社CEOのマヌエル・シュヴァイツァー氏はハイムテキスタイル2020で語りました。
- 安全な素材を使用した場合、他に何かメリットはありますか?
オーピング社(Auping)のベッド、Essential(エッセンシャル)は、主にアルミニウムで作られています。完全に分解可能なので、素材は100%リサイクル可能です。C2Cのブロンズ認証も取得しています。
次世代の人々は、本気で物事を変えたいと思っています。C2Cの目的は、「少しだけマシにする」ことや生態系へのダメージを削減することなのではなく、最初から良いものであることなのです。
詳しくは、「Cradle to CradleProducts Institute」サイト(英語)をご覧ください。
エコ・サステナブルの記事を読む
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- 若い世代の環境意識高まっています。今は、どのような時代だとお考えですか?
次世代の人々は、本気で物事を変えたいと思っています。C2Cの目的は、「少しだけマシにする」ことや生態系へのダメージを削減することなのではなく、最初から良いものであることなのです。
詳しくは、「Cradle to CradleProducts Institute」サイト(英語)をご覧ください。
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