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自然と住まいをつなぐ、モダニズム建築の手法とは?
住まいとまわりの風景を、どのように融合させれば、より快適に暮らすことができるのでしょうか?
Annie Thornton
2022年8月21日
長引くコロナ禍、家で過ごす時間が増えたことで、住宅建築の今後について、思いをめぐらせている方も多いのではないでしょうか。
自宅にいながら健康で満たされた暮らしを送るためには、初期のモダニズム建築家が取り入れた屋内と屋外を融合させたリビングスペースのあり方が参考になると、Marmol Radzinerのマネージングパートナーである建築家、レオ・マルモルは語っています。
「モダニズムは『つながり』の概念に基づいています。モダニズムを単なるスタイルとして捉え、平らな屋根や無機質さと単純に結び付けるのは、あまりにも安易です。なぜならモダニズムの本質は、関係や、つながりを追求することにあるからです。平面の配置やその空間の関連性に表現される私たち自身や家族とのつながり、また、建物外部の環境が持つリズムとのつながりです」
自宅にいながら健康で満たされた暮らしを送るためには、初期のモダニズム建築家が取り入れた屋内と屋外を融合させたリビングスペースのあり方が参考になると、Marmol Radzinerのマネージングパートナーである建築家、レオ・マルモルは語っています。
「モダニズムは『つながり』の概念に基づいています。モダニズムを単なるスタイルとして捉え、平らな屋根や無機質さと単純に結び付けるのは、あまりにも安易です。なぜならモダニズムの本質は、関係や、つながりを追求することにあるからです。平面の配置やその空間の関連性に表現される私たち自身や家族とのつながり、また、建物外部の環境が持つリズムとのつながりです」
眺め、自然光、新鮮な空気を取り入れる大きな窓とドア
ガラス引戸、大きなピボットヒンジドア、壁一面の窓。これらの要素は住まいに開放感を与え、外部との自然なつながりを演出します。
「ドアと窓をオープンなものにするだけで、より健康的な室内環境を作り出せることも多いです」とマルモルはいいます。「風景を見る、あるいは物理的に建物から離れて風景の中に身を置く、といったことを可能にする要素であれば、いずれも有効だと思います」
上の写真のロサンゼルスの家は、Marmol Radzinerが設計・施工をおこなったもので、サンタモニカ山脈の丘と峡谷沿いの道に挟まれた、鬱蒼とした立地を最大限に活用しています。この住まいは、自然環境を賛美し、屋内外の強いつながりを育むように設計されました。ガラスの引戸や窓を多用し、風景に向かって開かれた作りになっています。
この写真からは、眺めによって家と周囲の風景がつながっている様子を窺い知ることができます。暗い室内に対して外の植栽とスズカケノキが際立ち、屋内のリビングスペースにおいて絵画のような効果を生み出します。深い軒は風景をさらに引き込み、建物の向きと併せて住まいを太陽熱から保護します。
ガラス引戸、大きなピボットヒンジドア、壁一面の窓。これらの要素は住まいに開放感を与え、外部との自然なつながりを演出します。
「ドアと窓をオープンなものにするだけで、より健康的な室内環境を作り出せることも多いです」とマルモルはいいます。「風景を見る、あるいは物理的に建物から離れて風景の中に身を置く、といったことを可能にする要素であれば、いずれも有効だと思います」
上の写真のロサンゼルスの家は、Marmol Radzinerが設計・施工をおこなったもので、サンタモニカ山脈の丘と峡谷沿いの道に挟まれた、鬱蒼とした立地を最大限に活用しています。この住まいは、自然環境を賛美し、屋内外の強いつながりを育むように設計されました。ガラスの引戸や窓を多用し、風景に向かって開かれた作りになっています。
この写真からは、眺めによって家と周囲の風景がつながっている様子を窺い知ることができます。暗い室内に対して外の植栽とスズカケノキが際立ち、屋内のリビングスペースにおいて絵画のような効果を生み出します。深い軒は風景をさらに引き込み、建物の向きと併せて住まいを太陽熱から保護します。
ロサンゼルス同様、ほぼ年間を通して屋内外で生活できるオーストラリア。上の写真の家では、ダイニングエリアとリビングエリアが完全に周囲の風景に開かれ、スライド式の壁を開放すると広々とした空間が現れます。屋内のフローリングと屋外のウッドデッキが、さらにこの2つのリビングスペースを融合させています。
Walker Workshopの建築家が設計したこのロサンゼルスの家では、家の寝室に通じる廊下の片側に、サンクンガーデンに面したガラス戸があります。写真のようにガラスをスライドさせて開くと、廊下と中庭がつながり、屋内外が融合したリビングスペースになります。
カリフォルニアや地中海のように気候が穏やかな場所には、屋内外をつなげた暮らしは適しているように見えますが、厳しい気候の地域や、虫の多い地域ではどうでしょうか。写真のボルチモア近郊の住まいでは、壁一面の窓によって一年中屋外へのつながりを感じることができ、周囲の森林の景色が変化する様子を眺めることができます。
Place architecture:designは、リビングルームに網戸付きのベランダを追加することで、さらに屋内外の空間の橋渡しとしました。広々としたパネル3枚の折れ戸が2つのスペースを隔てており、天気の良い日には開放し、虫の侵入を防ぎつつ新鮮な空気を取り入れることができます。
Place architecture:designは、リビングルームに網戸付きのベランダを追加することで、さらに屋内外の空間の橋渡しとしました。広々としたパネル3枚の折れ戸が2つのスペースを隔てており、天気の良い日には開放し、虫の侵入を防ぎつつ新鮮な空気を取り入れることができます。
空間に温かみを添え、屋外へとつなぐ自然素材
現代の家では、すっきりとしたシンプルなライン使いやディテールが用いられることが多いですが、だからといって住まいは冷たく無機質でなければいけない訳ではありません。
マルモルが理想とするのは、温かみがあり心地よいモダンインテリア。「自然素材や質感を重視しています」とマルモルはいいます。「屋内でも使用できる外装材をよく使用しています。そういったものは、有機的な自然素材であることが多く、質感や土壌への繋がりといった要素を加えることができます」
上の写真のエントランスは、シアトル北部のウィッビー島にある多世代家族の住まいで、素朴な石壁とシダー材の遊歩道が特徴です。太平洋岸北西部ならではのランドスケープ設計がDovetail General Contractorsの施工による、現代版農家住宅を内包しています。
現代の家では、すっきりとしたシンプルなライン使いやディテールが用いられることが多いですが、だからといって住まいは冷たく無機質でなければいけない訳ではありません。
マルモルが理想とするのは、温かみがあり心地よいモダンインテリア。「自然素材や質感を重視しています」とマルモルはいいます。「屋内でも使用できる外装材をよく使用しています。そういったものは、有機的な自然素材であることが多く、質感や土壌への繋がりといった要素を加えることができます」
上の写真のエントランスは、シアトル北部のウィッビー島にある多世代家族の住まいで、素朴な石壁とシダー材の遊歩道が特徴です。太平洋岸北西部ならではのランドスケープ設計がDovetail General Contractorsの施工による、現代版農家住宅を内包しています。
遊歩道と同じシダー材のデッキ材が家の中へと続き、屋内外のスペースを簡単に切り替えることができます。また、周囲の木々が落とすまだらな陰が壁や床の上で踊り、屋外にいるような感覚をもたらします。
壁は染色されたアルダー材の板で覆われており、天井はクリア塗装のシダー板張になっています。さまざまな種類の木材の組み合わせにより、空間をごちゃごちゃさせることなく、質感、温かさ、おもしろみを加えることができます。
壁は染色されたアルダー材の板で覆われており、天井はクリア塗装のシダー板張になっています。さまざまな種類の木材の組み合わせにより、空間をごちゃごちゃさせることなく、質感、温かさ、おもしろみを加えることができます。
カリフォルニア州サンタバーバラにあるRob Maday Landscape Architectureの設計によるランドスケープ。温かみのある色合いの敷石が作り出す庭の小道が、プールとスパを囲み、小さなゲストハウスの床まで続いています。石は屋内の壁にも使われ、中庭のような親密な雰囲気を演出しています。
Bates Masi + Architectsによる、ニューヨーク州ハンプトンズ地区に建てられた新しい家(上の写真)は、風景との強いつながりが特徴です。またハリケーンサンディによって破壊されたミッドセンチュリーのモダン住居を偲ぶ建築になっています。
敷地のミッドセンチュリーの歴史を考慮しながら、風景とのつながりを築くために建築家がこだわったのは、使用する素材の選択でした。
屋内外にシンプルな自然素材を選び、すっきりとしてモダンな空間に温かさを添えたのです。CLTパネルは露出した状態で天井に広がり、大きな軒となって屋外へと続き、家に日陰をもたらします。また、大判の敷石が屋内外で使用され、家と庭の境界をあいまいにしています。
敷地のミッドセンチュリーの歴史を考慮しながら、風景とのつながりを築くために建築家がこだわったのは、使用する素材の選択でした。
屋内外にシンプルな自然素材を選び、すっきりとしてモダンな空間に温かさを添えたのです。CLTパネルは露出した状態で天井に広がり、大きな軒となって屋外へと続き、家に日陰をもたらします。また、大判の敷石が屋内外で使用され、家と庭の境界をあいまいにしています。
効率を高め、暮らしを快適にする親密なスケール感
「モダニズムが重視するのは効率です。(大規模な)スケールの(住宅を)建設することは非効率的であるだけでなく、そのスケールを維持することも非効率的で持続不可能です」とマルモルは話します。「プログラムとクライアントの要求を満たす範囲で最小の家を建てたいと常に考えています。そうすれば、庭を広く取ることもできるのです。私たちは、クライアントが許す限り、最小の家にすることをおすすめします」
Acorn Deck Houseによる、マサチューセッツ州の新しいプレハブ住宅。ひっそりと佇むその控えめな外観と115平米のスペースは背景の一部となり、屋外のリビングスペースや風景が目を引きます。
「モダニズムが重視するのは効率です。(大規模な)スケールの(住宅を)建設することは非効率的であるだけでなく、そのスケールを維持することも非効率的で持続不可能です」とマルモルは話します。「プログラムとクライアントの要求を満たす範囲で最小の家を建てたいと常に考えています。そうすれば、庭を広く取ることもできるのです。私たちは、クライアントが許す限り、最小の家にすることをおすすめします」
Acorn Deck Houseによる、マサチューセッツ州の新しいプレハブ住宅。ひっそりと佇むその控えめな外観と115平米のスペースは背景の一部となり、屋外のリビングスペースや風景が目を引きます。
家の中には、寝室が2部屋、バスルームが2つ、車2台が駐車可能な独立した車庫、そして中央には広いリビングルームがあります。床から天井までのガラス窓と上部の高窓から自然の景色を取り入れた、広々とした開放感のある空間でありながら、家族にとっては親密で心地よい雰囲気を作り出します。
「大規模な住宅では、大きさのあまり家という概念から離れてしまうため、親密さを失うことがよくあります。商業空間であるかのような感覚になってしまうのです」とマルモルは言います。「多くの場合、私たちの生活の大部分を占めるのは家族とのつながりです。できる限り、そのつながりをサポートするように努めています。そのためにスケール感とバランスを重視しているのです」
「大規模な住宅では、大きさのあまり家という概念から離れてしまうため、親密さを失うことがよくあります。商業空間であるかのような感覚になってしまうのです」とマルモルは言います。「多くの場合、私たちの生活の大部分を占めるのは家族とのつながりです。できる限り、そのつながりをサポートするように努めています。そのためにスケール感とバランスを重視しているのです」
複合住宅でも空と景色を感じることのできる窓、バルコニー、そしてテラス
マンションや高層住宅にお住まいの方も、周りの自然とつながりを持つことができます。「地上高いところにいれば、別の可能性が開かれます。より広い眺めとつながっているという感覚を持って窓の外の街を見ることができれば、自分も街の一部であると感じることができるはずです。バルコニーとテラスがあれば、屋外のリビングスペースを設けることも可能です」とマルモルさんは言います。
ここでご紹介するStephen Moser Architect設計のニューヨーク市にあるベッドルームは、床から天井までのスチールサッシのガラスドアから自然光をたっぷりと取り込みます。ドアを開くと、地上高くに造られたバルコニーガーデンが外へと誘います。
マンションや高層住宅にお住まいの方も、周りの自然とつながりを持つことができます。「地上高いところにいれば、別の可能性が開かれます。より広い眺めとつながっているという感覚を持って窓の外の街を見ることができれば、自分も街の一部であると感じることができるはずです。バルコニーとテラスがあれば、屋外のリビングスペースを設けることも可能です」とマルモルさんは言います。
ここでご紹介するStephen Moser Architect設計のニューヨーク市にあるベッドルームは、床から天井までのスチールサッシのガラスドアから自然光をたっぷりと取り込みます。ドアを開くと、地上高くに造られたバルコニーガーデンが外へと誘います。
植栽で囲まれ、ツタが壁を覆う親密なこの庭では、地上から離れた高層階にありながら、ちょっとした自然を感じることができます。青い空と、マンハッタンのスカイラインの眺めも、住まいと周りの世界をつないでいます。
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