建築家に住宅の設計を依頼するということ
家づくりのファーストステップ。どのように建築家に住宅の設計を依頼すれば、スムーズに進むでしょうか?
大村哲弥
2023年7月27日
不動産・建築・住宅に関するコンセプト開発・商品企画・デザインなどを手がける有限会社プロジェ代表。一級建築士。http://www.projet-ltd.co.jp/
ブロガー。言葉とモノをめぐるブログ<Tokyo Culture Addiction>http://c-addiction.typepad.jp/blog/と料理ブログ<チキテオ>http://c-addiction.typepad.jp/txikiteo/を主宰。
不動産・建築・住宅に関するコンセプト開発・商品企画・デザインなどを手がける有限会社プロジェ代表。一級建築士。
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家づくりには設計という行為が不可欠ですが、設計には必ずしも建築家が関わるわけではありません。ハウスメーカーや工務店では資格を有した社内の設計者(建築士)が設計します。
同じ資格を有した設計者(建築士)でも、個人としてその人の個性をアピールして設計する場合、通常、その人は建築家と称されます。
家づくりにあたって建築家に設計を依頼するとはどういうことかを改めて考えてみました。
同じ資格を有した設計者(建築士)でも、個人としてその人の個性をアピールして設計する場合、通常、その人は建築家と称されます。
家づくりにあたって建築家に設計を依頼するとはどういうことかを改めて考えてみました。
設計とは要望のコンサルティングから始まる
建築家に住宅の設計を依頼することには、建築家による住まいづくりに関するコンサルティングという意味合いがあります。
人の好みや希望は多種多様で相互に矛盾することも少なくありません。さらには、ある人が表明する好みや希望が、本当にその人の心底からのものなのか、あるいは、その人が望んでいる暮らしに本当にふさわしいものかどうかは、なかなか難しい問題です。人の理想や欲望は往々にして外からの情報やイメージに影響を受けた結果であることも多いからです。また、家族間で意見が食い違ったり、要望が多すぎてすべてを満足させることはとうてい不可能な状況だったりもします。
住宅設計とは、ランダムで、盛りだくさんで、さまざまなイメージに彩られ、秘められたこだわりがあり、ともすれば相矛盾する、そんなクライアントの要望を引き出し、その上で、住宅という現実のカタチに落とし込むために取捨選択し整理する行為だといえます。建築家は時にはクライアント本人も気がつかないでいることや言葉にできないでいる隠れたニュアンスなども感じ取り、具体的な空間やイメージにして気づかせる役目も担わなければなりません。
設計の初期段階のこうした行為は、要望のコンサルティングとでも呼べるような行為です。優れた建築家は、設計のプロであると同時に人間観察のプロであらねばならない、と言われるゆえんです。
建築家はクライアントの要望のコンサルティングを通じて、これから設計する、世界でたったひとつの住宅を実現するための手がかりを得ます。
建築家に住宅の設計を依頼することには、建築家による住まいづくりに関するコンサルティングという意味合いがあります。
人の好みや希望は多種多様で相互に矛盾することも少なくありません。さらには、ある人が表明する好みや希望が、本当にその人の心底からのものなのか、あるいは、その人が望んでいる暮らしに本当にふさわしいものかどうかは、なかなか難しい問題です。人の理想や欲望は往々にして外からの情報やイメージに影響を受けた結果であることも多いからです。また、家族間で意見が食い違ったり、要望が多すぎてすべてを満足させることはとうてい不可能な状況だったりもします。
住宅設計とは、ランダムで、盛りだくさんで、さまざまなイメージに彩られ、秘められたこだわりがあり、ともすれば相矛盾する、そんなクライアントの要望を引き出し、その上で、住宅という現実のカタチに落とし込むために取捨選択し整理する行為だといえます。建築家は時にはクライアント本人も気がつかないでいることや言葉にできないでいる隠れたニュアンスなども感じ取り、具体的な空間やイメージにして気づかせる役目も担わなければなりません。
設計の初期段階のこうした行為は、要望のコンサルティングとでも呼べるような行為です。優れた建築家は、設計のプロであると同時に人間観察のプロであらねばならない、と言われるゆえんです。
建築家はクライアントの要望のコンサルティングを通じて、これから設計する、世界でたったひとつの住宅を実現するための手がかりを得ます。
制約のなか矛盾を突破するのが建築家の力量
建物の設計は、方位や周囲の既存の建物などの環境の与件、形状や面積や高低差などの敷地の条件、法規制による建築可能な床面積や建物形状の制限など、さまざまな条件や制約のもとで行われる行為です。なによりも最も大きい制約条件は建築費でしょう。
千差万別の敷地条件、細かい法規制、厳しいコストなど難題が目白押しのなかで、クライアントの要望をカタチに落とし込んでいく過程では、こちらを立てればあちらが立たず、出口がない迷路に迷い込んだような、そんな困難な状況に向き合わなければなりません。
こうしたさまざまな難題のなかで、矛盾することがらを、簡単に切り捨てて凡庸な案で満足することなく、あるいは足して2で割った安易な案で妥協することなく、一段高い次元からの提案で解決するのが建築家の力量です。
白紙からの自由なプランニングにより、決められた工法、限られた素材、間取りのパターン、既製の住設機器、量産の部材などに捕らわれず、時にはふさわしい部材を特注し、美しい納まりを考え抜き、空間と一体化した造り付け家具を考案するなどして、クライアントの要望に応え、さらにはその期待を上回る内容を提案するのが建築家です。
ひとつの敷地にはひとつの住宅しか建ちません。建築家は無限にも思える解答のなかから、さまざまな難題をクリアしたたったひとつの、しかしながらこれしかないとクライントに共感してもらえるような解答を見出す努力をします。
建物の設計は、方位や周囲の既存の建物などの環境の与件、形状や面積や高低差などの敷地の条件、法規制による建築可能な床面積や建物形状の制限など、さまざまな条件や制約のもとで行われる行為です。なによりも最も大きい制約条件は建築費でしょう。
千差万別の敷地条件、細かい法規制、厳しいコストなど難題が目白押しのなかで、クライアントの要望をカタチに落とし込んでいく過程では、こちらを立てればあちらが立たず、出口がない迷路に迷い込んだような、そんな困難な状況に向き合わなければなりません。
こうしたさまざまな難題のなかで、矛盾することがらを、簡単に切り捨てて凡庸な案で満足することなく、あるいは足して2で割った安易な案で妥協することなく、一段高い次元からの提案で解決するのが建築家の力量です。
白紙からの自由なプランニングにより、決められた工法、限られた素材、間取りのパターン、既製の住設機器、量産の部材などに捕らわれず、時にはふさわしい部材を特注し、美しい納まりを考え抜き、空間と一体化した造り付け家具を考案するなどして、クライアントの要望に応え、さらにはその期待を上回る内容を提案するのが建築家です。
ひとつの敷地にはひとつの住宅しか建ちません。建築家は無限にも思える解答のなかから、さまざまな難題をクリアしたたったひとつの、しかしながらこれしかないとクライントに共感してもらえるような解答を見出す努力をします。
社会まで射程におさめた個性を有するのが建築家
最初に記したように建築家は個人の個性をアピールした設計者です。建築や設計における個性とは、その人の好みのデザインスタイル、愛着ある素材、フォルムや空間構成の癖、納まりやディテールへのこだわりなどが、それに当たります。
建築家が設計する住宅とは、自らの個性を発揮するかたちでクライアントの要望を満足させる住宅である、あるいは、設計案という解答の見出し方において、その人の個性が発揮されている住宅であると言えるでしょう。
建築には個人の資産という側面とは別に、社会資産としての側面もあります。住宅は周囲の環境や街並みと相互に依存する関係にあり、また、多世代にわたる価値と寿命を有した資産です。住文化と言われるように、その国の暮らしの様相を反映する文化的な存在でもあります。
したがって建築家の個性の大本には、社会資産としての建築をどう考えて設計するのかという建築哲学(大げさに言えば)が、本来、横たわっていなければなりません。表面的なデザイン性へのこだわりやクライアントの要望をそつなくかなえるだけの個性では、本来の建築家としては片手落ちと言ってよいかもしれません。
ある個人のクライアントの要望を満足させると同時に、社会や文化(あるいは芸術)に対する提案でもあるというのが、建築家が設計する住宅のあるべき姿と言えるでしょう。
最初に記したように建築家は個人の個性をアピールした設計者です。建築や設計における個性とは、その人の好みのデザインスタイル、愛着ある素材、フォルムや空間構成の癖、納まりやディテールへのこだわりなどが、それに当たります。
建築家が設計する住宅とは、自らの個性を発揮するかたちでクライアントの要望を満足させる住宅である、あるいは、設計案という解答の見出し方において、その人の個性が発揮されている住宅であると言えるでしょう。
建築には個人の資産という側面とは別に、社会資産としての側面もあります。住宅は周囲の環境や街並みと相互に依存する関係にあり、また、多世代にわたる価値と寿命を有した資産です。住文化と言われるように、その国の暮らしの様相を反映する文化的な存在でもあります。
したがって建築家の個性の大本には、社会資産としての建築をどう考えて設計するのかという建築哲学(大げさに言えば)が、本来、横たわっていなければなりません。表面的なデザイン性へのこだわりやクライアントの要望をそつなくかなえるだけの個性では、本来の建築家としては片手落ちと言ってよいかもしれません。
ある個人のクライアントの要望を満足させると同時に、社会や文化(あるいは芸術)に対する提案でもあるというのが、建築家が設計する住宅のあるべき姿と言えるでしょう。
コミュニケーションを通じた相性と信頼がポイント
個性や社会性や住文化など、建築家に住宅の設計を頼むのは、なにかとめんどくさそうだとの印象を持った方もいるのではないでしょうか。クライアントの要望を聞いてくれない、デザインを押しつけられる、建築費が膨れ上がりそうだ、などの話しもよく聞きます。
そうしたネガティブなケースが全くないとは言い切れませんが、既製品ではなく注文品を手に入れるには、多少の手間とリスクはつきものです。要は相性が合い、信頼できる建築家に出会えるかどうかです。
洋服のオーダーメイドの商品のことを英語(特にイギリス英語)ではビスポークと形容します。ビスポークスーツなどの言い方は日本でも一般的になってきていると思います。ビスポーク(bespoke)とは動詞ビスピーク(bespeak)の過去分詞形が形容詞化した言葉で「注文の」「あつらえの」という意味です。
中にspeak「話す」という単語が入っているように、ピスポークには「相手と話して伝える」という意味が含意されています。ちなみにspeakという言葉には、単に「話す」だけではなく「意見を言う」というような意志や決定を伴ったニュアンスがあるのだそうです。
建築家に住宅の設計を依頼する場合も、まさにこのspeak「話す」、つまりコミュニケーションが大切です。
建築家が直接、クライアントと会い話を聞いて、設計の手がかりを得るように、クライアントも建築家との話を通じて建築家の個性を見極めましょう。建築家は過去の作品にその個性が表れています。雑誌やウェブサイトの写真だけではなく、直接、建築家の事務所に出向いて、本人と会って作品を解説してもらいましょう。できれば実物の建物を見ることができると、より建築家の個性を実感できると思います。また、仕事の進め方や設計費など、気になる点はなんでも遠慮せずに聞いたほうが良いと思います。
そうやって自分のイメージする住まいと相性が良い相手なのかどうか、任せるに足る建築家なのかどうかを見極めましょう。
建築家に要望やイメージを伝える手段は、写真、メモ、スケッチなどなんでも良いと思います。建築家からの定型の質問などがあるかもしれません。優れた建築家であれば、どんな手段であってもクライアントへのヒアリングを通じて、勘所はこれだ、という設計の手がかりのようなものをつかむはずです。
建築家に相通じるところが感じられなかった場合や疑問が残った場合はどうすればよいか。その時は、遠慮なく別のパートーナーを探すべきです。ビスポークという言い方は、話が通じ合い、お互いに信頼を築ける間柄ではないと、うまくいかないことを物語っています。
建築家を探す
あなたの地域の住宅設計の専門家を探す
教えてHouzz
建築家に注文してよかったエピソードや、建築家へ聞いてみたいことがあったら、コメント欄で共有しましょう。
個性や社会性や住文化など、建築家に住宅の設計を頼むのは、なにかとめんどくさそうだとの印象を持った方もいるのではないでしょうか。クライアントの要望を聞いてくれない、デザインを押しつけられる、建築費が膨れ上がりそうだ、などの話しもよく聞きます。
そうしたネガティブなケースが全くないとは言い切れませんが、既製品ではなく注文品を手に入れるには、多少の手間とリスクはつきものです。要は相性が合い、信頼できる建築家に出会えるかどうかです。
洋服のオーダーメイドの商品のことを英語(特にイギリス英語)ではビスポークと形容します。ビスポークスーツなどの言い方は日本でも一般的になってきていると思います。ビスポーク(bespoke)とは動詞ビスピーク(bespeak)の過去分詞形が形容詞化した言葉で「注文の」「あつらえの」という意味です。
中にspeak「話す」という単語が入っているように、ピスポークには「相手と話して伝える」という意味が含意されています。ちなみにspeakという言葉には、単に「話す」だけではなく「意見を言う」というような意志や決定を伴ったニュアンスがあるのだそうです。
建築家に住宅の設計を依頼する場合も、まさにこのspeak「話す」、つまりコミュニケーションが大切です。
建築家が直接、クライアントと会い話を聞いて、設計の手がかりを得るように、クライアントも建築家との話を通じて建築家の個性を見極めましょう。建築家は過去の作品にその個性が表れています。雑誌やウェブサイトの写真だけではなく、直接、建築家の事務所に出向いて、本人と会って作品を解説してもらいましょう。できれば実物の建物を見ることができると、より建築家の個性を実感できると思います。また、仕事の進め方や設計費など、気になる点はなんでも遠慮せずに聞いたほうが良いと思います。
そうやって自分のイメージする住まいと相性が良い相手なのかどうか、任せるに足る建築家なのかどうかを見極めましょう。
建築家に要望やイメージを伝える手段は、写真、メモ、スケッチなどなんでも良いと思います。建築家からの定型の質問などがあるかもしれません。優れた建築家であれば、どんな手段であってもクライアントへのヒアリングを通じて、勘所はこれだ、という設計の手がかりのようなものをつかむはずです。
建築家に相通じるところが感じられなかった場合や疑問が残った場合はどうすればよいか。その時は、遠慮なく別のパートーナーを探すべきです。ビスポークという言い方は、話が通じ合い、お互いに信頼を築ける間柄ではないと、うまくいかないことを物語っています。
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おおよそ3年前の記事ですが、改めて読み返しました。
タイトルにある通り、まさに『“建築家”に住宅の設計を依頼するということ』の真意が詰まってますね。
『雑誌やウェブサイトの写真だけではなく、直接、建築家の事務所に出向いて、本人と会って作品を解説してもらいましょう。できれば実物の建物を見ることができると、より建築家の個性を実感できると思います。また、仕事の進め方や設計費など、気になる点はなんでも遠慮せずに聞いたほうが良いと思います。
建築家に相通じるところが感じられなかった場合や疑問が残った場合はどうすればよいか。その時は、遠慮なく別のパートーナーを探すべきです。ビスポークという言い方は、話が通じ合い、お互いに信頼を築ける間柄ではないと、うまくいかないことを物語っています。』
どうかこちらのアドバイスが多くの方に届いて、規模の大小に関わらず、積極的に、そして楽しく、家づくりの旅が始まるといいなと思います。^^