結核の大流行とモダニズム建築のかたち
結核患者に医者が処方したのは太陽、空気、そして屋外での療養でした。それが、モダニズム建築に影響を与えることになったのです。
Rebecca Gross
2020年5月11日
20世紀初頭のモダニズム建築は、結核の大流行後に生まれました。当時、結核は死因の第1位でした。若年層の死亡率がとくに高かったため“青春を奪うもの”と呼ばれ、金銭的に余裕のある患者は、日光、新鮮な空気、屋外の治療効果を求めて、サナトリウムで治療を受けていました。
ル・コルビュジエやアルヴァ・アアルトなど、時代の影響を受けたモダニズム建築家たちは、この病気について真剣に取組み、太陽、空気、屋外、そして衛生的な暮らしを取り入れた建築を発展させたのです。
ル・コルビュジエやアルヴァ・アアルトなど、時代の影響を受けたモダニズム建築家たちは、この病気について真剣に取組み、太陽、空気、屋外、そして衛生的な暮らしを取り入れた建築を発展させたのです。
19世紀ヴィクトリア様式のインテリア 画像:ジョージ・ローヤン
歴史を通じて、疫病は住宅や建物、都市のデザインに影響を与えてきました。1800年代には人口過密や不衛生な状況により、コレラが世界中でパンデミックを起こしました。これにより、新しい配管と下水設備の整備や、過密状態を防ぐためのゾーニング規制の必要性が叫ばれるようになったのです。
1900年代の初頭、アメリカ、イングランド、ウェールズ、オーストラリアなどにおいて、結核や肺炎は主要な死因の1つとなりました。当時、多くの人々はヴィクトリア期の住宅や共同住宅に住んでいました。これらの住宅には、重厚な木材や布張りの家具、カーペット、生地、長いドレープのカーテン、その他さまざまな装飾品がありましたが、窓が小さいために採光や換気が難しく、建具に施された細工にはホコリが溜まりました。
歴史を通じて、疫病は住宅や建物、都市のデザインに影響を与えてきました。1800年代には人口過密や不衛生な状況により、コレラが世界中でパンデミックを起こしました。これにより、新しい配管と下水設備の整備や、過密状態を防ぐためのゾーニング規制の必要性が叫ばれるようになったのです。
1900年代の初頭、アメリカ、イングランド、ウェールズ、オーストラリアなどにおいて、結核や肺炎は主要な死因の1つとなりました。当時、多くの人々はヴィクトリア期の住宅や共同住宅に住んでいました。これらの住宅には、重厚な木材や布張りの家具、カーペット、生地、長いドレープのカーテン、その他さまざまな装飾品がありましたが、窓が小さいために採光や換気が難しく、建具に施された細工にはホコリが溜まりました。
アディロンダック・サナトリウムの「リトルレッド」 画像:Mwanner
結核は伝染力が強く、新型コロナウイルス同様、患者を隔離することが予防の鍵でした。医師は結核患者に、休息すること、健康的な食事を取ること、そして日光と新鮮な空気にあたることを命じました。
多くの裕福な患者はニューヨーク州北部にある「アディロンダック・コテージ・サナトリム」のような、サナトリウムで治療を受けました。アディロンダック・コテージ・サナトリムは、1885年にアメリカで初めて建設された、結核患者のための施設です。過密な都市とは対照的な、解放的で緑豊かな田舎の環境で、患者たちは健康を取り戻しました。
結核は伝染力が強く、新型コロナウイルス同様、患者を隔離することが予防の鍵でした。医師は結核患者に、休息すること、健康的な食事を取ること、そして日光と新鮮な空気にあたることを命じました。
多くの裕福な患者はニューヨーク州北部にある「アディロンダック・コテージ・サナトリム」のような、サナトリウムで治療を受けました。アディロンダック・コテージ・サナトリムは、1885年にアメリカで初めて建設された、結核患者のための施設です。過密な都市とは対照的な、解放的で緑豊かな田舎の環境で、患者たちは健康を取り戻しました。
ニューヨークのアディロンダック山地の多くの療養施設では、「アディロンダック・チェア」と呼ばれるクラシックな椅子が使われていました。結核患者にぴったりだと考えられていたその椅子を屋外に置き、患者たちは新鮮な空気の中で身体を休めました。
サヴォア邸、2015年 画像:LStrike
当初、サナトリウムは山岳地帯のコテージでしたが、その後、患者の回復を助け、病気の伝染を防ぐための専用の建物が設計されるようになりました。この結核患者の治療とサナトリウムの設計は、ル・コルビュジエ、ミース・ファン・デル・ローエ、アルヴァ・アアルトなどが牽引したモダニズム建築の発展に影響を与えました。
モダニズム建築家は、ローコスト住宅の供給や、大衆の生活基準の向上などの社会問題だけでなく、結核を防ぐという課題にも対応した新しい建築の形を作ろうとしたのです。
たとえば、病気と清潔さに関心があったル・コルビュジエは、1929年に設計したフランスのサヴォア邸において、玄関の横に手洗い用の流しを設けています。
絶対に知っておきたいモダニズムの傑作住宅:サヴォア邸
当初、サナトリウムは山岳地帯のコテージでしたが、その後、患者の回復を助け、病気の伝染を防ぐための専用の建物が設計されるようになりました。この結核患者の治療とサナトリウムの設計は、ル・コルビュジエ、ミース・ファン・デル・ローエ、アルヴァ・アアルトなどが牽引したモダニズム建築の発展に影響を与えました。
モダニズム建築家は、ローコスト住宅の供給や、大衆の生活基準の向上などの社会問題だけでなく、結核を防ぐという課題にも対応した新しい建築の形を作ろうとしたのです。
たとえば、病気と清潔さに関心があったル・コルビュジエは、1929年に設計したフランスのサヴォア邸において、玄関の横に手洗い用の流しを設けています。
絶対に知っておきたいモダニズムの傑作住宅:サヴォア邸
サヴォア邸(フランス)、リビングから見たテラス 画像:Netphantm
ル・コルビュジエは光と空気を健康に不可欠なものだと考え、サヴォア邸にも見られる、屋上庭園を設けた水平屋根を、“近代建築の五原則”の1つとしました。
ル・コルビュジエは1920年代にこの近代建築の五原則を提唱し、次のような自身のモダニストデザインの特徴を示しました。
ル・コルビュジエは光と空気を健康に不可欠なものだと考え、サヴォア邸にも見られる、屋上庭園を設けた水平屋根を、“近代建築の五原則”の1つとしました。
ル・コルビュジエは1920年代にこの近代建築の五原則を提唱し、次のような自身のモダニストデザインの特徴を示しました。
- 地上から建物を持ち上げるピロティ(柱)
- 自由な平面構成
- 構造の制約から自由なファサード
- 一様な光と景色のための水平連続窓
- 家族が使用でき、コンクリートの屋根を保護するために水平屋根の上に設けられた屋上庭園
初期のモダニズム建築には、すっきりとしたライン、白い仕上げ面、広いガラス面、屋内外をつなぐリビングルームといった特徴があります。これはよく“機械の美学”と表現されてきましたが、建築史家、建築理論家、キュレーターのビアトリス・コロミーナと、アーカンソー大学建築学部長のピーター・マックキースは、「むしろ病院の美学であり、人間中心のデザインである」と言います。実際、こうしたインテリアは、より明るく、風通しの良い、開放的で衛生的な環境づくりに役立ちました。
この点でもう1つ貢献したのが、モダニストのデザインによる家具です。ステンレスや革製の家具は、脚が長く作られ、移動や掃除がしやすく、見渡しもよくなるように工夫されていました。
1928年に、ル・コルビュジエ、シャルロット・ペリアン、ピエール・ジャンヌレがデザインした「LC4 シェーズロング」などのモダニズムの美学を持ったリクライニングチェアも、この時期に多く登場しました。これらはサナトリウムのリクライニングチェアから着想を得ており、脚を高くすることで、空気の循環を妨げないよう工夫されています。
名作家具:LC4 シェーズロング
この点でもう1つ貢献したのが、モダニストのデザインによる家具です。ステンレスや革製の家具は、脚が長く作られ、移動や掃除がしやすく、見渡しもよくなるように工夫されていました。
1928年に、ル・コルビュジエ、シャルロット・ペリアン、ピエール・ジャンヌレがデザインした「LC4 シェーズロング」などのモダニズムの美学を持ったリクライニングチェアも、この時期に多く登場しました。これらはサナトリウムのリクライニングチェアから着想を得ており、脚を高くすることで、空気の循環を妨げないよう工夫されています。
名作家具:LC4 シェーズロング
パイミオのサナトリウム(フィンランド) 画像:レオン・リャオ
1932年、アルヴァ・アアルトはフィンランドに、モダニズムと医療を融合させたパイミオのサナトリウムを設計しました。バルコニーと大きな窓があり、景色や光、空気を取り入れることができるようになっています。アアルトはインテリア、家具や什器についても、患者の療養に配慮して設計しました。
20世紀には、ワクチン、抗生物質、抗ウィルス剤の開発とともに、結核やその他の感染症の治療も進んでいきました。
1932年、アルヴァ・アアルトはフィンランドに、モダニズムと医療を融合させたパイミオのサナトリウムを設計しました。バルコニーと大きな窓があり、景色や光、空気を取り入れることができるようになっています。アアルトはインテリア、家具や什器についても、患者の療養に配慮して設計しました。
20世紀には、ワクチン、抗生物質、抗ウィルス剤の開発とともに、結核やその他の感染症の治療も進んでいきました。
今日では、世界における人口の半分以上が都市に住んでおり、この数字は今後数十年間でさらに増加すると考えられています。これらの都市に住む人々は、新型コロナウイルスが流行する前にも、90%の時間を屋内で過ごしていたと言われています。
20世紀初め、感染症の流行に後押しされて誕生した新しい建築の様式は、現代の建築にもインスピレーションを与えて続けています。当時も現在も、“隔離”は感染症が広がるのを防ぐ有効な手段とされています。都市部の人口や開発密度が増加する現在、隔離は住宅や建物のデザインに影響を与えるかもしれません。
新型コロナウイルスで、私たちの住まいはどう変化する?
20世紀初め、感染症の流行に後押しされて誕生した新しい建築の様式は、現代の建築にもインスピレーションを与えて続けています。当時も現在も、“隔離”は感染症が広がるのを防ぐ有効な手段とされています。都市部の人口や開発密度が増加する現在、隔離は住宅や建物のデザインに影響を与えるかもしれません。
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Rebecca Gross 様
とても貴重な記事を拝見できてうれしく思います。
モダニズム建築は、バウハウスなど社会との関りに強い関心を置いて展開されました。 現在において、経済優先主義的な建築ばかりではなく、今回のコロナ以降は、特に風の国とも例えらる日本にあっては、人と自然とを基調とした建築志向の概念により目を向ける必要があると感じています。
ありがとうございました。
Rebecca Gross様 今回の記事では建築学イコール医学である事を明確に説明して頂きありがとうございました。明るい光や風通しの良い家は風水学と共通のものです。コロナのパンデイミックを通し、私達の住まいやライフスタイルも自然と調和して生きる大切さを改めて再認識させられた人も多いのではと思います。私達建築関連の専門家はクライアントの方々が健康で発展出来る質の高い建築や環境を提供するように真剣に取り組まねばと改めて感じます!