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Houzzツアー:時に明るく、時にほの暗く。“場” に合った開口がつくり出す光を楽しむ家
豊かな自然と響き合う、自然光の陰影が美しい室内。場にふさわしい窓をしつらえて光を導き、住まいの中にいくつもの異なる表情を与えた、心地よい静けさの家。
Taeko Ishii
2016年11月28日
フリーランスのエディター・ライター。大学で住まいについて学んだのち、コピーライター、住宅雑誌編集者を経てフリーランスに。暮らしまわりに関すること、地方での暮らしについてが主なテーマです。
フリーランスのエディター・ライター。大学で住まいについて学んだのち、コピーライター、住宅雑誌編集者を経てフリーランスに。暮らしまわりに関すること、地方での暮らしについてが主なテーマです... もっと見る
光を抑えた1階から階段を上ると、窓の向こうにみずみずしい緑が広がる明るいLDKが待っていた。開放的になりすぎない横長の窓はどこか和の情緒を感じさせ、正面のソファに座れば、心地よく視線が抜ける。
新しい住宅が増えつつある宇都宮市郊外。市街化調整区域に位置する敷地の周囲には自然が多く残り、南側にはのどかな山林の景色が広がっていた。この場所での家づくりを決めたオーナー夫妻の希望は「やわらかい光と緑を感じる穏やかな住まい」というシンプルなもの。敷地を訪れた建築家の水野純也さんがイメージしたのは、視線の抜けを生かしたシンプルな形状の住まいだ。「南側の豊かな自然と呼応し、たくさんの緑に囲まれることで、時間と共に風景のように受け入れられていく建築を求めました」。
新しい住宅が増えつつある宇都宮市郊外。市街化調整区域に位置する敷地の周囲には自然が多く残り、南側にはのどかな山林の景色が広がっていた。この場所での家づくりを決めたオーナー夫妻の希望は「やわらかい光と緑を感じる穏やかな住まい」というシンプルなもの。敷地を訪れた建築家の水野純也さんがイメージしたのは、視線の抜けを生かしたシンプルな形状の住まいだ。「南側の豊かな自然と呼応し、たくさんの緑に囲まれることで、時間と共に風景のように受け入れられていく建築を求めました」。
東西に長い長方形に、切妻屋根を大きくかぶせた地上2階建ての住まいは、シンプルな形ながら、ムラのあるモルタルの外壁が味わい深い。隣家に面する北側は開口を最小限にして閉じる一方で、眺望を得られる南側には空間に合わせた大小の窓を設けている。
どんなHouzz?
《奈坪の家》
所在地:栃木県宇都宮市
住まい手:夫妻(30代)、長男(6歳)、長女(4歳)
設計:水野純也建築設計事務所
敷地面積:274.27平方メートル(82.97坪)
建築面積:67.60平方メートル(20.45坪)
延床面積:99.97平方メートル(30.24坪)
構造と規模:木造 地上2階建て
完成年:2014年4月
どんなHouzz?
《奈坪の家》
所在地:栃木県宇都宮市
住まい手:夫妻(30代)、長男(6歳)、長女(4歳)
設計:水野純也建築設計事務所
敷地面積:274.27平方メートル(82.97坪)
建築面積:67.60平方メートル(20.45坪)
延床面積:99.97平方メートル(30.24坪)
構造と規模:木造 地上2階建て
完成年:2014年4月
玄関のある北側には、アプローチとして側廊を設けた。細い支柱で支えられた端正な佇まいは、雨よけとしての機能のみならず、室内外の中間領域としてほっと一息つける場所でもあり、訪れた人を室内へと迎え入れる。
モダンななかに温もりを感じさせる、ベイマツ材で製作した玄関戸。十字をあしらった戸の内側には、同じく十字のデザインの網戸があり、開け放てば室内を風が通り抜ける。1階正面南側のスチールサッシもデザインを統一。十字を介して見ることで景色が奥行きを増し、豊かな空間を予感させる。
室内は1階に主寝室と水まわり、書斎、眺めのいい2階に家族が集うLDKと子供部屋を配置した。玄関の扉を開けると、抑えた開口からの控えめな光が、落ち着きを感じさせる。
「1階は天井高を2100mmと低くし、開口からの光を絞りました。床はコンクリートやタイルなど土間のように仕上げて、アプローチからの連続として位置づけています。床レベルの高さも地面に近づけ、全体にしっとりとした印象を目指しました」と水野さん。
壁や天井を白で統一しているため、暗さは感じないが自然光の陰影が美しく、こもるような静かな雰囲気は、寝室や書斎といった落ち着きを必要とする空間にふさわしい。
水まわりもモノトーンの硬質な素材感で統一。モルタルで造作した洗面カウンターは下部に収納を設けず、すっきりとオープンにまとめ、ミラー内側と下部に収納スペースを確保した。右手はデッキ張りの物干し場で、左奥の洗濯機からそのまま干しに出られる、効率的な動線だ。
バスルームは床と壁にモルタルを使用し、十字の木製建具をアクセントに。手前には壁で囲まれたバスコートがあり、視線を気にせずに夕涼みを楽しめる。
そして階段を上ると、一転して開放的な明るい空間が広がる。「2階はリビング、ダイニングキッチン、ワークスペース、ピアノコーナーと多様な要素を持たせつつ、天井を高くとることで空間をおおらかに包みました」。天井高2850mmと1階よりも高く、さらに間仕切りを最小限にしてゆるやかにつないだ空間全体に、穏やかな光が回り込む。
キッチンとリビングの間、そして階段室とLDKの間は、高さ1030mmの腰壁でゆるやかに区切った。腰壁の高さは現場で熟慮を重ね、2階ワークスペースのグランドピアノと同じ高さで統一。腰の高さ程度なので圧迫感がなく、家族がどこにいても気配を感じられる。
キッチンとリビングの間、そして階段室とLDKの間は、高さ1030mmの腰壁でゆるやかに区切った。腰壁の高さは現場で熟慮を重ね、2階ワークスペースのグランドピアノと同じ高さで統一。腰の高さ程度なので圧迫感がなく、家族がどこにいても気配を感じられる。
何よりこの場を印象づけるのが、LDKの南側に開いた幅5mのワイドな開口だ。遠くに広がる山並みを遮らないFIX窓を中心に、左右に通風用の片開き戸をシンメトリーに配置。開口の手前には高さ450mm、奥行き450mmの窓台をデザインして、ベンチのように腰掛けられる居場所に。壁一面の大開口ではなく、高さを抑えたことで、守られているような心地よさが生まれ、周囲の壁にも美しい陰影が描き出される。
その場にふさわしい窓をしつらえて光を導き、住まいの中にいくつもの異なる表情を生み出すのが、水野さんの建築の特徴のひとつ。
「設計では開口のバランスと奥行き、つまり厚みに心を配ります。空間ごとに必要な光は異なるので、時に明るく、時にほの暗くといったようにイメージをつくり、壁と開口のバランスをとるように心がけています」。
なかでも住まいの中心となる大きな窓には、厚みを持たせて陰影や奥行きを生み、“重み”のようなものをつくり出す。「石やレンガの壁でつくる、組積造の感覚を取り入れているのかもしれません」。
その場にふさわしい窓をしつらえて光を導き、住まいの中にいくつもの異なる表情を生み出すのが、水野さんの建築の特徴のひとつ。
「設計では開口のバランスと奥行き、つまり厚みに心を配ります。空間ごとに必要な光は異なるので、時に明るく、時にほの暗くといったようにイメージをつくり、壁と開口のバランスをとるように心がけています」。
なかでも住まいの中心となる大きな窓には、厚みを持たせて陰影や奥行きを生み、“重み”のようなものをつくり出す。「石やレンガの壁でつくる、組積造の感覚を取り入れているのかもしれません」。
開口や室内の木製建具は、すべてオリジナルで製作。壁のようにシンプルな白い建具と木製建具をバランスよく使い分け、コストを抑えている。
木製建具は玄関戸と同じく、ベイマツ材を使った十字のデザインで統一し、白を基調とした空間にやわらかな質感を添えた。室内を区切る建具はすべて引き戸。和の趣を感じさせるとともに、空間を広く使える効果もある。
木製建具は玄関戸と同じく、ベイマツ材を使った十字のデザインで統一し、白を基調とした空間にやわらかな質感を添えた。室内を区切る建具はすべて引き戸。和の趣を感じさせるとともに、空間を広く使える効果もある。
陰影の背景となる壁は、1階はフラットな質感のAEP塗装で統一する一方、2階は表情豊かな砂漆喰を採用した。「消臭や防カビなどの機能性はもちろん、経年変化で味わいを増すよう、砂の混ぜ方を変えたサンプルをいくつか作って検討しました」と水野さん。
質感が心地いい無垢フローリングは、短い素材を並べて間に長い材を横方向に張る「朝鮮張り」に。温もりのなかに規則正しい表情が生まれている。
空間にしっくりとなじんでいる家具は、素材感と視線の高さを重視して吟味した。リビングのソファは、埼玉の家具工房〈ハオアンドメイ〉でオーダー。リビングの窓が床から450mmと重心が低いため、座ったときの眺めがいいように座面を高さ300mmと低めにしている。軽く持ち運びが容易なので、気分に合わせて位置を変えることも可能だ。
空間にしっくりとなじんでいる家具は、素材感と視線の高さを重視して吟味した。リビングのソファは、埼玉の家具工房〈ハオアンドメイ〉でオーダー。リビングの窓が床から450mmと重心が低いため、座ったときの眺めがいいように座面を高さ300mmと低めにしている。軽く持ち運びが容易なので、気分に合わせて位置を変えることも可能だ。
トップライトからの光が静謐な印象を与えるダイニングには、家族で囲める円形のテーブルを置いた。ソファと同じく〈ハオアンドメイ〉にオーダーしたもので、フローリングと同じナラ材を使用している。シンプルな形のなかに木のどっしりとした安定感があり、飽きのこない優しいデザインだ。ダイニングチェアも時代を超えて愛される、ボーエ・モーエンセンのシェーカーチェア《J39》を合わせた。
「各々の “場” から見える空間や景色、感じる光や風、そこにいる人々といった “場” のイメージを描き、つなぎ合わせていきました」と振り返る水野さんの言葉通り、場所ごとに多様な光を楽しみ、気分が変わる住まい。
「“住むこと” のイメージを大切に、機能的であるように設計しています。住み手の好みは変化するものなので、家はなるべくシンプルなものを目指しました」。あくまで暮らしの器として控えめな美しさを追求した住まいには、静かな心地よさが満ちていた。
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「“住むこと” のイメージを大切に、機能的であるように設計しています。住み手の好みは変化するものなので、家はなるべくシンプルなものを目指しました」。あくまで暮らしの器として控えめな美しさを追求した住まいには、静かな心地よさが満ちていた。
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