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北欧デザインに革命を起こす女性たち
ジェンダー平等の国として知られるスウェーデンで、ある展示をきっかけにジェンダーとデザインについての議論が巻き起こりました。
Sara Norrman
2020年3月30日
今年2月、スウェーデンで開催されたストックホルム・デザインウィーク。ここで、『ミスチーフス(Misschiefs)』というグループ名のもとに集まった女性デザイナーたちが展示を行い、議論を巻き起こしました。「ミスチーフスのコレクションは、デザインにおいて「スウェーデンらしさ」を定義する、伝統的、厳格かつ閉鎖的な男性優位のデザインスタイルに反対して立ち上がる」として、人々に行動をよびかけたのです。
スウェーデン国外の読者のみなさんにとっては、異議を唱えたくなることかもしれません。地球上で最もジェンダー平等な国で、このような戦いを叫ぶ必要があるのでしょうか?そして、スウェーデンのデザインは男性優位なのでしょうか?ミスチーフスの発起人と著名なスウェーデン女性デザイナーたちに、男性と女性のデザインの違いについて、そして今後のビジネスにおいてより良いバランスをとるための方法について、聞きました。
スウェーデン国外の読者のみなさんにとっては、異議を唱えたくなることかもしれません。地球上で最もジェンダー平等な国で、このような戦いを叫ぶ必要があるのでしょうか?そして、スウェーデンのデザインは男性優位なのでしょうか?ミスチーフスの発起人と著名なスウェーデン女性デザイナーたちに、男性と女性のデザインの違いについて、そして今後のビジネスにおいてより良いバランスをとるための方法について、聞きました。
写真: Kimberly Ihre
パオラ・ビャリンガ(Paola Bjäringer)は、10名のスウェーデン人デザイナーおよびアーティストの作品を展示する、フェミニズムを主題とした巡回展『ミスチーフス』 のキュレーターです。彼女にとってのスウェーデンらしさをたずねると、「機能的で、すっきりとしていて、真面目」との答えが返ってきました。
「スウェーデンのような比較的ジェンダー平等が確立された社会やデザイン産業でさえ、全般的に女性クリエーターの活躍の余地はまだ十分にあります。このような状況は、より有意義な生活を送るための斬新な提案を切望している消費者文化や、デザイン業界、そしてその製品などに影響を与えています。すでに始動しているもののまだ芽生えの段階にある新しい生産サイクルにおいて、女性は中心的役割を果たしているのです」とビャリンガは言います。
世界銀行グループが発表した2019年の報告書によると、スウェーデンは、男女間の経済的平等に達した世界6カ国のうちの1つです (他の国はデンマーク、ベルギー、フランス、ラトビア、ルクセンブルク)。
パオラ・ビャリンガ(Paola Bjäringer)は、10名のスウェーデン人デザイナーおよびアーティストの作品を展示する、フェミニズムを主題とした巡回展『ミスチーフス』 のキュレーターです。彼女にとってのスウェーデンらしさをたずねると、「機能的で、すっきりとしていて、真面目」との答えが返ってきました。
「スウェーデンのような比較的ジェンダー平等が確立された社会やデザイン産業でさえ、全般的に女性クリエーターの活躍の余地はまだ十分にあります。このような状況は、より有意義な生活を送るための斬新な提案を切望している消費者文化や、デザイン業界、そしてその製品などに影響を与えています。すでに始動しているもののまだ芽生えの段階にある新しい生産サイクルにおいて、女性は中心的役割を果たしているのです」とビャリンガは言います。
世界銀行グループが発表した2019年の報告書によると、スウェーデンは、男女間の経済的平等に達した世界6カ国のうちの1つです (他の国はデンマーク、ベルギー、フランス、ラトビア、ルクセンブルク)。
デザイナーのエマ・マルガ・ブランシュ と彼女の作品『スクリーム・ア・ウィスパー(Scream a Whisper)』スツール。
写真: Kimberly Ihre
フランス系スウェーデン人デザイナーのエマ・マルガ・ブランシュ(Emma Marga Blanche)は自らのミスチーフス・プロジェクトについてこう語ります。「制作中は妊娠していたので、その経験が作品に大きな影響を与えました。作品制作は、まず編み物について探求したいという思いから始まりました。編み物は母親や女性全般、あるいは全ての世代をつなぐ特別な手工芸のひとつだからです」
写真: Kimberly Ihre
フランス系スウェーデン人デザイナーのエマ・マルガ・ブランシュ(Emma Marga Blanche)は自らのミスチーフス・プロジェクトについてこう語ります。「制作中は妊娠していたので、その経験が作品に大きな影響を与えました。作品制作は、まず編み物について探求したいという思いから始まりました。編み物は母親や女性全般、あるいは全ての世代をつなぐ特別な手工芸のひとつだからです」
写真: Kimberly Ihre
「編み物でどんな美学を探求できるかを知りたくて、堅いものと対比させながら、さらに他の何かと織り交ぜたいと思いました」と彼女はいいます。 「そこで、安定していて腰掛けることができ、身体を委ねることができるスツールを作るというアイデアが浮かびました。スツールが形になると同時に、妊娠中の私自身の体型も変わり、これもまたプロジェクトに対する私の見方を変えました」
「編み物でどんな美学を探求できるかを知りたくて、堅いものと対比させながら、さらに他の何かと織り交ぜたいと思いました」と彼女はいいます。 「そこで、安定していて腰掛けることができ、身体を委ねることができるスツールを作るというアイデアが浮かびました。スツールが形になると同時に、妊娠中の私自身の体型も変わり、これもまたプロジェクトに対する私の見方を変えました」
サラ・ジーバー(Sara Szyber) は、彼女の作品である『デス・プルーフ・キャビネット(Death Proof Cabinet)』について、「市松模様がプリントされた木材と曲線的な脚から成る物理的な収納体で、鑑賞者との対話を求めます。この作品は、表現とマテリアリティ、そして自分と現代世界との抵抗関係を主題としています」と説明しています。
写真: Kimberly Ihre
「なぜ、そして、どのように、一部のカテゴリが極度にジェンダー化されているのかについて考えるのは、とても興味深いことです」とビャリンガはいいます。「男性優位のデザイン領域に、今こそ女性デザイナーが侵攻し、生産者、思考者、実行者、購入者として居場所を勝ち取る時がきたのだと思います」
写真: Kimberly Ihre
「なぜ、そして、どのように、一部のカテゴリが極度にジェンダー化されているのかについて考えるのは、とても興味深いことです」とビャリンガはいいます。「男性優位のデザイン領域に、今こそ女性デザイナーが侵攻し、生産者、思考者、実行者、購入者として居場所を勝ち取る時がきたのだと思います」
写真: Petra Bindel
ミスチーフス・プロジェクト以外にも、スウェーデンの多くの著名女性デザイナーたちが、デザイン市場を少し揺さぶる必要があると感じています。
オフェクト、スカンディフォルム、 カスタール、メイズ、デヴィッド・デザインなど家具やアクセサリブランドと仕事をしてきたルイーズ・へダストロム(Louise Hederström)は、「デザインビジネスには、男性が極めて優遇されてきた古い体制や図式が残っています」と語ります。
「おそらくこれは視野の狭さによるものでしょう。人は自分と似たような人を雇う傾向があるので、管理職に男性がいれば、男性デザイナーが雇われる流れになるのです」
ミスチーフス・プロジェクト以外にも、スウェーデンの多くの著名女性デザイナーたちが、デザイン市場を少し揺さぶる必要があると感じています。
オフェクト、スカンディフォルム、 カスタール、メイズ、デヴィッド・デザインなど家具やアクセサリブランドと仕事をしてきたルイーズ・へダストロム(Louise Hederström)は、「デザインビジネスには、男性が極めて優遇されてきた古い体制や図式が残っています」と語ります。
「おそらくこれは視野の狭さによるものでしょう。人は自分と似たような人を雇う傾向があるので、管理職に男性がいれば、男性デザイナーが雇われる流れになるのです」
ヘダストロムにとって、デザイン界における最高のステータスシンボルは、キャビネットではなく、椅子です。
「大手企業のために椅子(できればスタッキング式で数千の単位で売れるタイプのもの)をデザインすれば、たちまちデザイナーとしての名を確立できます」と彼女は言います。 「オフェクトの『テーラー・チェア(Tailor chair)』(写真)をデザインしたことをきっかけに、キャリアが軌道に乗りました。椅子がデザイン業界のアイコン的ステータスになっているのは少しおかしなことに感じられるかもしれませんが、実際そうなのです。そして、みなさんが名前
を挙げることできる椅子のほとんどが、男性によってデザインされたものです」
名作住宅:コルビュジエに消されかけた女性建築家、グレイの傑作《E1027》
「大手企業のために椅子(できればスタッキング式で数千の単位で売れるタイプのもの)をデザインすれば、たちまちデザイナーとしての名を確立できます」と彼女は言います。 「オフェクトの『テーラー・チェア(Tailor chair)』(写真)をデザインしたことをきっかけに、キャリアが軌道に乗りました。椅子がデザイン業界のアイコン的ステータスになっているのは少しおかしなことに感じられるかもしれませんが、実際そうなのです。そして、みなさんが名前
を挙げることできる椅子のほとんどが、男性によってデザインされたものです」
名作住宅:コルビュジエに消されかけた女性建築家、グレイの傑作《E1027》
ニーナ・ジョブス(Nina Jobs)(上記写真) とスティナ・サンドワル(Stina Sandwall) も、ストックホルム・デザインウィークのデザインガラリエ(Designgalleriet)で『インヘール・エクスヘール(Inhale Exhale)―あなたにくつろぎを与えるデザイン』をテーマに家具コレクションを出展しました。今日のスウェーデンデザインを象徴する3つの言葉としてジョブズが挙げるのは、問題意識、持続可能性、多文化主義です。
ジョブズは、デザインには「男性らしさ」と「女性らしさ」があると考えています。 「表現にこそはっきりと違いはみられますが、ここ北欧では、世界の他の地域よりも差は小さいかもしれません。おそらく私たちのデザインにおけるスカンジナビア人らしさは、平等意識でしょう。たとえ男性主導の企業であっても、多くの企業にとって、女性デザイナーに委任することがトレンドのようになっています。これはバランスの取れた良い関係性を生むと思います」
ジョブズは、デザインには「男性らしさ」と「女性らしさ」があると考えています。 「表現にこそはっきりと違いはみられますが、ここ北欧では、世界の他の地域よりも差は小さいかもしれません。おそらく私たちのデザインにおけるスカンジナビア人らしさは、平等意識でしょう。たとえ男性主導の企業であっても、多くの企業にとって、女性デザイナーに委任することがトレンドのようになっています。これはバランスの取れた良い関係性を生むと思います」
『インヘール・エクスヘール』展では、互いに補完し、連携して機能するように設計された家具とオブジェクトで構成される同名のコレクションが特集されました。すべての作品はスウェーデンで生産および製造されました。展示資料によると、「本棚、小さなテーブル、ポットなど、呼吸をするような繊細で感覚的な動きがある」コレクションであるとのこと。
インヘール・エクスヘール・コレクションのもう一人のデザイナーであるサンドワルは、「特定の要素によってデザインをよりフェミニンにすることができます」とi
います。 「私たちは、敢えて表現をもう少し有機的にして、より柔らかい色彩を用いながら、より柔軟な価値観で仕事をしています。物事にもっと耳を傾けているといえるかもしれません」
社会の持続可能性、平等、多文化主義に関して、デザイン界は前進しているものの、それには代償も伴うとサンドワルは考えています。 「私たちはみな戦う必要があります!たとえば、女性の製品開発者を増やすことは、改善の一歩となるでしょう」
います。 「私たちは、敢えて表現をもう少し有機的にして、より柔らかい色彩を用いながら、より柔軟な価値観で仕事をしています。物事にもっと耳を傾けているといえるかもしれません」
社会の持続可能性、平等、多文化主義に関して、デザイン界は前進しているものの、それには代償も伴うとサンドワルは考えています。 「私たちはみな戦う必要があります!たとえば、女性の製品開発者を増やすことは、改善の一歩となるでしょう」
アンナ・クレイツ(Anna Kraitz)の『シンデレラ・アイロン・ボード(Cinderella ironing board)』 写真: Kimberly Ihre
ミスチーフスの展覧会が海外に巡回する際には、スウェーデンらしさを示すとともに、地域性を重視したアプローチを取るといいます。展覧会カタログとアート作品の販売による収益の一部は、『ザ・ケース・フォア・ハー(The Case for Her)』と呼ばれる女性基金に寄付されます。
「ミスチーフスがスウェーデンで始まるのは理にかなっています」とビャリンガは語ります。「なぜなら、ジェンダー平等の歴史的および地理的な中心地であるからです。スウェーデンは男女共同参画の世界的リーダーですが、まだまだ改善の余地はあります。スウェーデンでさえ、女性の作り手によって喚起され、表現され、作られ、消費される機会はまだまだ足りていません。ミスチーフスは巡回するとともに、モバイルなメッセージとして、そして各国の訪問者にとってユニークな体験となり、さらに発展していくでしょう」
ミスチーフスの展覧会が海外に巡回する際には、スウェーデンらしさを示すとともに、地域性を重視したアプローチを取るといいます。展覧会カタログとアート作品の販売による収益の一部は、『ザ・ケース・フォア・ハー(The Case for Her)』と呼ばれる女性基金に寄付されます。
「ミスチーフスがスウェーデンで始まるのは理にかなっています」とビャリンガは語ります。「なぜなら、ジェンダー平等の歴史的および地理的な中心地であるからです。スウェーデンは男女共同参画の世界的リーダーですが、まだまだ改善の余地はあります。スウェーデンでさえ、女性の作り手によって喚起され、表現され、作られ、消費される機会はまだまだ足りていません。ミスチーフスは巡回するとともに、モバイルなメッセージとして、そして各国の訪問者にとってユニークな体験となり、さらに発展していくでしょう」
メイズのためにルイーズ・へデルストロムがデザインした食器収納『フランシス(Francis)』。ストックホルム国際家具見本市2020にて発表されました。
変化が訪れる、とヘダストロムは信じています。
「私たちは必ず物事を変えることができますが、それには時間がかかります。スウェーデンのインテリアデザインの最終消費者は多くの場合女性であるため、女性の役員も増えています。同時に、設計する際は、循環型製造や革新的な素材など、持続可能性についても考慮しなければなりません。製造業者およびデザイン会社は概して、新しい才能を健全で包括的な企業構造に迎え入れなければなりません。デザインの世界を少し揺さぶれば変化が訪れます。このような変革を、どうして間違いだといえるのでしょうか?」
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変化が訪れる、とヘダストロムは信じています。
「私たちは必ず物事を変えることができますが、それには時間がかかります。スウェーデンのインテリアデザインの最終消費者は多くの場合女性であるため、女性の役員も増えています。同時に、設計する際は、循環型製造や革新的な素材など、持続可能性についても考慮しなければなりません。製造業者およびデザイン会社は概して、新しい才能を健全で包括的な企業構造に迎え入れなければなりません。デザインの世界を少し揺さぶれば変化が訪れます。このような変革を、どうして間違いだといえるのでしょうか?」
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