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築50年の空きビルをリノベーション。使い込まれた深い質感のある住まい
ジュエリー作家夫妻の自宅とアトリエ、店舗を兼ねた住まい。建物の魅力をさまざまな素材で引き出しています。
永井理恵子
2019年12月27日
伊豆半島の付け根に位置し、駿河湾に面する静岡県沼津市。街の中心部を流れる狩野川の岸辺に、ジュエリー作家であるオーナー一家が暮らす3階建てのビルがある。築約50年の3階建の建物の1階はガレージ、2階が住居、3階がアトリエとジュエリーショップ「dolip」だ。
嘉本夫妻は、古い建物の味わいを残しながらリノベーションした家に暮らしたいと考え、自分たちが納得できる物件を探し始めた。4年もの歳月をかけて見つけたのがこのビルだ。最初に見た不動産屋のホームページには、何もないガランとした空間の窓の向こうにゆったりと流れる狩野川が見える写真が載っていて、心が動いた。内覧したらいよいよ気に入り、アトリエとショップを併設する自宅にリノベーションすることに決めた。
嘉本夫妻は、古い建物の味わいを残しながらリノベーションした家に暮らしたいと考え、自分たちが納得できる物件を探し始めた。4年もの歳月をかけて見つけたのがこのビルだ。最初に見た不動産屋のホームページには、何もないガランとした空間の窓の向こうにゆったりと流れる狩野川が見える写真が載っていて、心が動いた。内覧したらいよいよ気に入り、アトリエとショップを併設する自宅にリノベーションすることに決めた。
All photo by SOBAJIMA,Toshihiro
どんなHouzz?
所在地:静岡県沼津市
主要用途:1階ガレージ、2階住宅、3階店舗兼アトリエ
住まい手:嘉本朋宏さん、千年さん、花ちゃん(1歳)、ミニチュアダックスフンドのコロ助くん
敷地面積:462.28㎡
延床面積:1階110.52㎡、2階155.48㎡、3階145.15㎡
規模:LDK、土間、主寝室、子供室、バス、トイレ、洗面所、店舗、アトリエ
構造:鉄筋コンクリート造3階建て
竣工年:2017年
設計:ツクリト建築設計事務所の髙田昌彦さん
施工:大栄工業
内覧時には内壁と天井がすべて取り払われていた。天井高は3.4m。壁はコンクリートの打ち放し。自分たちがずっと思い描いていた家とようやく出会え、夫妻は心躍った。そしてすぐさま、ツクリト建築設計事務所の髙田昌彦さんにリノベーションを依頼した。髙田さんが手がけた家を見学した際、自分たちの要望を汲み取ってくれると直感したからだ。
どんなHouzz?
所在地:静岡県沼津市
主要用途:1階ガレージ、2階住宅、3階店舗兼アトリエ
住まい手:嘉本朋宏さん、千年さん、花ちゃん(1歳)、ミニチュアダックスフンドのコロ助くん
敷地面積:462.28㎡
延床面積:1階110.52㎡、2階155.48㎡、3階145.15㎡
規模:LDK、土間、主寝室、子供室、バス、トイレ、洗面所、店舗、アトリエ
構造:鉄筋コンクリート造3階建て
竣工年:2017年
設計:ツクリト建築設計事務所の髙田昌彦さん
施工:大栄工業
内覧時には内壁と天井がすべて取り払われていた。天井高は3.4m。壁はコンクリートの打ち放し。自分たちがずっと思い描いていた家とようやく出会え、夫妻は心躍った。そしてすぐさま、ツクリト建築設計事務所の髙田昌彦さんにリノベーションを依頼した。髙田さんが手がけた家を見学した際、自分たちの要望を汲み取ってくれると直感したからだ。
外観と1階部分は購入した当時のまま手を加えていない。
建物の外部から伸びる階段を上がるとビルのエントランスだ。スチール枠のガラス扉は、フランスの教習所で使われていたアンティーク。扉の大きさに合わせて枠を造作し、取り付けた。
エントランスを入ると3階へと続く階段、右手に土間への入口、正面奥に家族用玄関がある。
建物の外部から伸びる階段を上がるとビルのエントランスだ。スチール枠のガラス扉は、フランスの教習所で使われていたアンティーク。扉の大きさに合わせて枠を造作し、取り付けた。
エントランスを入ると3階へと続く階段、右手に土間への入口、正面奥に家族用玄関がある。
LDKへ進むと、左手にキッチン、右手にリビング、さらに奥が土間エリアだ。写真はキッチンから見たダイニングとリビングそして土間。右手の白い壁は、リノベーション時に新たに建てたもの。リノベーションをするにあたり、夫妻は、元々の広さを活かし空間を細かく仕切らずに暮らしたいと髙田さんに伝えた。初めて建物の中を見たときから髙田さんも同じように感じており、せっかくの広い空間を小さく区切ることはしたくなかったし、天井はすべて見えるようにしたいと考えていた。
ダイニングのペンダントライト:アルテミデのカストーレ
ダイニングのペンダントライト:アルテミデのカストーレ
リビングは約30畳の広さ。床は無垢の杉材。幅は23cm、厚みは30mmで無骨さがある。インテリアの素材には、躯体が持つ力強さに負けないものを選んだ。
エアコンやスピーカー、プロジェクター、そして照明を取り付けたのは朋宏さんだ。電気工事士の資格を持っており、配線からすべて手がけたという。なかでも、LDKに配置したダクトレールと自在に位置を変えられるスポットライトを気に入っている。まるで映画館にいるかのようにソファでゆったりと映画を観る時間は、千年さんが大好きなひととき。絨毯はギャッベ。
エアコンやスピーカー、プロジェクター、そして照明を取り付けたのは朋宏さんだ。電気工事士の資格を持っており、配線からすべて手がけたという。なかでも、LDKに配置したダクトレールと自在に位置を変えられるスポットライトを気に入っている。まるで映画館にいるかのようにソファでゆったりと映画を観る時間は、千年さんが大好きなひととき。絨毯はギャッベ。
リビングから土間を見る。土間とリビングの仕切りには、締め切っても窮屈さを感じさせないよう、ガラス引き戸を採用。床から梁までの高さ2.7mに合わせて造作した。
正面のコンクリートの壁に飾られているのは、マーティン・ワトソンの作品。土間に置いたチェストは、軽井沢彫。もともとこのビルにあったものを、手入れして使っている。
正面のコンクリートの壁に飾られているのは、マーティン・ワトソンの作品。土間に置いたチェストは、軽井沢彫。もともとこのビルにあったものを、手入れして使っている。
土間からエントランスと3階への階段にアクセスできる。普段は書斎のように使っているが、クラフト作家を招いたワークショップのスペースにもなる。靴のまま来客が気軽にアクセスできるパブリックなエリアだ。
エントランスとの間には鉄板4枚を溶接加工した引き戸がある。
キッチンは、1階のガレージに眠っていたものを加工して据え付けたペニンシュラ型。シンク右手の一段高くなっている部分を新たに造作し、作業スペースと収納を増やした。家電は以前から使っていたもの。家電と同じく、全体を黒で統一。ワークトップも黒の人工大理石を選んだ。背面の壁は大谷石。棚板には黒皮鉄板を採用した。どれもクセのある素材を選んでいて、経年変化が楽しめる。
鉄板の棚の上に並ぶ器は、千年さんのコレクション。真新しいものもあれば、京都へ出展したときに足を運び、アンティークや古道具の中から見つけた一点モノもある。
大谷石の壁の上部に取り付けた鉄板の上にガラスをはめ込み、子供部屋とキッチンを完全に仕切った。キッチン右手にある子供部屋の扉は引き戸。髙田さんと施工会社が試行錯誤した末、鉄板に溝を彫って取り付けた。
大谷石の壁の上部に取り付けた鉄板の上にガラスをはめ込み、子供部屋とキッチンを完全に仕切った。キッチン右手にある子供部屋の扉は引き戸。髙田さんと施工会社が試行錯誤した末、鉄板に溝を彫って取り付けた。
冷蔵庫はリビングダイニングから見えないように配置。キッチン奥のコンロのバックスプラッシュも黒のタイルだ。レンジフードは薄型のものを選び、できるだけスクエアな間口に仕上がるようにこだわった。正面の扉は主寝室やトイレへ繋がる。
トイレやバスルーム、ウォークインクローゼット、主寝室は、窓の位置を基準に壁で仕切った。すべての空間に大きな窓があり、広さも日中の採光もたっぷりとれる。
主寝室もコンクリートの打ち放しだ。今回のリノベーションでは、天井はつけず、壁もあえてそのままにした。「自分たちと髙田さんの感性が共鳴し、多くを伝えなくても要望を叶えてくれたのでとてもスムーズでした」とオーナーの嘉本朋宏さんは言う。コンクリートの壁は、嘉本夫妻がDIYでクリア塗装を施した。
階段を上がって3階へ。正面の壁はモルタルを塗った。コンクリートの壁や床、天井に馴染む素材として、髙田さんが選んだ。来客用トイレと、工房の入口の扉もモルタルを塗って存在感を消した。「扉の仕上げはとても難しかった」と髙田さん。苦労した甲斐あり、窓から差し込む光が壁の質感を照らし出し、夫妻が絵や壺を使って演出する美しい空間に仕上がった。
廊下の壁は、レッドシダーを使ったデザインウォール。その先に、ジュエリーショップがある。訪れる人に一番いい眺めを味わってほしくて、3階を店舗に選び、川に向かってせり出すベランダの手すりも取り去った。
「最初に建物を見た時にかっこいいと思った部分をしっかり見せるようにデザインしたかった」と髙田さんは振り返る。建築家と住まい手の感性が見事に合致し、ビルが持つポテンシャルが活きる家。使い込まれたものにしかない質感が味わい深く、作家である夫妻の感性を刺激する。
「外壁の塗装もしたいし、手すりも変えたい。まだまだやりたいことがたくさんあります」と朋宏さん。リノベーション後も嘉本夫妻は少しずつ家に手を入れ、暮らしと時間を紡ぎ続けている。
「最初に建物を見た時にかっこいいと思った部分をしっかり見せるようにデザインしたかった」と髙田さんは振り返る。建築家と住まい手の感性が見事に合致し、ビルが持つポテンシャルが活きる家。使い込まれたものにしかない質感が味わい深く、作家である夫妻の感性を刺激する。
「外壁の塗装もしたいし、手すりも変えたい。まだまだやりたいことがたくさんあります」と朋宏さん。リノベーション後も嘉本夫妻は少しずつ家に手を入れ、暮らしと時間を紡ぎ続けている。
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