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デザインと技術で実現する、魅力ある国産材家具たち
サステナブルなデザイン性の高い家具を選ぶという選択が、未来につながるかもしれません。
渡辺安紀 |Aki Watanabe
2018年9月8日
近年、日本を代表する家具メーカーによる国産材を利用した家具の発表が相次いでいる。高い技術力があるからこそ実現できたデザインと素材の表情が魅力の家具たち。ここでは「サステナブルな森づくりへ。注目があつまる国産材家具」で紹介した「国産材家具サミット」に参加する各社の家具について紹介する。
1940年に木工所として創業してから国産材を使い続けてきた〈カリモク家具〉。サステナブルな活用を進めるため2009年にスタートしたのが国内の広葉樹を使った家具ブランド「カリモクニュースタンダード(KNS)」だ。国内の広葉樹の多くは小径木で、ほとんどが紙パルプの原料となるチップにされ、本来持っている価値に比べ有効利用されてこなかった。KNSでは小径木を家具用材として使う。
〈カリモク家具〉マーケティングセンター・新規事業部の池田令和(よしかず)さんは、「正価値で調達することで森にお金や手がまわれば、50年〜100年後に育った木をさらに購入できる……循環型の取り組みを進めています」と話す。
〈カリモク家具〉マーケティングセンター・新規事業部の池田令和(よしかず)さんは、「正価値で調達することで森にお金や手がまわれば、50年〜100年後に育った木をさらに購入できる……循環型の取り組みを進めています」と話す。
KNSブランドを代表する製品が、オランダのデザインユニット、ショルテン&バーイングスがデザインした《カラーウッド》だ。国産のクリの小径木を使ったリビングテーブルで、日本の「桶」がモチーフになっている。桶の紐締めのような布テープが巻かれたモデルもある。細い材料で構成されているのだが、このテーブルはなんと15角形。通常ものづくりにおいて、奇数角形のプロダクトは角度が割り切れないことがあるため高い技術を要する。デザイナーの強い意志を実現したのは〈カリモク家具〉が培ってきた技術力だ。
池田さんは、「木材の価値そのままの製品ではなく、高精度の加工技術やデザイン性によって高い付加価値のついた製品に生まれ変わらせ、多くのユーザーに使い込んでいただければ」と話す。
池田さんは、「木材の価値そのままの製品ではなく、高精度の加工技術やデザイン性によって高い付加価値のついた製品に生まれ変わらせ、多くのユーザーに使い込んでいただければ」と話す。
北海道の良質な木材から家具をつくり、世界へ発信していくことを創業の理念とし、今年で創立50周年をむかえる〈カンディハウス〉。旭川家具工業協働組合の声かけで2014年にスタートした「ここの木の家具 北海道プロジェクト」をきっかけに、主力製品の樹種を北海道産のナラやタモ材に切り替えるなど、プロジェクト始動前は数%しか使用していなかった北海道産広葉樹の活用比率も、4年目の現在は30%まで伸ばしているという。
「使う木材の輸送時の環境負荷・ウッドマイレージを減らすという観点からも地元の材を使えるにこしたことはありません」と話すのはカンディハウス常務取締役・企画本部本部長の染谷哲義さん。
「使う木材の輸送時の環境負荷・ウッドマイレージを減らすという観点からも地元の材を使えるにこしたことはありません」と話すのはカンディハウス常務取締役・企画本部本部長の染谷哲義さん。
写真はアイヌ語で叙事詩を意味する《YUKAR(ユカラ)》。デザイナー深澤直人氏が手がけ、北海道産ナラ材の魅力と質感を造形美で引き出している。無垢の木を削り出した木部は、無塗装感を表現し、サラッとした手触り。木の生きた証の「節」はあえて残した。コンパクトなサイズ感ながら豊かな座り心地のソファのほか、アームチェアとオットマン、丸テーブルを揃えている。
持続的に取り組むため「材料の確保は重要な課題です。北海道の広葉樹は輸入材と比べ、小径木も多いので、川上の林業への継続的な働きかけも必要と考えています」と染谷さんは語る。
持続的に取り組むため「材料の確保は重要な課題です。北海道の広葉樹は輸入材と比べ、小径木も多いので、川上の林業への継続的な働きかけも必要と考えています」と染谷さんは語る。
スギの活用についてはずっと考えてきたという〈天童木工〉の常務取締役、西塚直臣さん。スギで家具が作れれば外国材の輸入に頼ることなく、材料費も抑えられ、林業関係者も助かるからだ。また〈天童木工〉なら成形合板の技術がある。「スギ材の個性を活かしつつ、美しい曲線とデザイン性の高さを両立した家具づくりを始めました」と話す。4年前にスギなどの国産針葉樹を成形合板に活かす技術、「Roll Press Wood」を発表。以来、全国の自治体と国産材を積極的に活用している。各地の針葉樹を仕入れ、山形の工場で加工、家具として里帰りさせる地域連携の仕組みだ。
今年の4月に発売になった《bambi(バンビ)》シリーズは国産のスギ材を用いたダイニングセット。成形合板による必要最低限の部材で構成され、まるで小鹿を思わせる形だ。成形合板のコマ入れ技術(脚部の強度を保つために木片を間に挟み込んでひとつの形状に成形する技術)が用いられた脚は、美しい曲線が描かれ、テーブルの天板や椅子の座面や背板でスギ材の個性的な表情が楽しめる。特注で屋外でも使える耐候性仕様への変更も可能だ。
「理想はスギ材を広葉樹の家具と同じように使っていただけること。そのためにユーザーが “ほしい” と思ってもらえる製品を生み出し、発信していくことも重要だと考えています」と西塚さん。
「理想はスギ材を広葉樹の家具と同じように使っていただけること。そのためにユーザーが “ほしい” と思ってもらえる製品を生み出し、発信していくことも重要だと考えています」と西塚さん。
深い山に囲まれた飛騨地方で創業100年をまもなく迎える〈飛驒産業〉。会社が経営危機にあったとき、国産材に注目した。山が目の前にあるにも関わらず、海外から材を輸入することに経営陣が疑問を抱いたからだ。2001年からスギを使って家具づくりをはじめた同社は、同じ頃針葉樹の加熱圧縮技術に出会って社内研究が始まる。その後、地域の仲間と「飛騨杉研究開発協同組合」を設立し、スギを中心とした国産針葉樹の活用を進めている。この取り組みが環境保全につながると理解してから活用の速度がさらに上がったという。
〈飛驒産業〉営業企画室・取締役営業企画室長の森野敦さんは「創業時の精神に立ち返り、地場産業として地元の材を使い、地域の雇用をつくり地域の経済循環と持続的な発展に貢献できれば」と話す。「これからも地元飛騨だけではなく日本各地の材料を針葉樹に限らず活用していきます」
〈飛驒産業〉営業企画室・取締役営業企画室長の森野敦さんは「創業時の精神に立ち返り、地場産業として地元の材を使い、地域の雇用をつくり地域の経済循環と持続的な発展に貢献できれば」と話す。「これからも地元飛騨だけではなく日本各地の材料を針葉樹に限らず活用していきます」
〈飛驒産業〉はイタリアの工業デザインの巨匠エンツォ・マーリさんと国産材を使った家具づくりに取り組んでいる。「マーリさんは圧縮技術の先進性や節の美しさを理解し、熱心にスギを使うことの重要性を訴えてくれました。2005年のミラノで発表した《HIDA》シリーズは大きな話題となり、現在でも自社の国産材家具のアイコン的存在です」と森野さん。チェアの座面のゆるやかなカーブは座面専用のプレス金型を用い、3D圧縮により加工したもの。座った姿勢は人間工学的観点で見ると理想的な座の姿勢=正座時の腰のラインに近いものになる。
〈ワイス・ワイス〉のミッションは、仕事を通じて社会と環境に貢献することだ。国際環境NGOのFoEJapanの指導の下、カタログに掲載しているすべての家具を対象に、“フェアウッド”のみによる家具づくりを約束している。トレーサビリティが明確で、合法性を証明された輸入木材への切り替えに4年かかったが、その過程で国産木材に切り替えた方が良いのではないかと考えるようになった。
「森をつくる家具」というコンセプトのもとカタログ掲載家具を順次国産材に切り替えた結果、使用率は70%を超えた。商業施設や公共施設などに納入する家具は依頼のあった地域の地産地消につながるよう取り組んでいる。「地域の木を使うことで、地域に仕事が生まれ、その森が健康になり、社会や未来に貢献できます。林家、造林、木こり、製材業、家具工場、木工所など、サプライチェーンが長い家具業界なので、国産材を使うことによるすそ野への経済効果は大きいはず。未来を担う子どもたちのためにも重要だと考えています」と語ってくれたのは〈ワイス・ワイス〉の代表取締役社長、佐藤岳利さん。
「森をつくる家具」というコンセプトのもとカタログ掲載家具を順次国産材に切り替えた結果、使用率は70%を超えた。商業施設や公共施設などに納入する家具は依頼のあった地域の地産地消につながるよう取り組んでいる。「地域の木を使うことで、地域に仕事が生まれ、その森が健康になり、社会や未来に貢献できます。林家、造林、木こり、製材業、家具工場、木工所など、サプライチェーンが長い家具業界なので、国産材を使うことによるすそ野への経済効果は大きいはず。未来を担う子どもたちのためにも重要だと考えています」と語ってくれたのは〈ワイス・ワイス〉の代表取締役社長、佐藤岳利さん。
2011年東日本大震災に際し、家具メーカーとして何かできることはないかと佐藤さんが被災地で巡りあったのが、スギ専門に製材業を営む〈栗駒木材〉の大場隆博代表だった。被災地の自立を目指す家具作りプロジェクトによって生まれたのが《KURIKOMA》だ。
空気を多く含むスギの軽さ、柔らかい感触、風合いと香りをそのままに生かしたシリーズ。とくに宮城県栗駒山麓のスギは、触ると柔らかく、温かいため、座り心地に驚きの声があがるという。椅子としての強度を保つ方法として、建築に用いられるCLT工法を応用。JIS規格の3倍の強度になり、細い脚でシャープなカタチが実現している。佐藤さんは、「この《KURIKOMA》の家具づくりで11人の雇用が生まれました。なぜ国産材による家具づくりが重要なのかを家具を使ってもらう方達に伝えていければと思います」
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