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歴史ある重厚な家が明るくモダンに。オペラ作曲家の曾孫夫妻が暮らす「眺めのいい部屋」
イタリア・ローマの歴史保存地区。90平米の邸宅のリノベーション。
Miki Anzai
2018年6月9日
街中が美術館のようなローマ。その中でも、パオロ・マスカーニ夫妻が暮らすコロナーリ通りは、細い石畳の道の両脇に、骨董店がひしめき合う趣のある地区だ。リビングからは、15世紀に建てられたブラマンテ修道院(現・アートギャラリー)の美しいドームも望める。
パオロさんは、歌劇『カヴァレリア・ルスティカーナ』の作曲家として有名なピエトロ・マスカーニの曾孫。部屋には、偉大な曾祖父の写真、手形や自筆の楽譜などがたくさん飾ってある。またそこに、自身が収集したモダンアートも違和感なく共存させている。この家はもともと、パオロさんが長男のフランチェスコさんのために購入し、リノベーションしたもの。大切な思い出の品々に囲まれることで、「息子に家族の歴史を感じながら暮らして欲しい」との願いがこめられている。現在、息子さんが海外留学中のため、ローマ市内の総合病院で外科部長を務めるパオロさんが、平日はここで妻のフラミニアさんと暮らし、徒歩通勤している。
リノベーションを担当したのは、旧知の建築家兼インテリアデザイナーのマリア・クリスティーナ・ビネッロさん。歴史保存地区にある建物らしい重厚感を残しながらも、快適に暮らせるモダンな空間につくり上げた。以前は薄暗かった内部も、間取りなどに工夫を加えることで、「見違えるほど明るく、広く感じられるようになりました」と喜ぶパオロさん。
パオロさんは、歌劇『カヴァレリア・ルスティカーナ』の作曲家として有名なピエトロ・マスカーニの曾孫。部屋には、偉大な曾祖父の写真、手形や自筆の楽譜などがたくさん飾ってある。またそこに、自身が収集したモダンアートも違和感なく共存させている。この家はもともと、パオロさんが長男のフランチェスコさんのために購入し、リノベーションしたもの。大切な思い出の品々に囲まれることで、「息子に家族の歴史を感じながら暮らして欲しい」との願いがこめられている。現在、息子さんが海外留学中のため、ローマ市内の総合病院で外科部長を務めるパオロさんが、平日はここで妻のフラミニアさんと暮らし、徒歩通勤している。
リノベーションを担当したのは、旧知の建築家兼インテリアデザイナーのマリア・クリスティーナ・ビネッロさん。歴史保存地区にある建物らしい重厚感を残しながらも、快適に暮らせるモダンな空間につくり上げた。以前は薄暗かった内部も、間取りなどに工夫を加えることで、「見違えるほど明るく、広く感じられるようになりました」と喜ぶパオロさん。
玄関を開けると、明るい陽光が降り注ぐLDKが目に飛び込んでくる。以前、奥の窓には固定式の鉄格子がはめられていたが、「何もさえぎるものなく外の景色を楽しみたい」という夫妻の希望で、両開き式の格子に取り替えた。「普段は格子もガラス窓も開け放って、ドームを眺めています」とパオロさん。
リビング中央に大胆に配した巨大鉄枠ソファは、ビネッロさんがデザインした。リノベーションにあたって留意したのが、「自然光をなるべく取り込み、建物の古材のよさを活かしつつ、鉄と “共演” させることでした」と語るビネッロさん。無骨な鉄の質感がいい感じに部屋に溶け込み、開放感のある空間に仕上がっている。
どんなHouzz?
住まい手:パオロ・マスカーニ医師とフラミニア夫人
所有者:フランチェスコ・マスカーニさん(パオロさんの息子)
所在地:ローマ歴史保存地区
延床面積:90平方メートル
設計・デザイン:マリア・クリスティーナ・ ビネッロ
施工:アレッサンドロ・サンソーニ社
鍛鉄:アレッサンドロ・ヴェンチュラ
照明:ルチアノ・スティニャーニ
撮影:ミライ・プルヴィレンティ
リビング中央に大胆に配した巨大鉄枠ソファは、ビネッロさんがデザインした。リノベーションにあたって留意したのが、「自然光をなるべく取り込み、建物の古材のよさを活かしつつ、鉄と “共演” させることでした」と語るビネッロさん。無骨な鉄の質感がいい感じに部屋に溶け込み、開放感のある空間に仕上がっている。
どんなHouzz?
住まい手:パオロ・マスカーニ医師とフラミニア夫人
所有者:フランチェスコ・マスカーニさん(パオロさんの息子)
所在地:ローマ歴史保存地区
延床面積:90平方メートル
設計・デザイン:マリア・クリスティーナ・ ビネッロ
施工:アレッサンドロ・サンソーニ社
鍛鉄:アレッサンドロ・ヴェンチュラ
照明:ルチアノ・スティニャーニ
撮影:ミライ・プルヴィレンティ
部屋を広く見せるだけでなく、「外と中の景色を対話させる効果」を狙って、キッチン上部の壁に、特大の鏡を設置した。鏡に余計なものが映りこまないよう、台所用品やバーカウンターなども棚の中に収納した。写真左側の壁面の下部には、ソファ兼収納スペースをつくり、上部の飾り棚は鉄で制作し、白色でラッカー塗装した。
盆栽などインテリアの随所に、日本やアジアへの憧憬が感じられるのは、パオロさんがジャポニズム・オペラの先駆者である曾祖父に心酔しているから。ピエトロ・マスカーニは、ジャコモ・プッチーニが『蝶々夫人』を世に出す5年も前に、日本を舞台にしたオペラ『イリス』(あやめ)を発表している。
盆栽などインテリアの随所に、日本やアジアへの憧憬が感じられるのは、パオロさんがジャポニズム・オペラの先駆者である曾祖父に心酔しているから。ピエトロ・マスカーニは、ジャコモ・プッチーニが『蝶々夫人』を世に出す5年も前に、日本を舞台にしたオペラ『イリス』(あやめ)を発表している。
以前は狭いキッチンが別に設けられていたが(平面図左・中央)、その壁を撤去して、広いLDKを創出した(平面図右・中央右)。玄関を入って正面のウォークイン・クローゼットは、ゲスト用のトイレに変更した。浴室は、シャワー派のマスカーニ家の人々のために、バスタブをなくし、空いたスペースに洗面台とトイレを設置した。
玄関入口の小ホールに置かれた布製オブジェは、パウロさんがデザインして、手芸作家のバーバラ・パルメントーラさんに作ってもらった。着せ替え式になっているので、12月はクリスマスツリーに変身する。
夫婦間の伝達事項や、ちょっとした走り書きをするようの黒板も、鉄で作らせたオリジナルだ。
夫婦間の伝達事項や、ちょっとした走り書きをするようの黒板も、鉄で作らせたオリジナルだ。
ダイニングテーブルの天板は、マスカーニ家で以前から使っていたウォールナット板(240×90cm) を再利用し、ベースとなる足の部分は、ソファの枠同様、鉄で製作した。リビングのソファベッドの鉄枠とマッチしている。ダイニングチェアも鉄製で、バーカウンター風に少し背の高いものを選んだ。いちばん手前と奥の座椅子が木製の椅子は、パオロさんがフリーマーケットで購入したもので、他の6脚の椅子と高さを合わせるために、座椅子部分を上げて作り直した。
キッチンとダイニングの照明は、いかに自然光に近い色味を出し、部屋全体を心地よく感じさせられるかに重点を絞り、「これぞ完璧!」と選んだのが、ドイツ〈エルコ社〉のスポットライトとペンダントライトだ。「一見、何の変哲もないように見えて、照射結果を緻密に計算して作られているので、自然光に近い、高品質の光を楽しめます」とビネッロさん。リビング側に差し込む光は奥のキッチンまでは届かないため、照明には特に気を配ったという。
キッチンとダイニングの照明は、いかに自然光に近い色味を出し、部屋全体を心地よく感じさせられるかに重点を絞り、「これぞ完璧!」と選んだのが、ドイツ〈エルコ社〉のスポットライトとペンダントライトだ。「一見、何の変哲もないように見えて、照射結果を緻密に計算して作られているので、自然光に近い、高品質の光を楽しめます」とビネッロさん。リビング側に差し込む光は奥のキッチンまでは届かないため、照明には特に気を配ったという。
電子レンジ、オーブン、冷蔵庫、食洗機、ゴミ箱、調味料、キッチン用具類などは、料理の動線を考えながら適切な位置に配されており、そのすべてがきちんと扉内に収められている。
ガスレンジの奥に、立ち上がっている換気扇フードも、キッチンカウンター内に収納できる。
換気扇フード:〈ファーベル社〉のファブラ・プラス
キッチン家具:〈Sarc社〉
ガスレンジの奥に、立ち上がっている換気扇フードも、キッチンカウンター内に収納できる。
換気扇フード:〈ファーベル社〉のファブラ・プラス
キッチン家具:〈Sarc社〉
リビングに設置した大きなはしごは、2つの役割を果たしている。1つは、ソファの上に飾ってあるクッションを使わないときに挟んで収納するため。もう1つは、パオロさんが身体を鍛えるため。はしごの下にマットレスを敷いて、エクササイズしている。「部屋にミスマッチだと言われることもありますが、設置してまったく後悔していません」
シャワールームの床には、パオロさんが自分で集めた石を積み重ねたスピリチュアルゾーン(写真左)も設けている。また、シャンプー台は、パオロさんの着想で、ローマの石畳に使われているサンピエトリーノという石(12×12×18cm)を用いた(写真中央)。シャワーヘッドの下には、開閉式の椅子を設置した(写真右)。
浴室家具一式:〈Kartell〉
浴室家具一式:〈Kartell〉
シャワールームの扉は、開き戸から引き戸に変更することで、シャワースペースに加え、洗面台とトイレを設置できるようにした。
スライド式のドアのレールも、リビングのソファやダイニングテーブルの基礎枠を作った鍛鉄のスペシャリストが製作した。
スライド式のドアのレールも、リビングのソファやダイニングテーブルの基礎枠を作った鍛鉄のスペシャリストが製作した。
ベッドルームの天井と床も、リビングと同様、塗装を落として本来の材質を見せるようにした。3枚続きの鏡は、ローマ市内のアンティークショップで購入したもので、パリのイヴ・サンローランのブティックで使われていたもの。
以前から使っていた机は、壁の色に合わせて白く塗り、壁に掛ける絵や写真の邪魔にならないようにした。その机の上に置かれた、村上春樹著『走ることについて語るときに僕の語ること』(イタリア語版)は、過去にローマやニューヨーク・マラソンを走ったパオロさんにとってのバイブルだそう。
机の横の鉄製の腰掛け椅子も、好きな形に作り替え、磨きをかけた。家のいたるところで、細部にまで意識を研ぎ澄ませ、納得のいくまでデザインを追求するパオロさんの姿勢が反映されている。
以前から使っていた机は、壁の色に合わせて白く塗り、壁に掛ける絵や写真の邪魔にならないようにした。その机の上に置かれた、村上春樹著『走ることについて語るときに僕の語ること』(イタリア語版)は、過去にローマやニューヨーク・マラソンを走ったパオロさんにとってのバイブルだそう。
机の横の鉄製の腰掛け椅子も、好きな形に作り替え、磨きをかけた。家のいたるところで、細部にまで意識を研ぎ澄ませ、納得のいくまでデザインを追求するパオロさんの姿勢が反映されている。
マスカーニ夫妻は、ベッドルームではなく、このリビングの窓から夜景を見ながら、眠りにつくことも多いという。
「リノベーションしたおかげで、ローマ市内にいながら、こんな豊かな生活ができるとは思ってもいなかったです」と語るパオロさん。
「リノベーションしたおかげで、ローマ市内にいながら、こんな豊かな生活ができるとは思ってもいなかったです」と語るパオロさん。
住まいに対してしっかりとしたコンセプトを持っていたパオロさんと、それを見事に形にした建築家のビネッロさん。
パオロさんは、念願だった明るく眺望のよいリビングを手に入れ、さらに家族の足跡を感じつつ、趣味の現代アートにも囲まれ、瞑想空間、ワークアウトスペースもしっかりと確保できたと、喜びを隠さない。「すべてに満足しています。きっと息子も留学を終え戻ってきたら、ここの住み心地のよさに驚くことでしょう」
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パオロさんは、念願だった明るく眺望のよいリビングを手に入れ、さらに家族の足跡を感じつつ、趣味の現代アートにも囲まれ、瞑想空間、ワークアウトスペースもしっかりと確保できたと、喜びを隠さない。「すべてに満足しています。きっと息子も留学を終え戻ってきたら、ここの住み心地のよさに驚くことでしょう」
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