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週末滞在から終の栖へ。「晴耕雨読」の暮らしに還る土浦の家
空間を構成する素材やその加工に至るまでトレーサビリティが確保され、自然とともにある生活の器。職人たちの丁寧な手仕事と家づくりの記憶が刻まれています。
渡辺安紀 |Aki Watanabe
2018年6月21日
どんなHouzz
住まい手:夫婦、子ども1人
所在地:茨城県・土浦市
構造:木造在来工法
敷地面積:224.83平方メートル
延床面積:89.43平方メートル
間取り:台所、居間(板間)、和室、WIC、パントリー、ロフト、トイレ、バスルーム
設計:〈岩瀬卓也建築設計事務所〉岩瀬卓也
施工:〈木楽工房〉、大工棟梁/金澤信之、木材〈佐藤林業〉、造園〈草苑〉、建具〈伴工業所〉
竣工:2015年
「できるだけ簡素な小屋の延長線のような家を建てたい」。オーナー夫妻は岩瀬さんにそう伝えた。10年ほどの週末滞在を続けたのち、終の住処として使用する。晴れたら畑を耕し、雨が降れば家のなかでのんびりと本を読み、思索にふける「晴耕雨読」の暮らしができる家だ。設計者の岩瀬卓也さんはオーナー夫妻と話をするなかで “家の作りやうは夏を旨とすべし。” ーーという吉田兼好の『徒然草』の一節をオーナーから聞いた。要望書のなかに「土間」というワードが何度も登場していたので、ふたりがつくりたい家がどんなものか、すぐにイメージできたという。
住まい手:夫婦、子ども1人
所在地:茨城県・土浦市
構造:木造在来工法
敷地面積:224.83平方メートル
延床面積:89.43平方メートル
間取り:台所、居間(板間)、和室、WIC、パントリー、ロフト、トイレ、バスルーム
設計:〈岩瀬卓也建築設計事務所〉岩瀬卓也
施工:〈木楽工房〉、大工棟梁/金澤信之、木材〈佐藤林業〉、造園〈草苑〉、建具〈伴工業所〉
竣工:2015年
「できるだけ簡素な小屋の延長線のような家を建てたい」。オーナー夫妻は岩瀬さんにそう伝えた。10年ほどの週末滞在を続けたのち、終の住処として使用する。晴れたら畑を耕し、雨が降れば家のなかでのんびりと本を読み、思索にふける「晴耕雨読」の暮らしができる家だ。設計者の岩瀬卓也さんはオーナー夫妻と話をするなかで “家の作りやうは夏を旨とすべし。” ーーという吉田兼好の『徒然草』の一節をオーナーから聞いた。要望書のなかに「土間」というワードが何度も登場していたので、ふたりがつくりたい家がどんなものか、すぐにイメージできたという。
岩瀬さんが提案したプランはそのままオーナー夫妻に受け入れられた。外観は建物北側の畑の日照を確保するため、平屋建てとし、小屋のイメージという要望から切妻屋根を採用した。深い軒が杉本実板張りの外壁や木製の建具を保護すると同時に、夏の暑い日差しを遮り、冬は土間の蓄熱をはかる。
玄関入って左手のバスルーム。農作業が終わったらすぐ汚れを落とし、さっぱりすることができる。檜の浴槽は〈伴工業所〉が製作。天井は杉板張り。洗面スペースとの境をガラス扉にし、開放感をもたせている。窓から見える坪庭には地元の植物。檜の香りに包まれながら、虫の声と葉擦れの音に耳を傾ける時を過ごせる。
玄関を抜けるとそのまま土間がひろがり、南側の庭へ風が通る。軒があるので夏でもエアコンいらずだ。間取りのレイアウトは畑からの動線を考えて決めた。写真左手が居間(板間)右手にキッチン、右手奥に和室がある。北側の玄関アプローチから繋がる土間の中央は深岩石で仕上げ、緩やかに空間を区切る。
居間(板間)の杉の床板は厚さ40mm。調湿性、保温性に優れ、裸足で過ごしたくなる。踏み心地からこの厚さを求めて〈木楽工房〉に依頼する人も少なくないと岩瀬さんはいう。地元の製材所と繋がりがあるため、良質なオリジナルの床材として提供できるそうだ。
薪ストーブのある土間エリアの壁側に造作で机を設え、執筆スペースに。風と草の匂いを感じながら筆をとれば仕事もはかどる。
薪ストーブのある土間エリアの壁側に造作で机を設え、執筆スペースに。風と草の匂いを感じながら筆をとれば仕事もはかどる。
右手奥のキッチンと左手の土間は笠間の真砂土とセメントを使った三和土仕上げ。石と板の踏み心地のあいだ位のほどよい柔らかさが実現しているのは、作庭家の菊池さんが手がけているから。
漆喰天井は玄関から入ってきたときに直角だと圧迫感があるため、アールにした。石と木のもつ重厚感もやわらげている。
漆喰天井は玄関から入ってきたときに直角だと圧迫感があるため、アールにした。石と木のもつ重厚感もやわらげている。
畑で野菜を収穫し、土足のままキッチンで作業できるよう土間に。作業台の延長のような、できるだけ簡素なつくりにするため、〈ホシザキ〉にステンレスのカウンターとシンクをオーダーして、そのほかは大工の手による造作キッチン。小屋暮らしのように折り畳み式のテーブルと椅子を置き、家族で育てた野菜を調理して食事を楽しむ。板間も含め、多目的で仮設的な自由さを楽しんでいる。
階段を抜けると濡れ縁のある和室。奥にウォークインクローゼットがある。落ち着いた佇まいの壁の色はオーナーが選び、〈久佐野左官〉の久佐野勝一さんの手による土壁塗り。
岩瀬さんは依頼者に時間の許す限り、木造の家づくりは山から始まることについて知ってもらいたいと、林業家と交流する機会を年2回設けている。オーナーは常陸太田市の〈佐藤工業〉の山林で伐採を体験。あらかじめ林業家の佐藤健一さんに用途を伝え、それにあった個性の木を選んでもらい、オーナーが棟木となる樹齢97年の檜を伐採した。
写真右上部の棟木を210mm角のどっしりとした存在感のある2本の通し柱が支えている。2本の梁とロフト、そしてキッチンに高窓からの光が降り注ぐ。高窓はこもった熱を逃す機能も果たす。
写真右上部の棟木を210mm角のどっしりとした存在感のある2本の通し柱が支えている。2本の梁とロフト、そしてキッチンに高窓からの光が降り注ぐ。高窓はこもった熱を逃す機能も果たす。
オーナーは家づくりの過程で岩瀬さんと同世代の大工の金澤信之さんの刻み場も見学し、伐採した木材が家のどの部分に使用されるかを学んだ。岩瀬さんは「家づくりが始まる山から、できるだけ多くの人に見てもらうことで林業や職人の手仕事の技術が受け継がれていくきっかけになってほしいと願っています」と話す。この家に使われた構造材の9割が県産材、残り1割も国産材だ。
南側の庭は簡素な雑木の庭を、という要望を受け、夏は葉が生い茂って日陰をつくり、冬は葉を落とす落葉樹を中心に地元の植物を配置。庭はすべて、造園家の小形研三氏に師事した〈草苑〉の作庭家、菊池好己さんが手がけた。「樹の居心地の良さが人の居心地のよさに繋がると実感する庭」とオーナーは話している。庭左手には天水桶、畑側には雨水タンクを置き、日常生活のなかで雨水を活用できる。
薪ストーブは土間の寒さを考慮して、岩瀬さんが提案した。薪ストーブの熱で土間は冬になると、床暖房のような蓄熱効果を発揮する。深岩石は大谷石と同じくしっとりとした質感でありながら表面がなめらかで削れにくいのが魅力だ。冬になるとオーナーは薪ストーブで沸かしたお湯を土間に撒いて室内を加湿する。夏は外に水を撒き、家の中を通り抜ける風の温度を下げる。快適に住むための知恵をいかした暮らしだ。
写真は畑側からの全景。畑や果樹園に囲まれた土地のため、建物が極力周囲に溶け込むようにデザインされている。「昔から何度も使われてきた手法の組み合わせでできた家です。それらはこの土地と環境、住まい手の暮らし方の理にかない、だからこそできた要素の積み重ねでもあります」と岩瀬さん。
左手には薪のストック、右手は農業用器具の倉庫、真ん中に収穫した野菜などをサッと洗える洗い場がある。
職人の手仕事によって “簡素の美” をつくりだした《土浦の家》。周辺環境、家のつくり、そして暮らしの知恵がひとつになったとき、家は土、火、風、光、水の感触を住まい手が享受する贅沢な器になるのだ。
参考資料:『徒然草』角川書店編
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