2つの中庭を持つ、どこにいても緑と光を感じられる住まい
シニア世代の夫妻が娘さんとの同居を見据え、ともに建てた一軒家は、2つの中庭が光と風、木々の景観を家族に届ける、明るく気持ちのいいバリアフリー設計の住まい。
Nayo Suzuki
2016年4月6日
ライター&エディター。建築・インテリアを学んだ後、インテリアデコレーターとして働きながら、インテリアのライター業をスタート。現在はライター&エディター業に専念し、雑誌のインテリアページ、カタログ、書籍などを手がける。趣味はインテリアとアート鑑賞。
ライター&エディター。建築・インテリアを学んだ後、インテリアデコレーターとして働きながら、インテリアのライター業をスタート。現在はライター&エディター業に専念し、雑誌のインテリアページ、カタログ、書籍などを手がける... もっと見る
南側に向かって屋根が斜めに傾斜した、真っ白な箱のような外観。木の温もりも感じられるモダンな佇まいのこの家に暮らすのは、70歳前後のご夫婦だ。そもそも、ここに家を建てようと決意したのは、将来同居する予定の娘さん。お兄さん家族の家の近くに土地を購入し、他県に住んでいた両親を呼び寄せて一緒に暮らすための家を建てることにした。設計はHPに掲載されていた事例が気に入って、arc-dに依頼することに。Sさんご夫婦と娘さんからは、防犯面をしっかりと、お風呂を広めに、将来に備えてバリアフリーに、などのリクエストをした。
Sさんの以前の家は「堀炬燵に座ったまま富士山が見えた」という、羨ましいほどの眺望と自然に恵まれた環境だったとか。そんな場所から、隣家や道路に囲まれた街の中での暮らしとなったSさんご夫婦に対し、arc-dの田島さんは、植物を愛で、触れ合いながら暮らせるようにと、2つの中庭を配したプランを提案した。
「この家はリビングダイニングや寝室、浴室からも庭が見えますし、明るくて暖かく、とても快適ですね」とSさん。冬は蓄熱暖房で一日中室内が暖かく、外出先から帰宅したときや夜中でも、室温が一定に保たれているのもありがたいとか。以前の家は和室や堀炬燵のある暮らしだったが、年を重ねると立ったり座ったりが大変で、「椅子の暮らしの方が楽ですね」とも。1階にSさんご夫婦の生活動線がすべてまとめられており、バリアフリー設計で移動もスムーズである。
ご主人は庭いじり、奥さまは絵画に裁縫と、新居で趣味にいそしむ充実した暮らしを満喫している。「外の景色が見えなくても、庭がどこからでも望めますし、天井が高いので閉塞感も感じません。朝は太陽の光で目覚め、家にいながら陽の移ろいを感じられるのもいいですね」
Sさんの以前の家は「堀炬燵に座ったまま富士山が見えた」という、羨ましいほどの眺望と自然に恵まれた環境だったとか。そんな場所から、隣家や道路に囲まれた街の中での暮らしとなったSさんご夫婦に対し、arc-dの田島さんは、植物を愛で、触れ合いながら暮らせるようにと、2つの中庭を配したプランを提案した。
「この家はリビングダイニングや寝室、浴室からも庭が見えますし、明るくて暖かく、とても快適ですね」とSさん。冬は蓄熱暖房で一日中室内が暖かく、外出先から帰宅したときや夜中でも、室温が一定に保たれているのもありがたいとか。以前の家は和室や堀炬燵のある暮らしだったが、年を重ねると立ったり座ったりが大変で、「椅子の暮らしの方が楽ですね」とも。1階にSさんご夫婦の生活動線がすべてまとめられており、バリアフリー設計で移動もスムーズである。
ご主人は庭いじり、奥さまは絵画に裁縫と、新居で趣味にいそしむ充実した暮らしを満喫している。「外の景色が見えなくても、庭がどこからでも望めますし、天井が高いので閉塞感も感じません。朝は太陽の光で目覚め、家にいながら陽の移ろいを感じられるのもいいですね」
土地は北・南・東の三方が道路に面した変形地。交通量や人通りが多いため、「セキュリティを重視して欲しい」とリクエスト。塀のように外壁でぐるりと囲み、南側に横長のスリット状の窓を設けただけの、外部に対しては閉じたプラン。以前の住まいから持ってきた植木をSさんが南側の敷地内に植え、現在はたくさんの木々が枝葉を伸ばしているそう。
「整形地ではないのでどうなんだろう?と少し心配しましたが、田島さんに依頼した結果、まったく問題ありませんでした」とご主人。
「整形地ではないのでどうなんだろう?と少し心配しましたが、田島さんに依頼した結果、まったく問題ありませんでした」とご主人。
車での移動が多い土地柄、駐車場は東側と北側に2台分を確保。東側に設けた外玄関が建物への入り口となっている。外壁はサイディング張りに吹き付け仕上げ、屋根はガルバリウム鋼板。
どんなHouzz?
家族構成:夫婦、娘
所在地:群馬県
延床面積:131.64平方メートル
構造:木造在来工法
竣工:2014年
建築設計:arc-d
構造設計:桑子亮/桑子建築設計事務所
撮影:鳥村鋼一
どんなHouzz?
家族構成:夫婦、娘
所在地:群馬県
延床面積:131.64平方メートル
構造:木造在来工法
竣工:2014年
建築設計:arc-d
構造設計:桑子亮/桑子建築設計事務所
撮影:鳥村鋼一
外玄関となる木製の引き戸を開けると、1つ目の中庭が現れる。ここにはナツハゼやトネリコなどを植え、その下はご主人が「季節ごとに花を植え替えて楽しんでいます」というスペース。中庭の床はコンクリートの金鏝仕上げで、リビングの窓を開ければ、中庭と一体となった大空間となる。
外玄関から1つ目の中庭を通り、内玄関へ。その先には2つ目の中庭が見える。内玄関はガラス戸で視線が抜け、2つの庭に挟まれた、清々しく気持ちのよいスペースとなっている。
玄関を入り、広々としたLDKへ。LDKは敷地の北側にあり、南側に寝室と浴室が配置されている。中庭のおかげで、北側に位置するLDKにも光がたっぷりと降り注ぐ。床はナラ無垢材、壁はペイント塗装。階段下には、ご主人がパソコンなどの作業をするための木製デスクを設置した。
アイランド型キッチンはオーダーで製作。カウンターの天板やシンクは真っ白な人造大理石を選択した。バックカウンター部分には引き違い戸をつけ、閉めてしまえば雑多なものが見えないようにしてある。
ダイニングテーブルと椅子は、この家に合わせて選んだ、プロダクトデザイナー小泉誠さんのデザインショップ「こいずみ道具店」のもので、椅子は「U Chair」と「ku-ku Chair」。壁側に設置した蓄熱暖房の装置の上には、温かみのある木を用い、棚をつくった。その延長にある右端部分がご主人のパソコン用デスク。
ダイニングテーブルと椅子は、この家に合わせて選んだ、プロダクトデザイナー小泉誠さんのデザインショップ「こいずみ道具店」のもので、椅子は「U Chair」と「ku-ku Chair」。壁側に設置した蓄熱暖房の装置の上には、温かみのある木を用い、棚をつくった。その延長にある右端部分がご主人のパソコン用デスク。
リビングエリアは吹き抜けとなり、最も高いところで天井高が5m以上もあって、開放感も抜群。カーテンがなくても家の外からの視線を気にすることなく、中庭と空を楽しめ、のびのびと過ごせる。照明はジョージ・ネルソンデザインの「バブルランプ」。
ソファは娘さんがこの家に合わせて選んだのだとか。「このソファに座ってコーヒーを飲んだりテレビを見たりしている時間がいちばん好き」とご主人。現在は奥さまが描いた絵画が、リビングの壁を彩っている。
吹き抜けのある家の写真をもっと見る
ソファは娘さんがこの家に合わせて選んだのだとか。「このソファに座ってコーヒーを飲んだりテレビを見たりしている時間がいちばん好き」とご主人。現在は奥さまが描いた絵画が、リビングの壁を彩っている。
吹き抜けのある家の写真をもっと見る
向かって左が1つ目の中庭、右が2つ目の中庭。間の壁に設置したTV台は造作家具。吹き抜けとなったリビングの大きな窓には庇をつけ、夏は直射日光を遮り、冬は陽光が室内まで入るよう配慮されている。
Sさんご夫婦の寝室。「朝日を浴びて目覚めたい」というご夫婦の希望で、2層分を吹き抜けにし、東側のロフト部分に窓を設け、そこから光が射し込むように設計した。寝室の一画には、奥さまのために造り付けのタモ集成材のデスクを設置。ここにミシンを置き、北向きの安定した光で裁縫などができるようにとの配慮だ。
「北向きの窓ですが、白い外壁に反射した光が、思った以上に室内を明るくしてくれます」。横にはウォークインクローゼットを設け、その上部のロフトは奥さまが絵を描くスペースとして活用しているそう。
「北向きの窓ですが、白い外壁に反射した光が、思った以上に室内を明るくしてくれます」。横にはウォークインクローゼットを設け、その上部のロフトは奥さまが絵を描くスペースとして活用しているそう。
ロフトから奥さまの机を見下ろしたところ。木製サッシはオーダーで製作した。斜めになった壁にデスクランプとしてパナソニックの照明をつけた。ここから見えるのは2つ目の庭で、アオハダやトネリコの木が植えられている。
現在は仕事の関係で他県に暮らし、月に一度程度この家に帰ってくる娘さんは、大のお風呂好き。そんな娘さんのリクエストで、浴室も陽射しの入る、明るくゆったりとしたスペースに。外壁の内側にバスコートを作り、紅葉の美しいナツハゼの木などを植えて、湯船に浸かりながら緑を楽しめるようになっている。また、手前にはちょこっと腰掛けられるベンチも設置。
バリアフリーで、車椅子でもゆったりと使える洗面室。トップライトを設け、南の光を天井からたっぷり取り込むことで、明るさを確保した。その下には洗濯物を室内干しするためのバーを設置。洗濯物もよく乾くのだとか。木製スツールはこいずみ道具店の「sansa stool」。
2階は娘さんの部屋とクローゼット、トイレが配され、広々としたテラスもある。
2階の娘さんの部屋からリビングを見下ろしたところ。別々の空間にいても、互いの気配を感じられるプランとなっている。設計を手掛けたarc-dの田島さんは「私たちは、太陽の光や風を取り込んだ、自然を感じられる家づくりを心がけています」と語る。
「S邸の場合は街の中なので、中庭を2つつくることで、季節の移ろいや自然を感じられるようにしました。物件ごとにそれぞれの土地が持つ特性や周辺環境を踏まえ、その土地のよいところをより引き出す設計を目指しています。たとえば建物のフォルムなども、造形的なおもしろさを追求するのではなく、あくまでその土地と環境に寄り添う、自然とそうなったという形状を追求し、デザインしています」
新築のHouzzツアーをもっと読む
「S邸の場合は街の中なので、中庭を2つつくることで、季節の移ろいや自然を感じられるようにしました。物件ごとにそれぞれの土地が持つ特性や周辺環境を踏まえ、その土地のよいところをより引き出す設計を目指しています。たとえば建物のフォルムなども、造形的なおもしろさを追求するのではなく、あくまでその土地と環境に寄り添う、自然とそうなったという形状を追求し、デザインしています」
新築のHouzzツアーをもっと読む
おすすめの記事
Houzzツアー (お宅紹介)
軽井沢の究極の隠れ家。地元の土と木でつくった心地のよい別荘
長野と近隣の木や素材をふんだんに使った、地産地消の住まい。まるで森のような空気感を醸し出しています。
続きを読む
Houzzツアー (お宅紹介)
親子の暮らしを穏やかに包み込む、自然素材が心地よい住まい
文/田中祥子
生活に必要な機能が緩やかにつながる間取りを、一つの大きな屋根の下に。建築材料と設備の面がしっかり考えられたデザインは、親子2人の穏やかな暮らしを支えています。
続きを読む
Houzzツアー (お宅紹介)
自分たちの「好き」を詰め込んだ、大阪の建築家の自邸
文/杉田真理子
旅先で集めたアートや小物、ワインなど、夫婦の「好き」が詰まった建築家の自邸。光が差し込む内部の土間の吹き抜けには高さ4mの木もあり、家にいながら自然を感じられる空間となっています。
続きを読む
Houzzツアー (お宅紹介)
個室を作らず余白を楽しむ。住まい手とともに成長する家
文/杉田真理子
京都・岩倉の豊かな景観を満喫しながら、将来のライフスタイルや家族構成の変化にも対応してくれる、可変性のある住まいです。
続きを読む
Houzzがきっかけの家(国内)
杉と漆喰に包まれた健康的な家。回遊空間に愛猫も大喜び!
Houzzで見つけた建築家に設計を依頼。アイデアを出し合いながら、想像以上に満足のいく家ができました。
続きを読む
Houzzツアー (お宅紹介)
複数世代が生活し、この地で年齢を重ねていくために裏庭に建てられた「付属居住ユニット」
娘の住宅の敷地内に建てられた新しい建物。ミニマリスト風でありつつ温かみのある空間と、美しいプライベートな庭を母親に提供します。
続きを読む
Houzzがきっかけの家(海外)
広々と暮らせるカリフォルニアの家
1組の夫婦と1人の建築家がHouzzを通じてつながり、「大きいことが常に良いわけではない」ことを証明するような、無駄のない、緑にあふれた家を建てました。
続きを読む
Houzzツアー (お宅紹介)
美しい木立と海の眺めを見渡す、自然と調和したキューブの家
地形から導き出された、自然に抱かれた建築。大胆でモダンなフォルムでありながら、周囲の木立や海の眺めを存分に楽しめる、自然と調和した極上の住宅です。
続きを読む
Houzzがきっかけの家(国内)
崖の上のショーケースのよう! 驚きと感動が広がる南葉山のシーサイドハウス
文/小川のぞみ
東京在住のオーナー夫妻が、週末の別荘として建てた「非日常」がテーマの家。若くて伸び盛りだと感じた建築家にHouzzで出会い、期待以上の住まいが完成しました。
続きを読む
中庭があることですごく明るさがあるし、プライバシーと開放感が両立できていてすごく憧れる!
デザインが居住性をも高めているように思います。素敵です。