50平米の都心マンションで実現、壁と天井が一体となった包まれるような空間
アールを描く壁と天井が光をやわらかく拡散し、名作デザインが端正な空間に佇む、コンパクトで快適な家。創意工夫にあふれたリノベーションで実現しました。
Nayo Suzuki
2017年9月4日
ライター&エディター。建築・インテリアを学んだ後、インテリアデコレーターとして働きながら、インテリアのライター業をスタート。現在はライター&エディター業に専念し、雑誌のインテリアページ、カタログ、書籍などを手がける。趣味はインテリアとアート鑑賞。
ライター&エディター。建築・インテリアを学んだ後、インテリアデコレーターとして働きながら、インテリアのライター業をスタート。現在はライター&エディター業に専念し、雑誌のインテリアページ、カタログ、書籍などを手がける... もっと見る
ともにデザイン関係の仕事に携わる30代の夫妻がリノベーションをする前提で選んだのは、1969年に建てられたマンション。地盤の強度や耐震性などは気に掛けたものの、古さに関してはさほど気にならなかったとか。それよりも利便性や、自分たちにとっての理想的な広さが大切な選択基準だった。「広くてあまり使わない部屋があるよりも、どの部屋もまんべんなく使いこなせ、目が行き届く。自分たちにとって頃合いのよい広さ」である、50平方メートル前後の家を探したという。設計に関しての希望は「一過性のトレンドを追うのではなく、10年後も自分たちの暮らしに寄り添う家」。過去に手掛けた事例を見て「光の粒子の粗さを感じるような、明るすぎず陰影があるところ。そしてどこか静けさを感じるところ」が気に入り、〈aoydesign〉に依頼した。
購入した物件はスケルトンにし、2LDKから1LDK+書斎というプランへフルリノベーション。夫妻からはまず「パブリックスペースからプライベートスペースへと自然にシフトしていくようにプランニングして欲しい」というリクエストがあった。玄関を入ると仕事スペースとなる書斎があり、その先にキッチン、洗面・バスルーム、そして寝室、リビングダイニングへと続く。
さらに、この家の最大の特長にもなったリクエストが「アールを使い、光をシームレスにつなげたい」ということ。それに対し、設計を担当した〈aoydesign〉からは、梁を隠すように曲線が連続する天井を提案した。
さらに、この家の最大の特長にもなったリクエストが「アールを使い、光をシームレスにつなげたい」ということ。それに対し、設計を担当した〈aoydesign〉からは、梁を隠すように曲線が連続する天井を提案した。
玄関を入るとすぐ書斎がある。コンパクトな空間ながら、備え付けのデスクや棚を設置し、施主の美意識が感じられる、すっきりと整えられたスペースになっている。
どんなHouzz?
住まい手:30代の夫婦
所在地:東京都新宿区
延床面積:53.05平方メートル
構造:RC造マンション
リノベーション竣工:2015年
建築設計:aoydesign/アオイデザイン
撮影:大谷宗平(ナカサアンドパートナーズ)
どんなHouzz?
住まい手:30代の夫婦
所在地:東京都新宿区
延床面積:53.05平方メートル
構造:RC造マンション
リノベーション竣工:2015年
建築設計:aoydesign/アオイデザイン
撮影:大谷宗平(ナカサアンドパートナーズ)
夫妻からは「直接光ではなく、建具を用いてやわらかい光を取り入れたい」というリクエストもあった。それをかなえるため、リビングダイニングの窓には障子を設置。窓ガラスから15cmほど離すことで、より優しい光を室内に取り込めるようにしている。
障子は、写真のように中央部分に引き込めるようになっている。家全体で窓はここのみ。窓は南向きで、明るい陽射しが家じゅうに回るよう工夫されている。2脚並べたアームチェアはデンマーク、カイ・クリスチャンセンのデザイン。フロアランプはアルネ・ヤコブセンによるデザインで〈ルイスポールセン〉の《AJフロア》。
キッチンの壁側に配した、シンクとコンロのある調理台は、〈エクレア〉による造作。手前のカウンター部分はそれに合わせて作った。面材はタモ柾目突板を選択。どこに何を収納するかシミュレーションしたうえでスケッチを描き、引き出しの高さなどまで細かくリクエストしたそう。カウンターのダイニング側にも収納を設け、食器類を入れている。キッチンの奥がワークスペースだ。
廊下を挟み、キッチンの横には寝室を配置した。キッチンとワークスペースを隔てる壁も、寝室と廊下を隔てる壁も、間仕切り壁の高さは床から2m。天井高よりも壁を低く抑えることで、アール形の天井を際立たせ、さらに光が壁と天井の隙間を通り抜けて、窓のない書斎や玄関の方までシームレスに回るという効果がある。
ダイニングテーブルは〈フリッツ・ハンセン〉のスーパー楕円テーブル。椅子はイルマリ・タピオヴァーラの《ファネットチェア》など、1脚ずつ異なるものを合わせた。
床はオーク材で、通常のヘリンボーン張りよりもすっきりとモダンな印象に仕上がる、矢羽根状のスマートヘリンボーン張りにした。この家のテイストに合わせ、葉がグレイッシュな植物や多肉植物などを少しずつ増やしているそう。
白でまとめたクリーンな印象のパウダールーム。奥がトイレになっている。洗面台は〈サンワカンパニー〉、浴室はユニットバスを選んだ。写真左の壁の隣が寝室に。こちらの壁も天井まで設けず、梁を隠したアール部分が、寝室とその奥のリビングにまでつながっている。そのためパウダールームにいても、空間の広がりと光を感じることができる。
壁と天井をつなぐ写真上のアールの部分は、梁を隠すという構造上の目的と、壁と天井をつないで天井をきれいに見せる意匠的な目的の両方から生まれた。アールの微妙なカーブは、夫妻の発案から〈フリッツ・ハンセン〉のスーパー楕円テーブルになぞらえた、スーパー楕円のラインをもとにした。下に見えるアールはニッチ部分。
天井まで壁がないことにより、夜には天井に反射した他の部屋の灯を、ぼんやりとやわらかく感じさせることができる。夫妻いわく「まるでジェームズ・タレルのアート作品の中にいるよう」な幻想的な空間だそう。
壁にはライトグレーのジョリパットを塗布。少しザラッとした凹凸のある仕上がりは、狙い通り、角のエッジが立っていないことで見た目がシャープすぎず、光そのものもソフトに拡散させてくれる。ジョリパットは弾力性があるので、微妙なアールのカーブをつけるために壁と天井の下地に張った合板の上からでも塗れ、ひび割れも入りにくいのもメリットだ。
パウダールームの引き戸の角やニッチの角なども、アールに仕上げている。こちらは、天井よりも鋭角なカーブにした。エッジが丸くなるだけで、こんなにも全体の印象がやわらかくなるのだと改めて感じる。
向かって右の壁の奥が寝室、左がリビング。左奥の造り付けのTV台の下には、収納スペースを確保。ここには洋服なども収納している。
ペンダントランプは、デンマークのデザイナー、セシリエ・マンツによる《カラヴァジオ》。障子の桟は、モダンすぎず和っぽくもなりすぎない、壁と同じようなライトグレーにした。
この家に漂う静謐な空気と、端正な佇まいは、竣工時からずっと変わることがないという。家具、生活道具、植物に至るまで丁寧に選び、いつもすっきりと整え、暮らしを慈しんでいる。そんな様子が手に取るように感じられる。何よりも、このやわらかい光とクリーンな空気感を大切にしているのだろう。
この家に漂う静謐な空気と、端正な佇まいは、竣工時からずっと変わることがないという。家具、生活道具、植物に至るまで丁寧に選び、いつもすっきりと整え、暮らしを慈しんでいる。そんな様子が手に取るように感じられる。何よりも、このやわらかい光とクリーンな空気感を大切にしているのだろう。
天井と壁をつなげ、一体にしたことで、室内にいるとまるで包まれているような感覚に陥るという。〈aoydesign〉の青山茂生さんと隅谷維子さんはこう語る。「完成後しばらくして、写真撮影のために伺ったのですが、光の入り方が多様で、改めて驚きました。窓が1か所しかないのに、1日を通して光が実にドラマティックに室内に陰影をもたらしていて。窓イコール光ではないと思えた、我々にとっても発見のある家でした」。
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とても素敵な空間デザインですね!
和紙独特の柔らかな光が本当に美しくアールの取り入れ方など勉強になりました
ありがとうございます