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Houzzツアー:八重桜をめでる家
八重桜や庭の木々が見守るのは、家族のストーリーを紡ぎ、日々の幸福感を味わい、未来の暮らしを見据えた美しい邸宅。
Miki Anzai
2016年3月8日
中野区の閑静な住宅地に建つS邸。庭の中央にそびえ立つのは、歴史ある八重桜だ。桜の花が満開になる4月中旬には、道行く人々が足を止め、S邸の外塀に顔を寄せて、歓声をあげていくという。オーナーは、音楽専門学校の創立者と、その夫人で現理事長のS夫妻。旧知の建築家中野隆一氏に、老朽化が進んだ自邸の建て直しを依頼した際、二人が出した希望は、「庭の八重桜の木を残すこと」。その願いは見事にかなえられ、S邸リビングの高さ3.8メートル・幅2.6メートルの大きな窓からは、四季折々の八重桜の全景が見渡せる。自邸の設計を任せるにあたり、S夫妻は中野氏以外は検討しなかったという。なぜなら中野氏は、S夫妻が経営する専門学校の関連施設(10棟以上)の設計監理を20年以上も担当しており、夫妻から絶大の信頼を得ていたからだ。
どんなHouzz?
所在地:東京都中野区
居住者:夫妻(60代、70代)と長女(40代)
設計:ナカノ建築設計事務所
構造:壁式RC造 地上2階建
延床面積:212平方メートル
竣工:2010年3月
どんなHouzz?
所在地:東京都中野区
居住者:夫妻(60代、70代)と長女(40代)
設計:ナカノ建築設計事務所
構造:壁式RC造 地上2階建
延床面積:212平方メートル
竣工:2010年3月
ベスト・オブ・ハウズ 2016のエクステリア(外観)部門で、デザイン賞を受賞したS邸。「白と木目のバランスが好き」とのコメントが、多くのHouzzerから寄せられている。
この家を設計した中野氏が、最後まで検討を繰り返したのは、道路沿いの塀の仕様だという。特に正面から見たときのバランスを重視し、最終的には、全体との調和が取れるウッドフェンスに決定。ところどころに縦と横の細いスリットを入れることで、デザイン性の高い仕上がりになっている。
また建物は、同居する長女が強く希望した「耐震構造」を実現したRC造だ。外壁はシャープに見せつつ、自然素材も取り入れながら、庭の木々、花々が映えるように配慮し、色を白で統一している。隣接する公園の松も、S邸の外観を引き立てる一助となっている。
この家を設計した中野氏が、最後まで検討を繰り返したのは、道路沿いの塀の仕様だという。特に正面から見たときのバランスを重視し、最終的には、全体との調和が取れるウッドフェンスに決定。ところどころに縦と横の細いスリットを入れることで、デザイン性の高い仕上がりになっている。
また建物は、同居する長女が強く希望した「耐震構造」を実現したRC造だ。外壁はシャープに見せつつ、自然素材も取り入れながら、庭の木々、花々が映えるように配慮し、色を白で統一している。隣接する公園の松も、S邸の外観を引き立てる一助となっている。
八重桜を活かすために、中野氏が「既成概念にとらわれずに設計した」のが、北側に庭を配した建物である。つまり、S邸のリビング(写真左)は北向きなのだ。一般的に北側は暗いイメージがあるが、大きな窓を設置することで十分な明るさを確保している。それだけでなく、北側の窓は直射日光の影響が少ないため、大きな窓を設置しても日射量が少なく、冷暖房効率がよいのだ。室内で植物も育てやすいという利点もある。
ちなみに写真は、建物の竣工直後に撮影したものだが、現在では、オリーブ、ミモザ、シャラ、ハナミズキ、ジューンベリーなど、さまざまな花々や樹木が植えられており、ガーデニングが趣味のS夫人が大切に育てている。平日は仕事で忙しいS夫人だが、休日は「庭に出て、隣家のお嬢さんの弾くクラシックピアノをBGMに、草花に水やりするのが何よりの楽しみ」と語る。手入れの行き届いた庭には、「ツグミ、ヒヨドリ、メジロなどもやって来て、何とも華やいだ気分になる」そうだ。
ちなみに写真は、建物の竣工直後に撮影したものだが、現在では、オリーブ、ミモザ、シャラ、ハナミズキ、ジューンベリーなど、さまざまな花々や樹木が植えられており、ガーデニングが趣味のS夫人が大切に育てている。平日は仕事で忙しいS夫人だが、休日は「庭に出て、隣家のお嬢さんの弾くクラシックピアノをBGMに、草花に水やりするのが何よりの楽しみ」と語る。手入れの行き届いた庭には、「ツグミ、ヒヨドリ、メジロなどもやって来て、何とも華やいだ気分になる」そうだ。
八重桜の全景を眺められるように、リビングの天井を一段高くし、大きな窓(建具)を特注した。外の景色を堪能できるように、内装の床は白色の陶器質タイル、壁と天井も白色の珪藻土と、目の邪魔にならないホワイトでまとめている。
北向きのリビングのため、採光を十分に考慮し、東側(写真奥)と南側にも窓をつけた。また、天井の一部(写真右奥、壁から60cm)は、2階の天井までの吹抜けにして、ガラスの天窓をはめ込んでいる。
冬の寒さ対策には、床暖房と薪ストーブを導入。天井にも熱の流れを効率化するためのシーリングファンを取り付けたが、「薪の威力は絶大で、ファンを回さなくても十分に部屋中が温まる」(S夫人)という。
薪ストーブ:株式会社メトス「ドブレ760CB」
冬の寒さ対策には、床暖房と薪ストーブを導入。天井にも熱の流れを効率化するためのシーリングファンを取り付けたが、「薪の威力は絶大で、ファンを回さなくても十分に部屋中が温まる」(S夫人)という。
薪ストーブ:株式会社メトス「ドブレ760CB」
建物1階の仕上げ色は、植物が映えるように白系で統一したが、キッチンにはポイントカラーが必要と考え、中野氏とS夫人はショールームでワインレッドを選択した。天井照明(トップライト)も、LEDを積極的に取り入れ、デザインにもこだわった特注品だ。
オーダーメイドキッチン:キッチンハウス事業部(株式会社TJMデザイン)
オーダーメイドキッチン:キッチンハウス事業部(株式会社TJMデザイン)
ガーデニングだけでなく、手芸が趣味のS夫人は、リビングの窓際に座って、庭をめでながら、編み物や手芸することが多いという。リビングからの外の眺めは格別だが、「実は、キッチンに立って、カウンターから眺める景色もたいそう気に入っている」そうだ。
1階のキッチン奥にある7帖のダイニングスペース。西側には窓もあり、一定の明るさを確保しているが、現在はダイニングとしての使用頻度は少なくなっている。その理由はS夫人いわく、「どうしても庭の眺めが恋しくなり、草木や花が見える場所に出て来てしまう」から。「食事はキッチンのカウンターかリビングのローテーブルでとっている」という。この部屋の2つある扉の左側は食品庫への入口、右側は、玄関から続く廊下へつながっている。
庭(外部空間)と建物の間に設けられたパティオ。左側がキッチンで、右側がゲストルームとなっている。「この空間があることで、よい景観が確保できるだけでなく、ゲストルームと直接壁でつながっていないので、心理的にも余裕が持ててうれしい」とS夫人。2階の廊下から見下ろす景色も、また違った角度から楽しめるという。
玄関奥には、足腰が弱くなった後のことを考慮して、エレベーターを設置。「将来的に車椅子になっても2階に上がれるようにつけてもらったけれど、先日ちょうど腰を痛めてしまったときに大活躍。本当にあってよかった」とS夫人。エレベーターだけでなく、廊下の壁には手すりが取り付けてあり、歩行・動作補助の心強い味方になっている。
3人乗りエレベーター:三菱日立ホームエレベーター株式会社「ファミリー」
3人乗りエレベーター:三菱日立ホームエレベーター株式会社「ファミリー」
1階トイレの一方の壁の仕上げを変えることで、外壁の「白と木」のテーマを、内装にもつなげている。
トイレ:TOTO株式会社「ネオレストAHシステムシリーズ」
洗面台:同上「ネオレストAHシステムカウンターセット・ベッセルタイプ」
壁紙:四国化成工業株式会社「けいそうモダンコート・フラット」
トイレ:TOTO株式会社「ネオレストAHシステムシリーズ」
洗面台:同上「ネオレストAHシステムカウンターセット・ベッセルタイプ」
壁紙:四国化成工業株式会社「けいそうモダンコート・フラット」
階段途中を円窓にしたのは、ここから庭を見る際、リビングやキッチンの四角い窓から見るのとは違った体験ができるように「変化を持たせたかったから」と中野氏。
円窓は、玄関横の壁にも取り入れている。
S夫人の手芸部屋。テラスに続く階段を造作し、その下を便利な小物入れにしている。テラスの煙突は、1階の薪ストーブのもの。1階リビングの天井が、キッチンより1.3m高くなっていた部分が、ちょうどこの2階のテラス部分に相当する。意匠性、耐久性に優れたアルミ木目調のルーバーで囲むことで、建物のシルエットを美しく演出している。
各洋室だけでなく、この脱衣所のフロアにも床暖房を配した。そのため冬場は脱衣時に足元が温かく、「ここに床暖房を入れたのは大正解だった」とS夫人。
左の扉の外はウッドデッキ敷きのテラスになっており、洗濯物を干すポールも設置。デッキのルーバーが、絶好の目隠しとなっているため、「人目を気にせず洗濯物を干せる」(S夫人)という。
左の扉の外はウッドデッキ敷きのテラスになっており、洗濯物を干すポールも設置。デッキのルーバーが、絶好の目隠しとなっているため、「人目を気にせず洗濯物を干せる」(S夫人)という。
1年の大半を米国で暮らすS氏がシャワー派のため、個人邸としては珍しい、高機能を追求したシャワーを設置。いっぽう、S夫人の浴室へのこだわりは「窓」。北側に設置した大きな窓からは、ウッドデッキ敷きテラスが眺められるデザインになっている。テラスには、廊下からも出られるようになっており、西側に隣接した公園の大きな木々をルーバー越しに眺められる。
シャワー:株式会社LIXIL 「BY-1620LBEFU」
シャワー:株式会社LIXIL 「BY-1620LBEFU」
もともとS夫妻は木造2階建ての家屋(Before平面図:左下)に住みながら、前の敷地にある八重桜を借景にしていた。たまたまこの土地(同図:右上)が、十数年前に家屋つきで売りに出されたので、思い切って購入。取得した土地建物は、短期間、賃貸に出していたが、それ以降は、愛犬のスピッツ「べべ」専用の小屋(=家)として利用していた。
木造家屋(母屋)の老朽化が進んだため、ブロック塀を取り払い、既存の建物2棟を解体し、中野氏に依頼して、RC造2階建ての一戸建て(After平面図)を新築した。ちょうど完成1年後に東日本大震災が発生したが、地震の被害はまったくなかったという。将来的には駐車場スペースに、次女夫妻が建物を新築する予定だ。
木造家屋(母屋)の老朽化が進んだため、ブロック塀を取り払い、既存の建物2棟を解体し、中野氏に依頼して、RC造2階建ての一戸建て(After平面図)を新築した。ちょうど完成1年後に東日本大震災が発生したが、地震の被害はまったくなかったという。将来的には駐車場スペースに、次女夫妻が建物を新築する予定だ。
八重桜をめでる家は、S夫妻の要望を熟知した中野氏が、「安全で、快適」、そして日頃は仕事で忙しいS夫妻が帰宅したときに「癒される空間」となるよう設計した、センスの光るモダン住宅だ。
竣工を家族全員で祝い、新しい家のリビング、特に薪ストーブの裏が大好きだった愛犬「べべ」の姿は、残念ながら、もうない。「べべ」は1年半前から、八重桜の木の下で安らかに眠っている。大切な思い出がたくさん詰まったこの庭で、現在S夫人は、心豊かな時間を過ごしている。
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竣工を家族全員で祝い、新しい家のリビング、特に薪ストーブの裏が大好きだった愛犬「べべ」の姿は、残念ながら、もうない。「べべ」は1年半前から、八重桜の木の下で安らかに眠っている。大切な思い出がたくさん詰まったこの庭で、現在S夫人は、心豊かな時間を過ごしている。
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