Houzzツアー:「木立のある風景を切り取る窓」が主役の家
周囲の美しい風景を切り取る窓をつくり、屋内と屋外を自然につないだ、気持ちのよい住まいです。
Annie Thornton
2016年1月12日
樹齢数百年に達することもあるムーナーの木。その名前からして神秘的な響きがするが、オーストラリア沿岸部バーロン・ヘッズ周辺に古代から育つ木で、地元にはこの木にまつわる伝説も多い。成長するにつれ、周囲の環境や状態に応じて幹がこぶ状になったり湾曲するのが特徴だ。モントレーのイトスギやマダガスカルのバオバブ、カリフォルニアの巨大なセコイアなどと同様、ムーナーはこの地域のシンボルであり、景観の一部だ。
昨年このバーロン・ヘッズで住宅建設を依頼された建築事務所〈アウハウス〉は、敬愛されるムーナーの木を設計にも生かすことにした。木の眺めを窓から取り入れ、木の形をデザインのヒントにし、ムーナーの育つ大地とのつながりを感じさせる家。「この家は周囲の風景の一部としてデザインしているので、切り離すことはできないんです」と言うのは、このプロジェクトを担当した建築家のケイト・フィッツパトリックさん。「この土地の延長のように感じられる住まいを目指しました。」
昨年このバーロン・ヘッズで住宅建設を依頼された建築事務所〈アウハウス〉は、敬愛されるムーナーの木を設計にも生かすことにした。木の眺めを窓から取り入れ、木の形をデザインのヒントにし、ムーナーの育つ大地とのつながりを感じさせる家。「この家は周囲の風景の一部としてデザインしているので、切り離すことはできないんです」と言うのは、このプロジェクトを担当した建築家のケイト・フィッツパトリックさん。「この土地の延長のように感じられる住まいを目指しました。」
Photos by Trevor Mein
どんなHouzz?
所在地:ヴィクトリア州沿岸部、グレート・オーシャン・ロード沿いの町バーロン・ヘッズ
規模:延床面積270平方メートル、そのほかにデッキ面積115平方メートル
最上階の書斎からは家の裏にあるムーナーの木立を見下ろせる。近くにあるゴルフコースとの間には砂丘植物の灌木が茂っている。フィッツパトリックさんは、大きな1つの窓を使ってこの風景を切り取ることにした。「静謐で、かつ魅力的な空間を作り出して、室内の空間と外の風景をどちらもはっきりと意識させることを目指しました」と言う。
造り付けのデスクと本棚の素材は積層板を黒く塗ったもの。デスクの下のキャビネットはブラックバット材。床材は
どんなHouzz?
所在地:ヴィクトリア州沿岸部、グレート・オーシャン・ロード沿いの町バーロン・ヘッズ
規模:延床面積270平方メートル、そのほかにデッキ面積115平方メートル
最上階の書斎からは家の裏にあるムーナーの木立を見下ろせる。近くにあるゴルフコースとの間には砂丘植物の灌木が茂っている。フィッツパトリックさんは、大きな1つの窓を使ってこの風景を切り取ることにした。「静謐で、かつ魅力的な空間を作り出して、室内の空間と外の風景をどちらもはっきりと意識させることを目指しました」と言う。
造り付けのデスクと本棚の素材は積層板を黒く塗ったもの。デスクの下のキャビネットはブラックバット材。床材は
最上階の書斎はマスターベッドルームとつながっている。窓はすべて、眺めを第一に考えて配置した。「自然に囲まれたサンクチュアリのような雰囲気にしたかったので、近所の家はできるだけ窓から見えないようにしました」とフィッツパトリックさん。
ホームオーナーは50代の夫婦。自分たちが年間を通じて住み、夏には子どもたちやこれから生まれる孫たちも滞在できるようにとこの物件を購入した。3世代が快適に暮らせる間取りを確保するため、フィッツパトリックさんが考えたのは3階構造の家。夫婦2人だけのときには、上2つの階だけで暮らせるようになっている。
ホームオーナーは50代の夫婦。自分たちが年間を通じて住み、夏には子どもたちやこれから生まれる孫たちも滞在できるようにとこの物件を購入した。3世代が快適に暮らせる間取りを確保するため、フィッツパトリックさんが考えたのは3階構造の家。夫婦2人だけのときには、上2つの階だけで暮らせるようになっている。
敷地は傾斜になっており、手前よりも奥のほうが5メートル強高い。家の裏手からも勾配が続き、さらに2メートル高い場所にゴルフコースがある。通りから家に入るには、屋外階段を上って、デッキや曲線を描く通路を通り、2階の玄関へとたどり着く。
「坂になっているので、ゴルフコースの風景が見えるためには3階建てにする必要がありました」とフィッツパトリックさん。周囲の景観が十分に楽しめるのは最上階だけ。1階の一部は斜面に埋まった形になっているので、窓のない洞窟のような空間にしないためにはどうするか、というのが設計時の大きな問題だった。
それと同時に、プロジェクトチームが注意したのは、周囲の風景や近隣地域に圧迫感を与えないこと。「家をさまざまな形の構造部分に分けることで、通りから見ても大きな塊のような印象を与えずに、十分な居住空間を確保することができました。建物を景観の一部のように扱ったんです」とフィッツパトリックさん。
外壁は銅板、垂直板張りおよび一部コンクリート(現場流し込み)
「坂になっているので、ゴルフコースの風景が見えるためには3階建てにする必要がありました」とフィッツパトリックさん。周囲の景観が十分に楽しめるのは最上階だけ。1階の一部は斜面に埋まった形になっているので、窓のない洞窟のような空間にしないためにはどうするか、というのが設計時の大きな問題だった。
それと同時に、プロジェクトチームが注意したのは、周囲の風景や近隣地域に圧迫感を与えないこと。「家をさまざまな形の構造部分に分けることで、通りから見ても大きな塊のような印象を与えずに、十分な居住空間を確保することができました。建物を景観の一部のように扱ったんです」とフィッツパトリックさん。
外壁は銅板、垂直板張りおよび一部コンクリート(現場流し込み)
2階の玄関ドアを開けると、キッチンとダイニング。ガラスの壁と窓伝いにまっすぐ進むと家の裏手へと出る。敷地内にたくさん生えているムーナーの木の1本が裏口のドアから見えている。
料理をしたり友人を呼んでもてなすのが大好きなオーナーたちのため、ひろびろとしたキッチンを家の中心に配置。家の各所に取り入れた不規則なフォルムと競合しないよう、使う素材の数は抑えている。黒、白、ウッドでまとめたキッチンもその良い例だ。
家の外と中で同じ木材を使用し、そのほかの部分は黒と白で統一している。特注のコンクリートタイルのバックスプラッシュを使って、意外なところでグラフィックの面白さを取り入れた。照明はムードを大切に選んだ。
ペンダントライト:アルヴァ・アァルト、フローリング:スポッテッドガム材(つや消し水性塗料仕上げ)
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アイランドのカウンターは無垢材で、壁付きのカウンターは黒いラミネート材。キャビネットはブラックバット材、べニヤ、黒いラミネート材を組み合わせて作られている。
真鍮と銅の調度や金具が、温かみのある素材感を加えている。キッチンキャビネットの取っ手は銅製で、この家のために製造した特注品だ。「外壁の銅板張りを思い起こさせるディテールです。時間が経つにつれて外壁と同じように緑青が表れるよう、メッキはしませんでした。」
真鍮と銅の調度や金具が、温かみのある素材感を加えている。キッチンキャビネットの取っ手は銅製で、この家のために製造した特注品だ。「外壁の銅板張りを思い起こさせるディテールです。時間が経つにつれて外壁と同じように緑青が表れるよう、メッキはしませんでした。」
裏のデッキを見下ろすリビング。家中の窓フレームにはすべてヴィクトリアンアッシュ材(オーストラリアの硬木)を使い、木材と銅のサッシ部分と調和するようステイン塗装を施した。窓フレームは、部屋によっては壁から300ミリもの奥行きがある。フィッツパトリックさんによる屋外に意識を向ける効果を狙ったディテールだ。
切り立ったような印象のこの家には、不規則な形や角度が多用されている。複雑でありながらすっきりとした効果を生みだすこの形状は、バランスが崩れたりバラバラにならないよう研究や設計を重ね、入念にデザインした結果だ。「自然の風景の中に溶け込む、彫刻的なフォルムにしたかったんです」とフィッツパトリックさんは言う。ムーナーの木が持つ彫刻的なフォルムも、こういった曲線のヒントになっている。
家の周りのデッキも、中の部屋と同じくらい重要な存在だ。年間を通して気候が穏やかなため、外で過ごす時間は自然と長くなる。デッキはスポッテッドガム材の無垢材。屋内の床にも同じ素材が使われている。
家の周りのデッキも、中の部屋と同じくらい重要な存在だ。年間を通して気候が穏やかなため、外で過ごす時間は自然と長くなる。デッキはスポッテッドガム材の無垢材。屋内の床にも同じ素材が使われている。
メインの居住空間である2階から、こちらのカンティレバー式の階段を下りて1階へ。踏板はスポッテッドガム材の無垢板だ。蹴込み板は使わず、光が1階まで通りやすくしている。壁の手すりとガードレールは粉体塗装したスチール。夏になると、ホームオーナーの子どもたちが1階に滞在する。
バックスプラッシュと同じコンクリートのタイルが1階にも使われている。
バックスプラッシュと同じコンクリートのタイルが1階にも使われている。
バスルームのカウンターは、ブラックバット材の無垢材。キャビネットはブラックバット材のべニヤ。
上の階とは異なり、1階にはクリアストーリー窓しかない。しかし「1日のなかで光と影の動きがあって、室内にさまざまな表情をもたらしてくれます」とフィッツパトリックさん。常に内と外のつながりを意識した家だ。
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家の窓辺より切り取る自然はまさに額縁の絵と思います。