Houzzツアー:冬は雪景色、夏は緑を眺めるコーナー窓のある家
見たい景色に向けて角度を検討したコーナー窓、家族が常にスペースを共有できる一体感のある間取り。豊かな自然の中に立つ、ディテールにこだわった3人家族の住まい。
takako kawaguchi
2017年1月6日
冬の積雪が2.5mにもなる豪雪地で、近隣にはスキー場や日本有数の温泉地もあり、豊かな自然と魅力にあふれる長野県飯山市。幼なじみとして育ち、この地に深い愛着を持つオーナー夫妻が、雑木林とりんご畑を望む素晴らしい土地を見つけたことから、今回の家づくりは始まった。
オーナーはかねてより「大きな家より、小さくてもディテールにこだわった家にしたい」との思いを抱いていたという。その気持ちと土地の恵まれたポテンシャルを見事に融合させた、相乗効果の織りなす家として完成させたのが、地元・長野市の〈スズケン一級建築士事務所〉である。
オーナーはかねてより「大きな家より、小さくてもディテールにこだわった家にしたい」との思いを抱いていたという。その気持ちと土地の恵まれたポテンシャルを見事に融合させた、相乗効果の織りなす家として完成させたのが、地元・長野市の〈スズケン一級建築士事務所〉である。
2階に上がるとまず、リビングダイニングの先にある大きな窓へと、視線が自然と惹きつけられる。コーナーの2面に設けられた、ダイナミックな窓。このために外の景色と室内との多方向のつながりが生まれ、空間に大きな開放感をもたらしている。「生活空間における外部とのつながりや、視線の通り方を工夫することは、とても重要なことと考えています。土地の条件を読み込みながら、オーナー様の意向を反映するうえで、最も大切にしていることのひとつです」と、〈スズケン一級建築士事務所〉の鈴木貴詞さん。この窓は「壁に窓を開けたのではなく、壁の一部を取り払ってガラスを入れたような」イメージで作ったのだとか。オーナー夫妻が愛する土地の美しい風景を生活の中に織り込み、この家らしいインテリアとして完成させた素晴らしい趣向である。
特筆したいのは、窓から雑木林の景色が偶然見えているのではなく、見たい景色に窓が向くよう計算されている点だ。そのために建物の配置(=コーナー窓)を、雑木林の方向に少しだけずらしたのだという。「実際どのように雑木林に向いているのか、最終的には現場で地縄を調整し、オーナー様にご確認いただきながら決めました。広い土地だからこそできる、なかなか楽しい作業でした」。
特筆したいのは、窓から雑木林の景色が偶然見えているのではなく、見たい景色に窓が向くよう計算されている点だ。そのために建物の配置(=コーナー窓)を、雑木林の方向に少しだけずらしたのだという。「実際どのように雑木林に向いているのか、最終的には現場で地縄を調整し、オーナー様にご確認いただきながら決めました。広い土地だからこそできる、なかなか楽しい作業でした」。
リビングを横から見ると、窓に向かって天井が勾配し低くなっているのがわかるが、なぜか圧迫感は感じない。大きな窓へと視線が向かい、かえって開放感を生み出しているからである。天井を低くして壁面積を減らし、相対的に窓を大きく見せることでも同じ効果を狙っている。天井が下がった先の窓(写真左側窓)の垂れ壁をなくしたり、隣の窓上の三角部分をシャープな鋭角にしたのも、スムーズに視線が抜けるようにするための細かなこだわりの演出。壁と天井との間は、少し隙間をとった「目透かし納まり」にすることで、さらにすっきりとした印象に仕上げている。
床はパイン材のオイルフィニッシュ。ダークブラウンの色合いは、打ち合わせ当初からのオーナー夫妻のリクエストだったため、その色をベースに全体のイメージを深めていった。シンプルな建物のアクセントとなっている腰下の壁や、造作の壁面収納の色味も、床色に合わせて現場で調整したそう。壁面の収納棚は長さ4.6m、奥行き40cm。
床はパイン材のオイルフィニッシュ。ダークブラウンの色合いは、打ち合わせ当初からのオーナー夫妻のリクエストだったため、その色をベースに全体のイメージを深めていった。シンプルな建物のアクセントとなっている腰下の壁や、造作の壁面収納の色味も、床色に合わせて現場で調整したそう。壁面の収納棚は長さ4.6m、奥行き40cm。
どんなHouzz?
所在地:長野県飯山市
住まい手:30代夫婦、子供1人
敷地面積:496.21平方メートル(150.11坪)
延床面積:75.36平方メートル(22.80坪)
構造:在来木造2階建て
設計監理:スズケン一級建築士事務所
構造設計:THR構造設計室
竣工:2015年10月
写真:畑亮
この家で気に入っているところは?とオーナーに尋ねたところ、「家族がそれぞれの過ごし方をしながらも、常にスペースを共有しているところです。テレビを観る人、洗い物をする人、絵を描く子が、自然と一緒の空間にいるのがいいですね」と答えてくれた。写真でもわかるように、キッチン、ダイニング、ワークコーナーがひとつのスペースに集中してレイアウトしてあるのは、この家の特長のひとつである。鈴木さんは「日常的に家族が使う場所というのは案外限られています。頻繁に使うスペースを高密度に集めることで、家族のコミュニケーションが濃密になっていきます」と語る。
右手奥のワークスペースは主に、ご主人のパソコンスペース。適度に閉じた空間も好みだということで、窓は小さくしてリビングとメリハリをつけ、壁色は床と合わせてトーンを落として大人っぽく落ち着いた一角となっている。
所在地:長野県飯山市
住まい手:30代夫婦、子供1人
敷地面積:496.21平方メートル(150.11坪)
延床面積:75.36平方メートル(22.80坪)
構造:在来木造2階建て
設計監理:スズケン一級建築士事務所
構造設計:THR構造設計室
竣工:2015年10月
写真:畑亮
この家で気に入っているところは?とオーナーに尋ねたところ、「家族がそれぞれの過ごし方をしながらも、常にスペースを共有しているところです。テレビを観る人、洗い物をする人、絵を描く子が、自然と一緒の空間にいるのがいいですね」と答えてくれた。写真でもわかるように、キッチン、ダイニング、ワークコーナーがひとつのスペースに集中してレイアウトしてあるのは、この家の特長のひとつである。鈴木さんは「日常的に家族が使う場所というのは案外限られています。頻繁に使うスペースを高密度に集めることで、家族のコミュニケーションが濃密になっていきます」と語る。
右手奥のワークスペースは主に、ご主人のパソコンスペース。適度に閉じた空間も好みだということで、窓は小さくしてリビングとメリハリをつけ、壁色は床と合わせてトーンを落として大人っぽく落ち着いた一角となっている。
ワークスペースの奥には45cmほどの通路を作り、キッチンと行き来できるように。その分キッチンが狭くなるため、夫妻も迷いながらの決断ではあったが、回遊性を持たせた動線によってスペース全体に一体感が生まれ、心理的な広がりが出た。この決断は正解だったといえるだろう。
キッチンとダイニングテーブルの間は造作の収納カウンターと同じ集成材でつなぎ、ワイド感を演出。ダイニングテーブルは知人に作ってもらったもので、アメリカの小学校の床板をアップサイクルしたものだとか。LEDの裸電球をそのまま掛けたダイニング空間は、飾りすぎないシンプルなアイテムや時を経たものが魅力を放ち、ほっと落ち着ける空気で満ちている。
キッチンとダイニングテーブルの間は造作の収納カウンターと同じ集成材でつなぎ、ワイド感を演出。ダイニングテーブルは知人に作ってもらったもので、アメリカの小学校の床板をアップサイクルしたものだとか。LEDの裸電球をそのまま掛けたダイニング空間は、飾りすぎないシンプルなアイテムや時を経たものが魅力を放ち、ほっと落ち着ける空気で満ちている。
天井の高さを強調するために、梁はあえて一般的な高さより低めに設定。低い梁の向こうに奥行きを感じながら天井が見えるという、重層的な視覚効果を狙っている。天井材はラワン合板の生地仕上げ。壁はベージュ寄りのオフホワイトの塗装で、素の表情を見せた天井と重厚感のある床を、うまくつなぐ役割を果たしている。
実はいくつかあった計画案のほとんどは、LDKを1階に設定していた。しかし最終的に2階にした理由は、よりワイドに雑木林を望めること、冬季積雪時にも開放性が保たれること、そしてコストコントロールのため。暖気は上に向かっていくため、2階にリビングを設置すると暖房効率がよくなるという点も考慮に入っている。
実はいくつかあった計画案のほとんどは、LDKを1階に設定していた。しかし最終的に2階にした理由は、よりワイドに雑木林を望めること、冬季積雪時にも開放性が保たれること、そしてコストコントロールのため。暖気は上に向かっていくため、2階にリビングを設置すると暖房効率がよくなるという点も考慮に入っている。
子供部屋の広さは4.5畳。扉を設けず、壁でゆるやかに仕切ったスペースだ。広くない空間なので、扉をつけたくなかったことや、「家族のあり方として、子供を個室にこもらせたくない」というオーナー夫妻の希望を汲んでのスタイルである。
ロフトも同じく4.5畳の広さがあり、物置として活用している。
ロフトも同じく4.5畳の広さがあり、物置として活用している。
1階浴室にもスケールの大きな窓を設置。ただしこれは、眺めを楽しむための窓ではない。浴室を使用していない日中などに、この大窓から手前の洗面室兼廊下まで光を取り込むための仕組みで、斬新かつ省スペースにも貢献するアイデアだ。
写真中央が先ほどのバスルーム。窓のおかげで、奥の廊下までオープンな抜け感があるのがよくわかる。
左手は玄関。階段下部分はとても日当たりがいいため、“陽だまりスペース” と呼んでいるそう。グリーンを置いたり、立ち寄った友人とお茶を楽しむのにもってこいの空間だ。右手のドアは寝室へと続いている。
左手は玄関。階段下部分はとても日当たりがいいため、“陽だまりスペース” と呼んでいるそう。グリーンを置いたり、立ち寄った友人とお茶を楽しむのにもってこいの空間だ。右手のドアは寝室へと続いている。
6畳の広さの寝室。窓外の塀は雪よけに加え、雑木林の風景を切り取るフレームとしての機能、さらに外観バランスを整える役割を持たせてある。
外観全体はシンプルなラインを組み合わせ、スムーズに雪が落ちていくように配慮。屋根をもっと急勾配にして、雪下ろしを完全に不要とする案もあったが、メンテナンス時に足場を掛けなくてはならなくなるため、通常の勾配とした。
手前の車庫用屋根はあえて住居部分と同じ構造で作ってある。鈴木さんいわく「将来的に増床が必要となったときへの備えです。新築時にすべてを固定化するのではなく、柔軟に変化させられる部分を用意しておくことは、生活に精神的な余裕を生み出すと思います」。
手前の車庫用屋根はあえて住居部分と同じ構造で作ってある。鈴木さんいわく「将来的に増床が必要となったときへの備えです。新築時にすべてを固定化するのではなく、柔軟に変化させられる部分を用意しておくことは、生活に精神的な余裕を生み出すと思います」。
広い敷地に住宅だけを単独で建てた場合、コロンとした単調なプロポーションになってしまいがち、と考えた鈴木さんは、車庫の屋根の庇を一部食い込ませるように住宅にかみ合わせることで水平ラインを強調し、建物のプロポーションを変化させた。その水平ラインをさらに強調するため、外壁材には横目地のものを採用している。
冬の雪景色にも夏の緑にも映える、シンプルで美しい外観バランスの家には、親戚がたくさん訪れるようになった。豊かな自然環境の中、幼い娘さんと同じ名前をつけた畑も開園し、自分たちが食べる野菜を栽培するようになるなど、家づくりをきっかけにオーナー夫妻の暮らしはにぎやかに楽しく、動き出したのである。
冬の雪景色にも夏の緑にも映える、シンプルで美しい外観バランスの家には、親戚がたくさん訪れるようになった。豊かな自然環境の中、幼い娘さんと同じ名前をつけた畑も開園し、自分たちが食べる野菜を栽培するようになるなど、家づくりをきっかけにオーナー夫妻の暮らしはにぎやかに楽しく、動き出したのである。
「朝起きてブラインドを開けるときのワクワク感、仕事に出かけるとき開けるドアが気に入ったものであったり、帰宅時のコーヒーがさらにおいしく感じる家の中の景色、娘と今日会ったことを話すとき寄りかかった壁の質感」……。そんなディテールを大切に考え、こだわりの家づくりを成し遂げたオーナー夫妻。暮らしの中で感じる “ちょっとした幸せの時間や形” が、今日もふとした何気ない瞬間に、あたたかな家の中で積み重なっていく。
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(有)堀川材木店様、コメントをお寄せいただきありがとうございます。各所に光る細やかな工夫の積み重ねが、快適な住み心地へとつながっていることを感じさせていただいた素敵なお家でした。今の季節は窓外の美しい雪景色を楽しまれていらっしゃることと、思いを馳せております。