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はみ出す勇気と聞く力。インテリアデザイナー・吉田恵美(さとみ)さんの仕事術
Best of Houzzを5年連続で受賞し、アメリカで多くの顧客の支持を集め続ける吉田さんの仕事の哲学と、日本への思いとは?
Mamiko Nakano
2018年8月19日
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住宅デザイン分野を中心に、アメリカで20年以上活躍し続ける日本人インテリアデザイナー、吉田恵美(さとみ)さん。確かなデザインセンスと、顧客へのきめ細やかなコミュニケーションで多くのリピーターを獲得。Best of Houzzも5年連続で受賞するという実績の持ち主だ。顧客満足度の高いデザインを実現するために、吉田さんは何を、どのように考えながら仕事をしているのだろうか。
吉田恵美さん。米ニュージャージー州、自宅の仕事場で(Photo by YZDA)
インテリアデザインとの出会い「一つのことに心を込めるというか、ケアをする、ということが好きだったのかもしれません」
最初の就職で携わっていた商業インテリアデザインから住宅デザインに転換した理由について、吉田さんはこう語る。
吉田さんがアメリカに渡ったのは19歳の頃。日本で英語を学んでいて、純粋に海外に出てみたいと思ったのがきっかけだ。
アメリカの大学で一般教養や美術を学んだ後、歴史と地理の講座を受けるために夏を東欧で過ごした。歴史的な建築物を訪ねた時、建物の内部で空間のたたずまいが醸し出す「コミュニケーション力」に鳥肌が立つくらいの衝撃を受けた。
「建物は、外観はもちろん素晴らしいのですが、居住空間を歩いた時に、これは!って思いました」。インテリアデザインを自分の仕事にしたいと思った瞬間だった。
インテリアデザインとの出会い「一つのことに心を込めるというか、ケアをする、ということが好きだったのかもしれません」
最初の就職で携わっていた商業インテリアデザインから住宅デザインに転換した理由について、吉田さんはこう語る。
吉田さんがアメリカに渡ったのは19歳の頃。日本で英語を学んでいて、純粋に海外に出てみたいと思ったのがきっかけだ。
アメリカの大学で一般教養や美術を学んだ後、歴史と地理の講座を受けるために夏を東欧で過ごした。歴史的な建築物を訪ねた時、建物の内部で空間のたたずまいが醸し出す「コミュニケーション力」に鳥肌が立つくらいの衝撃を受けた。
「建物は、外観はもちろん素晴らしいのですが、居住空間を歩いた時に、これは!って思いました」。インテリアデザインを自分の仕事にしたいと思った瞬間だった。
Short Hill NJ Residence II
米アイオワ州立大学でインテリアデザインを4年間学び、首席で卒業。1995年、米シアトルのデザイン事務所に就職し、インテリアデザイナーとしてのキャリアをスタートした。
スタジアムやカジノ、オフィスビル。商業デザインの仕事をする中で、吉田さんは顧客との一対一のコミュニケーションで作り上げていく住宅デザインの仕事の面白さを知る。そしてライフワークとして取り組み始める。
米アイオワ州立大学でインテリアデザインを4年間学び、首席で卒業。1995年、米シアトルのデザイン事務所に就職し、インテリアデザイナーとしてのキャリアをスタートした。
スタジアムやカジノ、オフィスビル。商業デザインの仕事をする中で、吉田さんは顧客との一対一のコミュニケーションで作り上げていく住宅デザインの仕事の面白さを知る。そしてライフワークとして取り組み始める。
Short Hill NJ Residence II
研究熱心なアメリカの顧客たち
アメリカ人の夫と結婚し、インテリアデザイナーとして独立。2005 年に、自身のデザインスタジオ YZDA | Yoshida + Zanon Design Atrium(ワイ ゼット ディー エイ)を創立した。その後は、サンフランシスコ、デンバー、ニュージャージー、ニューヨークなど、全米各地で住宅デザインの仕事をこなしていく。
現在のYZDAは吉田さんが全体統括をしながら、プロジェクトベースで必要なスキルを持っているフリーランスのメンバーが参加するスタイルだ。
吉田さんに仕事を依頼するクライアントたちは、写真を事前に集めたり、Houzzのアイデアブックを活用する人も多い。でも、既存の写真を参考にしつつも、ちょっと自分仕様に変えて欲しい、と依頼されるそうだ。「アメリカの人たちのデザイン、リノベーションに対する個人の意識や、研究意欲はかなり高いです」
研究熱心なアメリカの顧客たち
アメリカ人の夫と結婚し、インテリアデザイナーとして独立。2005 年に、自身のデザインスタジオ YZDA | Yoshida + Zanon Design Atrium(ワイ ゼット ディー エイ)を創立した。その後は、サンフランシスコ、デンバー、ニュージャージー、ニューヨークなど、全米各地で住宅デザインの仕事をこなしていく。
現在のYZDAは吉田さんが全体統括をしながら、プロジェクトベースで必要なスキルを持っているフリーランスのメンバーが参加するスタイルだ。
吉田さんに仕事を依頼するクライアントたちは、写真を事前に集めたり、Houzzのアイデアブックを活用する人も多い。でも、既存の写真を参考にしつつも、ちょっと自分仕様に変えて欲しい、と依頼されるそうだ。「アメリカの人たちのデザイン、リノベーションに対する個人の意識や、研究意欲はかなり高いです」
Montclair NJ Residence
きめ細かいサービスを
デザインに対して目が肥えているアメリカの富裕層のクライアントを満足させるには、デザインの力はもちろん必要だ。これに加え、きめ細かいサービスを提供することを、吉田さんはいつも心がけている。
「心理学というか、心のケアは必要です。特に住宅デザインは、ご夫婦の意見も割れることもありますから」。このカウンセリング的な部分は、時間がかかる。
「メールも何度でも大丈夫です、と言えば、100回も200回も来ることになる。それを自分でコントロールしながら、他の方にできないことを提供していく。それがいい加減なものだったら絶対通じないと思うんですけど、ポリシーを持って心から接してあげると、それは通じるんですね。プロとしての自覚を忘れず、相手を思いやる優しさを持つことを心がけています」
きめ細かいサービスを
デザインに対して目が肥えているアメリカの富裕層のクライアントを満足させるには、デザインの力はもちろん必要だ。これに加え、きめ細かいサービスを提供することを、吉田さんはいつも心がけている。
「心理学というか、心のケアは必要です。特に住宅デザインは、ご夫婦の意見も割れることもありますから」。このカウンセリング的な部分は、時間がかかる。
「メールも何度でも大丈夫です、と言えば、100回も200回も来ることになる。それを自分でコントロールしながら、他の方にできないことを提供していく。それがいい加減なものだったら絶対通じないと思うんですけど、ポリシーを持って心から接してあげると、それは通じるんですね。プロとしての自覚を忘れず、相手を思いやる優しさを持つことを心がけています」
Gull Lake MI Lake Home
とにかく相手の話を聞く
トレンドにこだわりすぎない、美しく、機能的な空間作り。これが、吉田さんのデザインのスタンスだ。顧客のニーズや個性を引き出し、デザインに反映させるためには何をしているのだろう?
「とにかく相手の話を聞くことです。私をデザイナーとして雇うのは、コラボレーションなのだと強調します。一緒に築き上げることが重要だと伝えます。私が私の意見だけで築くと、あなたの家はできないのだと。このプロセスには、すごくコミュニケーションが大切だよ、ということを伝えてスタートします」
その間、ご夫婦や家族のコミュニケーションの仕方や、どの部分で意見が割れるところなどを観察し、できるだけ雑談をする。「週末は何されてますか、とか、細かいことを聞きます。週末、自転車に乗るのか、本を読んでいるのか、犬の散歩に行くのか、などです」
家の中でテレビを観る時の過ごし方も聞く。「ソファで寝て観る人もいます。それだったら、ソファの手を支えるところは低いほうがいいですね、となります。カスタマイズできるところはカスタマイズします」
とにかく相手の話を聞く
トレンドにこだわりすぎない、美しく、機能的な空間作り。これが、吉田さんのデザインのスタンスだ。顧客のニーズや個性を引き出し、デザインに反映させるためには何をしているのだろう?
「とにかく相手の話を聞くことです。私をデザイナーとして雇うのは、コラボレーションなのだと強調します。一緒に築き上げることが重要だと伝えます。私が私の意見だけで築くと、あなたの家はできないのだと。このプロセスには、すごくコミュニケーションが大切だよ、ということを伝えてスタートします」
その間、ご夫婦や家族のコミュニケーションの仕方や、どの部分で意見が割れるところなどを観察し、できるだけ雑談をする。「週末は何されてますか、とか、細かいことを聞きます。週末、自転車に乗るのか、本を読んでいるのか、犬の散歩に行くのか、などです」
家の中でテレビを観る時の過ごし方も聞く。「ソファで寝て観る人もいます。それだったら、ソファの手を支えるところは低いほうがいいですね、となります。カスタマイズできるところはカスタマイズします」
Gull Lake MI Lake Home
このような普段の生活についての質問が、顧客の求めるデザインを作り上げる上でのヒントになる。また、デザインを依頼された以外の部屋も見せてもらうことで、クライアントの暮らし方の全体像をつかむ。そしてポートフォリオを顧客にみせ、具体的なデザインのイメージを膨らませていく。
「あまりビジネスの話をせずに、個人の持ってる引き出しをどんどん開け」て、なるべく相手に喋ってもらうのがコツだそうだ。
このような普段の生活についての質問が、顧客の求めるデザインを作り上げる上でのヒントになる。また、デザインを依頼された以外の部屋も見せてもらうことで、クライアントの暮らし方の全体像をつかむ。そしてポートフォリオを顧客にみせ、具体的なデザインのイメージを膨らませていく。
「あまりビジネスの話をせずに、個人の持ってる引き出しをどんどん開け」て、なるべく相手に喋ってもらうのがコツだそうだ。
Gull Lake MI Lake Home
日本人デザイナーとして
アメリカで仕事をする日本人デザイナーとして、吉田さんが自身のデザインにいつも加えようと意識しているのが、和の要素だ。例えば、上のライトブルーのアクセントが印象的なキッチンの天井にある梁のディテールも、和のテイストを取り入れたものだ。
日本の工芸作家の一点ものを工房まで訪ねて行き、注文することもある。その作品にまつわるストーリーを、自分の目で実際に見て、クライアントに伝えた上で、デザインに取り込みたいからだ。
「サトミ、これ高すぎるよって言われた時に、どれだけ手がかかっているかとか価値を伝えてあげる。すると、そんなストーリーがあるんだ、と納得してもらえるんです」
日本人デザイナーとして
アメリカで仕事をする日本人デザイナーとして、吉田さんが自身のデザインにいつも加えようと意識しているのが、和の要素だ。例えば、上のライトブルーのアクセントが印象的なキッチンの天井にある梁のディテールも、和のテイストを取り入れたものだ。
日本の工芸作家の一点ものを工房まで訪ねて行き、注文することもある。その作品にまつわるストーリーを、自分の目で実際に見て、クライアントに伝えた上で、デザインに取り込みたいからだ。
「サトミ、これ高すぎるよって言われた時に、どれだけ手がかかっているかとか価値を伝えてあげる。すると、そんなストーリーがあるんだ、と納得してもらえるんです」
Greenwich Village New York City Penthouse
絵をインテリアデザインに取り入れる時も、吉田さんは絵の後ろにアーティストの思い入れを書いた説明書きをつけている。そうすると、顧客が友人が訪ねて来た時、その絵のストーリーを伝えることができるからだ。
絵をインテリアデザインに取り入れる時も、吉田さんは絵の後ろにアーティストの思い入れを書いた説明書きをつけている。そうすると、顧客が友人が訪ねて来た時、その絵のストーリーを伝えることができるからだ。
Fifth Avenue New York City Condominium
小さな空間にもデザインの力を
テレビのドキュメンタリーで仕事ぶりを特集されて以来、「広い空間を作るお仕事されているから、素晴らしいものが作れるんですね」と言われるという吉田さん。実際には、都市部の小さめのプロジェクトも手がけることがあるのだという。そして、インテリアデザイナーのアドバイスは、空間の大小に関係なく有効なのだと強調する。
「例えば、色のない小さな空間でも、アクセントカラーやアクセント素材を使えば、より個性的な印象にすることができますよね」。インテリアショップでプロのアドバイスを気軽にもらえるようになったりすれば「多くの人が生活空間を楽しんで使ってもらえるようになるのでは」という。
小さな空間にもデザインの力を
テレビのドキュメンタリーで仕事ぶりを特集されて以来、「広い空間を作るお仕事されているから、素晴らしいものが作れるんですね」と言われるという吉田さん。実際には、都市部の小さめのプロジェクトも手がけることがあるのだという。そして、インテリアデザイナーのアドバイスは、空間の大小に関係なく有効なのだと強調する。
「例えば、色のない小さな空間でも、アクセントカラーやアクセント素材を使えば、より個性的な印象にすることができますよね」。インテリアショップでプロのアドバイスを気軽にもらえるようになったりすれば「多くの人が生活空間を楽しんで使ってもらえるようになるのでは」という。
Bucks County : New Hope PA Condominium
「インテリアは贅沢」を変えたい
「インテリアは贅沢なもの」というイメージを持たれがちな、今の日本。そんな現状を変える一助になりたいと吉田さんは話す。「家が建ったら、インテリアのことって、忘れられてしまう。文化そのものを変えないといけないのかもしれないと思う」
どうしたら、日本人のインテリアに対する意識を変えていけるのだろうか?専門家のほうでも「こうあるべき」という型を意識的に崩してみてもいいかもしれないと、吉田さんは語る。そして、日本を飛び出すことで自分が受けてきた「外からの刺激」を、日本の専門家や一般の人にも広く共有していきたい、と意欲的だ。
「一列に並んでいるな、と思ったら、少しはみ出す意識が必要かもしれません。私は、ずいぶんはみ出していますけどね!」
インテリアデザイナー・コーディネーターを探す
「インテリアは贅沢」を変えたい
「インテリアは贅沢なもの」というイメージを持たれがちな、今の日本。そんな現状を変える一助になりたいと吉田さんは話す。「家が建ったら、インテリアのことって、忘れられてしまう。文化そのものを変えないといけないのかもしれないと思う」
どうしたら、日本人のインテリアに対する意識を変えていけるのだろうか?専門家のほうでも「こうあるべき」という型を意識的に崩してみてもいいかもしれないと、吉田さんは語る。そして、日本を飛び出すことで自分が受けてきた「外からの刺激」を、日本の専門家や一般の人にも広く共有していきたい、と意欲的だ。
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