昼寝の時間と理想の一日とは? ――夏の終わりに母・森瑤子のエッセイから考えたこと
作家の母が残したエッセイを紐解きながら、娘である筆者が今の暮らしやインテリアに活かすヒントを探します。今回は、避暑地の夏の思い出と理想の昼寝のお話。
ブラッキン・ヘザー
2017年8月27日
Houzz contributor.
Home Life Style インテリア、収納空間デザイン。
「贅沢な時間を過ごせる、あなたらしい心地よい住まいづくり」をモットーに、一人ひとりの個性や「好き」を引き出しながらのインテリアのコーディネーション、
より快適な暮らしのためのライフスタイルに合わせた収納計画のご提案をいたします。
著書「ふつうの住まいでかなえる外国スタイルの部屋づくり(文藝春秋)
Interior decoration and storage space planning in Tokyo, Japan. English/Japanese bilingual, with interior design and decoration experience in Europe and Japan.
Houzz contributor.
Home Life Style インテリア、収納空間デザイン。
「贅沢な時間を過ごせる、あなたらしい心地よい住まいづくり」をモットーに、一人ひとりの個性や「好き」を引き出しながらのインテリアのコーディネーション、
より快適な暮らしのためのライフスタイルに合わせた収納計画のご提案をいたします。
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「夏が、終わろうとしていた」。
母、森瑤子の処女作『情事』の冒頭の一節は、100冊以上残された彼女の小説やエッセイ集にある言葉のなかで、私が最も好きなフレーズです。夏の終わり独特の、ちょっと切ない雰囲気をそのまま表しているような気がします。また、森瑤子としての新しい人生の出発もこの一節からでした。ある夏が終わろうとするまで、母は普通の主婦であり母親でしたが、この1行から始まった小説で、彼女と私たち家族の人生が大きく変わったのです。そんな理由もあり、私にとってこの一節は、とても深い意味を持っています。
まさに、夏が終わろうとしているこの時期。今回はある夏の一日と昼寝をテーマにした森瑤子のエッセイをご紹介しながら、理想的な昼寝のしかたと昼寝スポットについて書きたいと思います。
母、森瑤子の処女作『情事』の冒頭の一節は、100冊以上残された彼女の小説やエッセイ集にある言葉のなかで、私が最も好きなフレーズです。夏の終わり独特の、ちょっと切ない雰囲気をそのまま表しているような気がします。また、森瑤子としての新しい人生の出発もこの一節からでした。ある夏が終わろうとするまで、母は普通の主婦であり母親でしたが、この1行から始まった小説で、彼女と私たち家族の人生が大きく変わったのです。そんな理由もあり、私にとってこの一節は、とても深い意味を持っています。
まさに、夏が終わろうとしているこの時期。今回はある夏の一日と昼寝をテーマにした森瑤子のエッセイをご紹介しながら、理想的な昼寝のしかたと昼寝スポットについて書きたいと思います。
「毎年軽井沢を後にする九月の初めに、来年こそは避暑地に仕事を持ちこむまい、と固く固く決意するのだが、それが実行されたためしはない。
全く原稿を書かないということではなく、朝の早いうちに五枚くらい書いて、娘たちが起きだしてくる九時頃には仕事を終え、彼女たちと一緒に自転車に乗ってテニスコートへ出かけて行く、というのが、理想なのだ。
そして午後は、普通は手の出せないような本をじっくり読む。
全く原稿を書かないということではなく、朝の早いうちに五枚くらい書いて、娘たちが起きだしてくる九時頃には仕事を終え、彼女たちと一緒に自転車に乗ってテニスコートへ出かけて行く、というのが、理想なのだ。
そして午後は、普通は手の出せないような本をじっくり読む。
四時頃ジントニックを作って、鳥の声などききながらゆっくりと飲む。
こういうことを、私は以前ごく普通にやっていたのである。原稿を朝のうち五枚書くかどうかは別にして、軽井沢に避暑に来ている女たちは、多かれ少なかれそんなふうに暮らしている。
これが贅沢でなくて何であろうか。ゆっくりと流れる刻。良い書物。適当なスポーツ。
三度の食事は美味しいし、空気はひんやりしているし、電話もあまりかかってこないし。そして、そうそう昼寝。
こういうことを、私は以前ごく普通にやっていたのである。原稿を朝のうち五枚書くかどうかは別にして、軽井沢に避暑に来ている女たちは、多かれ少なかれそんなふうに暮らしている。
これが贅沢でなくて何であろうか。ゆっくりと流れる刻。良い書物。適当なスポーツ。
三度の食事は美味しいし、空気はひんやりしているし、電話もあまりかかってこないし。そして、そうそう昼寝。
ウトウトしてきて手にした本が床に落ち、それを拾い上げるのもめんどうで、そのまま眠りの世界へと滑りこんでいく瞬間の、幸福感。
一体私ははどこでそうしたささいな楽しみを、取り落としてしまったのだろうか? 失ってみて初めてその良さがわかるということが、人生には実にしばしばあるものだ。」
森瑤子「十年一区切り」、『ある日、ある午後』(角川文庫)所収
一体私ははどこでそうしたささいな楽しみを、取り落としてしまったのだろうか? 失ってみて初めてその良さがわかるということが、人生には実にしばしばあるものだ。」
森瑤子「十年一区切り」、『ある日、ある午後』(角川文庫)所収
避暑地の夏の思い出
旧軽井沢のテニスコートのすぐ裏にあった、実家の別荘。エッセイ中にある、9時頃には仕事を終えて娘たちとテニスコートへ行く、というくだりは、母の理想にすぎませんでした。実際は、私たちがテニスコートへ出かけた9時頃から仕事を始め、午前中いっぱいは原稿に集中していたものです。お昼に帰ると「あらまあ、もうこんな時間? ママ、お昼の買い物もしてないわ」とぼさぼさの髪をかきながら焦り出す母。または「ちょっと待ってて、今いいところだからダメよダメ、あっちへ行って」とお昼代500円を渡されて追い出されるのでした。
旧軽井沢のテニスコートのすぐ裏にあった、実家の別荘。エッセイ中にある、9時頃には仕事を終えて娘たちとテニスコートへ行く、というくだりは、母の理想にすぎませんでした。実際は、私たちがテニスコートへ出かけた9時頃から仕事を始め、午前中いっぱいは原稿に集中していたものです。お昼に帰ると「あらまあ、もうこんな時間? ママ、お昼の買い物もしてないわ」とぼさぼさの髪をかきながら焦り出す母。または「ちょっと待ってて、今いいところだからダメよダメ、あっちへ行って」とお昼代500円を渡されて追い出されるのでした。
母はお昼過ぎに切りのよいところで執筆を終え、家族には嫌がられる大好きな干物やお茶漬けを一人で食べ、本を読んだり、昼寝をしたりの時間を満喫してから、いつも3時頃にテニスコートに現れました。ひと汗かいてそのまま、まだ当時は軽井沢の町に残っていた八百屋やお肉屋さんで夜の食材を買い、帰宅。
6時頃、私たちが家に戻ると、母は一人で玄関横のポーチの籐製の椅子に座って、ジントニックを飲みながら小説を読んでいました。どれぐらいそこに座っていたのでしょう。至福の時間も終わり、ため息をつきながらキッチンへ。娘たちの500円のお昼ごはんに対する罪悪感があったのか、夜ごはんはいつもご馳走でした。
昼寝は大切なパワーチャージ
軽井沢の家での母の昼寝スポットは、玄関の前のポーチにあった、これも籐製のソファでした。木々に囲まれた家の前は涼しく、おそらく昼寝には最適な場所で、とても気持ちがよかったのでしょう。
集中して原稿を書くことは、かなりのエネルギーを吸い取られる行為でした。昼寝は母にとって、重要なパワーチャージの時間だったのだと思います。普段の生活では、昼寝をする贅沢な時間はありませんでした。東京でしょっちゅうイライラしていた母と、軽井沢で仕事をこなしながらもマイペースに過ごしていた母は、まるで別人のようでした。もちろん軽井沢の新鮮な空気や環境のおかげもありますが、昼寝ができることも大きかったのだと思います。
軽井沢の家での母の昼寝スポットは、玄関の前のポーチにあった、これも籐製のソファでした。木々に囲まれた家の前は涼しく、おそらく昼寝には最適な場所で、とても気持ちがよかったのでしょう。
集中して原稿を書くことは、かなりのエネルギーを吸い取られる行為でした。昼寝は母にとって、重要なパワーチャージの時間だったのだと思います。普段の生活では、昼寝をする贅沢な時間はありませんでした。東京でしょっちゅうイライラしていた母と、軽井沢で仕事をこなしながらもマイペースに過ごしていた母は、まるで別人のようでした。もちろん軽井沢の新鮮な空気や環境のおかげもありますが、昼寝ができることも大きかったのだと思います。
効率のよい昼寝時間とは
「そのまま眠りの世界へと滑りこんでいく瞬間の、幸福感。」ーーそう、なんともいえないあの気持ちよさ。でも、私自身はベッドで昼寝をするとつい寝すぎてしまい、その後はなんだかすっきりせず、一日を無駄にしてしまったような、重たい気分で過ごすことになります。日中の20分の仮眠は8時間分のパワーチャージになるという話をよく聞きますが、私もまさにそう感じます。昼寝は軽く、20分程度とるのが理想なのでしょう。
「そのまま眠りの世界へと滑りこんでいく瞬間の、幸福感。」ーーそう、なんともいえないあの気持ちよさ。でも、私自身はベッドで昼寝をするとつい寝すぎてしまい、その後はなんだかすっきりせず、一日を無駄にしてしまったような、重たい気分で過ごすことになります。日中の20分の仮眠は8時間分のパワーチャージになるという話をよく聞きますが、私もまさにそう感じます。昼寝は軽く、20分程度とるのが理想なのでしょう。
私の記憶にある限り、父も仕事のない日はランチの後に必ず昼寝をしていました。仕事をリタイアした今では、それが毎日の習慣となっているようです。簡単なサンドウィッチのランチを済ませた後、寝室のリクライニングチェアで軽く仮眠をとり、20分過ぎるとまた元気いっぱいに午後の庭仕事や家の修理に取りかかるのが彼の日常です。どこにいてもこのパターンを崩さないのが、父の元気の秘訣なのかもしれません。
理想的な昼寝スポットとは
大切なのは時間だけではなく、昼寝をする場所にもあるそうです。ベッドではない場所で軽い睡眠をとるほうが、寝起きもすっきりするという説があります。寝室での昼寝を避けるなら、窓際のソファやデイベッドがベストスポットでしょう。外からの光で適度に明るく、これからの季節、天気のよい日は窓を開ければ心地よい風も入ってきます。写真は日当たりも眺めもよい場所に置かれたデイベッド。ポカポカと陽を浴びながら軽くひと眠りできそうです。
大切なのは時間だけではなく、昼寝をする場所にもあるそうです。ベッドではない場所で軽い睡眠をとるほうが、寝起きもすっきりするという説があります。寝室での昼寝を避けるなら、窓際のソファやデイベッドがベストスポットでしょう。外からの光で適度に明るく、これからの季節、天気のよい日は窓を開ければ心地よい風も入ってきます。写真は日当たりも眺めもよい場所に置かれたデイベッド。ポカポカと陽を浴びながら軽くひと眠りできそうです。
こんな眺めのよい場所を昼寝スポットに選べるなら、それは究極の贅沢。海辺や森など外の景色と溶け込むこんな場所で昼寝するのはさぞ気持ちがいいでしょう。窓辺に置かれたデイベッドやカウチが、まるで昼寝に誘っているかのようです。どんな季節でも、昼寝場所には薄手のコットンやウールなどのブランケットを一枚用意しておきましょう。
最近、「1分仮眠」という言葉もよく耳にします。どうしても時間が取れない忙しいとき、椅子に座って1分間目を閉じるだけでも、脳がリフレッシュされるとか。たった1分で、午後の集中力をアップするのに効果があるのなら、試してみたいですね。ゆらゆらと揺れるスイングチェアには、まるでゆりかごのよう。ちょっとした仮眠にぴったりのスポットです。
ある夏の終わりから、執筆活動に忙しい母を持つようになった私たち家族。東京にいたときの母は、毎日原稿の締め切りに追われる日々を過ごしていました。それに比べれば、今の自分の一日の過ごし方はかなりマイペースだと思います。私が今、仕事をしながら家のことをし、そして自分の時間も大切にしながら生活しているのは、東京の母よりも軽井沢の母を理想として見ていたからかもしれません。
夏が終わるにつれて、過ごしやすい気候になります。少し涼しさを増した気持ちのいいそよ風の中で、ときにはのんびりと昼寝タイムを楽しんでみませんか? 素敵な昼寝スポットを整え、適切な時間に昼寝をすれば、夏の間の疲れを癒すパワーチャージになるのではないでしょうか。
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Miho Imamuraさん、ありがとうございます!きっと色々な風景の中で書きながらそれぞれの風景に良い刺激をあたえられたのではと思います。