Houzzツアー:住宅が密集する旗竿地に実現した広くて明るいリビングの住まい
四方を囲むハイサイドライトから明るい光がふりそそぐ広々と気持ちのいいLDKには、毎日子供たちの友達が遊びにきます。施主の求める「自然体の暮らし」を文字通り実現した、開放的な家です。
Naoko Endo
2016年3月11日
出版社、不動産ファンド、代理店勤務を経て、フリーランス・ライター。
個人ブログ「a+e」http://a-plus-e.blogspot.jp/
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旗竿地(はたざおち)なる敷地をご存知だろうか。家が建てられる広さがある土地の端から道路に向かって2メートル強ほどの間口で細長い通路が伸び、旗(フラッグ)がついた竿に例えてこう呼ばれる。道に面した側に比べて土地の評価額が低い=安く手にはいるというメリットがあるものの、周りを家々に囲まれ、プライバシーの確保が難しい。日当たりや風通しもあまり良いとはいえない。
今回ご紹介するのは、そんな不利な条件を全く感じさせない、明るく快適な住まいを見事に実現させた事例である。
今回ご紹介するのは、そんな不利な条件を全く感じさせない、明るく快適な住まいを見事に実現させた事例である。
上の写真を見て欲しい。旗竿地に建っているとは思えない、開放感ある内部空間だ。
建て主は30代後半のご夫妻。上は小学校の中学年、下は保育園に上がる前の三人の男の子たちのことを考えて、都内で土地を探していたところ、住んでいるところから遠く離れていないこの旗竿地に巡りあった。マイホームを建てるなら、こんな家にしたい、こんなふうに暮らしたいと描いていた夢がある。叶えられるかどうか、雑誌で作品を見て、その作風が気に入っていた建築家に頼んでみた。学生時代からユニットを組む、成瀬友梨さんと猪熊純さんが代表を務める設計事務所である。
建て主は30代後半のご夫妻。上は小学校の中学年、下は保育園に上がる前の三人の男の子たちのことを考えて、都内で土地を探していたところ、住んでいるところから遠く離れていないこの旗竿地に巡りあった。マイホームを建てるなら、こんな家にしたい、こんなふうに暮らしたいと描いていた夢がある。叶えられるかどうか、雑誌で作品を見て、その作風が気に入っていた建築家に頼んでみた。学生時代からユニットを組む、成瀬友梨さんと猪熊純さんが代表を務める設計事務所である。
どんなHouzz?
《スプリットハウス》
所在地:東京都内
居住者:40代の夫婦+子供三人
設計:成瀬・猪熊建築設計事務所
規模:敷地面積122.42平方メートル
完成年:2014年5月
写真:西川公朗
「都心に近い敷地としては広いほうですが、奥まった旗竿地ゆえか、最初に見に行った時は正直、狭いなぁと感じました」と成瀬さん。西側は小学校の校庭に面して遮るものがなかったが、南北と東側の三方は隣家に接している。単純にプライバシーを守るだけなら、壁で囲って窓も小さくすればいい。だが、施主一家の希望を聞いたうえで、成瀬・猪熊の二人が考えたプランには、1階と2階の間に、360度ぐるりと高窓(ハイサイドライト)が開けられていた。
《スプリットハウス》
所在地:東京都内
居住者:40代の夫婦+子供三人
設計:成瀬・猪熊建築設計事務所
規模:敷地面積122.42平方メートル
完成年:2014年5月
写真:西川公朗
「都心に近い敷地としては広いほうですが、奥まった旗竿地ゆえか、最初に見に行った時は正直、狭いなぁと感じました」と成瀬さん。西側は小学校の校庭に面して遮るものがなかったが、南北と東側の三方は隣家に接している。単純にプライバシーを守るだけなら、壁で囲って窓も小さくすればいい。だが、施主一家の希望を聞いたうえで、成瀬・猪熊の二人が考えたプランには、1階と2階の間に、360度ぐるりと高窓(ハイサイドライト)が開けられていた。
「寝室は狭くても構わないので、雨の日でも子どもたちが自由に遊べるような広いリビングを、というのがご夫妻の第一希望でした。そこで、キッチン、ダイニング、リビングをひとつながりの大空間にしました。1階の約2/3を占めます」(成瀬・猪熊の両氏)。ハイサイドライトは断熱性能の高いペアガラスを採用、隣家との視線が交差しそうなところは曇りガラスに、要所で換気できるガラリも設けてある。
四方からもたらされる光は、白い壁やモルタルの床の上でバウンドし、家全体を明るく、そしてこの家の核となるリビングをひときわ広く見せる。照明はダイニングテーブルの上に吊るした3連のペンダントと、天井を照らすスポットライト。家族五人で、あるいはゲストを招いた大人数で囲んだテーブルに並んだ料理を暖かく照らすのにじゅうぶんだ。
四方からもたらされる光は、白い壁やモルタルの床の上でバウンドし、家全体を明るく、そしてこの家の核となるリビングをひときわ広く見せる。照明はダイニングテーブルの上に吊るした3連のペンダントと、天井を照らすスポットライト。家族五人で、あるいはゲストを招いた大人数で囲んだテーブルに並んだ料理を暖かく照らすのにじゅうぶんだ。
天井高は3メートル10センチ。せっかくの開放感が台無しにならないように、玄関脇のパントリー、書斎、ワンポイントで緑の色を差している3畳の和室との境以外に間仕切り壁はない。
「ハイサイドライトの層の水平力は柱から斜めに渡した構造材(ブレース)で受けて支えています。見た目にもこだわり、柱を樹木に見立て、ブレースが枝に見えるような角度にこだわって設計しました」(成瀬・猪熊の両氏)。豊かな森のような空間で、三人の子供たちはのびのびと育っている。
「ハイサイドライトの層の水平力は柱から斜めに渡した構造材(ブレース)で受けて支えています。見た目にもこだわり、柱を樹木に見立て、ブレースが枝に見えるような角度にこだわって設計しました」(成瀬・猪熊の両氏)。豊かな森のような空間で、三人の子供たちはのびのびと育っている。
寝室などのプラベート・スペースは、ハンモックが吊られた1.5階をスキップして、全て2階に集約されている。子供たちはイケアのベッドが置かれた1室で三人”川の字”になって寝ているが、いずれは部屋の真ん中に壁を建てて2部屋に分けられるよう、ドアと窓を両端に設けてある。隣に用意された個室は、受験を迎えた時に使われる予定だ。
今はわんぱく盛りの子供たち。入浴時は大騒ぎで、親御さん曰く「戦争状態」に。バスルームと並んで脱衣所があるのだが、各室と接続した廊下が、彼らのための脱衣所でもある。ここで三人まとめて服を脱がせ、汚れた衣服は大きな洗濯カゴに放り込む。
天井まである造作の棚は家族五人の共有で、扉は付けずに、年々変化していくであろう生活に応じてフレシキブルに使えるようになっている。
天井まである造作の棚は家族五人の共有で、扉は付けずに、年々変化していくであろう生活に応じてフレシキブルに使えるようになっている。
その一方で、この家には見事にディスプレイされたコーナーもある。リビングの壁に設けられた棚だ。夫妻が集めたスノードームが整然と並んでいる。最も大きいスノードームのサイズを基準に奥行きと高さが決められた。その脇の何もない壁は、竣工後に取り付けられたプロジェクターの映写スクリーンとして利用されている。
子供の冒険心をくすぐり、大人の雰囲気も持つ素敵な住まい。だが、もちろん課題はあった。2.5層分のスキップフロアの冷暖房、夏と冬の室温のコントロールである。
子供の冒険心をくすぐり、大人の雰囲気も持つ素敵な住まい。だが、もちろん課題はあった。2.5層分のスキップフロアの冷暖房、夏と冬の室温のコントロールである。
「空調の効果が期待できないことは最初からわかっていました。加えて、施主の希望は『夏場でもクーラーを使わずに済む家』。その両方をクリアさせるために設けたのが、2階の中心部に設けた天窓です」(猪熊さん)。天窓の壁には敢えて断熱材を貼っていない。冷暖の温度差で昇降する空気の自然対流を利用するためだ。夏は上から熱が抜けていくのを誘導し、逆に冬は蓄えた熱が家全体をじんわりと暖める。庭に面した1階の掃き出し窓を開ければ、家の中を風が通り抜けていく。ハイサイドライトからの光が及ばない2階の中心部分も明るく照らす、一挙両得の天窓だ。冬は1階のリビング・ダイニングに敷設した床暖房、夏は3畳の和室にだけ設置したクーラーを数回使うだけで乗り切った。
できるだけ自然体な暮らしをと望んだ施主夫妻。成瀬・猪熊建築設計事務所に設計を依頼したのは、2011年に竣工したリノベーション作品《世田谷フラット》を取り上げた雑誌を読んだのがきっかけ。誌面から伝わってきた飾らない柔らかな雰囲気が気に入ったのだという。
「設計者と住み手と、お互いが思い描いている生活シーンが近かったので、打ち合わせをしていても意思の疎通がスムーズでした。さらには私たちの提案に対して毎回『良いですね!』と喜んでもらえたので、とても嬉しくて楽しい設計でした」と成瀬さん。《世田谷フラット》とは壁と床の仕上げを変えているが、キッチンは「これと同じものが良い」との希望でデザインを踏襲した。先に開催された「”キッチンで暮らす”施工事例コンテスト」で谷尻誠賞を受賞したオリジナルキッチンである。
関連記事を読む:「”キッチンで暮らす”施工事例コンテスト」審査員賞・審査員特別賞発表!
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「ご夫妻は二人とも料理がお好きで、大勢のゲストを招いてもてなすのがお好きだと聞いていました。お子さんがまだ小さいと対面式キッチンを望まれる場合が多いと思うのですが、ご主人が『壁に向かって料理がしたい』と仰いまして(笑)。アイランドキッチンにしなかったぶん、ダイニングスペースを広くして、大きなテーブルをどんと据え置くことができました」(成瀬さん)。幅90センチ、長さ2メートル64センチもある天板は、脚を付けずに庭から搬入し、室内で完成させた。大人が10人座っても悠然と食事が楽しめる。
竣工して2年め。成瀬、猪熊の両氏は何度か《スプリットハウス》を訪問している。同じ年頃の子供を持つ親である二人は、その都度、家の中がきれいに片付き、美しく住まわれていることに感動する。さらに、建築家として感じたもうひとつの印象を猪熊さんはこう語る。
「いろいろなところに子供たちの居場所があるみたいです。各部屋の用途をこうとは決めずに、家の中を動きまわりながら、各自が居場所を発見しながら自由に使ってもらっています」
大人たち同士が話をしている間、子供たちは、同じテーブルの端で宿題に取り組んでいたり、1.5階でブロック遊びに興じていたり、お気に入りの赤い三輪車で室内を走り回っていたりする。天井が高いと、ちょっとした音も響きやすいが、不思議と全く気にならないそうだ。大人・子供に関係なく、ちょうど良い距離感が保たれている。
「いろいろなところに子供たちの居場所があるみたいです。各部屋の用途をこうとは決めずに、家の中を動きまわりながら、各自が居場所を発見しながら自由に使ってもらっています」
大人たち同士が話をしている間、子供たちは、同じテーブルの端で宿題に取り組んでいたり、1.5階でブロック遊びに興じていたり、お気に入りの赤い三輪車で室内を走り回っていたりする。天井が高いと、ちょっとした音も響きやすいが、不思議と全く気にならないそうだ。大人・子供に関係なく、ちょうど良い距離感が保たれている。
作品名のスプリット(split)には”分割・分裂”の意があるが、それはハイサイドライトが四方に配された見た目に限ったこと。秘密基地のようなこの家には、今日もお子さんの友達が大挙して遊びにくる。この地に引っ越してきた当初から大人気だという。周囲の人々や環境にも受け入れられ、自然と馴染んでいった事例に反して《スプリットハウス》とは、なんともニクいネーミングである。
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