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欧州の建築家3人に聞く、建築のトレンドと課題とは?
持続可能性、包括性、公共のスペースなど。これからの建築業界における大きな問いについて、欧州を拠点にする3人の建築家に語ってもらいました。
Zuriñe Iturbe
2019年7月29日
建築は今後どこへ向かっていて、どのようなトレンドが影響力を持つのでしょうか?この大きな疑問について、Houzzは欧州を拠点に活動する3人の建築家に聞き、持続可能性、包括性、公共のスペース、などについて語ってもらいました。
質問に答えてくれた建築家たち:
質問に答えてくれた建築家たち:
- マドリード工科大学建築プロジェクトコースの准教授を務めるゴンサロ・パルド(Gonzalo Pardo)
- ミラノを拠点に活動する建築家マヌエラ・フェルナンデス・ランゲネッガー(Manuela Fernández Langenegger)
- バルセロナとニューヨークに事務所を構えるMAIOアーキテクチャー・スタジオ(MAIO architecture studio)のギリェルモ・ロペス(Guillermo López)
1. 環境に配慮した建築
気候変動は現在、社会にとって、そしてもちろん建築にとって最も関心の高い、差し迫った問題のひとつです。
欧州の新たなガイドラインでは、2020年以降に建てられるすべての住宅で、エネルギー消費量をほぼゼロにすることを義務付けています。「建築は環境に配慮するという流れに乗るのが遅れたものの、今では建築を社会における持続可能なもののひとつにしようとする施策が講じられています」と語るのは、建築家でマドリード工科大学建築プロジェクトコースの准教授を務めるゴンサロ・パルド(Gonzalo Pardo)です。
気候変動は現在、社会にとって、そしてもちろん建築にとって最も関心の高い、差し迫った問題のひとつです。
欧州の新たなガイドラインでは、2020年以降に建てられるすべての住宅で、エネルギー消費量をほぼゼロにすることを義務付けています。「建築は環境に配慮するという流れに乗るのが遅れたものの、今では建築を社会における持続可能なもののひとつにしようとする施策が講じられています」と語るのは、建築家でマドリード工科大学建築プロジェクトコースの准教授を務めるゴンサロ・パルド(Gonzalo Pardo)です。
現在では、建設技術に関する意識が高まってきています。「私たちはエネルギー消費を減らす方法を探りながら、これまでよりも頻繁に建築プロジェクトについて熱力学的な視点から考えるようになりました」とパルドは話します。
新しい建物には節水システム、エネルギー効率のよい設備、よりよい断熱性を組み込むことになるでしょう。「日光や風向きなど、原始的な要因についての理解に関する戦略が検討されるでしょう」とパルドは言います。こうしたことはすべて、建物の二酸化炭素排出量を削減するためにおこなわれるものです。
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新しい建物には節水システム、エネルギー効率のよい設備、よりよい断熱性を組み込むことになるでしょう。「日光や風向きなど、原始的な要因についての理解に関する戦略が検討されるでしょう」とパルドは言います。こうしたことはすべて、建物の二酸化炭素排出量を削減するためにおこなわれるものです。
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2. リサイクルとリユース
循環経済(サーキュラー・エコノミー)の原則を建築にも大々的に取り入れようとする動きが始まっています。その目的は、建設の環境的な影響を減らすことです。先進国において建設および取り壊しによって出る廃棄物は、全体の3分の1から半分にものぼります。
循環経済(サーキュラー・エコノミー)の原則を建築にも大々的に取り入れようとする動きが始まっています。その目的は、建設の環境的な影響を減らすことです。先進国において建設および取り壊しによって出る廃棄物は、全体の3分の1から半分にものぼります。
これまでは、生産する、建設する、使用する、廃棄する/取り壊す、これしか方法がありませんでした。これが、エネルギーや天然資源を大量に消費し、そして大量の廃棄物を生むことにつながっていました。
循環経済では「ゆりかごからゆりかごまで(C2C)のデザインに基づくモデル」を実行します。このモデルの基本原則は、廃棄物とみなされるすべてのものを活用し再利用することで、建設のあらゆる工程における資源の効率化を図ることです」とパルドは説明します。
循環経済では「ゆりかごからゆりかごまで(C2C)のデザインに基づくモデル」を実行します。このモデルの基本原則は、廃棄物とみなされるすべてのものを活用し再利用することで、建設のあらゆる工程における資源の効率化を図ることです」とパルドは説明します。
多くのメーカーですでに、タイヤやガラスなどのリサイクル原料からつくられた仕上げ剤やコーティング剤、つぶしたコルク廃棄物でできた断熱パネル、製紙産業から出る廃セルロースでつくられた材料など、循環型ライフサイクルの建築材料を提供しています。
また、リサイクルやリユースが可能な藁や日干しレンガなどの天然素材で家を建てることで廃棄物を減らし、エネルギーと資源の消費量を削減できます。
また、リサイクルやリユースが可能な藁や日干しレンガなどの天然素材で家を建てることで廃棄物を減らし、エネルギーと資源の消費量を削減できます。
3. 取り壊しよりもリノベーション
古くなった、あるいは使われなくなった建物に新たな生命を吹き込んだり、現代的な住宅につくりかえたりすることで、アバンギャルドな構造物へと生まれ変わらせることができます。今年は、リサイクルの原則を適用した建物改修がさらに増加しています。
「経済危機の結果、改修政策は勢いを増しました」とパルドは言います。「理由は多くの場合、お財布事情によるものです。新しい家を購入する代わりに、すでに所有している家をリノベーションすることを選ぶようになったのです」
古くなった、あるいは使われなくなった建物に新たな生命を吹き込んだり、現代的な住宅につくりかえたりすることで、アバンギャルドな構造物へと生まれ変わらせることができます。今年は、リサイクルの原則を適用した建物改修がさらに増加しています。
「経済危機の結果、改修政策は勢いを増しました」とパルドは言います。「理由は多くの場合、お財布事情によるものです。新しい家を購入する代わりに、すでに所有している家をリノベーションすることを選ぶようになったのです」
これまで保存や改装よりも取り壊しをおこなっていた社会において、この考え方の変化は建築家にとって二重の難題を伴うものです。というのも、空間のリサイクルは伝統への敬意に基づいた保存やリノベーションだけでなく、建物に新たな価値を付加し、現代のニーズに対応したものにすることを暗に意味しているからです。
ミラノを拠点に活動する建築家マヌエラ・フェルナンデス・ランゲネッガー(Manuela Fernández Langenegger)はリノベーションを「よりエコで持続可能な観点から建設にアプローチする方法」と定義づけています。
「残されたスペースは多くありません。建物のない土地がどれだけ貴重かということを、私たちはこれまで以上に強く意識し始めています。たとえばドイツでは(フェルナンデス・ランゲネッガーは数年間、シュトゥットガルトに住んでいたことがあります)、すでに建物があるスペースの密度をさらに高めるために、建設可能なスペースのパラメーターを変更したり、スペースに改めて条件をつけたり、これまでよりも小さな家を多く建てたりという方向性をとっています。つまり、街を拡大するのではなく、街の密度を高めているのです」(ランゲネッガー)
「残されたスペースは多くありません。建物のない土地がどれだけ貴重かということを、私たちはこれまで以上に強く意識し始めています。たとえばドイツでは(フェルナンデス・ランゲネッガーは数年間、シュトゥットガルトに住んでいたことがあります)、すでに建物があるスペースの密度をさらに高めるために、建設可能なスペースのパラメーターを変更したり、スペースに改めて条件をつけたり、これまでよりも小さな家を多く建てたりという方向性をとっています。つまり、街を拡大するのではなく、街の密度を高めているのです」(ランゲネッガー)
4. 地域に目を向ける:その土地固有の建築への回帰
工業原料やテクノロジーに加え、地域の伝統や資源に基づく建築技術の採用がますます盛んになってきました。「シェフたちが言うところの『0キロメートル』の話――半径100キロ以内の生産者から直接生産物を購入するというコンセプト――それに建築家が自分たち自身の解釈を見いだしました。今では、材料の生産地や、現場の中・長期的な生態学的未来を考慮しないプロジェクトを提案することなど想像もできません」とパルドは言います。
地域に根ざした持続可能なデザイン。ヴァナキュラー住宅から学べること
工業原料やテクノロジーに加え、地域の伝統や資源に基づく建築技術の採用がますます盛んになってきました。「シェフたちが言うところの『0キロメートル』の話――半径100キロ以内の生産者から直接生産物を購入するというコンセプト――それに建築家が自分たち自身の解釈を見いだしました。今では、材料の生産地や、現場の中・長期的な生態学的未来を考慮しないプロジェクトを提案することなど想像もできません」とパルドは言います。
地域に根ざした持続可能なデザイン。ヴァナキュラー住宅から学べること
「伝統や地域の資源への回帰は主に、経済危機によって高まりを見せてきました。さらに別の観点から見ると、グローバリゼーションに対する反応として生じたものでもあります」とランゲネッガーは話します。
5. 包括的な建築
建築には、あらゆる人のニーズに適応する社会的な機能を持たせるべきです。「若い建築家の間では、高齢者が直面する問題への強い意識が生まれています。たとえば高齢、可動性の低下、視力喪失や孤独などの要因が、建築の新たな課題となっているのです」とパルドは話します。
建築には、あらゆる人のニーズに適応する社会的な機能を持たせるべきです。「若い建築家の間では、高齢者が直面する問題への強い意識が生まれています。たとえば高齢、可動性の低下、視力喪失や孤独などの要因が、建築の新たな課題となっているのです」とパルドは話します。
包括的な建築とは、バリアフリーや建築的な障壁の排除にとどまりません。つまり、人が経験するであろうさまざまなニーズや制限に対応できる、心地よい環境をデザインすることを意味します。これをおこなうためには、成人、高齢者、母親、乳幼児、障がい者それぞれに対して異なる空間であると同時に、対話を促す空間をデザインする必要があります。
6. 情緒的建築と、質より量を重んじること
この先、建築における新たな贅沢となるのは、面積ではなく空間の質でしょう。住宅コスト増加や大都市での暮らしを選ぶ傾向により、住宅建築では少ない予算で小さな空間に対するソリューションを提供しなければなりません。
「これまで、贅沢といえば建築の材料面に関することでした。幸運なことに、こうした概念は雰囲気、空間、柔軟性、完全可能性に関する他の選択肢へと変化してきています」とパルドは言います。
この先、建築における新たな贅沢となるのは、面積ではなく空間の質でしょう。住宅コスト増加や大都市での暮らしを選ぶ傾向により、住宅建築では少ない予算で小さな空間に対するソリューションを提供しなければなりません。
「これまで、贅沢といえば建築の材料面に関することでした。幸運なことに、こうした概念は雰囲気、空間、柔軟性、完全可能性に関する他の選択肢へと変化してきています」とパルドは言います。
多用途性や経験を重んじる若い世代のライフスタイルは建築にも影響を与え、さまざまな生活の場面に適応でき、かたちを変えられる開放的な空間を生み出すでしょう。そしてそれが快適な環境をつくることになるでしょう。つまり、小さい家は快適さと機能性に満ちた家になり得るということなのです。
7. 公共のスペースを取り戻す
20世紀は個人所有の自動車を中心に街を開発してきました。しかし21世紀は、公共のスペースを取り戻す時代に向かって進んでいます。「このことは、多くの都市の新しい交通政策から見て取れます。人々のための公共スペースを取り戻すことが優先され、自動車は隅に追いやられていくのです」とパルドは言います。
20世紀は個人所有の自動車を中心に街を開発してきました。しかし21世紀は、公共のスペースを取り戻す時代に向かって進んでいます。「このことは、多くの都市の新しい交通政策から見て取れます。人々のための公共スペースを取り戻すことが優先され、自動車は隅に追いやられていくのです」とパルドは言います。
「共有スペースや、キッチン、デイケアセンター、洗濯室など共同の家事サービスを備えたデザインの建物がますます増えています」と話すのは、ニューヨークとバルセロナに事務所を構えるMAIOアーキテクチャー・スタジオ(MAIO architecture studio)のギリェルモ・ロペス(Guillermo López)です。「こうしたモデルは、隣人との関係性を築き、コミュニケーションや社会化、そしてもっと役立つスペースづくりの促進を目指すものです」
散歩したり、遊んだり、ただ外の空気を楽しめるような、多くの人が使えるレジャーのための都市空間の創造が、建築に与えられた課題なのです。
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