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車椅子でもすべてに手が届くキッチン。料理が楽しくなるリノベーション
ただ通り抜けるにも狭すぎたキッチンを、スムーズに動けて、調理もしやすい快適な場所にしました。
Mitchell Parker
2018年7月6日
キャシー・スタイスさんは5歳のとき、手術の合併症で足が不自由になった。以来、50年以上車椅子を使っているが、彼女の自宅キッチンは幅が狭く、車椅子の向きをスムーズに変えるのにも苦労していた。
冷蔵庫と食洗機の間に車輪がはまってしまうこともたびたびあり、うまく動いて抜け出すのは毎回大変だった。「たくさん悪態をついた」と、キャシーさん。「正直、キッチンのことはもう、忘れてしまいたい」と思っていた彼女だが、夫とともに、リノベーションで現状を変えようと決意した。
冷蔵庫と食洗機の間に車輪がはまってしまうこともたびたびあり、うまく動いて抜け出すのは毎回大変だった。「たくさん悪態をついた」と、キャシーさん。「正直、キッチンのことはもう、忘れてしまいたい」と思っていた彼女だが、夫とともに、リノベーションで現状を変えようと決意した。
アフター写真:ジェシー・ヤング
どんなキッチン?
住まい手:キャシー・スタイスさん(インフォメーション・アナリスト)、夫のダン・ローソーンさん(教師、コンサルタント)
所在地:アメリカ、シアトル
規模:26.2平方メートル。(約7.1×3.6メートル)
ビフォー:キッチンは車椅子で使うことを想定していない標準サイズだったため、キャシーさんができる料理はかなり限られていた。吊り戸棚のものに手を伸ばしたり、高さ約89cmのカウンターで作業しようとしたりすると、両肩がひどく疲れてしまった。キッチンの奥、テレビの下にある低いカウンターがささやかな作業スペースだった。
食洗機の扉を開けた状態だと、洗い終わった食器をしまうために動き回れるスペースがなかった。そのため、まず食洗機の中身を全部カウンターに出し、扉を閉めてから、食器を棚にしまう、と段階を踏まなくてはならなかった。
普段はだいたい膝の上にまな板を置いて野菜を切っていた。「トマトのときは大変でした。たくさん失敗しました。とても大変だったので、あまりたくさんものを切らないようにしていました。何人分ものディナーを用意したり、たくさんお菓子を焼いたりすると、数日はかなり肩が痛くなってしまうんです」
どんなキッチン?
住まい手:キャシー・スタイスさん(インフォメーション・アナリスト)、夫のダン・ローソーンさん(教師、コンサルタント)
所在地:アメリカ、シアトル
規模:26.2平方メートル。(約7.1×3.6メートル)
ビフォー:キッチンは車椅子で使うことを想定していない標準サイズだったため、キャシーさんができる料理はかなり限られていた。吊り戸棚のものに手を伸ばしたり、高さ約89cmのカウンターで作業しようとしたりすると、両肩がひどく疲れてしまった。キッチンの奥、テレビの下にある低いカウンターがささやかな作業スペースだった。
食洗機の扉を開けた状態だと、洗い終わった食器をしまうために動き回れるスペースがなかった。そのため、まず食洗機の中身を全部カウンターに出し、扉を閉めてから、食器を棚にしまう、と段階を踏まなくてはならなかった。
普段はだいたい膝の上にまな板を置いて野菜を切っていた。「トマトのときは大変でした。たくさん失敗しました。とても大変だったので、あまりたくさんものを切らないようにしていました。何人分ものディナーを用意したり、たくさんお菓子を焼いたりすると、数日はかなり肩が痛くなってしまうんです」
アフター:キッチンのリノベーションのため、キャシーさんと夫のダン・ローソーンさんはHouzzでアイデアを集め、必要なものを買い、仕事を依頼する専門家を探した。そうして見つけた施工会社が〈STS コンストラクション・サービス〉だった。高評価のレビューが多かったのと、写真から幅広い仕事を手がけていることがわかったのが決め手だった。
二人は〈STS〉に依頼してキッチンの間柱を取り払い、壁の位置を15cm移動させて車椅子の向きを変えるスペースに余裕を持たせた。キャシーさんが使いやすいよう、カウンターの高さを73cmほどにし、引き出し型の食洗機や引き出し式ビルトインタイプの電子レンジ、縦開きでなく横開きのビルトインオーブンを入れ、コンロの高さもカウンターとそろえた。「これならもっと大がかりな料理に挑戦したくなりますし、そのあと翌々日まで身体が痛い、なんてこともなさそうです」
夫のダンさんがキャシーさんに合わせてキャビネットの寸法を綿密に計算し、自ら設計、オーク材を使って製作した。そして施工担当の〈STS〉がステンレススチールの面材で仕上げた。「木製キャビネットだと車椅子ぶつかった時に傷がつきやすい」からだと、キャシーさんはいう。また、引き出しを取り付け、手が届きやすく物を取り出しやすくした。
当初、スタイスさんはファームハウススタイルのキッチンを希望していたが、スチール素材ではあまりしっくりこないと気づいた。結果的に、異なるテイストを取り混ぜたエクレクティックなスタイルがなったが、気に入っている。「カントリースタイルとロックンロール、両方が少しずつ共存しています」
写真左手の自動水洗は、スタイスさんのお気に入りだ。手をかざすだけで水が出るので、水を出したり止めたりするたびにレバーに手を伸ばさずにすむ。ハンドソープも自動で出るディスペンサーを使用している。
キャビネットの面材と、パントリーのキャビネット〈イケア〉、エプロンフロントシンク〈アルファ・インターナショナル〉
二人は〈STS〉に依頼してキッチンの間柱を取り払い、壁の位置を15cm移動させて車椅子の向きを変えるスペースに余裕を持たせた。キャシーさんが使いやすいよう、カウンターの高さを73cmほどにし、引き出し型の食洗機や引き出し式ビルトインタイプの電子レンジ、縦開きでなく横開きのビルトインオーブンを入れ、コンロの高さもカウンターとそろえた。「これならもっと大がかりな料理に挑戦したくなりますし、そのあと翌々日まで身体が痛い、なんてこともなさそうです」
夫のダンさんがキャシーさんに合わせてキャビネットの寸法を綿密に計算し、自ら設計、オーク材を使って製作した。そして施工担当の〈STS〉がステンレススチールの面材で仕上げた。「木製キャビネットだと車椅子ぶつかった時に傷がつきやすい」からだと、キャシーさんはいう。また、引き出しを取り付け、手が届きやすく物を取り出しやすくした。
当初、スタイスさんはファームハウススタイルのキッチンを希望していたが、スチール素材ではあまりしっくりこないと気づいた。結果的に、異なるテイストを取り混ぜたエクレクティックなスタイルがなったが、気に入っている。「カントリースタイルとロックンロール、両方が少しずつ共存しています」
写真左手の自動水洗は、スタイスさんのお気に入りだ。手をかざすだけで水が出るので、水を出したり止めたりするたびにレバーに手を伸ばさずにすむ。ハンドソープも自動で出るディスペンサーを使用している。
キャビネットの面材と、パントリーのキャビネット〈イケア〉、エプロンフロントシンク〈アルファ・インターナショナル〉
料理の下準備は、横に長い御影石のカウンタートップで行う。スパイス類やナイフ、ボウル、焼き菓子作りに必須の砂糖や小麦粉といった材料は、すべて手の届く範囲にある。オーブンや冷蔵庫からも近いので、動線が短くてすむ。
このカウンターにまな板を置き、材料を切る作業も楽になった。「すべてがすぐ手の届くところにあります。あちこち動きまわらなくていいんです。切ったり混ぜたり以上の手のこんだ料理をもっとやってみたいという気持ちが湧いてきました。前みたいに心身を消耗しませんし、料理がぐっと楽しくなりました」
このカウンターにまな板を置き、材料を切る作業も楽になった。「すべてがすぐ手の届くところにあります。あちこち動きまわらなくていいんです。切ったり混ぜたり以上の手のこんだ料理をもっとやってみたいという気持ちが湧いてきました。前みたいに心身を消耗しませんし、料理がぐっと楽しくなりました」
ビフォー:家は1950年代に建てられ、70年代にリモデルされている。当時のキッチンで主流だったのは、ベーシックな木の素材のキャビネットだ。「吊り戸棚は、私には意味がありませんでした」とスタイスさん。
アフター:吊り戸棚と壁の一部を取り払い、キッチンからリビングダイニングまでをオープンなひと続きの空間にした。下のキャビネットと残りの壁もリビングダイニング側へ15cmほど動かした。「この変更が、大きな違いを生みました」
吊り戸棚をはずして収納が減った分は、奥のパントリーで補っている。最初はキッチンのキャビネットと同じスチールで揃えたいとキャシーさんは考えていた。だが、シンクとカウンター周りのキャビネットを造り終わったとき、ダンさんがやや疲れてしまったため、パントリーは市販のものを選んだ。
苦労した点のひとつが、こうしてあつらえたスペースに収まるキッチン設備さがしだった。サイズがぴったりの引き出しタイプの食洗機を見つけたとき、キャシーさんは歓喜したという。標準サイズよりも小型だが、ふたり暮らしには十分な大きさだ。
より使いやすさを求めて、オーブン一体型のコンロではなく、キャシーさんに高さを合わせたビルトインオーブンとIHクッキングヒーターに分けた。換気扇フードもスイッチに手が届くよう低めに設置。「夫がうっかりしていて頭をぶつけたりします」とキャシーさん。
コストを抑えるため、配管や電気の配線には手をつけなかった。シンクは以前と同じ位置に据えたが、食洗機と冷蔵庫の位置を少し変えた。
IHクッキングヒーター〈G.E.〉、引き出し式ビルトイン電子レンジ〈シャープUSA〉、壁と天井の塗料〈ベンジャミン・ムーア〉の《マスカルポーネ》、レンジフード〈ワールプール〉
吊り戸棚をはずして収納が減った分は、奥のパントリーで補っている。最初はキッチンのキャビネットと同じスチールで揃えたいとキャシーさんは考えていた。だが、シンクとカウンター周りのキャビネットを造り終わったとき、ダンさんがやや疲れてしまったため、パントリーは市販のものを選んだ。
苦労した点のひとつが、こうしてあつらえたスペースに収まるキッチン設備さがしだった。サイズがぴったりの引き出しタイプの食洗機を見つけたとき、キャシーさんは歓喜したという。標準サイズよりも小型だが、ふたり暮らしには十分な大きさだ。
より使いやすさを求めて、オーブン一体型のコンロではなく、キャシーさんに高さを合わせたビルトインオーブンとIHクッキングヒーターに分けた。換気扇フードもスイッチに手が届くよう低めに設置。「夫がうっかりしていて頭をぶつけたりします」とキャシーさん。
コストを抑えるため、配管や電気の配線には手をつけなかった。シンクは以前と同じ位置に据えたが、食洗機と冷蔵庫の位置を少し変えた。
IHクッキングヒーター〈G.E.〉、引き出し式ビルトイン電子レンジ〈シャープUSA〉、壁と天井の塗料〈ベンジャミン・ムーア〉の《マスカルポーネ》、レンジフード〈ワールプール〉
奥行きのある引き出しは鍋やフライパンの出し入れがしやすい。床は大判の磁器タイルを敷いた。
〈ペンタル・サーフェス〉のエコストーン磁器タイル《グリジオ》(約30×60cm)
〈ペンタル・サーフェス〉のエコストーン磁器タイル《グリジオ》(約30×60cm)
バックスプラッシュ用のイエローのタイルを見つけるまでにかなりの時間がかかった。「シアトルとイタリアの黄色のタイルは全部見たと思います」とキャシーさん。大判のタイルにしたかったが気に入った色に出会えなかったため、色味を優先してサブウェイタイルにした。
〈フリジデア〉のサイド・バイ・サイド冷蔵庫(冷凍庫と冷蔵室が横並びタイプ)、〈フィッシャー&パイケル〉の食洗機、〈B&WタイルCo.〉のセラミックウォールタイル《レモン》
〈フリジデア〉のサイド・バイ・サイド冷蔵庫(冷凍庫と冷蔵室が横並びタイプ)、〈フィッシャー&パイケル〉の食洗機、〈B&WタイルCo.〉のセラミックウォールタイル《レモン》
オーブンの扉は上から下へ開ける縦開きではなく、左から右へ横開きのタイプ。熱くなった扉の上の取っ手に手を伸ばさずにすむ。
収納できる引き出し式のキッチンボードは、キャシーさんが10代の頃に彼女の父親が自作したものをヒントにして、ダンさんが新しいキッチンのためにデザインした。基本的には、キャシーさんがオーブンから取り出したものを一時的に置く場所だ。熱い皿をオーブンから出して、ボードの上にいったん置き、体勢を変えてからもう一度持ち直して、後ろのカウンターに置く。「車椅子だと、物を手に取るのと動くのは同時にできないんです」
〈ボッシュ〉の約76cm幅のウォールオーブン
収納できる引き出し式のキッチンボードは、キャシーさんが10代の頃に彼女の父親が自作したものをヒントにして、ダンさんが新しいキッチンのためにデザインした。基本的には、キャシーさんがオーブンから取り出したものを一時的に置く場所だ。熱い皿をオーブンから出して、ボードの上にいったん置き、体勢を変えてからもう一度持ち直して、後ろのカウンターに置く。「車椅子だと、物を手に取るのと動くのは同時にできないんです」
〈ボッシュ〉の約76cm幅のウォールオーブン
キッチンからランドリー、ユーティリティエリアまでをひと続きの空間にするため、壁を撤去した。洗濯機と乾燥機はオリジナルで作った箱状の囲いにまるごと収め、温水器と防水パンもこの中に収まっている。
パティオへ通じるドアは、ガラスの引き戸から片開きのフレンチドアに変更した。以前のドアには愛犬が出入りできるドアがついていたが、新しいドアには合わないと夫妻は考えた。そこでキャシーさんがユーティリティのキャビネットの下に犬用ドアをつけることを思いついた。
リノベーション後の平面図。キッチンとランドリーエリア(右下)の各種設備の配置がわかる。
この家に二人はずっと住み続けようと考えているため、売りに出すときの価値については考えていない。そしてプロジェクトはまだ終わっていない。次はバスルーム2ヵ所のリモデルが控えている(片方のシンクが一方より高い)。夏にはデッキの改造も予定している。「完成すれば、家全体が完璧な車椅子対応になるでしょう」
動画はこちら:キャシー・スタイスさんのキッチン改造プロジェクト(英語)
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