丸菱建築計画事務所

海を望む

目の前に瀬戸内の穏やかな海が拡がり、その視線の先には四国の山々の連なりを望むことができる海辺の敷地。製塩業で栄えた倉敷市児島の塩田跡地に、海を望む助産院の設計を頂いた。
産婦人科での分娩が主流となり、助産院という名称さえ聞く機会もほとんどなくなってきているが、施主である助産師さんから話を伺う毎に、産前産後を含め妊婦さんを手厚くサポートする助産院の社会的役割が高まっている事を実感させられる。
当助産院は、大病院とサポート関係を結び、市の保健局と連携することによって、既存のサービスでは賄いきれない多岐に渡る細やかなケアを、小さな地域単位において着実に実践している。より充実した地域貢献を高めるため、敷地北側に隣接する自宅兼仕事場の別棟という形で、新たに海側に新棟を作ることとなった。
オーナーからの主要な要望は、海への眺望を多く確保すること、木を中心とした落ち着いた内装、一番眺めのよい場所に浴室を設置などで、あとは私に任せる方針となった。
全体構成は、切妻屋根の東側二層部分と、入所室と分娩室がある西側平屋部分に大別し、東側を外来とスタッフエリア、西側を入院エリアとしている。単純な屋根形状の採用と軒の張り出しによって、堅実に雨水から建物を守る事を心掛けた。
建物を東西に分ける壁を南北方向に張り出すことによって、比較的動きのある東側と、静寂さが必要となる西側とを視覚的に切り離している。張り出した袖壁端部は風雨による劣化が容易に予想されるので、雨掛りを板金で包むことにより合理的な木部保護としつつ、海に呼応した表現として板金で曲線を描いた。降雨時に、実際の雨掛かりラインと曲線ラインを見比べてみると、うまく板金部のみが雨に打たれているのを確認できる。
また袖壁の板金部も含め建物の随所に見られる大工をはじめ各職工の丁寧な手仕事を感じてもらうことによって、オーナーである助産師さんの仕事の丁寧さ・きめ細かさ・優しさ、そして温かな人柄を表現出来ればと考えた。人柄がダイレクトに仕事内容と評判に反映される助産師という職業においては、その人柄を建築全体で表現する必要があると考える。真っ白モダンでクールな建築であったとしたらどうだろう。もちろん助産師さんの人柄とは程遠いし、くつろぎを求めてやってくる妊婦さんにとっては全く安らぎのない空間となっていただろう。
自ずと仕上げ材は、温もりの感じられる自然素材が中心となった。外装は主に木下見板張り、内装は柔らかな杉材を多用した木板張りと漆喰塗とし、自然素材による高い調湿効果と木の香りに包まれた落ち着きのある雰囲気に仕上げている。
内部ホール部分を外装と同じ木下見板張りとし、また内部垂木と外部垂木を連続させ、内外が連続的に延長していくように表現している。各部屋から海への眺望を可能な限り確保し、さらに西側を平屋とすることにより、北側に隣接する自宅兼仕事場の二階から海への眺望も同時に確保できるようにしている。また、平屋部分中央上部を凹型とすることで、ハイサイド窓を通して南北両側の部屋へ採光と通風ができるように計画している。
プロジェクトの竣工年/制作年: 2016
プロジェクトの費用: 3,000万円以上5,000万円未満
国: 日本
郵便番号: 711-0906