限られた予算で夢を実現。光と風、緑を満喫できる高台の小さな家
急勾配の崖の頂上にある約30坪の変形地に、予算内で実現した緑あふれる心地よい家。思い込みをなくすことで「気持ちよさ」をデザインした、さまざまな工夫とは?
Miki Anzai
2017年7月10日
広島市中心部から西に約5キロの高台にある己斐大迫(こいおおさこ)。この静かな住宅地で働く30代前半の夫妻の願いは、職場の近くに一軒家を構え、「気持ちよく暮らす」ことだった。しかし、予算は土地・建物・設計料など、すべて込みで3千万円以内。「こんな厳しい条件で引き受けてくれる建築家はいないだろう」と、行きつけの鍼灸師に嘆いていたところ、その整骨院の設計を手がけた藤山建築デザイン事務所の藤山信博さんを紹介された。
狭小変形地における設計という厳しい制約の中、さまざまな既成概念を打ち破り、予算内で藤山さんが完成させたのが、この「己斐大迫(こいおおさこ)の家」である。住み手の「心地よさ」を徹底的に追求しつくした、緑あふれる眺望と、光、風を五感で感じることのできる住まいだ。
狭小変形地における設計という厳しい制約の中、さまざまな既成概念を打ち破り、予算内で藤山さんが完成させたのが、この「己斐大迫(こいおおさこ)の家」である。住み手の「心地よさ」を徹底的に追求しつくした、緑あふれる眺望と、光、風を五感で感じることのできる住まいだ。
どんなHouzz?
居住形態:新築
住まい手:30代前半の共働き夫妻+子供1人
所在地: 広島県広島市
構造: 木造地上2階建て
設計: 藤山建築デザイン事務所
敷地面積:121.23平方メートル
建築面積:45.14平方メートル
延床面積:83.90平方メートル
竣工:2015年4月
土地代:450万円
工事費:2000万円
わずか30坪の敷地ながら、デザインによる気持ちよさを具現化した建物は、外部からは閉鎖的に見えるが、内部は各部屋が緑の眺望につながる開放的な空間だ。入念に計画された開口からは、さわやかな風や光が注ぎ込む。これまでの賃貸アパート暮らしでは得られなかった幸せが、ここには満ちあふれている。
居住形態:新築
住まい手:30代前半の共働き夫妻+子供1人
所在地: 広島県広島市
構造: 木造地上2階建て
設計: 藤山建築デザイン事務所
敷地面積:121.23平方メートル
建築面積:45.14平方メートル
延床面積:83.90平方メートル
竣工:2015年4月
土地代:450万円
工事費:2000万円
わずか30坪の敷地ながら、デザインによる気持ちよさを具現化した建物は、外部からは閉鎖的に見えるが、内部は各部屋が緑の眺望につながる開放的な空間だ。入念に計画された開口からは、さわやかな風や光が注ぎ込む。これまでの賃貸アパート暮らしでは得られなかった幸せが、ここには満ちあふれている。
1年半を費やして、オーナー夫妻と藤山さんが探し当てた土地は、2方向が急勾配の高い崖の頂上に面し、残りの2方面が道に面した約30坪の変形地だ。周囲は住宅団地で、この一角だけが50年以上も手つかずで残っていた。価格は、税抜き450万円。擁壁調査を行うと、耐震補強のための杭打ちも不要だったため、迷わず購入したという。
「高低差のある狭小地は、一見短所ばかりに見えますが、崖下から数十メートルの高さに生い茂る国有林は、眺望を楽しめるだけでなく、台風時には緩衝材になりうるのです。そういった利点を最大限に活かすことを考えました」と藤山さん。
「高低差のある狭小地は、一見短所ばかりに見えますが、崖下から数十メートルの高さに生い茂る国有林は、眺望を楽しめるだけでなく、台風時には緩衝材になりうるのです。そういった利点を最大限に活かすことを考えました」と藤山さん。
勾配のある土地に沿って、片持ち階段を登り、カーポートを見下ろしながら回り込むと、玄関ポーチにたどり着く。「敷地内を楽しく歩いてもらうことで、狭さを感じさせない効果も演出した」と藤山さん。
階段を登りきった奥の裏庭(サービスヤード)の気配を感じながら、風も通るように、格子状のグレーチングを扉として利用。その横の白壁の裏に、給湯器を隠している。
四輪駆動車も駐められるカーポートの奥の見えない部分にも、電源を設置するなど、徹底して「余分なものは見せない」配慮がされている。
階段を登りきった奥の裏庭(サービスヤード)の気配を感じながら、風も通るように、格子状のグレーチングを扉として利用。その横の白壁の裏に、給湯器を隠している。
四輪駆動車も駐められるカーポートの奥の見えない部分にも、電源を設置するなど、徹底して「余分なものは見せない」配慮がされている。
軽やかな印象の「下が抜けているコンクリートのステップ」を踏み越えると、内部は磁器製タイルを敷きつめた玄関ポーチだ。30cm角のタイル(約2千円/平方メートル)は、価格以上の高級感が漂う。
奥の壁の中央部分、トップライトに照らされているステンレス製のパネル(縦17cmx横45cm)は、「表札兼インターフォン兼郵便受け」だ。プレートの左下に「カッティングシートの切文字で名前」を貼り、右側には「インターフォンのプッシュボタンとマイクの穴を空ける」ように加工した。
玄関扉は、ポーチに入って右側。入口手前のこの小さな空間が、プライバシー保護にも役立っている。
奥の壁の中央部分、トップライトに照らされているステンレス製のパネル(縦17cmx横45cm)は、「表札兼インターフォン兼郵便受け」だ。プレートの左下に「カッティングシートの切文字で名前」を貼り、右側には「インターフォンのプッシュボタンとマイクの穴を空ける」ように加工した。
玄関扉は、ポーチに入って右側。入口手前のこの小さな空間が、プライバシー保護にも役立っている。
玄関部分は、「螺旋階段の下に配することで、極小空間に広がりを与える」巧みな立体構成になっている。
廊下壁(画面中央)にも、ステンレス製の開閉板を取り付けた。この板を上に開けると、壁(厚さ14.5cm)の内部に、郵便箱が設置されている。「家を安っぽくしないコツは、全体だけでなくディテールも同様に、シンプルにおさめること」という藤山さん。靴箱も壁(写真右)の扉の中に収納されている。
チーク材で特注した玄関の扉(横75cm×縦2.6m)が、重厚感を添えている。
廊下壁(画面中央)にも、ステンレス製の開閉板を取り付けた。この板を上に開けると、壁(厚さ14.5cm)の内部に、郵便箱が設置されている。「家を安っぽくしないコツは、全体だけでなくディテールも同様に、シンプルにおさめること」という藤山さん。靴箱も壁(写真右)の扉の中に収納されている。
チーク材で特注した玄関の扉(横75cm×縦2.6m)が、重厚感を添えている。
閉鎖的な正面玄関から、廊下を抜けてリビング・ダイニングに入った途端、目に飛び込んでくるのが開放感あふれる緑の眺望である。「明暗・広狭といったコントラストをつけることが、住み心地のよさを生み出す秘訣」と藤山さん。
横3.6m×縦2.4mの大開口部には既成窓の導入も検討したが、「どうしても緑に向かってサッシを付けたくなかった」という藤山さんが考案したのが、「枠なしのFIX窓」と、「枠を黒く塗った木製のオリジナル引き戸」。風景の邪魔をしないように、引き戸の取っ手も排除し、方立の小口部分に手がかりを設置。さらに、アコーディオン網戸も、木製方立内に収納するという徹底ぶりだ。「結果的に、既成品より安くできた」という。
緑の輝きがいちばんに目に入るように、壁は白、床もナラ材をソープフィニッシュにして、白系でまとめている。
横3.6m×縦2.4mの大開口部には既成窓の導入も検討したが、「どうしても緑に向かってサッシを付けたくなかった」という藤山さんが考案したのが、「枠なしのFIX窓」と、「枠を黒く塗った木製のオリジナル引き戸」。風景の邪魔をしないように、引き戸の取っ手も排除し、方立の小口部分に手がかりを設置。さらに、アコーディオン網戸も、木製方立内に収納するという徹底ぶりだ。「結果的に、既成品より安くできた」という。
緑の輝きがいちばんに目に入るように、壁は白、床もナラ材をソープフィニッシュにして、白系でまとめている。
緑の木々を緩衝材とした風が、東側から室内に導かれ、西側の 4 つの「ポツ窓」と南側の縦長の「ガラスルーバー窓」を通り道としてゆるやかに流れていく。計算し尽くされた開口部は、風だけでなく光の通り道でもある。
開口部のサイズや設置場所は、日当たりや間取りにおける「南向き信仰」や「強すぎる西日対策」といった既成概念を乗り越えながらデザインされた。住み手の希望である「快適な暮らし」を実現することを念頭に導き出されたものばかりだ。「このように思い込みを捨てることで、本当の生活をデザインできると考えています」と語る藤山さん。
開口部のサイズや設置場所は、日当たりや間取りにおける「南向き信仰」や「強すぎる西日対策」といった既成概念を乗り越えながらデザインされた。住み手の希望である「快適な暮らし」を実現することを念頭に導き出されたものばかりだ。「このように思い込みを捨てることで、本当の生活をデザインできると考えています」と語る藤山さん。
朝、東側の大開口から差し込む「木漏れ日が、格別に美しい」というオーナー夫妻。このキッチンに立って朝食を用意していると、「住宅街にいることすら忘れてしまいそう」だという。
緑あふれる東側に比べ、キッチン正面の南向きの景色は、民家ばかりだ。通常、南側は大きな開口とするのが定石だが、あえて白い壁面を広く取り、視界を遮った。そのうえで、採光と通風を確保するために、床から天井までの縦長のルーバー窓を設置し、部屋の奥まで光と風を導き入れるようにした。
カウンターは、白木の突き板の内部にL字型のスチールを入れ、2cmという薄さながら、安定感をもたせた。奥行き45cmの板を、リビング側に突き出し、その下にコンセント口を設置。カウンターの端には穴を空け、電話機のコードなどを通して隠すなど、随所に「すっきり見せる工夫」が施されている。
緑あふれる東側に比べ、キッチン正面の南向きの景色は、民家ばかりだ。通常、南側は大きな開口とするのが定石だが、あえて白い壁面を広く取り、視界を遮った。そのうえで、採光と通風を確保するために、床から天井までの縦長のルーバー窓を設置し、部屋の奥まで光と風を導き入れるようにした。
カウンターは、白木の突き板の内部にL字型のスチールを入れ、2cmという薄さながら、安定感をもたせた。奥行き45cmの板を、リビング側に突き出し、その下にコンセント口を設置。カウンターの端には穴を空け、電話機のコードなどを通して隠すなど、随所に「すっきり見せる工夫」が施されている。
オーナー夫人お気に入りの、玄関脇の美しい螺旋階段。踏み板が、まるで中心の柱から壁に掛け渡して浮かんでいるように見える。壁の中に溶接するための鉄製アンカーを入れることで、通常は露出している、踏板を支える垂直金物や、手すりの縦棒を不要にし、洗練されたデザインに。手すりも1本だけ曲線状に張り巡らすことで、スタイリッシュに仕上げた。
採光手法にも注目だ。西側の壁面に設けた2つのポツ窓は、眩しさを避けるために、目の高さよりも低く設定している。とかく西日対策ばかりに意識が向きがちな西壁だが、開口部の位置さえ考慮すれば、「家の奥まで差し込む西日は、横からのスポットライトとして有効」と藤山さんはいう。
採光手法にも注目だ。西側の壁面に設けた2つのポツ窓は、眩しさを避けるために、目の高さよりも低く設定している。とかく西日対策ばかりに意識が向きがちな西壁だが、開口部の位置さえ考慮すれば、「家の奥まで差し込む西日は、横からのスポットライトとして有効」と藤山さんはいう。
2階はデッキを介して、2つの部屋がゆるやかにつながり、プライバシーを守りながらも、気配を感じ取ることができる。
両方の部屋から、外の風景の緑に向かって、視線がつながる工夫も凝らされている。たとえば、外部ウッドデッキと内部のフローリングの高さは揃え、デッキ材を笠木の上にのせて、フローリングとデッキの幅を揃えることで、「切れ目のないライン」を印象づけている。さらに、デッキの細いステンレス製の手すりも、取り付け金具を見せないように、デッキ下に隠している。
両方の部屋から、外の風景の緑に向かって、視線がつながる工夫も凝らされている。たとえば、外部ウッドデッキと内部のフローリングの高さは揃え、デッキ材を笠木の上にのせて、フローリングとデッキの幅を揃えることで、「切れ目のないライン」を印象づけている。さらに、デッキの細いステンレス製の手すりも、取り付け金具を見せないように、デッキ下に隠している。
窓ガラスは、寒い冬や結露から守るため、複層で仕上げた。「晴れた朝には、緑の木々から漏れる日差しに包まれ、目覚めが心地よいです」と語るオーナー夫妻。
サービスヤードに面した洗面脱衣所は、家事動線をコンパクトにするだけでなく、 採光・通風にも配慮した。
洗面台は、人工大理石のデュポン™コーリアン®を使用し、同素材のボウルを溶接することで、あたかも石の塊をくりぬいたかのように制作した。
造り付けの黒色の扉の中には洗濯機がおさまっている。「この扉は中にしまいこめるので、普段は開放している」そうだ。
洗面台は、人工大理石のデュポン™コーリアン®を使用し、同素材のボウルを溶接することで、あたかも石の塊をくりぬいたかのように制作した。
造り付けの黒色の扉の中には洗濯機がおさまっている。「この扉は中にしまいこめるので、普段は開放している」そうだ。
地上階のデッキは、崖側の敷地いっぱいに張り出させた。これは、藤山さんいわく「下の土を見せないことで、建物に浮遊感を持たせ、緑のみに視線を集中させるため」である。
2階デッキは、1階デッキの屋根の役割も果たしている。
2階デッキは、1階デッキの屋根の役割も果たしている。
家は一日に何度も表情を変える。道路に面した玄関アプローチの夕景を、特にきれいに演出したかったという藤山さん。階段下の床面に、「ライトを1つだけ埋め込むことで、光の陰影を扇形に浮かび上がらせました」。閑静な住宅街にあって、ひときわ道行く人々を魅了している。
オーナーの夢は、「予算内で、気持ちのよい家をつくる」こと。設計のいっさいを任された藤山さんの出した答えは、「眺望・採光・通風を活かした豊かな空間づくり」だった。
「住宅という建物ではなく、住まいという生活をデザインしたい。気持ちよく暮らすという生活は、思い込みを排除した設計から生まれるからです」と語る藤山さん。定石をもう一度洗い直し、狭小敷地にゆとりの空間を、予算内で誕生させた「己斐大迫の家」は、オーナー夫妻の期待をはるかに超える感動を、毎日の生活にもたらしている。
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「住宅という建物ではなく、住まいという生活をデザインしたい。気持ちよく暮らすという生活は、思い込みを排除した設計から生まれるからです」と語る藤山さん。定石をもう一度洗い直し、狭小敷地にゆとりの空間を、予算内で誕生させた「己斐大迫の家」は、オーナー夫妻の期待をはるかに超える感動を、毎日の生活にもたらしている。
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デメリットをメリットに変える知識ではなく「知恵」です!!!
コメントをいただき有難うございます。
デザインによって「やすらぎ」や「ふれあい」を実現したいと思っています。
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