コメント
緑の中で静かな暮らしを。富士山麓にある酪農家が暮らす家
富士山と山々に囲まれ朝になると霧が発生する朝霧高原に建つ家は、子どもの成長とともに空間の用途を変えられる家でした。
永井理恵子
2019年1月23日
富士山の西麓に位置する朝霧高原は、静岡県富士宮市から山梨県富士河口湖町にかけて広がる広大な草原地帯。富士山の恵みにあふれるこの土地は、昭和20年代以降、酪農専業地域として発展してきた。道沿いに観光牧場やキャンプ場が並ぶ国道から木々に囲まれた細い道を行くと、サイロや牛舎が点在するエリアに出る。道の終点に、目指す村澤宏樹さんのお宅があった。シルバーのガルバリウム鋼板と杉板を縦に張った家が、青々とした緑の風景の中にスッと立つ。
酪農を営む家に生まれたオーナーの村澤さんは、朝と夕方は酪農に勤しみ、日中は自宅でパソコンに向かい別の仕事に取り組む毎日を送る。以前の住まいは賃貸の一軒家。家族が増え、いつかは……と考えていた家を、牧場に隣接する緑豊かな土地に建てることにした。村澤さん夫妻が希望したのは、木枠の大きな窓と薪ストーブがある、静かな暮らしができる家。設計は〈小杉建築計画事務所〉の小杉剛士さんに依頼。施工は小杉さんが信頼を置く〈富創〉が受け持った。
酪農を営む家に生まれたオーナーの村澤さんは、朝と夕方は酪農に勤しみ、日中は自宅でパソコンに向かい別の仕事に取り組む毎日を送る。以前の住まいは賃貸の一軒家。家族が増え、いつかは……と考えていた家を、牧場に隣接する緑豊かな土地に建てることにした。村澤さん夫妻が希望したのは、木枠の大きな窓と薪ストーブがある、静かな暮らしができる家。設計は〈小杉建築計画事務所〉の小杉剛士さんに依頼。施工は小杉さんが信頼を置く〈富創〉が受け持った。
どんなHouzz?
所在地:静岡県富士宮市
住まい手:村澤宏樹さん、倫子さん、悠希くん(6歳)、凛ちゃん(1歳)
敷地面積:288.37㎡
延床面積:85.94㎡
規模:LDK、ロビー、バスルーム(洗面・トイレ含む)、寝室、子供部屋
竣工:2015年
構造:木造軸組
設計:〈小杉建築計画事務所〉の小杉剛士さん
施工:〈富創〉
この土地は富士山の麓という圧倒的な自然と対峙する地形。小杉さんは、敷地形状や屋内からの景色の見え方、そして予算に配慮しながら、敷地内にある古い牛舎や飼料小屋などともバランスの取れた美しい全体像を最重視して、計画を立てた。「酪農家が暮らす家と聞いて、木をたくさん使ったナチュラルテイストの家をイメージする人が多いと思いますが、そんな既成概念はよくない。既成概念に捉われた家は後ろ向きなんです。かといって、街中にあるようなモダンな住宅では周囲とのギャップが生じ、違和感が出てしまいます」と小杉さん。目立たないが、古いようで新しく、しっかりと主張がある素材を選び、30年経っても愛されるデザインを目指した。
所在地:静岡県富士宮市
住まい手:村澤宏樹さん、倫子さん、悠希くん(6歳)、凛ちゃん(1歳)
敷地面積:288.37㎡
延床面積:85.94㎡
規模:LDK、ロビー、バスルーム(洗面・トイレ含む)、寝室、子供部屋
竣工:2015年
構造:木造軸組
設計:〈小杉建築計画事務所〉の小杉剛士さん
施工:〈富創〉
この土地は富士山の麓という圧倒的な自然と対峙する地形。小杉さんは、敷地形状や屋内からの景色の見え方、そして予算に配慮しながら、敷地内にある古い牛舎や飼料小屋などともバランスの取れた美しい全体像を最重視して、計画を立てた。「酪農家が暮らす家と聞いて、木をたくさん使ったナチュラルテイストの家をイメージする人が多いと思いますが、そんな既成概念はよくない。既成概念に捉われた家は後ろ向きなんです。かといって、街中にあるようなモダンな住宅では周囲とのギャップが生じ、違和感が出てしまいます」と小杉さん。目立たないが、古いようで新しく、しっかりと主張がある素材を選び、30年経っても愛されるデザインを目指した。
コンクリートブロックのアプローチから木製のドアを開ける。玄関の三和土は杉板。暮らし始めて3年が過ぎ、板に味わいが出てきた。
玄関から室内へ入ると、玄関ホールからこもり感のある天井高の4.5畳の空間へと続く。右手に高原の眺望を切り取った窓と、存在感を極力抑えているのでわかりづらいが階段の奥には子供部屋へ続くシンプルなドアがある。
日常生活において住まい手の動作がきれいになり気持ちのいい暮らしができるよう、小杉さんは外との繋がりを感じさせる眺望をこの空間に取り入れた。スリット窓から差し込む光が明るく照らし、フローリングに使った無垢材の木目や質感が自然と目に入り、杉の印象を強くする。インテリアには夫妻が好きな北欧の家具や雑貨のデザインを邪魔しない形や仕上げ材を選んだ。この空間を構成するすべての要素が、居心地の良さに繋がっている。
左手には薪ストーブがあり、その奥にLDKとバスルームを直線状に配置。目的の場所へ体の向きを極力変えずに家中移動できるよう考えられている。
日常生活において住まい手の動作がきれいになり気持ちのいい暮らしができるよう、小杉さんは外との繋がりを感じさせる眺望をこの空間に取り入れた。スリット窓から差し込む光が明るく照らし、フローリングに使った無垢材の木目や質感が自然と目に入り、杉の印象を強くする。インテリアには夫妻が好きな北欧の家具や雑貨のデザインを邪魔しない形や仕上げ材を選んだ。この空間を構成するすべての要素が、居心地の良さに繋がっている。
左手には薪ストーブがあり、その奥にLDKとバスルームを直線状に配置。目的の場所へ体の向きを極力変えずに家中移動できるよう考えられている。
窓の下に置かれたチェストに座って外を眺めながら遊ぶ悠希くん。自然の緑と牛舎が見える景色をまるで一幅の絵画のように切り取る絶妙な大きさの窓は、悠希くんのお気に入りの場所。窓の下に置かれたチェストに座って外を眺めながら遊んだり、景色を眺めているうちに、仕事を終えて家に帰ってくる村澤さんの姿をいち早く見つけられる。
リビングからダイニング方向を眺める。前述のスリット窓のある空間とLDKとは15cmほどのレベル差をつけて2つの空間を区切り、薪ストーブを設置した。リビングには木枠の大きな窓。リビングの照明は、あえて極限まで照明の数を減らし、陽が沈むと陰影のある空間で落ち着いた時間を過ごせるようにした。
「小さな子供がいると、転んだりぶつかったりして怪我を心配しがちですが、注意が必要なのはわずか数年。段差がひとつあるだけで家の趣がぐっとよくなるのに、数年のためになくしてしまうのはすごくもったいないと感じています」と倫子さん。今の生活だけではなく将来も考えて家を建てることが大切だという。
「小さな子供がいると、転んだりぶつかったりして怪我を心配しがちですが、注意が必要なのはわずか数年。段差がひとつあるだけで家の趣がぐっとよくなるのに、数年のためになくしてしまうのはすごくもったいないと感じています」と倫子さん。今の生活だけではなく将来も考えて家を建てることが大切だという。
LDKの木製サッシの大きな窓の中央部分ははめ殺しだが、左右の端にある窓は開閉できる。庭にはL字型のウッドデッキを設置した。
ダイニングテーブルは、この家を手がけた大工が作ったもの。「現場で相談しながら作ってもらいました。今も、コーヒーを飲みながら、大工さんの仕事がとても丁寧だったことを思い出します」と倫子さん。
ダイニングテーブルは、この家を手がけた大工が作ったもの。「現場で相談しながら作ってもらいました。今も、コーヒーを飲みながら、大工さんの仕事がとても丁寧だったことを思い出します」と倫子さん。
造作のキッチンは、できるだけシンプルに仕上げた。「住む人の好きな家具、好きな身の回りの品々、暮らす人が身につけるものなどを考えると、キッチンやバス周りは素材や機能にもこだわりながらシンプルなデザインをオーダーしたいものです」と小杉さん。押し付けのデザインは既製品と同じと考え、作り込まないことを大切にした。
キッチンの奥にある棚には、お気に入りの器や調理器具、カトラリーなどを季節に合わせて選び、ディスプレイして楽しんでいる。シンプルなキッチンだからこそ、飾った雑貨の輪郭が映えてそれぞれの個性が際立つ。
キッチンの奥にある棚には、お気に入りの器や調理器具、カトラリーなどを季節に合わせて選び、ディスプレイして楽しんでいる。シンプルなキッチンだからこそ、飾った雑貨の輪郭が映えてそれぞれの個性が際立つ。
キッチンの奥にあるドアを開けると、洗面・トイレそしてバスルームがある。
バスルームは、バスタブと床がユニットになっている〈TOTO〉のハーフユニットバスを選んだ。防水性能が高く手入れが簡単というユニットバスのメリットを活かしながら、壁にタイルを貼って住まい手好みに仕上げた。
「若い家族であるため、将来の家族構成の変化に若干は対応できるよう、間取りはラフにしています」と小杉さん。実際、当初の予定では子供部屋だった部屋は、現在家族4人の寝室として使っている。
そして2階の主寝室は、村澤さんが書斎として使っている。同じように、小さなソファとテレビを置いてくつろぎの空間となっているリビングは、子供達の成長や家族構成の変化によって、子供部屋や夫婦の寝室として使うことも想定している。コンパクトながら自由な発想で暮らせるのだ。
子供たちが眠りについた夜のひととき。ほっと一息つきながら家の中に目を向けると、今でも家の中の美しさに惚れ惚れすることがあると倫子さんはいう。
若い家族の希望に建築家の思考がプラスされ、朝霧高原の眺望と動線を重視した美しい空間で穏やかに暮らせる家となった。
建築家をさがす
工務店をさがす
Houzzツアーの記事を読む
若い家族の希望に建築家の思考がプラスされ、朝霧高原の眺望と動線を重視した美しい空間で穏やかに暮らせる家となった。
建築家をさがす
工務店をさがす
Houzzツアーの記事を読む
おすすめの記事
Houzzがきっかけの家(国内)
ジョージア・オキーフ邸をイメージした、4人家族の暮らしにフィットする家
文/永井理恵子
Houzzで見つけた建築家に依頼して、予算内で夢の住まいを実現!通りかかった人に「素敵ですね!」とよく褒められる、シンプルながらスタイリッシュなお宅です。
続きを読む
日本の家
ゲストへの思いやりの心をしつらえた、離れのある家
文/杉田真理子
東京から訪れるゲストのため、母屋のほかにゲストルームの離れをしつらえた住まい。伝統的な日本家屋の美しさが、自然の中で引き立つ家です。
続きを読む
Houzzがきっかけの家(国内)
家族で自然を満喫。極上の浴室と広々としたデッキを備えた軽井沢の別荘
3人の子供たちの成長期に家族で軽井沢ライフを楽しむため、オーナーは時間のかかる土地探し&新築計画を見直し、中古物件を購入。Houzzで見つけた長野県の建築家に改修を依頼して、飛躍的に自然とのつながりが感じられる住まいに変身させました。
続きを読む
リノベーション
建築家がゲストハウスに再考したガレージ
多目的スペースへと作り替えられた空間とカーポートの追加によって、スタイリッシュにアップデートされた、歴史あるニューイングランド様式の住宅をご紹介します。
続きを読む
世界の家
ビルバオのグランビア通りに佇む、1950年代のクラシカルなフラットハウス
既存のモールディングが美しい85平方メートルのリビング、ダイニング、ホームオフィスをもつ、エレガントなフラットをご紹介します。
続きを読む