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素材を通してニッポンの住まいを考える〜「外装材」part2
外装材を解説するシリーズ後編。暮らしのあり方や家を取り囲む土地の歴史と結びついた外装材をご紹介します。
Naoko Endo
2015年7月6日
出版社、不動産ファンド、代理店勤務を経て、フリーランス・ライター。
個人ブログ「a+e」http://a-plus-e.blogspot.jp/
出版社、不動産ファンド、代理店勤務を経て、フリーランス・ライター。
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Part 1 でも見てきたように、現代の日本の住宅の外装材は実に多様である。2回の記事で紹介しているのは、Houzz Japanに掲載されている多くの住宅作品のごく一部である。今回着目した外装材とて、家を形成する素材のひとつに過ぎない。だが、そのパーツから、設計者の創意工夫や、その家を建てた施主の願い、人々の営みが垣間見える。
壁の向こう側、壁の写真をクリックして、ぜひ内部の空間にも触れてほしい。
part 1を読む:
素材を通してニッポンの住まいを考える〜「外装材」part1
壁の向こう側、壁の写真をクリックして、ぜひ内部の空間にも触れてほしい。
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素材を通してニッポンの住まいを考える〜「外装材」part1
メッシュ
不思議な外観の家である。《MoyaMoya》という作品名の通り、なんだか"モヤモヤ"した雰囲気だ。
タネ明かしをすると、家は二重に張ったステンレスメッシュで覆われている。
不思議な外観の家である。《MoyaMoya》という作品名の通り、なんだか"モヤモヤ"した雰囲気だ。
タネ明かしをすると、家は二重に張ったステンレスメッシュで覆われている。
《MoyaMoya》
設計:佐野文彦 / studio PHENOMENON
メッシュは、その内側に建っている木造のリシン梨地吹き付けの壁から1m離れており、間にできる空間の存在をあいまいにしている。日光を反射し、季節や天候によって様々な表情をみせると同時に断熱効果もある。
表面にはモアレも生じるので、窓を開け放っても、建物の中から外は見えるが、逆に外部からはほどよくプライバシーを護ってくれる。
設計:佐野文彦 / studio PHENOMENON
メッシュは、その内側に建っている木造のリシン梨地吹き付けの壁から1m離れており、間にできる空間の存在をあいまいにしている。日光を反射し、季節や天候によって様々な表情をみせると同時に断熱効果もある。
表面にはモアレも生じるので、窓を開け放っても、建物の中から外は見えるが、逆に外部からはほどよくプライバシーを護ってくれる。
モルタル+塗装仕上げ
ル・コルビュジエの《ロンシャンの教会》のような、ぶ厚い白壁が特徴的なこちらの家。part1でも白い漆喰壁の住まいを紹介したが、この《Cave House》の壁は主にモルタルである。
《Cave House》
設計:吉デザイン設計事務所+ Atelier como
ル・コルビュジエの《ロンシャンの教会》のような、ぶ厚い白壁が特徴的なこちらの家。part1でも白い漆喰壁の住まいを紹介したが、この《Cave House》の壁は主にモルタルである。
《Cave House》
設計:吉デザイン設計事務所+ Atelier como
この《Cave House》、実は築10年の2階建てをリノベーションしたものである。既存の構造はそのままに、外からフタをするようにして、白い壁=モルタルを塗り、さらにその上から防汚性能が高い水性塗料を塗って仕上げた。
以前は暗かった家の"顔"が、見違えて明るくなったと、施主一家も大満足。初めての訪問者の殆どは新築と見紛うそうだ。
続いて、日本海に面した港町にほど近い住宅地に建てられた家を紹介する。
以前は暗かった家の"顔"が、見違えて明るくなったと、施主一家も大満足。初めての訪問者の殆どは新築と見紛うそうだ。
続いて、日本海に面した港町にほど近い住宅地に建てられた家を紹介する。
グラスファイバーシングル
冬場の厳しい降雪を考慮して、この家の母家には樋や庇をつけていない。塩害対策もあって、ガラス繊維の心材でアスファルトを補強したグラスファイバーシングルの3枚重ね仕様のものを、上から下に流れるように張っている。
《引土の家》
設計:尾上亮介+STUDIO ANTENA
冬場の厳しい降雪を考慮して、この家の母家には樋や庇をつけていない。塩害対策もあって、ガラス繊維の心材でアスファルトを補強したグラスファイバーシングルの3枚重ね仕様のものを、上から下に流れるように張っている。
《引土の家》
設計:尾上亮介+STUDIO ANTENA
周辺は古い民家に加え、近年建てられた低層アパートなどが建ち並ぶ。その一方で、敷地の北側には田んぼが残り、さらに北西にまこと山らしい稜線をもった愛宕山を望む。山の頂上と対になったような屋根が、そのまま壁まで延長したかのような家の外観は、個性的でありながら、風景の一部として溶け込み、施主一家もとても気に入っている。
ちなみに《引土の家》とは、建っている地名に由来する。
ちなみに《引土の家》とは、建っている地名に由来する。
ガルバリウム鋼板
中身は木造だが、壁は金属サイディングで、ガルバリウム鋼板を縦に葺いている。
《ありんこの家》
設計:mA-style architects
ガルバリウム鋼板はもともとアメリカ生まれの建材で、アルミニウム・亜鉛合金めっき鋼板の通称。耐火認定品なので、防火への備えが法規で厳しく定められている日本では、特に住宅密集地での需要が高い。
中身は木造だが、壁は金属サイディングで、ガルバリウム鋼板を縦に葺いている。
《ありんこの家》
設計:mA-style architects
ガルバリウム鋼板はもともとアメリカ生まれの建材で、アルミニウム・亜鉛合金めっき鋼板の通称。耐火認定品なので、防火への備えが法規で厳しく定められている日本では、特に住宅密集地での需要が高い。
このようにスッキリとシンプルな外観になるのも人気のひとつ。また外壁材のなかでは比較的廉価なので、コストを抑えたい場合にも有効だ。
屋根材としても使われ、耐久・耐食性があるガルバリウム鋼板。ただし、ささいなことでも傷がつくと、金属であるがゆえに錆化が始まってしまう。
次に紹介する家は、それを逆手にとった素材をまとっている。
屋根材としても使われ、耐久・耐食性があるガルバリウム鋼板。ただし、ささいなことでも傷がつくと、金属であるがゆえに錆化が始まってしまう。
次に紹介する家は、それを逆手にとった素材をまとっている。
コールテン鋼
この家が建っているのは海辺の近く。潮風がもたらす塩害対策が絶対条件だった。ならばいっそのこと壁と屋根を鋼板で葺いて、最初からサビさせてしまえと採用したのが、耐候性鋼板ことコールテン鋼だ。
この家が建っているのは海辺の近く。潮風がもたらす塩害対策が絶対条件だった。ならばいっそのこと壁と屋根を鋼板で葺いて、最初からサビさせてしまえと採用したのが、耐候性鋼板ことコールテン鋼だ。
木材
前述の《Obey》と色が似ているが、この家の壁は木材のレッドシダーである。3つの箱を重ねたような形状に目を奪われてしまうが、今回は壁の仕上げに着目したい。
《H-House》
設計:仲摩邦彦建築設計事務所
レッドシダーは壁の外、ハコの底の面に張られ、そして家の内部にも連続している。面白いのが、家の顔となる外側に、プレーナーで研磨されたいわゆる表の面ではなく、ラフな裏側をあえて張っていること。木の素材感をより際立たせ、表面仕上げに塗った保護塗料の浸透もいいという。
前述の《Obey》と色が似ているが、この家の壁は木材のレッドシダーである。3つの箱を重ねたような形状に目を奪われてしまうが、今回は壁の仕上げに着目したい。
《H-House》
設計:仲摩邦彦建築設計事務所
レッドシダーは壁の外、ハコの底の面に張られ、そして家の内部にも連続している。面白いのが、家の顔となる外側に、プレーナーで研磨されたいわゆる表の面ではなく、ラフな裏側をあえて張っていること。木の素材感をより際立たせ、表面仕上げに塗った保護塗料の浸透もいいという。
木材にこだわったのには理由がある。
この地域にはかつて、江戸期以来の貯木場があった。江戸っ子たちは誇りとし、軒を連ねる家々も木造が当たり前だった。やがて、運河に丸太を浮かせた風情ある貯木場も、職人の姿も、古い町並みも失われた。だが、長年この地に暮らし、これからも住み続ける施主一家は、土地の記憶を残すことを希望し、板張りの二世帯住宅として建て替えられた。
この地域にはかつて、江戸期以来の貯木場があった。江戸っ子たちは誇りとし、軒を連ねる家々も木造が当たり前だった。やがて、運河に丸太を浮かせた風情ある貯木場も、職人の姿も、古い町並みも失われた。だが、長年この地に暮らし、これからも住み続ける施主一家は、土地の記憶を残すことを希望し、板張りの二世帯住宅として建て替えられた。
土地の歴史に結びついた家をもうひとつ紹介する。
シラスブロック
この家の壁として積まれたブロックは、シラスを原材料としている。地上に降った火山灰が堆積し、何百万年もの時を経て生成される白い土。水はけが良いので農地には不向きだと、地理の授業で習うシラス台地にこの《SHIRASU》は建っている。
《SHIRASU》
設計:鈴木亜生 & ARAY architecture
地元出身の施主からのリクエストは、自然との結びつきをもった、鹿児島ならではのエコハウス。白羽の矢がたったのがシラスだった。
シラスブロック
この家の壁として積まれたブロックは、シラスを原材料としている。地上に降った火山灰が堆積し、何百万年もの時を経て生成される白い土。水はけが良いので農地には不向きだと、地理の授業で習うシラス台地にこの《SHIRASU》は建っている。
《SHIRASU》
設計:鈴木亜生 & ARAY architecture
地元出身の施主からのリクエストは、自然との結びつきをもった、鹿児島ならではのエコハウス。白羽の矢がたったのがシラスだった。
建材として主に道路の舗装やテトラポッドなどに使われているシラスだが、住宅建材としての歴史は浅く、このシラスブロックは地元業者と共に新たに開発したもの。特性として、耐火・断熱・調湿性能をもつ。
施主は南国の夏でもクーラー要らずの生活を望んだので、シラスは有効だった。登録された図面をみるとわかりやすいが、外壁をブロックで二重構造にし、間を空気層を確保することで、1年を通して安定した温熱環境を実現させている。竣工から2年、施主は冬場でも快適に過ごしている。
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施主は南国の夏でもクーラー要らずの生活を望んだので、シラスは有効だった。登録された図面をみるとわかりやすいが、外壁をブロックで二重構造にし、間を空気層を確保することで、1年を通して安定した温熱環境を実現させている。竣工から2年、施主は冬場でも快適に過ごしている。
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素材を通してニッポンの住まいを考える〜「外装材」part1
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